特許権侵権訴訟、損害賠償は重複請求できず

2014-05-14 2011年

■ 判決分類:特許

I 特許権侵権訴訟、損害賠償は重複請求できず

■ ハイライト
上訴人即ち被上訴人(以下「文徳光学」)はその実用新案「眼鏡付属フレームの結合構造改良」(以下、「係争特許」、訳注:台湾では発明、実用新案、意匠を併せて特許と称する)の特許権者であり、被上訴人即ち上訴人(以下「香港商卓豪光学」)が係争特許を侵害したため、文徳光学は特許法第84条及び第108条規に基づき香港商卓豪光学に対して、文徳光学が2003~2006年に香港商卓豪光学による特許権侵害行為の継続を忍容しなければならなかった結果、つまり特許権侵害製品が販売され続けた結果で受けた損失の賠償を請求した。
文徳光学はかつて係争特許について、特許法第84条及び第108条規定に基づき別件で香港商卓豪光学及び訴外人に対して訴訟を提起し、2003年6月1日から2004年10月31日まで未許諾で係争特許侵害製品の製造販売を行い、他人に台湾での販売を許諾したことで生じた損害に対する賠償責任を負うべきだと主張している。文徳光学はかつて特許法第106条第1項規定に基づいて香港商卓豪光学の川上業者である販売業者(以下「川下販売業者」)に対しても、文徳光学の同意を得ずに係争特許権侵害製品を「販売」したことによる損害賠償を請求していた。このため、双方は文徳光学が民事訴訟法第253条第1項の重複起訴に関する規定に違反しているか否かについて争うこととなった。
知的財産裁判所は審理の結果、権利侵害行為が暫定状態を定める仮処分の前か後かに係わらず、特許権侵害行為の損害賠償請求範囲は特許法第85条第1項に記載されている各号から「択一」して算出するべきだと判断した。ゆえにこの期間に受けた損害は文徳光学が前訴で香港商卓豪光学に請求しているため、民事訴訟法第253条の一事不再理の規定に違反している。また文徳光学が香港商卓豪光学の川下販売業者に損害賠償を請求して賠償を受けた後、さらに香港商卓豪光学に対して同一製品が市場で受けた損害を全額賠償するように請求したが、法にそぐわないため、控除すべきである。その詳細な論述は以下の通りである。
権利侵害行為者(香港商卓豪光学)が暫定状態を定める仮処分命令申立という司法手段を利用したことで、特許権者(文徳光学)は香港商卓豪光学がその特許権侵害行為を継続する、即ち特許権侵害製品を販売し続けることを忍容しなければならなかった。その販売した製品は訴訟を通じて特許権を侵害していることが認められた。性質上、行為者は係争特許権侵害製品を販売する方法を以て、特許権侵害の行為を継続し、その行為が判決を経て確かに特許権者所有の特許権侵害に属すると確定されるまで続き、この種の行為の様態は他人が所有する特許権の侵害行為が後に判決を経て他人の特許権侵害に確かに属すると確定される通常の様態と何ら異ならないとみなすことができる。ゆえに,特許権侵害の部分について、特許権者が特許権侵害の損害賠償を請求できる範囲は、特許法85条に規定された方式を「択一」して算出したものでなければならない。この部分の損失がすでに補われている場合、同じ性質の損失について補填を再び請求できない。損害補填の制度は、損害発生前の状態にまで損害を補填するものであり、すでに損害が補填された後も、なお権利者に必要以上の補填が行われ、損害を超える利益を得るというものではない。
暫定状態を定める仮処分裁定がない状況において、権利侵害行為者が特許権侵害行為を起訴され権利侵害が確定するまで継続することと、権利侵害行為者が暫定状態を定める仮処分命令申立の手段を以て特許権侵害行為を本案の権利侵害が確定するまで継続することとは、性質上異なるものではない。この2種類の状況はいずれも市場占有率の低下、顧客の流失、特許権侵害製品の価格競争による製品の売れ行き不振、又は価格競争への余儀ない参加、徴収できたはずのロイヤリティ減少等の業務上損失及びその他の無形資産損失が生じ、この種の損失について特許権者は特許法第85条第1項の規定に基づいて(算出方法を)「択一」して請求することができる。これは権利侵害行為者が暫定状態を定める仮処分命令申立を行わずに特許権侵害の行為を継続したこと同じである。文徳光学のこの部分に関する主張がすでに満足されているのであれば、同様のいわゆる「市場占有率の低下、顧客の流失、特許権侵害製品の価格競争による売れ行き不振、又は価格競争への余儀ない参加、徴収できたはずのロイヤリティ減少等の業務上損失及びその他の無形資産損失」に対する補填を再び請求してはならない。
文徳光学がかつて川下販売業者に損害賠償を請求して勝訴し、再び香港商卓豪光学に対して(損害賠償を)請求した部分については、川下販売業者が香港商卓豪光学から商品を仕入れて販売し、香港商卓豪光学がその川下販売業者に商品を供給しており、その売買取引に係わる権利侵害製品は同一である。また香港商卓豪光学が取得したのは、製造、販売コストを差し引いた後の利益であり、川下販売業者が取得したのは、入荷コスト(香港商卓豪光学の製造、販売コストと利益を含む)と消費者に転売した価格との差額である。つまり、この販売ルートにおいて、川上と川下の商品販売数は同じであり、川上が川下に某数量の製品を販売し、川下がさらに該製品を消費者に販売することで、市場における該商品の販売数が2倍になるわけではない。特許権侵害製品の販売について、香港商卓豪光学と川下販売業者との間には共同権利侵害行為者関係があり、それらは権利侵害製品を販売する行為によって文徳光学にもたらされた損害に対して不真正連帯債務を負わなければならない。香港商卓豪光学と某特定の川下販売業者とが販売した権利侵害製品は同じであり、市場において文徳光学にもたらした損害の結果も同じである。(川上と川上での販売価格が異なるため)その内部で得た利益は互いに異なるかもしれないが、文徳光学にもたらす最終損害結果は同じである。ゆえに民法第275条、第281条第1項規定に基づき、川下販売業者に対する判決確定の効力は香港商卓豪光学にも及ぶ。つまり、文徳光学が所有する係争特許権侵害製品を販売することでもたらされた損害の部分については、香港商卓豪光学と該特定販売業者が共に損害賠償責任を負わなければならない。もしそのうちの1人がすでに判決確定を経て賠償を完了している場合、もう1人は該部分について文徳光学の主張を免除される效果を得るものである。香港商卓豪光学と該川下販売業者との間で、それぞれ取得した価格差に対して賠償後いかに分担すべきかは内部の問題なので原告とは係わりない。【資料出所:知的財産局の整理資料】

