特許出願 原相の提訴に知的財産局が敗訴

2014-05-14 2011年

■ 判決分類:特許

I 特許出願 原相の提訴に知的財産局が敗訴
知的財産裁判所では知的財産局が「如何なる調査もせずに」原相に対する拒絶査定が「不合法」だと認定

■ ハイライト
原相科技公司は知的財産局に「影像ナビゲーションチップ」の発明特許を出願したところ、7年にわたっても、知的財産局により特許が付与されなった。原相は裁判所に提訴したところ、裁判官が判決書で真相を明かした。それは、知的財産局は、原相による特許の出願に対して「如何なる調査もせずに」、直ちに拒絶査定をしたことに対して、裁判官は、納得できず、知的財産局に対する敗訴の判決を言い渡し、その主文で原相による出願の特許査定をすべきであると強調した。
知的財産裁判所審判長陳国成及び陳忠行、熊誦梅等合議法廷の裁判官は、判決書で、知的財産局は原相による当該特許の拒絶査定をしたことが「不合法」であると指摘した。
合議法廷の判決書で指摘したように、特許の保護が属地主義を取っているが、知的財産局が、原相による「影像ナビゲーションチップ」の出願に対して、特許請求範囲の独立項に進歩性がないことの立証ができないばかりでなく、従属項に進歩性がないことも立証できず、逆に原相による新しい発明の内の3項が先行技術を運用したもので、影像ナビゲーション特許を実施する必要なステップであり、専利法でいう特許請求範囲を明確に記載すべきであるとの規定等に違反しなかったとのことである。更に調査すべきその他の証拠がなかったこと、又は特許を付与しない如何なる事由にも該当しないことから、本件の事実・証拠が明確であり、原相による発明出願の許可を知的財産局に命じた。
原相は2003年12月頃、「影像ナビゲーションチップ」で以って知的財産局に特許出願を行った。2005年2月に知的財産局は、出願を拒絶した。原相は再審査を申請したほか、本件の特許明細書訂正版を提出したところ、2008年7月に、知的財産局による再審査が行われたが、なおも「特許を付与しない」との処分が下された。原相は訴願を提起したが、経済部により2009年9月に決定で却下された。
原相は我が国の知的財産局に特許出願を行った後、アメリカにも同じ特許を出願したところ、2007年7月にアメリカの特許を受けたほか、翌年11月にもまた、中国における特許を受けた。この特許は、二カ国における特許審査が許可されたことから、確かに進歩性を有することが示されるが、知的財産局は、原相に当該特許を付与しない旨の拒絶査定書には、なぜ拒絶査定をしたかを疎明する具体的な理由も記載されておらず、原相は受け入れられず、裁判所に告訴を提起した。本件については、知的財産局がなお上訴ができる。[2010-07-30 工商時報 A19/記者張国仁]

ニュース分析-特許出願の審査手落ち、知的財産局が技術向上の妨げになる 
経済部知的財産局は、発明特許を審査する主務官庁であり、台湾は全世界でハイテク製品の「OEM」(相手先ブランドによる生産)の巨人から、「世界の技術輸出主要国」に昇格させようとする場合、知的財産局による特許出願の審査能力及び効率が共に欠かせないものである。
ところが、最近、知的財産裁判所による二つの判決から分るように、知的財産局は実際に失望させられるほか、同局が国家の技術向上に役立つものではなく、かえってマイナスになっているとの不信感を募らせている。
まず、大同グループ傘下の精英電脳公司は、「位置を安定して固定できるCPUソケット構造」の実用新案特許に対する無効審判を請求した。裁判所では5年にわたる審理が行われた結果、最高行政裁判所では2007年頃に精英に対する勝訴の判決を下した。しかしながら、知的財産局は、改めて審査した結果、なおも「無効審判不成立」の処分を下した。これに対して、精英は「再度」行政訴訟の提起を余儀なくされた。今年6月頃、知的財産裁判所では経済部に敗訴の判決を言い渡した。また「事実、証拠がすでに明確である」として、直接、経済部に新規性を有しない当該特許を取消し、「無効審判成立」と審決しなければならないと命じた。
この事件の経緯から、知的財産局の本位主義による結果なのか、それとも、特許に新規性があるか否かについて、業者による無効審判の請求を審査する能力がないのかが疑われる。
また、原相による「影像ナビゲーションチップ」の特許出願に対する審査は、筋道が通らないものである。このため、知的財産裁判所は、業者の特許出願に対して「如何なる調査もせずに」、原相の出願を繰り返して拒絶した知的財産局を非難した一方、経済部訴願会が、訴願決定書に「当該特許技術が、高度に発展した成熟分野に属する」と記載したことも同局による職務上のミスを庇うと指摘した。
実は、原相が知的財産局に特許出願を行った後、アメリカ、中国にも特許の出願を行った。結局、この二国から特許が付与されたが、自国の知的財産局が、当該特許が「高度に成熟した」技術に該当すると認定したことは、理不尽である。訴願機構の「専門性」も疑われる。
知的財産裁判所合議法廷による判決書では、原相による特許の独立項又は従属項の何れかに対しても、知的財産局が「進歩性がないことが証明できない」と厳しく指摘した。知的財産局は、知的財産裁判所による判決の内容を重く受け止めるべきである。

