特許法第22条第1項第1号「すでに公開実施されているもの」の認定

2013-12-30 2012年

■ 判決分類:特許権

I 特許法第22条第1項第1号「すでに公開実施されているもの」の認定

■ ハイライト
 本件原告は係争特許「減振連接器(ダンパー)」(特許番号:I293096)が特許法第5条、第22条第1項第1号及び第4項の規定に違反しているとして、無効審判を請求した。被告は「無効審判請求の不成立」の審決を行ったため、原告はこれを不服として訴願を提起したが、訴願も棄却された。原告は依然不服として本件の行政訴訟を提起した。原告は訴訟段階において新たな原告証拠18、19、20、21(ダンパーが2005年7月30日に台南科学工業園区の制振工事現場に取り付けられている写真)を提出し、当該新証拠により係争特許の請求項1、2、4~6は出願前にすでに公開実施されている、又は公知となっているため、係争特許の請求項1、2、4~6は新規性を有さないと主張した。被告は答弁において、当該新証拠は当該ダンパーが特許出願日以前に公開されたことを証明できず、係争特許の請求項1、2、4~6が新規性を有さないことも証明できないと主張した。
上記の問題について、裁判所は判決において以下のように指摘している。
一.「すでに刊行物に記載されている」と「すでに公開実施されている」とは異なり、「すでに刊行物に記載されている」は公開された刊行物に記載されている事項を以て判断の引証とするものであり、「すでに公開実施されている」は同技術の機能が公開応用されている使用行為であり、いわゆる「公開」とは公衆が先行技術の実質内容に接触でき、知りえる状態にあることを指す。ゆえに施工図の提出はもとより「公開実施」ではないが、該施工図を基に建築・施工を行い、建築物や工場の施行時において閉鎖された状況にない場合は、エンジニア、建築労働者、現場監督、工事受注業者の人員、さらにはその他の工事の雑役等の不特定者も施工技術を知りえるため、機密保持を期待できず、すでに公開実施されているとみなすべきである(最高行政裁判所2009年度判字第644号判決要旨を参照)。
二.被告は「原告証拠18~21は特定者が工事現場に入る写真であり、且つ該工事現場は人員の出入りが管理され、工事現場を囲むフェンスも一般人の身長及び視線よりも高い。前述の写真の中の取り付けられたダンパーは不特定の第三者が見聞できるものではない」云々と供述したが、参加人が呈示した工事現場フェンスの写真によると、本件の制振工事現場(即ち高速鉄道の橋脚下)は、ほぼ透明な赤い引き戸と透視可能な網状のフェンスで工事現場が区切られており、この写真は不特定の第三者が制振工事現場の外側から同現場の一部の工事を知悉できることを証明するに足りる。さらに証人の黄啓宗も「上記ダンパーの取付にはクレーンが必要である。ダンパーをフェンスより高く吊下げ、一般人が一段高いところに立てば見える」等と証言している。クレーンを使って取り付ける時、ダンパー(基礎プレート及びコネクタ本体)は上空から吊下げて地面下方の溝の中に入れる。ダンパーを地上より上に吊下げている時、不特定の第三者はいずれも制振工事現場の外側からその内容を知悉することができる。又、工事日報によると、2005年7月30日及び2005年12月31日にそれぞれダンパーを8組及び1264組取り付けており、同日には基礎による主体補強工事(鋼板杭の打設、H型鋼の打設等)の作業が行われ、2005年7月30日現場に居合わせたエンジニアは鴻華公司9人、長鴻/清水公司17人、世久営造公司3人、長鴻営造公司4人、信穎営造公司5人、2005年12月31日現場に居合わせたエンジニアは鴻華公司16人、長鴻/清水公司12人、世久営造公司1人、長鴻営造公司3人、信穎営造公司5人、特建営造公司6人、中華/新儀3人が含まれており、上記ダンパー工事には多くの工事受注業者がおり、且つ各業者が現場に派遣する作業員は毎日同じ、又は固定されているというわけではなく、上記工事受注業者が工事現場に派遣した不特定の作業員はいずれも上記ダンパーの構成部品や取付過程を見聞することができ、不特定の第三者も工事現場フェンスの外側からクレーンが吊り上げたダンパーの外観構造を見ることができ、たとえ人員の出入りを管理していたとしても、いかなる施工内容の機密性を確保するための措置も行われていなかったことは明らかである。況してや証人の黄啓宗は当裁判所において「原告は現場監督を担当し,曾文守は原告が委託した顧問であり、鴻華公司とは機密保持契約の契約を交していないはずだ」とも証言している。参加人は現場作業員の上記工事作業内容に対する機密保持義務に関する証明を提出しておらず、上記現場作業員が機密補助の義務を負うことは期待し難い。このため原告証拠18~21が示す技術内容は「すでに公開実施されている」と認めるべきである。(資料出所:知的財産局による整理資料)

