権利者が商業的成功をもって、進歩性を有しないとの判断を克服しようとするときは、なお商品の商業的成功が当該発明の技術特徴によるものであることを証明しなければならない。

2013-12-30 2012年

■ 判決分類:特許権

I 権利者が商業的成功をもって、進歩性を有しないとの判断を克服しようとするときは、なお商品の商業的成功が当該発明の技術特徴によるものであることを証明しなければならない。

■ ハイライト
特許出願に係る発明は、もしその属する技術分野において通常の知識を有するものが先行技術に開示された内容及び出願時の通常の知識を参酌して容易に完成させることができる場合でも、なお権利者が当該特許出願に係る発明に進歩性があると立証するための補助資料を提出することができる。しかし、商業的成功は、メーカーの商業策略によるものであることがあり得るので、もし、商業的成功をもって、進歩性を有しない判断を克服しようとする場合、権利者はその製品の売上げが同じ性質の商品より高いか、市場を独占しているか、競争者による製品にとってかわるものであることのほか、なお商品の商業的成功が、当該発明の技術特徴によることを証明しなければならない。さもなければ、係争発明の商業的成功をもって進歩性を有しないとの判断を克服することは認められ難いものである(資料元:法源)。

II 判決内容の要約

知的財産裁判所行政判決
【裁判番号】101年度行専訴字第7号
【裁判期日】2012年07月26日
【裁判事由】発明特許無効審判請求

原告 楊寿安
被告 経済部知的財産局
参加人 宏達国際電子股份有限公司
参加人 楊陳杏元

上記当事者間の特許無効審判請求事件につき、原告は経済部による2012年2月8日経訴字第10106100860号訴願決定を不服として、行政訴訟を提起した。本裁判所は、参加人に対してそれぞれ両当事者の訴訟に独立参加することを命じ、以下のように判決を下すものである。

主文
原告の訴えを棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。

一 事実要約
原告と参加人楊陳杏元は共同で、2005年5月23日に「撮影機能を有するディスプレイパネル」の特許出願を被告に行い、被告が第94116620号として審査を行った。その期間において原告と参加人楊陳杏元は、2005年6月3日、2008年5月21日及び2009年1月16日に明細書及び特許請求の範囲の補正をし、且つ特許名称を「隠蔽式撮影機能を有するディスプレイパネル単一モジュール化構造」に補正した。被告が審査後に、特許査定をし、且つ公告期間満了後に第I310115号特許証書(以下係争特許という)を発給した。その後、参加人である宏達国際電子股份有限公司(以下宏達電公司という)は2009年10月20日に係争特許が特許法第22条第1項第1号及び第4項、第23条、第26条第3項及び第4項並びに同法施行細則第18条第2項に違反し、特許要件に該当しないとして、無効審判を請求した。被告は審査した結果、係争特許がすでに特許法第22条第4項に違反すると認定し、2011年7月15日(100)智専三04099字第10020615280号特許無効審判請求審決書をもって「無効審判請求成立、特許権を取り消すべきである」との処分を下した。原告と参加人楊陳杏元はこれを不服として、訴願を提起したが、経済部は2012年2月8日経訴字第10106100860号決定をもって訴願を棄却した。そこで、原告は単独で本裁判所に行政訴訟を提起した。しかし、楊陳杏元と原告楊寿安は共に特許権者であるので、本件判決の訴訟目的の楊陳杏元及び原告に対する合一確定が必要となる。よって、本裁判所は行政訴訟法第41条に基づき、参加人楊陳杏元に独立参加することを命じ、且つ行政訴訟法第42条第1項により、職権により参加人宏達電公司にも本件被告の訴訟に独立参加することを命じた。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告の請求:1.訴願決定及び原処分を共に破棄する。2.訴訟費用は被告の負担とする。
(二)被告の請求:原告の訴えを棄却し、訴訟費用は、原告の負担とする。
(三)参加人宏達電公司の請求:1.原告の訴えを棄却する。2.訴訟費用は原告の負担とする。
(四)参加人楊陳杏元の請求:原告の陳述及び請求を引用する。

三 本件の争点
本件の争点は、無効審判請求における組み合わせの証拠をもって係争特許の特許請求の範囲第3項が特許法第22条第4項の規定に違反する証明になり得るか否かである。