原相による特許出願期日 
2003年12月

出願名称 
影像ナビゲーションチップ

同一の特許が外国で特許を取得した期間   
アメリカ:2007年7月
中国:2008年11月
台湾:2009年9月に拒絶査定が下された 

知的財産局敗訴の理由
如何なる調査も行われなかった。
進歩性がないと立証できなかった。
如何なる調査又は面接も行われなかった。

資料出所:知的財産裁判所判決書              
[2010-07-30 工商時報 A19/記者張国仁]

II 判決内容の要約

基礎データ

知的財産裁判所行政判決
【裁判番号】98,行専訴,121 
【裁判期日】20100708 
【裁判事由】発明特許の出願

原   告 原相科技股份有限公司
被   告 経済部知的財産局
上記当事者間における発明特許の出願につき、原告は経済部による2009年9月2日経訴字第09806117180号訴願決定を不服として、行政訴訟を提起した。
本裁判所は次のとおり判決する。

主文
訴願決定及び原処分を共に取消す。被告は原告による092137306 号特許の出願に対して特許をすべき旨の査定をしなければならない。
訴訟費用は被告の負担とする。

一 事実要約
原告は、2003年12月29日に「影像ナビゲーションチップ」で以って被告に特許出願を行い、2005年2 月14日に(94)智専二(二)04121 字第09420137610 号拒絶査定先行通知書で説明又は修正を答弁する旨の書状の提出通知を受けた。その後、原告は2005年3 月18日に答弁書を提出したところ、被告は2007年5 月14日に(96)智専二(二)04121 字第09620261920 号拒絶査定書でもって拒絶をすべき旨の査定をした。原告はこれを不服として、2007年7 月4日に再審査を請求したほか、本件特許の明細書修正版を提出した。被告は、修正版に基づき、再審査したところ、2008年5 月14日に審査意見書で、本件の拒絶をすべき旨の理由を原告に通知し、答弁を求めたところ、原告が2008年7 月10日に答弁した。被告は2009年5 月6 日に再審査拒絶査定書で「本出願の特許を付与すべきではない」旨の処分を下した。原告はこれを不服として訴願を提起したところ、経済部による2009年9 月2日経訴字第09806117180号決定で、訴願が却下されたが、原告はなおも不服として、本裁判所に行政訴訟を提起した。

*知的財産裁判所の見解:被告(知的財産局)は係争発明特許の出願が法定の特許要件を満たしていないとして、特許を付与すべきではないとの査定が、法に反するものであると認定した。訴願決定で維持されたことも誤りがある。それ故、原告は、訴願決定及び原処分を取消すよう請求したことには理由があり、許可すべきである。また、原告は改めて、係争特許に対して特許を付与すべき旨の査定を被告に命じるよう本裁判所に請求することにも理由があるので、併せて許可されるべきである。

二 両方当事者の請求内容
(一) 原告の声明:
1.原処分及び訴願決定を共に取消す。
2.被告は第92137306号発明特許を付与する旨の査定をしなければならない。
(二) 被告の声明:原告の訴えを却下するよう請求する。