II 判決内容の要約

知的財産裁判所行政判決
【裁判番号】100年度行專訴字第115号
【裁判期日】2012年5月2日
【裁判事由】発明特許の無効審判請求

原告 台湾世曦工程顧問股份有限公司
被告 経済部知的財産局
参加人 許鴻章

上記当事者間での発明特許無効審判事件をめぐり、原告は経済部による2011年9月7日経訴字第10006103750号訴願決定を不服として行政訴訟を提起し、当裁判所は参加人に被告の訴訟へ独立参加するよう命じた。当裁判所は以下のように判決を下すものである。

主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告が負担するものとする。

一 事実要約
参加人である許鴻章が2006年2月16日に被告に対して発明特許「減振連接器」を出願し、被告より第95105195号特許査定を受けた後、発明第I293096号特許証(以下「係争特許」)を発給された。その後原告は先ず2008年11月10日に無効審判請求書において係争特許は特許法第22条第1項第1号及び第22条第4項の規定に違反しており、さらに特許法第5条の規定にも違反していると主張した。被告は審理した結果、「無効審判請求の不成立」と審決した。原告はさらに不服として訴願を提起したが、経済部はこれを棄却し、その後原告は当裁判所に行政訴訟を提起した。当裁判所は行政訴訟法第42条第1項の規定に基づいて、職権により参加人に本件被告の訴訟に独立参加するよう命じた。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告の請求:1.訴願決定及び原処分のいずれも取り消す。2.第095105195号「減振連接器」発明特許無効審判請求事件(案件番号:00000000N01)について無効審判請求の成立と特許権の取消とする審決を行うよう被告に命じる。3.訴訟費用は被告が負担する。
(二)被告の請求:1.原告の請求を棄却する。2.訴訟費用は原告が負担する。
(三)参加人の請求:1.原告の請求を棄却する。2.訴訟費用は原告が負担する。

三 本件の争点
当裁判所の心証形成の理由
1.新穎性の部分
(1)証拠9(原告証拠15、16、17の係争特許と証拠9の対比図、証拠9第41頁の断面図を参照)及び関連性のある証拠2、4、5は係争特許の請求項1~5が新規性を有さないと証明するに足るか否か?
(2)原告証拠18、19、20、21の写真は係争特許の請求項1、2、4~6が新規性を有さないと証明するに足るか否か?
2.進歩性の部分
(1)原告証拠9(出願第92133906号特許)、原告証拠11(公告第315868号特許)、原告証拠13(公告第364522号特許)の組み合わせは係争特許の請求項1が進歩性を有さないと証明するに足るか否か?
(2)原告証拠11、原告証拠13の組み合わせは係争特許の請求項2が進歩性を有さないと証明するに足るか否か?
(3)原告証拠9は係争特許の請求項3、4、6が進歩性を有さないと証明するに足るか否か?
(4)原告証拠13は係争特許の請求項5が進歩性を有さないと証明するに足るか否か?
3.参加人は係争特許の出願権者であるか否か?係争特許は特許法第5条の規定に違反するか否か?