II 判決内容の要約

■ 基礎データ
知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】99,民專上,15
【裁判期日】2011年1月6日
【裁判事由】特許権侵害の財産権に係わる係争等

上 訴 人
即ち被上訴人 文徳光学股份有限公司
被上訴人即ち
上 訴 人  香港商卓豪光学国際有限公司
兼法定代理人 黄炳焯

上記当事者間での特許権侵害の財産権に係わる係争事件をめぐり、双方は2009年12月31日に台湾嘉義地方裁判所97年度重訴字第55号第一審判決に対して上訴を提起し、当裁判所は2010年12月16日に口頭弁論を終結し、以下のように判決を下すものである。

主 文
原判決において、被上訴人即ち上訴人である香港商卓豪光学国際有限公司、黄炳焯等が連帯で支払うよう命じられた金額のうち146万6416新台湾ドル及びこの計算による利息を超える部分、該部分の仮執行宣言、並びに訴訟費用に関する判決すべてを取り消す。
上記棄却部分について、上訴人即ち被上訴人(以下「文徳光学」)の第一審における請求を棄却する。
双方のその他の上訴はすべて棄却する。
第一、二審の訴訟費用は被上訴人即ち上訴人(以下「香港商卓豪光学」)が五分之一を、文徳光学が残りを負担する。
本判決第一項の支払い命令は、文徳光学が50万新台湾ドルを香港商卓豪光学に担保として提供した後に仮執行することができる。しかし香港商卓豪光学が仮執行を実施前に、146万6416新台湾ドルを文徳光学が担保として提供したならば、仮執行を免除することができる。
文徳光学からの他の仮執行宣言申立は棄却する。

一 事実要約
(同ハイライト,略)

二 両方当事者の請求内容
上訴人即ち被上訴人(文徳光学)側の主張:略。判決理由の要約を参照。
被上訴人即ち上訴人(香港商卓豪光学)側の主張:略。判決理由の要約を参照。

