携帯式フラッシュメモリー侵害事件 台湾勁永を告訴した中国の朗科が勝訴

2014-05-14 2011年

■ 判決分類:特許

I 携帯式フラッシュメモリー侵害事件 台湾勁永を告訴した中国の朗科が勝訴

■ ハイライト
中国におけるメモリー装置の著名な大手メーカー朗科科技は、海峡を渡り、台湾におけるメモリー装置の大手メーカーである勁永国際を対象に侵害告訴を提起した。審理が三年余に渡って行われた結果、板橋地方裁判所で、勁永による製造の携帯式フラッシュメモリーが朗科の特許侵害に関わるものであるとし、勁永が賠償金として新台湾ドル一千六百万元を支払わなければならないと認定した。これは、中国のハイテクメーカーが台湾メーカーを告訴し、勝訴となった初めての事件であり、連鎖反応を引き起こす虞がある。
この侵害事件が、中国のハイテクメーカーが台湾のメーカーを対象に告訴した初めての事件であり、業界にショックを与え、中国メーカーの反撃と見られている。朗科が勁永を告訴する前に、既に中国のハイテクメーカー数社及び日本企業SONYを対象に告訴したこともあり、朗科が勝訴したり、同社との和解が成立し、製品のサプライヤーになったりしたことになる。
調べた結果、朗科科技は台湾において取得した「第I237264号」特許が、一種の「多功能半導体保存装置及びコンピュータホストを起動するための方法」であり、ライセンシーである福爾科技は三年前に市場で勁永国際が製造した携帯式フラッシュメモリーを購入した後、台大工研中心に鑑定を依頼したところ、当該製品が朗科の特許侵害に関わるものであるとの鑑定結果で判明した。【2010-09-06/聯合報/A8版/記者何祥裕】

II 判決内容の要約

基礎データ
台湾板橋地方裁判所民事判決
【裁判番号】96,重智,14
【裁判期日】20100831
【裁判事由】特許侵害の排除等

原   告 福爾科技股份有限公司
被   告 勁永国際股份有限公司
上記当事者間における特許侵害排除等事件につき、本裁判所で2010年8 月25日に口頭弁論を終結したので、次のとおり判決する。

主文
被告は連帯して原告に新台湾ドル一千六百万九千九百三十七元、及び2007年12月7 日より返済日まで、年率5 %で計算した利息を支払わなければならない。
原告によるその他の訴えを棄却する。
訴訟費用は、被告が連帯して二分の一を負担し、残りの部分は、原告の負担とする。
本判決第一項について、原告は新台湾ドル五百三十四万元を担保金として被告のために供託した後、仮執行をすることができる。但し、被告は、新台湾ドル一千六百万九千九百三十七元の担保金を予め供託した場合、仮執行を免除することができる。
原告によるその他の仮執行の申立てを棄却する。

一 事実要約
「多功能半導体保存装置及びコンピュータホストを起動するための方法」は、朗科科技有限公司(以下朗科公司という)に経済部知的財産局(以下知的財産局という)により第I237264 号発明特許(以下係争特許という)が付与され、特許権存続期間が2005年8 月1 日より2021年7 月8 日までとなっている。その後、朗科公司は係争特許の専用権を原告に許諾し、許諾期間が2006年10月31日より2008年12月1 日までとなっていて、且つ既に知的財産局に対する登記及び公告を済ませていた。原告は、被告がその許可を得ずに、無断で係争特許の特許権範囲と同一の「携帯式フラッシュメモリーCOOL DRIVE U310」製品(以下係争製品という)を製造、販売しているのを発見し、2007年8 月13日に当該特許権侵害行為の差止めを求める旨の警告書を送付したが、被告がそれを無視した。原告は、被告による係争製品の月間販売数量が80万個であると推測し、一個につき0.6ドルとした業界で最も低いロイヤルティーーで計算すると、被告が年に原告に支払うべき総額が576万ドル(もし1:30の為替レイトで換算すると、即ち新台湾ドル17280万元と算出される)となる。もし、被告の係争製品を販売する売価で計算しても差し支えないけれども、原告はそのうちの新台湾ドル(以下同じ)3 千万元だけを請求する。それ故、原告は専利法第85条第1 項第2 号、会社法第23条に基づき、本件の訴訟を提起し、被告に連帯して損害賠償の責任を負うよう請求した。

*裁判所の認定:被告は係争特許の特許請求範囲に進歩性がないことが証明できず、本件を鑑定に送付した後、被告が鑑定機構により求められた資料も提出せず、鑑定できなくなったため、係争製品がその特許権を侵害したと原告の主張が真実であるほか、被告が当該製品を販売して得た収入の全部をその所得利益として、損害賠償の金額を計上すべきであると認定し、賠償金として被告が新台湾ドル16,009,937元を支払わなければならないとの判決を言い渡した。

