意匠特許権利侵害の判断について

2013-12-30 2012年

■ 判決分類:意匠権

I 意匠特許権利侵害の判断について

■ ハイライト
原告は「ミュージックプレイヤー」として特許主務機関に意匠特許を出願(以下、「係争意匠」という。)、特許主務機関によって許可査定された後、意匠証書を交付された。さらに、原告は提訴する前に被告の製品が係争意匠を侵害していると通知し、被告もこれを受領った。しかし、被告は原告の通知書を受領った後も係争製品を引き続き輸入した。さらに、被告は原告の係争意匠図面及び製品構造について実用新案特許を出願しており、製品の外観の模倣だけにとどまらず、取扱説明書まで模倣したため、原告が被告の故意による係争意匠の侵害行為に対して、損害賠償を提訴した。

被告は原告の通知書を受領った後ただちに「自社比較」、「行政院公平取引委員会への告発」、「係争意匠に対する無効審判請求」及び「権利侵害鑑定報告書の提出」などのプロセスを実施して、係争製品は係争意匠に侵害がないとの確信に基づき、係争製品を流通させていたことから、主観上悪意を有しないと抗弁した。また、被告は購入した「係争製品」を特許主務機関に別途実用新案を出願したにすぎず、「係争意匠製品」について出願をしたものではないと抗弁し、このほか、係争権利は意匠であり、被告が係争製品を出願したのは実用新案なので、両者のともめる権利保護内容が完全に異なる点から、被告に主観上、係争意匠を侵害する故意がまったくないことが証明できると主張した。

本事件を裁判所にて審理した結果、意匠に関わる権利侵害の判断には「意匠登録請求の範囲の解釈」及び「解釈後の意匠登録請求の範囲と被疑侵害物品との比較」プロセスを含むべきであり、さらに「意匠登録請求の範囲解釈」については出願時点において先行技術と比較し、客観的に視覚による訴求を通じて新規性、創作性の新規性特徴を有するべきであるほか、機能的な設計を排除すべきであると認めるものである。一方、「解釈後の意匠登録請求の範囲と被疑侵害物品」については、当該意匠の技術分野において一般知識を有する者のレベルに立って、被疑侵害物品の技術内容の解析を行うべきであり、そのうえで、一般消費者のレベルにより、解析後の被疑侵害物品と解釈後の意匠登録出願の物品及び視覚性設計全体の同一性または類似性について判断するものである。もし、被疑侵害物品と意匠登録出願物品および視覚性設計全体に同一性または類似性があるときは、さらに意匠の当技術分野の一般知識を有する者のレベルに立って、被疑侵害物品に意匠登録出願の新規性特徴が含まれているかを判断し、被疑侵害物品と意匠登録出願の物品とが視覚性設計が全体的に同一または類似していて、かつ新規性特徴が含まれる場合に限って権利侵害が成立する。係争意匠全体の視覚性設計と係争製品の類似度が同一に近いのであれば、係争製品が係争意匠の新規性特徴を含んでおり、係争製品が係争意匠登録請求の範囲を含んでいることによって権利侵害が成立すると認定できる。

裁判所の判決は、原告による賠償請求および被告に対する係争意匠物品の製造、販売の申出、使用または前述目的に基づく輸入をしてはならないとの請求に理由あるため、これを許可するものである。【知的財産局まとめ】

II 判決内容の要約

知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】100年度民専上字第7号
【裁判期日】2012年1月5日
【裁判事由】特許権利侵害に関わる知的財産権の争議など

上訴人 先進電訊科技股份有限公司
兼法定代理人 林添進
被上訴人 百剛科技股份有限公司
法定代理人 呉貴霖

前掲当事者間の意匠権侵害に関わる知的財産権事件について、上訴人が2010年12月30日当裁判所第一審の判決に対して上訴、被上訴人も訴えを追加した。当裁判所は2011年12月15日口頭弁論を終結し、以下のとおり判決する。