三 本件の争点
(一) 文徳光学が本件で請求するものは、前件である台湾板橋地方裁判所93年度智字第27号、台湾高等裁判所95年度智上字第18号、最高裁判所96年度台上字2857号民事判決と重複請求の状況があるか否か?
(二) 文徳光学が本件で請求するものは、文徳光学が香港商卓豪光学の川下業者である販売業者(以下「川下販売業者」)に賠償請求を行い勝訴した判決との間に、重複請求の状況はあるか否か?
(三) 文徳光学が査定報告に基づき香港商卓豪光学に対して、仮処分によって受けた無形資産損失7,158,548新台湾ドルを請求し、原審はこの部分に対して4,787,781新台湾ドルを支払うよう判決を下したが、正当な理由があるか否か?
(四) 文徳光学が香港商卓豪光学に対して、弁護士費用2,685,054新台湾ドル(そのうち本件弁護士費用586,379新台湾ドルと川下販売業者に対する部分の弁護士費用2,098,675新台湾ドルを含む)を賠償するよう請求することに、正当な理由があるか否か?
(五) 文徳光学は仮処分によって受けた有形資産減損の損害として、鑑定費4万新台湾ドル、広告費用386,085新台湾ドル、業務上の信用に対する損害1,000万新台湾ドル(原審は875,217新台湾ドルを認めた)があると主張しているが、正当な理由があるか否か。