三 本件の争点
本件の争点は、原審査の引例に基づき、係争特許出願の特許請求範囲第1乃至10項、14乃至16項が、その属する技術分野における通常の認識を有する者が、出願前の先行技術に基づいて容易に完成できるか否か、係争特許出願の特許請求範囲第11乃至13項において発明の説明は明確かつ十分に示されないため、当該発明の属する技術分野における通常の認識を有する者がその内容を理解できず、それに基づき実施できない事由があるか否かにある。
(一) 原告による主張の理由:省略。判決理由の説明をご参照下さい。
(二) 被告による答弁の理由:省略。判決理由の説明をご参照下さい。

四 判決理由の要約
(一) 自然法則を利用した技術的思想の創作で、産業上利用することができる場合、専利法第21条並びに第22条第1 項に基づき、特許を受けることができる。また、「発明は第一項に掲げた事由に該当しないが、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が出願前の既存技術に基づいて容易に完成することができるときは、なお本法により特許を受けることができない。」と同法第22条第4 項に明文で規定されている。更に「発明の説明は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその内容を理解し、それに基づいて実施をすることができるように明確かつ十分に示されなければならない」と同法第26条第2 項に明文で規定されている。前記条項に違反するものは、同法第44条に基づき、拒絶査定をしなければならない。

(二) 係争特許出願の特許請求範囲が合計して16項あり、その内の第1 項が独立項であり、残りが従属項である。被告は引例1 即ち経済部知的財産局が2003年4月21日に公告した第529289号特許を、係争特許の特許請求範囲第1 項に進歩性がない根拠とした。

(三) 係争案の特許請求範囲第1 項の記載から分るように、映像品質判断回路はA/D変換回路及びシフト計算回路の間の回路に構築されており、A/D変換回路から出力した映像信号の品質を判断し、品質ポインタを出力した後、当該品質ポインタにより、映像ナビゲーションチップがワーク表面に対するシフト量を出力するかどうかを決定する。いわゆる「映像品質」について、字義的に映像の良さを指している、「映像品質判断回路」は一定の方法で映像センサーからキャッチした映像品質の良さを判断する回路である。尚、被告は抗弁した引例1で、加算ユニットを通して、統計の加算値を加算し、即ち係争案の品質ポインタに対応しており、複数の加算値から、最大値を選択することは、品質ポインタにより、映像品質を評価し、運動方向を決定する。よって、引例1の「加算ユニット」及び「比較選択ユニット」は本願の「映像品質判断回路」とは同じ機能を有することになる。しかし、引例1で、センサ映像を異なる方向値に加算することは、シフト(方向と距離を含む)を計算するステップであり、係争発明のシフトを決定する前に、当該映像に対して、映像品質の良さの判断を行うステップ及び機能とは異なる。よって、被告が引例1の加算ユニット及び比較選択ユニットを係争発明の映像品質判断回路に対応することは不当である。さらに、係争発明がシフトを決定する前に、映像品質判断回路で映像の良さを判断した後、当該映像品質ポインタで、後のシフト量を出力するかどうかを決定することで、不良映像との比較を排除し、不良映像のシフト演算を省略することができ、時間とハードウェア資源を節約することができ、且つミスした結果を出力することを避けることができるので、引例1と比べ効果の増進がある。よって、引例1をもって係争請求項第1項が進歩性を有しないことを証明できない。

(四) 係争出願の第1項が独立項であり、残りの第2乃至16項がともに従属項である。調べた結果、原処分及び訴願決定が引例1 をもって、係争出願の特許請求範囲第2、3 、8 、9 項従属項が専利法第22条第4 項でいう進歩性の規定に該当しないと認定した。ところが、当該従属項は第1 項独立項をもっと縮小したものであり、引例1 が独立項に進歩性がないと証明できないばかりでなく、従属項第2 、3 、8 、9 項に進歩性がないことも証明できない。また、原処分及び訴願決定が引例2をもって、従属項第4 項に進歩性がないと認定したが、引例2において前記の独立項「影像品質の判断」に関する技術特徴が開示されないため、引例1 及び2 の結合が係争従属項に進歩性がないことをも証明できない。更に原処分及び訴願決定が引例3 をもって、従属項第5、6 、7 項に進歩性がないと認定したが、引例3においても前記独立項の「影像品質判断」技術特徴が開示されず、引例1 及び3の結合が、当該従属項に進歩性がないと証明することができない。原処分及び訴願決定は、引例4 をもって、従属項第10項に進歩性がないと認定したが、引例4もCMOS影像センサーと関わるもので、前記独立項の「影像品質判断」技術特徴が開示されず、引例1 及び4 の結合も従属項第10項に進歩性がないことを証明することができない。