四 判決理由の要約
(一)原告は「係争特許の請求項1~5の技術的特徴はすでに証拠9第41頁のTPYE C-1設計図に開示されている」と主張している。調べたところ、当該設計図の製図時期(2005年3月12日)と制振機能分析報告の発表時期(2005年3月15日)はいずれも係争特許の出願日(2006年2月16日)より早い。被告及び参加人は「『台南科学工業園区の高速鉄道制振工事委託プロジェクト管理計画』には機密保持条項が付されており、工事受注業者に対して施工期間中に機密保持義務を負い、工事現場の安全フェンスの設置や出入りの管理等を行うよう要求している。このことから、当該制振工事の委託機関の実験段階(制振機能分析報告書)において工事は正式に竣工していないため、証拠9は機密に属し、非公開の書類である」云々と主張している。しかしながら、上記契約条項は台南科学工業園区の高速鉄道制振工事の契約内容を契約履行と無関係の第三者に漏洩してはならないとしているにすぎず、証拠9は鴻華公司が公共工事契約に基づいて作成し台南科学工業園区管理局及び行政院国家科学委員会等の政府機関に提出した制振機能分析報告書であり、契約条項内容の一部ではない。即ち上記の機密保持条項とは無関係である。且つ上記報告書は行政機関が2005年3月に所有、保管した情報であり、上記の行政手続法の規定に基づいて公開が原則となっており、行政機関が自ら公開する他、何人も公開を請求できる。ゆえに被告及び参加人が上記契約にこだわり、証拠9は機密保持によって非公開である書類だとする主張は採用できず、証拠9は公衆がその内容に接触でき、知りえる状態にあり、適格な先行技術である。

(二)原告証拠18、19、20、21の写真は係争特許の請求項1、2、4~6が新規性を有さないと証明するに足るか否か?
1.「すでに刊行物に記載されている」と「すでに公開実施されている」とは異なり、「すでに刊行物に記載されている」は公開された刊行物に記載されている事項を以て判断の引証とするものであり、「すでに公開実施されている」は同技術の機能が公開応用されている使用行為であり、いわゆる「公開」とは公衆が先行技術の実質内容に接触でき、知りえる状態にあることを指す。ゆえに施工図の提出はもとより「公開実施」ではないが、該施工図を基に建築・施工を行い、建築物や工場の施行時において閉鎖された状況にない場合は、エンジニア、建築労働者、現場監督、工事受注業者の人員、さらにはその他の工事の雑役等の不特定者も施工技術を知りえるため、機密保持を期待できず、すでに公開実施されているとみなすべきである(最高行政裁判所2009年度判字第644号判決要旨を参照)。
2.被告は「原告証拠18~21は特定者が工事現場に入る写真であり、且つ該工事現場は人員の出入りが管理され、工事現場を囲むフェンスも一般人の身長及び視線よりも高い。前述の写真の中の取り付けられたダンパーは不特定の第三者が見聞できるものではない」云々と供述したが、参加人が呈示した工事現場フェンスの写真によると、本件の制振工事現場(即ち高速鉄道の橋脚下)は、ほぼ透明な赤い引き戸と透視可能な網状のフェンスで工事現場が区切られており、この写真は不特定の第三者が制振工事現場の外側から同現場の一部の工事を知悉できることを証明するに足りる。又、工事日報によると、上記ダンパー工事には多くの工事受注業者がおり、且つ各業者が現場に派遣する作業員は毎日同じ、又は固定されているというわけではなく、上記工事受注業者が工事現場に派遣した不特定の作業員はいずれも上記ダンパーの構成部品や取付過程を見聞することができ、不特定の第三者も工事現場フェンスの外側からクレーンが吊り上げたダンパーの外観構造を見ることができ、たとえ人員の出入りを管理していたとしても、いかなる施工内容の機密性を確保するための措置が行われていなかったことは明らかである。参加人は現場作業員の上記工事作業内容に対する機密保持義務に関する証明を提出しておらず、上記現場作業員が機密補助の義務を負うことは期待し難い。このため原告証拠18~21が示す技術内容は「すでに公開実施されている」と認めるべきである。