四 判決理由の要約
(一) 文徳光学が本件で請求するものは、前件の民事判決との間も重複請求の状況があるか否か:
1. 文徳光学は本件請求を提起し、主に香港商卓豪光学が暫定状態を定める仮処分命令申立という司法手段を利用して、香港商卓豪光学が侵害文徳光学の特許権を侵害する行為を継続するのを文徳光学に忍容させ、この行為の内容は、即ち特許権侵害製品を販売し続けたことだと主張している。香港商卓豪光学が販売した製品はその後に訴訟を経て、文徳光学の特許権を侵害している商品であることが確認された。このため、性質上、香港商卓豪光学は文徳光学の特許権を侵害した商品を販売する方法を以て、特許権侵害行為を継続し、その行為が判決を経て確かに文徳光学所有の特許権侵害に属すると確定するまで続いた。この種の行為の様態は他人の特許権侵害行為が後に判決を経て他人の特許権侵害の状況に確かに属すると確定される通常の様態と何ら異ならないとみなすことができる。ゆえに,特許権侵害の部分について、特許権者、即ち本件の文徳光学が特許権を侵害されたことにより損害賠償請求できる範囲は、上記法律に規定された方式を「択一」して算出しなければならない。もしこの部分の損失がすでに補われた場合、同じ性質の損失について補填を再び請求できない。損害補填の制度とは、損害発生前の状態にまで損害を補填するものであり、すでに損害が補填された後も、なお権利者に必要以上の補填が行われ、損害を超える利益を得るというものではない。
2. 文徳光学が本件起訴において、香港商卓豪光学が暫定状態を定める仮処分命令申立を行い、香港商卓豪光学が特許権侵害の商品を販売し続けることを文徳光学に忍容させ、これにより市場占有率の低下、顧客の流失をもたらされ、香港商卓豪光学が特許権侵害、価格競争を行ったことによる製品の売れ行き不振、又は価格競争への余儀ない参加、徴収できたはずのロイヤリティ減少等の業務上損失及びその他の無形資産の減損は少なくとも7,158,548新台湾ドルに上る等と主張している。その主旨は香港商卓豪光学が特許権侵害製品で市場における不正競争を行ったことで、上述の損失がもたらされたというものであり、この種の状況は通常の特許権侵害の状況と異なるものではない。この種の損失について、特許権者は特許法第85条第1項の規定に基づいて(算出方法を)「択一」して請求することができる。これは権利侵害行為者が暫定状態を定める仮処分命令申立を行わずに特許権侵害の行為を継続したこと同じである。文徳光学のこの部分に関する主張がすでに満足されているのであれば、同様のいわゆる「市場占有率の低下、顧客の流失、特許権侵害製品の価格競争による売れ行き不振、又は価格競争への余儀ない参加、徴収できたはずのロイヤリティ減少等の業務上損失及びその他の無形資産損失」に対する補填を再び請求してはならない。
3. 文徳光学は香港商卓豪光学の特許権侵害行為に対して、すでに台湾板橋地方裁判で損害賠償請求の訴訟を提起しており、香港商卓豪光学が文徳光学に180万新台湾ドルを賠償しなければならない判決が確定している。つまり文徳光学がこの部分の金額について香港商卓豪光学に対してすでに執行したか否かに係わらず、この部分の金額は香港商卓豪光学にとってはすでに判決が確定しているので、扣除すべきである。文徳光学がさらに請求することは、一事不再理の規定に反し、根拠がないものでもある。
(二) 文徳光学が本件で請求するものは、文徳光学が川下販売業者に賠償請求を行い勝訴した判決との間に、重複請求の状況はあるか否か:
1. 特許権侵害製品の販売について、香港商卓豪光学とその川下販売業者との間には共同権利侵害行為者関係があり、それらは権利侵害製品を販売する行為が文徳光学にもたらした損害に対して不真正連帯債務を負わなければならない。香港商卓豪光学と某特定の川下販売業者とが販売した権利侵害製品は同じであり、市場において文徳光学にもたらした損害の結果も同じである。(川上と川上での販売価格が異なるため)その内部で得た利益は互いに異なるかもしれないが、文徳光学にもたらした最終損害結果は同じである。ゆえに民法第275条、第281条第1項規定に基づき、川下販売業者に対する判決確定の効力は香港商卓豪光学にも及ぶ。
2. つまり、文徳光学の係争特許権を侵害する製品を販売したことでもたらされた損害部分について、香港商卓豪光学と該特定の川下販売業者は共に損害賠償責任を負わなければならない。もしそのうちの1人がすでに判決確定を経て賠償を完了している場合、もう1人は該部分について文徳光学の主張を免除できる效果を得るものである。