四 判決理由の要約
(一)係争特許が補正した後の特許請求の範囲は計4項あり、その中の第1項は独立項であり、第3項は直接第1項に従属した従属項であり、そのうち、第1項の内容を「隠蔽式撮影機能を有する一種のディスプレイパネルの単一モジュール化構造である。それは、ディスプレイパネルの上にタッチパネルを外付けた。当該外付けタッチパネルがディスプレイパネルを超えた区域に延長区域を設けており、また当該外付けタッチパネルの延長区域の内部に撮影レンズモジュールを設けて、且つ当該延長区域が撮影モジュールをカバーし、延長区域の表面に塗装することができ、レンズ区域のみ光が透過する。もって、外観的に隠蔽式があり、撮影レンズを実装することの視覚的な違和感が感じられ難く、ユーザーが視覚的に表示区域のみに気付き、よりよい視覚的効果がある。前記の各パーツが支持部材に実装されており、支持部材がこの全体的なディスプレイパネルモジュールの額縁又はその回路板又は製品のケーシングであるので、この構造が単一のモジュールになっている。」とし、第3項の内容を「特許請求の範囲第1項で述べた通りの隠蔽式撮影機能を有するディスプレイパネル単一モジュール化構造の延長区域に更に2組の撮影モジュールを設けている。」とする。無効審判請求証拠の技術内容によれば、1.証拠3は1998年3月31日に公告された米国第5734155号「Photo-sensitive semiconductor integrated circuit substrate and systems containing the same」特許である。2.証拠4は2005年3月31日に公開された日本特開0000000000号特許である。3.証拠11は2003年10月10日に公開された日本特開00000000000号特許である。4.証拠12は2003年8月11日に公告された第90113099号「撮影装置を搭載した携帯電話」特許である。
証拠3、4の組み合わせは、係争特許の特許請求範囲第3項が進歩性を有しないと証明できる。これは、係争特許の属する技術分野において通常の知識を有するものが、証拠11及び12の組み合わせを参照し、且つ通常の知識を以って、係争特許の特許請求範囲第1項の創作を推知又は完成でき、且つ新しい効果を生じないことから、証拠11及び12の組み合わせをもって、係争特許の特許請求範囲第1項が進歩性を有しないと証明できる。証拠11、12及び4の組み合わせから、係争特許の特許請求範囲第3項が進歩性を有しないと証明できる。前記を踏まえて、証拠3及び証拠4の組み合わせ又は証拠11、12及び4の組み合わせのいずれも、係争特許の特許請求範囲第3項が進歩性を有しないと証明するに足りるので、前記証拠が更にその他の証拠との組み合わせでも、係争特許の特許請求範囲第3項が進歩性を有しないと証明できることも当然である。

(二)特許法第56条第2項に、「特許権の範囲は、明細書に記載された特許請求範囲を基準とする。特許請求範囲の解釈をするときは、発明の明細及び図面を参酌することができる。」と規定されているが、もとより特許請求の範囲にない事項又は制限条件(文字、用語)をもって、明細書の内容により、又はそれを根拠として増加又は減少を行ったことにより、特許請求範囲が対外的に表された客観的な特許範囲を変更した。調べた結果、係争特許明細書第7頁最終行から第8頁第4行目までにおいて、確かに「第六図面は、本発明がダブルレンズ製品に応用した表示図であり、その中のLCDのケーシングが支持部材(4D)(ディスプレイパネル〈1D〉の額縁を含む)である。また、ディスプレイパネル(1D)の外付けパネル(11D)の延長区域(111D)に2組の撮影モジュール(2D)を設けていることから、ユーザーがテレビ会議をするときに立体撮影でリアルな映像が提供される」と記載されているが、前記の機能を得ようとする場合、当該2組の撮影モジュールの撮影方向が同一でなければならないことは、原告も自ら認めている。しかし、係争特許の特許請求範囲第3項には「その中の延長区域内部に更に2組の撮影モジュールを設けている。」とのみ記載されていたので、延長区域内部の2組の撮影モジュールの撮影方向に限定していない。原告の主張は、まるで特許請求範囲にない事項又は制限条件を特許明細書の内容により、又はそれを根拠として増加して、特許請求範囲がこれにより対外的に表す客観的な特許範囲を変更しているようであり、前記の説明に基づけば、特許請求範囲の客観的な解釈原則に反すると言える。それ故、原告の主張は採用に足りぬものである。

(三)最後に、特許出願に係る発明はその属する技術分野において通常の知識を有する者が先行技術に開示された内容及び出願時の通常知識を参酌して容易に完成できる場合、当該特許出願に係る発明が進歩性を有すると証明するために権利者はなお次に掲げる補助資料を提出することができる。それらには(1)発明が予期できぬ効果を有する、(2)発明が長期間にわたる問題を解決した、(3)発明が技術の偏見を克服した、(4)発明が商業的成功を得られたものが含まれている。しかし、商業的成功は、メーカーの商業策略によることがあり得るので、商業的成功をもって、進歩性を有しない判断を克服しようとする場合、権利者はその商品の売上げが同じ性質の商品より高いか、市場を独占しているか、競争者による製品にとってかわるものであることのほか、なお商品の商業的成功が、当該発明の技術特徴によるものであることを証明しなければならない。しかし、原告は、当該商品の商業的成功が、当該特許の技術特徴によるものであると証明できる証拠を提出していないばかりか、係争特許の特許請求範囲第1、3項の技術特徴が先行技術に該当し、市場における多数の携帯電話に採用されていることも排除できなかったことから、証拠5だけでもって、係争特許が商業的成功により進歩性を有しないとの判断を克服したとは判断し難いものである。

(四)以上をまとめると、被告が係争特許が特許法第22条第4項に違反すると認定し、「無効審判請求成立、特許権を取消すべきである」とした処分は適法であり、訴願決定で原処分を維持したことも妥当である。原告がなお、前述をもって、原処分及び訴願決定の取消しを申立てたことには理由がなく、棄却されるべきである。

以上を総じると、本件原告の訴えには理由がないので、行政訴訟法第98条第1項前段に基づき、主文のとおり判決する。

2012年7月26日
知的財産裁判所第一法廷
裁判長裁判官 李得灶
裁判官 蔡恵如
裁判官 林欣蓉
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