二 両方当事者の請求内容
(一) 原告の声明:
1.被告は連帯して新台湾ドル3千万元、及び本訴状の謄本が到達した日の翌日より返済日まで年率5%で計算した利息を支払わなければならない。2.原告は担保金を供託するので、仮執行許可の宣告を要請する。
(二) 被告の声明:原告による訴え及び仮執行の声明を共に棄却する。もし不利な判決が下された場合、担保を供託するので、仮執行免除の宣告を要請する。

三 本件の争点
(一) 原告が法により本件の特許権侵害訴訟を提起することができるか否か?
(二) 係争製品が原告の係争特許権侵害に関わるか否か?
(三) 賠償金額をいくらにすべきか?
両方当事者の主張:省略。判決理由の説明をご参照下さい。

四 判決理由の要約
(一) 原告が法により本件の特許権侵害訴訟を提起することができるか否か?
1、特許権が侵害されたときは、専属実施権者も損害賠償を請求することができると専利法第84条第2 項に明文で規定されている。係争特許の専属実施権者であるとの原告の主張に対して、被告が否認したが、原告が提出した係争許諾書の約定に基づくと、朗科公司が係争特許の専属実施権を原告に許諾し、原告が台湾境内で特許訴訟、特許許諾の交渉を行なうことができることに同意している。また係争許諾書第3 条第8 号に基づき、朗科公司が係争許諾書の許諾範囲及び有効期間において、前提として原告に通知しなければ、第三者に再許諾することができないとの規定から分るように、原告が係争特許の専属実施権者であると認定すべきことは当然である。ところが、係争許諾書第3 条第6 号に基づくと、原告が侵害容疑者の特許許諾及び訴訟に対しては、いずれも朗科公司による書面の確認を得た後に、始めて具体的に行使することができると約定しているが、前記の条項は、契約当事者以外の第三者を拘束することができないばかりでなく、専属実施権者が特許訴訟の行使権利を有しないと約定したものではない。原告は、係争特許の専属実施者であり、係争特許が侵害されたとき、専利法第84条第2 項に基づき、本件訴訟を提起し、損害賠償を請求することができる。朗科公司が同意するか否かは、原告が本件訴訟の提起により係争許諾書の約定に反するか否かの問題であり、本件と関わりがないことである。
2、更に、被告は別件で係争特許に対する無効審判の請求が行われ、合法且つ有効な特許ではない云々と抗弁した。調べた結果、係争特許に対する無効審判請求事件が四件もあった。番号N01の請求事件は、知的財産局により無効審判不成立と審決されたほか、請求人は、訴願を提起しなかったため、確定した。残りの三件もそれぞれ知的財産局により無効審判不成立と審決されたが、そのうちの二件について、請求人が訴願を提起し、その訴願も却下された。それ故、係争特許が合法且つ有効ではないとの被告の抗弁に理由がないことは、当然である。
3、被告が提出した証拠をもって、係争特許に進歩性がないと証明できるか否かについて
被告はアメリカ第US0000000 号特許内容を証拠として係争特許に進歩性がないと抗弁したが、実際に、係争特許の技術特徴は被告が取り上げたアメリカ第US0000000号特許に完全に開示されないことから、被告から提出されたものは、係争特許の特許請求範囲に進歩性がないと立証できず、この部分の抗弁に理由があるとは認定され難い。