3. 文徳光学は香港商卓豪光学の川下販売業者が特許権を侵害しているとして、かつて民事請求をそれぞれ提起した。その起訴で主張している事実・理由は、即ちそれらの川下販売業者が香港商卓豪光学から製品を仕入れて販売したことによって元来得られるはずだった利益が減少し、さらに上記川下販売業者が地域又は全国規模の販売業者だったことに基づくもので、ロイヤリティに相当する金額を損害賠償額として請求している。文徳光学は香港商卓豪光学及びその川下販売業者による特許権侵害行為により4,500,000新台湾ドル(川下販売業者の部分が2,700,000新台湾ドル、香港商卓豪光学の部分が1,800,000新台湾ドル)を獲得する判決が確定し勝訴した。文徳光学はこの勝訴後も、それぞれ前述の川下販売業者に対してすでに賠償請求執行を行っている。そのうち、川下販売業者からはすでに2,649,410新台湾ドル(訴訟費用及び遅延利息を含む)の支払いを受けており、この部分に関して文徳光学が特許権侵害製品の競争で受けた損害はすでに補填されている。この補填は川下業者の販売業者が支払ったのか、香港商卓豪光学が支払ったのかによって異なるものではない。文徳光学がこの部分についてすでに補填されている損害を本件訴訟においても再度請求することは法にそぐわないため、控除すべきである。
(三) 文徳光学が査定報告に基づき香港商卓豪光学に対して、仮処分によって受けた無形資産損失7,158,548新台湾ドルを請求した部分:
1. 財団法人台湾経済科技発展研究院の査定報告が推算したものは、文徳光学の「2003~2005会計年度の会社全体の無形資産に関して減少した価値」であり、香港商卓豪光学による2003年3月19日の暫定状態を定める仮処分命令申立から2006年11月13日の本案仮処分申立(棄却)確定日までに、香港商卓豪光学が該処分による保全手続きの行為を実施したことで文徳光学にもたらした損害ではない。両者の査定の期間、方法、基礎はいずれも異なっている。当裁判所は文徳光学の「2003~2005会計年度の会社全体の無形資産に関して減少した価値」7,158,548新台湾ドルがすべて、香港商卓豪光学が該暫定状態を定める仮処分の行為によってもたらされた損害であると認めることはできない。文徳光学は上記の報告書以外に、香港商卓豪光学の暫定状態を定める仮処分命令申立によって市場占有率の低下、顧客の流失、特許権侵害製品の価格競争による売れ行き不振という業務上損失及びその他の無形資産損失を証明する方法を提出できない。即ち前述の特許法第84条、第85条規定に基づき、当裁判所は職権によりその損害を審査し、特許権侵害者が侵害行為から得た利益を依拠とすることができる。調べたところ、2000年度全体における販売額は303,432香港ドルであり、これは約131万新台湾ドルに相当するため、該金額を文徳光学が毎年被るだろう損害だと信じるに堪える。これに準じて、当裁判所は年間131万新台湾ドル、期間を2003年3月20日から暫定状態を定める仮処分命令申立(棄却)確定がされた2006年11月13日までとし、文徳光学の業務上損失とその他の無形資産の減損を4,787,781新台湾ドルと算出した。
2. 上述した通り、文徳光学は同一の権利侵害行為によってもたらされた損害について香港商卓豪光学の川下販売業者から2,649,410新台湾ドル(訴訟費用及び遅延利息を含む)の賠償をすでに受けている。上述の通り、この部分について文徳光学が特許権侵害製品との競争で受けた損害はすでに補填されているため、控除すべきである。さらに香港商卓豪光学の黄炳焯と訴外人の畢索公司による同一の特許権侵害行為に関して、文徳光学が180万新台湾ドルを連帯賠償金として獲得する判決が確定しており、この部分は重複請求であるため、控除されるべきである。香港商卓豪光学は文徳光学の業務上損失及びその他の無形資産の減損338,371新台湾ドルを連帯で賠償すべきである。
(四) 文徳光学が香港商卓豪光学に対して弁護士費用2,685,054新台湾ドル(そのうち本件弁護士費用586,379新台湾ドルと被上訴人訴請香港商卓豪光学の川下販売業者に対する部分の弁護士費用2,098,675新台湾ドルを含む)の部分:
1. わが国の民事訴訟法は弁護士訴訟主義(弁護士強制主義)を採用しておらず、当事者が支払う弁護士費用は、当事者が確かに自ら訴訟行為を行えず、他人に代理を委託する必要があり、支払われる代理人費用は権利の伸張若しくは防御のために必要な場合に初めて訴訟費用と認められ、必要な限度において敗訴した一方に負担させることができる(司法院院字第205号解釈)。つまり弁護士費用は訴訟費用の範疇に例外なく含まれるとは限らず、代理人費用は権利の伸張若しくは防御のために必要な場合に初めて敗訴側に負担させることができる。文徳光学の会社の所在地、経営規模を斟酌し、たとえそれが弁護士資格を持つ者に訴訟代理人を委託しなくても、それが所属する裁判所と台湾高等裁判所台南分院における係争仮処分事件において攻防し訴訟が進めることができないということはなく、また文徳光学が台北市に所在する弁護士事務所に代理を委託しても、このために支払う費用は必要なものではない。又、二審抗告手続においても弁護士代理強制制度は採用しておらず、前述した法律の見解により、文徳光学が支払った弁護士報酬はいかなる権利の伸張若しくは防御のために必要なものとはいえない。前述の法務費用は権利の伸張若しくは防御において必要なものではない。従って、文徳光学による前述の請求は正当な理由がないため、許可すべきではない。
2. 訴外人を控告するための法律サービス費用の部分については、訴外人は本件の暫定状態を定める仮処分命令申立人ではなく、上記川上販売業者はすでに文徳光学の損害を賠償しなければならないと敗訴を言い渡されている。いわゆる仮処分実施により文徳光学に損害をもたらした状況はない。文徳光学のこの部分に関する主張は根拠がないもので、許可すべきではない。