主文
原判決の、上訴人に1,054,981新台湾ドルを超える部分の元金と利息分の支払いを命じた部分、及び係る部分の仮執行宣告及び上訴人が連帯で訴訟費用を負担するとの裁判を棄却する。
前掲棄却部分について、被上訴人が第一審の控訴および仮執行の請求を棄却する。
上訴人のその他の上訴を棄却する。
被上訴人による訴えの追加および仮執行の請求を棄却する。
第一審の訴訟費用について、上訴人に命じた負担分および第二審の訴訟費用の上訴部分は上訴人が連帯して80%を負担し、残りは被上訴人が負担する。第二審の訴訟費用に関わる訴えの追加部分は、被上訴人が負担する。

一 事実要約
(一)原告は経済部知的財産局に台湾意匠登録を出願し、意匠D129910号「ミュージックプレイヤー」(以下、「係争特意匠という。」を許可され、意匠権存続期間は2008年7月21日から2020年7月28日までである。過日、原告は市場で先進公司、五西公司、権宇公司(以下、「先進公司等」という。)が製造、販売していた型番号「BIKEMATE MP3ミュージックバー」または「自転車オーディオMP3」の製品(以下、「製品」という。)が原告の係争意匠を侵害しているこを発見した。そこで専門鑑定人に係争意匠の意匠権利侵害鑑定分析を依頼したところ、鑑定の結論として係争製品が係争意匠の意匠権範囲に該当すると判断され、被告先進公司等による原告の意匠権侵害の事実が証明されたため、原告は弁護士を通じて被告先進公司、五西公司、権宇公司あてに弁護士書簡を発送したが、被告先進公司等は弁護士を通じて、係争意匠の権利侵害事実を否認した。被告林添進、張樹林、簡麗美はそれぞれ先進公司、五西公司、権宇公司の代表者であり、会社の業務執行において法令違反により第三者に損害を与えたときは、第三者に対して、会社と連帯して賠償責任を負う。民法第184条、第185条、会社法第23条、特許法第129条第84条第1項、第85条第1項第2号、第3項により、被告らによる権利侵害行為の排除および被告らに損害賠償責任を連帯して負うよう請求があった。
(二)原審判決は、上訴人先進公司、林添進に連帯して被上訴人に1,297,035新台湾ドル及び2010年2月25日から支払済みまで年5%の割合による利息を支払うよう命じ、更に上訴人先進公司は意匠D129910号「ミュージックプレイヤー」意匠権存続期間に、係争意匠物品の製造、販売の申出、販売、使用または前述目的に基づく輸入をしてはならないとした。上訴人先進公司、林添進は原判決を不服として、上訴した。

二 両方当事者の請求内容
上訴の要旨
(一)原判決において、上訴人に不利な部分を棄却する。
(二)前掲棄却部分について、被上訴人の第一審の訴えおよび仮執行の請求を棄却する。
(三)第一審および第二審の訴訟費用は被上訴人が負担する。
被上訴人の答弁要旨
(一)上訴を棄却する。
(二)第一審および第二審の訴訟費用は上訴人が負担する。
被上訴人の追加請求
(一)上訴人先進公司、林添進はさらに被上訴人に対して681,054新台湾ドル及び本訴状の写し送達の日の翌日から支払済みまで年5%の割合による利息を計算して支払う。
(二)追加請求の訴訟費用は上訴人が負担する。
(三)第1項の請求がついて、被上訴人は担保を供託し仮執行の宣告を請求する。
上訴のが追加提訴部分に関わる答弁の要旨
(一)被上訴人の追加請求を棄却する。
(二)被上訴人が追加請求の訴訟費用を負担する。
(三)不利な判決が言い渡されたとき、上訴人は担保供託により、仮執行の免除の宣告を請求する。

三 本件の争点
(一)1.係争製品は係争意匠登録請求の範囲に該当し権利侵害が成立しているか?2.被上訴人による民法第184条、第185条、公司法第23条、特許法第129条準用第84条第1項、第85条第1項第2号、第3項に基づいた訴えの請求に根拠があるか?
(1)上訴人に故意や過失はないか?
(2)損害賠償の計算は、上訴人が販売した係争製品を全ての価格で計算するかまたは係争製品のケースのみで計算すべきか?
(二)原告主張(略)
(三)被告主張(略)