(三)係争特許の請求項1~6は進歩性を有するか否か?
1.原告証拠9、11、13の組み合わせは係争特許の請求項1が進歩性を有さないと証明するには足りない。
2.原告証拠11、13の機能は係争特許と異なり、その組み合わせは係争特許の請求項1が進歩性を有さないと証明するには足りず、また、係争特許の請求項2が進歩性を有さないと証明するにも足りない。
3.係争特許の請求項3、4、6は請求項1に直接的又は間接的に従属する従属項である。原告証拠9の機能は係争特許とは異なり、すでに前述した通り、原告証拠9は係争特許の請求項1が進歩性を有さないと証明するには足りないため、係争特許の請求項3、4、6が進歩性を有さないと証明するにも足りない。
4.原告証拠13は係争特許請求項1の1組の相対する基礎プレート、1組の相対する凸型延長部分を有する制振プレート、及び連結プレートをネジで1組の相対する制振プレートの延長部分にあるネジ孔に固定する構造を開示しておらず、且つその機能は係争特許とは異なる。すでに前述した通り、原告証拠13は係争特許の請求項1が進歩性を有さないと証明するには足りず、これにより係争特許請求項5が進歩性を有さないと証明するにも足りない。

(四)参加人は係争特許の出願権者であるか否か?係争特許は特許法第5条の規定に違反するか否か?
1.特許法第67条第1項第3号に基づく無効審判請求は誰でもできるというものではなく、利害関係人のみができる。いわゆる利害関係人とは、そのすでに存在する権利又は法律上の利益が侵害された法律上の利害関係人であり、経済上又はその他の事実上の利害関係人はこれにあたらない。調べたところ、原告は法人であり、自然人ではなく、原告の被雇用者が確実に係争特許の研究開発に参加していた、又は出資して第三者に研究開発を行わせていたという事を証明する証拠を提出しておらず、さらに被雇用者や第三者と係争特許の特許権の帰属に関して約定したとする証拠も提出していない。それが係争特許の出願権者であるとはいい難く、即ち、原告が利害関係人であると証明できない。
2.原告は当裁判所においてさらに「(原告は)台南科学工業園区制振工事のプロジェクト管理顧問会社であり、制振工事(ダンパーを含む)の知的財産権に対する管理責任がある。係争特許を取り消すことができないならば、原告は台南科学工業園区管理局と行政院国家科学委員から管理責任を追究されることになるため、利害関係がある」云云と主張した。参加人の特許権が取り消されるか否かは、必ずしも原告の契約違反をもたらし、権利の損害を受けるものではない。たとえ前述の可能性があったとしても事実上の利害関係に属し、法律上の利害関係ではないので、原告は利害関係人ではなく、特許法第67条第1項第3号に基づいて無効審判を請求することはできない。
3.発明者は実際に研究開発、そして発明を行った者を指し、発明者の氏名表示権は人格権の一種であることから、発明者は自然人でなければならず、発明者は特許請求の範囲に記載する技術的特徴に対して実質的に貢献した者でなければならない。いわゆる「実質的に貢献した者」とは、発明を完成し、精神的創作をなした者を指し、それは発明が解決しようとする課題あるいは達成する効果について構想(conception)をもたらし、さらに具体的に当該構想を達成する技術手段を提供しなければならない。原告が証拠10のTAPE Cダンパーは係争特許の発明だと主張することを調べたところ、参加人は確かに係争特許であるダンバーの研究開発過程に参与しており、且つ参加人が係争特許の発明に対して構想と具体的な技術手段を提供したことを排除できないため、即ちそれが発明者ではなく、特許出願権がないとはいい難い。

以上をまとめると、(1)証拠9及び関連のある証拠2、4、5は係争特許の請求項1~5が新規性を有さないと証明できない。(2)原告証拠18、19、20、21の写真は係争特許の請求項1、2、4~6が新規性を有さないと証明できない。(3)原告証拠9、11、13の組み合わせ、原告証拠11、13の組み合わせ、又は原告証拠9、原告証拠13も係争の請求項1~6が進歩性を有さないと証明できない。(4)原告は利害関係人ではなく特許法第67条第1項第3号に基づいて無効審判を請求できず、さらに参加人が係争特許の出願権者ではないと証明することもできないため、特許法第22条第1項第1号、第4項、第5条之規定に違反していることを証明できず、被告が下した無効審判請求不成立の処分は法規に符合しないところはない。

上記論結に基づき、本件の原告からの請求には理由がなく、行政訴訟法第98条第1項前段に基づいて主文の通り判決を下すものである。

2012年5月2日
知的財産裁判所第一法廷
裁判長 李得灶
裁判官 汪漢卿
裁判官 林欣蓉
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