(二) 係争製品が原告の係争特許権侵害に関わるか否か?
1、原告によるこの部分の主張について、証拠としてその提出した国立台湾大学厳慶齢工業研究中心鑑定技術報告の結論から証明できるように、「分析対象である『携帯式フラッシュメモリーCOOL DRIVE U310 』の主要技術が完全に比較対象となった特許出願第000000000号、公告第I237264 号である『多功能半導体保存装置及びコンピュータホストを起動するための方法』の特許請求範囲に開示され、つまり主要技術の内容が完全に同一である。」となっている。一方、台大工研中心報告においては、新要点の内容に基づき、全要件原則、均等論原則を確実に採用し、鑑定対象と係争特許の特許請求範囲の要件を一々比較したほか、その記載の内容も詳細且つ明確なものであることから、採用に足りるものである。
2、双方当事者は、本裁判所の審理において、係争製品の旧バージョンを双方当事者が選定した財団法人中華工商研究院中山院(以下中華院という)に鑑定を依頼することに同意し、再度鑑定を依頼した。ところが、鑑定の結果が次の通りである。「被告は鑑定に供する資料の提出を拒んだので、鑑定が出来なくなった。... 現在、被告から提供されたすべての資料の中に、被告が鑑定に送付した対象をもってその実施方法の証拠及び具体的技術内容であるとか、鑑定対象の実施を確認する方法に該当するとかが証明できないばかりでなく、現場検証又は実験も行われることができないことから、現行資料をもって、直ちに本件の係争特許が主張した技術内容との侵害分析を行う根拠とすることができない。... 更に、被告はその提出した資料が営業秘密であり、閲覧を制限されるべきであると主張したが、当該資料は公衆が使用している検索サイトで、全文をダウンロードして取得することができ、如何なる保護措置も取っておらず、当該資料が営業秘密の成立条件に該当しないことは明らかである。」云々としていることから、本件の鑑定依頼後、十四ヶ月もたっているのに、被告はなおも民事訴訟法第337 条第1 項に基づき、鑑定機構が求めた資料を提出していないことから、鑑定ができなくなったと認定するに足りるものである。本裁判所で前記の事実を参酌し、弁論の全趣旨を総合した結果、当該証拠に関する原告の主張が真実であり、さらに係争製品の旧バージョンが確かに原告の特許権侵害に該当すると認定できるのは当然である。
3、専利法は、発明及び考案の奨励、保護、及び利用を図ることにより、産業の発達に寄与する目的をもって、制定したものであり(専利法第1 条の規定参照)、他人を保護する法律に該当することは当然である。もし特許権が侵害され、特許権者に損害を及ぼしたとき、民法第184条第2項に基づき、その行為に過失がないことが証明できるのを除き、損害賠償の責任を負わなければならないと規定されている。それは、最高裁判所94年度台上字第1340号、96年度台上字第2787号判決書がありその趣旨を参照することができる。調べた結果、本件原告の係争特許権が合法、有効で、且つ登記、公告したものであり、被告による製造、販売の係争製品が原告の特許権侵害に関わるものであることは、前記で指摘した通りである。前記の説明を踏まえて、被告による行為が、他人を保護するための法律に違反することは当然であり、被告に過失があると推定すべきである。被告は、もし侵害行為の損害賠償責任の免除を主張しようとする場合、過失がないことを挙証しなければならない。ところが、調べた結果、被告から、その過失がないことを証明できる積極的な証拠が提出されたこともなく、被告による係争製品の旧バージョンが原告の係争特許権侵害になり、損害賠償の責任を負わなければならないことは当然である。

(三) 賠償金額をいくらにすべきか?
1、「特許権が侵害されたときは、特許権者は損害賠償を請求し、並びにその侵害を排除することを請求することができる。侵害のおそれがあるときは、その防止を請求することができる。専属実施権者も前項の請求をすることができる。前条規定により、損害賠償を請求するときは、次の各号のいずれを選んでその損害を算定することができる。…二、侵害者が侵害行為によって得た利益による。侵害者がそのコスト、又は必要な経費について立証できないときは、当該物品を販売して得た収入の全部をその所得利益とする。」と専利法第84条第1 、2 項、第85条第1 項第2号にそれぞれ明文で規定されている。
2、本件原告が販売数量でロイヤルティーを計算するよう主張したことについて、調べた結果、原告から、ロイヤルティーを計算するための証明資料が提出されていないので、採用に取らぬものである。次に、原告は改めて被告が係争製品を販売した数量及び価格で計算するよう主張したことについて、前記の規定に基づくと、根拠があるものである。更に双方当事者は被告が係争製品の旧バージョンを販売した数量、金額計算表に対する争いがないことから、その上に被告が係争製品旧バージョンを販売した数量が33,751個、合計で16,009 ,937 元と記載されたことは、採用に足りるものである。被告が利益を得ていないと抗弁したことについて、当時市場の価格が下落したことにより、粗利益が「マイナス593,762 元」になった…云々ということであるが、その根拠として、メモリー装置価格のシフト表及びオーダーシートだけを提出した。調べた結果、当該価格シフト表から分るように、その上に計算の根拠となった地域が明確に記載されておらず、国内又は国外のシフト表であるかも確認できないばかりでなく、明確な時間、金額もないことから、被告公司が当時の価格、及びコストがいくらなのかをそのまま証明できなかった。また、当該オーダーシートから分るように、その上にコスト、利益の記載がないことから、いずれも被告に有利な認定として採用することができない。このため、被告は、粗利益がマイナス云々を供述したことは、採用できぬものである。これに準じて、被告はそのコストを挙証できないことから、前記の規定に基づき、被告が当該物品を販売して得た収入の全部をその所得利益とし、損害賠償を算定することができることになる。それ故、前記で算定された新台湾ドル16,009,937元とされるべきであり、原告によるこの部分の請求に理由があり、これ以外の請求は許可され難いものである。

(四) 前記を総合すると、原告は侵害行為の法律関係及び専利法第84条第1、2 項、第85条第1 項第2 号及び会社法第23条第1項等の規定に基づき、被告に連帯して新台湾ドル16,009,937元及び訴状謄本が到達した日の翌日、即ち2007年12月7 日より返済日まで、年率5 %で計算した利息の支払を請求したことに理由があり、許可されるべきである。これ以外の請求には理由がないので、棄却されるべきである。

中華民国99年8月31日
民事第三法廷  審判長裁判官  朱耀平
裁判官  邱育佩
裁判官  呉金芳
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