四 判決理由の要約
(一)係争製品は係争意匠登録特許出願範囲に該当し権利侵害が成立
1.物品の同一または類似の判断
2.全体視覚性設計の同一または類似の判断
係争意匠と係争製品とは大部分の設計特徴が同じで、異なる点は係争意匠の切削面がやや表面に沿って弧面状を形成していて、切削面の間の弧形表面が小さいことである。一方、被疑侵害物品の切削面は平面状のため、切削面間の弧形表面が広い。しかし、両者を円錐体中央部の断面から観察したとき、両者とも三角形の断面状を形成している。全体の外観は滑らかな流線形を形成する。異なる時間に異なる場所で全体を比較し全体の視覚性設計を総合判断した結果、一般消費者の商品購入観点からすれば、係争製品が引き起こす視覚イメージは、一般消費者が全体の設計を係争意匠と間違える錯覚を引き起こす恐れがある。よって、係争製品全体の視覚性設計と係争意匠は類似していると認められる。
3.係争製品が新規性特徴を含むか否かの判断
係争意匠の全体視覚性設計と係争製品との類似性は同一に近いため、係争製品が係争意匠の新規性を含んでいると認められる。
4.前述をまとめると、係争製品は係争意匠登録請求範囲に該当し、権利侵害を構成していると充分に認められる。