(五) 文徳光学が仮処分によって受けた有形資産減損の損害であると主張する鑑定費4万新台湾ドル、広告費用386,085新台湾ドルの部分:
当事者が訴訟により支払った費用は、権利の伸張若しくは防御に必要なものであり、訴訟費用と認めるべきである。本件の鑑定費用は係争の暫定状態を定める仮処分に正当な理由があったか否かを調査するために必要な行為であり、権利の伸張若しくは防御に必要なものなので訴訟費用の一部分であり、法に基づいて香港商卓豪光学は賠償責任を負うべきである。経済部知的財産局は文徳光学が所有する係争特許権は法において誤りがないと認めている。台中市鐘錶眼鏡商業同業公会、台湾省鐘錶眼鏡商業同業公会連合会が香港商卓豪光学等を特許権者であると誤認したことについては、当時台湾嘉義地方裁判所2003年度裁全第494号仮処分裁定によって、香港商卓豪光学等が合法な特許権者だと前述2公会に誤認されてしまった。このため、文徳光学が雑誌に広告を載せ、係争特許権を所有すること、そして前述の無効審判案件がいずれも知的財産局によって不成立審決されたことを明確にしたことは、必要で正当なものに属すると認めるものである。香港商卓豪光学の侵害行為と文徳光学の広告費用との間には十分な因果関係がある。従って文徳光学の広告費用請求には根拠があり、許可すべきである。
(六) 文徳光学が香港商卓豪光学に請求した業務上の信用に対する損害1,000万新台湾ドルの部分:
1. 本件において先ず審問調査すべきことは、香港商卓豪光学が暫定状態を定める仮処分命令申立の手段を利用して、文徳光学が所有する係争特許権侵害行為を継続することを文徳光学に忍容させたことが権利侵害行為の要件を構成するか否かである。調べたところ、香港商卓豪光学等は文徳光学が所有する係争新型第173282号実用新案が経済部知的財産局から「新規性、進歩性を有し、特許法第98条第2項の規定に違反していない」と認められていることを知っていたが、不完全な資料で暫定状態を定める仮処分命令申立を行い、非合法的に該処分を実施した。
2. 香港商卓豪光学は再び「當代眼鏡雜誌」2003年5月号、6月号に広告を掲載している。香港商卓豪光学等は前述の掲載広告で、文徳光学が特許権を侵害している、新規性を有さない云々と述べたことには論争の余地があり、司法機関の公正な判決を持つ必要があることを知っており、判決までは係争特許権の帰属と有効性の問題について優先出願人が文徳光学であり、その特許権は有効に存在すると推定できたはずである。しかしながら香港商卓豪光学等は憶測で判断して、合法特許権者であると自称し、文徳光学が不実の言論を散布していると指摘した。香港商卓豪光学等の前述言論はすべて文徳光学の業務上の信用を不法に侵害するもので、前述の法律見解に基づき、損害賠償責任を負うものとする。
3. 当裁判所は双方の資本及び売上状況、香港商卓豪光学の侵害態樣、主観的な不法の状況、文徳光学が受けた損害の状況などを審理した結果、文徳光学は香港商卓豪光学が2003年3月19日原審に対して暫定状態を定める仮処分命令を申し立ててから、2006年11月13日に原審裁判所が香港商卓豪光学の本案申立を棄却すると確定するまで、合計20ヵ月の間に文徳光学は広告掲載でその名誉を維持する必要があり、広告で同業者に実情を告知することが名誉を最適な状態に維持し、最も高い効率を保つ方法であったことは十分にうかがい知ることができる。広告掲載費は毎期の費用が35,099新台湾ドル(386,085新台湾ドル÷11期、損害賠償価値査定研究報告書第19頁を参照)であり、これを以て推論した。文徳光学は前述の暫定状態を定める仮処分申立から本案申立(棄却)確定までの間、業務上の信用が減損することを避けるため、毎月広告で同業者に実情を周知させる必要があった。当裁判所は前述の文徳光学がすでに支払った広告費用以外に、文徳光学が業務上の信用が減損するのを回避するのに必要なコストは、香港商卓豪光学の上記権利侵害行為によってもたらされた業務上の信用の損失であると認める。これは謝罪広告によって名誉を回復するのを同じことである。これを以て計算すると、香港商卓豪光学は文徳光学に非財産的損害額701,980新台湾ドルを賠償すべきである。文徳光学は、香港商卓豪光学が暫定状態を定める仮処分を利用したことで受けた損害と特許権侵害製品を販売したことで受けた損害とは異なると認めるならば、香港商卓豪光学が暫定状態を定める仮処分を利用したことで受けた有形若しくは無形資産の損害が何かを提出しなければならない。しかし文徳光学は前述の報告書以外にその他の異なる損害証明を提出できないため、損害賠償制度の損害補填原則に基づいて、文徳光学が述べるところの有形及び無形資産損害補填はすでに一部満足されており、すでに満足している部分については再び請求できないことをここに説明しておく。

2011年1月6日
知的財産裁判所第一法廷
審判長  李得灶
裁判官 林欣蓉
裁判官 汪漢卿
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