(二)意匠権が侵害されたとき、意匠権者は法により損害賠償を請求できる。意匠権者は、侵害者が侵害行為によって得た利益を賠償請求することができる。侵害者が自らのコストまたは必要経費を挙証できないときは、係る物品の販売収入の全額を獲得利益と見なす。特許法第129条第1項準用第84条第1項前段、第85条第1項第2号に規定されている。調べたところ、、次のことが判明した。
1.財政部台北関税局2010年7月9日北普進字第0991017611号通達に添付された輸入申告書コピーによれば、上訴人先進公司は、2010年4月19日、同年4月22日それぞれ係争製品50個、41個(原審ファイル(二)128、129頁)を輸入した。よって、上訴人先進公司の輸入合計数は894個である。
2.次に、上訴人先進公司は2010年8月現在、実際に販売した係争製品の合計数は185個のみだと弁解しているが、輸入係争製品の数と返品数を計算したところ、上訴人先進公司による係争製品の販売合計数は620個、収入合計は778,403新台湾ドルである。さらに調べによると、上訴人先進公司が輸入した係争製品の単価は6米ドルであることが審理ファイルに添付のインボイスによって裏付けられている。被上訴人が主張した1対32の為替レート換算によれば、上訴人先進公司による係争製品の販売総原価は119,040新台湾ドル(620個x6米ドルx32=119,040新台湾ドル)となる。よって、コストを差し引いた後、上訴人先進公司による係争製品販売の利益収入は659,363新台湾ドルとなる。被上訴人は前掲の規定により、上訴人先進公司に対して、係争製品販売の収入全額659,363新台湾ドルを蒙った損害として賠償を請求できる。上訴人はさらに、係争意匠は係争製品全体の価値でないことから、上訴人による係争製品販売の全数を係争意匠に帰すべきではなく、係争製品の利益収入十分の一を計算して23,460新台湾ドルとすることを主張した。しかし、特許法は権利侵害物品販売の収入全額を獲得利益とすると規定しているため、上訴人の係争製品の十分の一による係争製品の獲得利益計算には根拠が見当たらない。
3.被上訴人は弁護士事務所に依頼し、2009年12月22日に係争意匠の明細書を添付し、上訴人先進公司に同社製造販売の係争製品が係争意匠を侵害している旨の通知書を送付しており、同23日上訴人先進公司もこれを受取っている。しかし、上訴人先進公司は前掲の内容証明付き郵便書簡を受取ったにもかかわらず、前述期間を通じて係争製品を引き続き販売していたことから、係争意匠侵害の故意性が明らかである。さらに、上訴人が弁護士書簡を受取った後自社で比較を実施したところ、係争意匠の侵害事実はないという認識に至ったと抗弁し、さらに被上訴人は公平取引委員会に被上訴人による公平取引法違反を告発し、並びに被上訴人に書簡を発送し、侵害中止の要求及び名誉回復請求などの法律行為を取ったと弁解していたが、、前掲行為で係争意匠侵害の責任を免除してもらうことはできない。
4.意匠権の侵害行為の故意性に基づき、裁判所は侵害の内容により、損害額以上の賠償額を査定できる。ただし、損害額の3倍を超えることができないと、特許法第85条第3項に規定されている。上訴人先進公司は被上訴人が係争特意匠を持っていることを知りながら、被上訴人の同意なく係争製品を販売し、係争意匠権を故意に侵害していた。また、被上訴人の登記資本が40,000,000新台湾ドル、上訴人先進公司の登記資本60,000,000新台湾ドルは会社基本資料の照会によって裏付けられる。さらに、上訴人先進公司は前掲内容証明付き郵便書簡を受取ったのにもかかわらず、被上訴人が本事件を提訴した後も引き続き係争製品の輸入および販売をしていた。また、上訴人先進公司による権利侵害期間は2009年11月27日から2010年8月6日にわたるが、侵害数620個及び係争製品の販売による収入合計額659,363新台湾ドルにとどまり、利益が大きいと言いがたい。このほか、上訴人は回避処置を取ったものの成功せず、前述の故意による係争意匠の侵害に至ったことから、原審で査定していた損害額の2倍は過大であり、損害額の1.6倍を賠償することが適切だと認める。すなわち、上訴人先進公司に1,054,981新台湾ドル(659,363新台湾ドルx1.6=1,054,981新台湾ドル、以下切り捨て処理)を賠償するよう命じる。
5.会社の代表者が会社の業務執行において法令違反により第三者に損害を与えたとき、第三者に対し会社と連帯で賠償責任を負うことは、公司法第23条第2項に規定されている。さらに、公司法第23条でいう会社業務の執行とは、会社の代表者による会社の業務処理を言う(最高裁判所97年度第上字第364号民事判決参照)。本事件被上訴人は上訴人先進公司による係争意匠権の不法侵害について、上訴人先進公司の法定代理人林添進も連帯で責任を負うべきだと主張した。調べによると、本事件の上訴人林添進は上訴人先進公司による意匠権侵害の期間において、同社の代表者を務めていたことは、審理ファイルに添付の(原審ファイル(一)129頁)会社基本資料によって証明されており、上訴人林添進が上訴人先進公司の実際の経営責任を担っていた性質は、上訴人先進公司の業務執行に該当するので、上訴人林添進が業務執行によって係争特許権を侵害したことは、前掲の説明のとおりであり、被上訴人が先進公司と林添進は、被上訴人の本件係争意匠侵害により受けた損害について連帯で責任を負うべきとの主張には理由がある。

(三)前述をまとめると、被上訴人が特許法第129条、第84条第1項、第85条第1項第2号、第3項および公司法第23条第2項などにより、上訴人先進公司と林添進が連帯で1,054,981新台湾ドルの給付および訴状送達の日の翌日すなわち、2010年2月25日から支払済みまで年5%の割合による利息および上訴人先進公司が係争意匠物品の製造、販売の申出、使用または前述目的に基づく輸入をしてはならないとの主張には理由があることから、これを許可する。この範囲を超えた請求には理由がないので棄却する。被上訴人が先進公司および林添進に対し、連帯で681,054新台湾ドルの元金と利息を支払うべきとの請求は、理由がないことからこれを棄却する。追加の訴えが棄却される以上、仮執行請求も依拠する理由と立場が失われるため、合わせてこれを規約する。

2012年1月5日
知的財産裁判所第2法廷
裁判長裁判官 陳忠行
裁判官 熊誦梅
裁判官 曾啓謀
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