(五) 原処分及び訴願決定は、改めて係争特許請求項第11乃至13項が専利法第26条第2 項の規定に反すると認定されている。また、専利法第26条第2 項に基づくと、「その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその内容を理解し、それに基づいて実施をすることができる」と規定されていることから、つまり発明説明の記載とは、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が、発明の説明、特許請求の範囲及び図面の三者全体を根拠とし、出願時の通常知識を参酌し、極端な実験を必要とせず、その内容を理解し、それに基づいて特許出願に係る発明を製造又は使用することができることにより、問題を解決し、且つ予期される効果を生じることを言うものである。もし、係争特許請求項第11乃至13項の発明は、当該技術の属する分野における通常の知識又は技術であり、且つ当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が、発明の説明、特許請求範囲及び図面の三者全体を根拠とし、出願時の通常知識を参酌し、その内容を理解し、それに基づいて特許出願に係る発明を製造又は使用することができる場合、専利法第26条第2 項の規定に該当し、且つ、出願人は、当該部分の発明の内容を記載するとき、当該内容を明細書に詳細にわたり記載する必要がない。調べた結果、原告は、請求項第11項のトラッキング処理回路及び請求項第12、13項のトラッキング処理公式がシフト量に対して解析度変換処理及びトラッキングスムーズ化処理などの技術のためのものであり、当該分野における通常の知識に該当すると主張し、更に原証15(公開日が1994年である)及び原証16(公開日が1999年である)の教科書資料を証拠として引用した。調べた結果、当該引例は確かに係争特許の出願前の公開資料であり、前記の規定及び説明に基づき、係争特許出願の特許請求範囲第11乃至13項が、被告が専利法第26条第2 項に違反すると指摘した事由に該当しない。

(六) 最後に特許所管機関が発明特許の審査をするときに、請求により又は職権で特許所管機関に出向いて面接を受けること、必要な実験を行うこと、職権で期限を限定して明細書又は図面の補充・修正を出願人に通知することができること等は、専利法第48条、第49条第1 項にそれぞれ明文で規定されている。また、行政機構は職権で証拠調べを行わなければならないこと、事実及び証拠の調査に必要があると認めたとき、書面で関係者に意見の陳述、必要な書類の提出等を通知することができることは、行政程序法第36、37、39、40条においてそれぞれ明文で規定されている。調べた結果、本件の出願は2003年12月29日にされて以来、被告は2005年2 月14日に初審意見を通知し、原告が2005年3 月18日に答弁した。その後、ファイルを調べた結果、被告が如何なる調査も行わずに、2007年5 月14日に前記の理由を付して、拒絶をすべき旨の査定を下した。原告は不服として、2007年7 月4 日に再審査を請求したが、被告が如何なる証拠又は事実を調査したこともないままに、2008年5 月14日に同一の理由をもって、本件の特許を受けない旨を原告に通知した。これに対して、原告は2008年7 月10日に答弁したほか、被告に出向いて面接するよう要請したが、被告がなおも如何なる調査も行なわずに、翌年即ち2009 年5月6 日に同一の理由をもって、本件が拒絶すべき旨の査定をした。たとえ、訴願決定で指摘された通り、調査又は面接をするか否かについて、行政機関が裁量の権限を有するとしても、本件は影像処理、光学、電子等分野を跨ぐ特許出願であり、出願時の2003年12月29日から判断すれば、訴願機関により称された高度発展の成熟分野に該当しないものであり、さもなければ、被告機関において6年近くも審査が行われ、始めて査定を下したことがあり得ないことから、原処分機関でこの理由をもって、職権でその他の調査又は面接を行わないことができるとした抗弁は理不尽である。本件の被告は、口頭弁論の際に原審査のファイルにあるすべての引例を除き、調査すべき証拠又は拒絶査定を下すべき如何なる事由がないと供述したことから、本件の原告による訴えは、理由があり、且つ事実、証拠が明確であり、原告が請求した趣旨の行政処分を下すよう被告に命じるべきである。

(七) 前記の理由を踏まえて、被告は係争特許出願の請求項第1乃至10項、第14乃至16項が専利法第22条第4 項に違反し、第11乃至第13項が専利法第26条第2 項に違反するとして、法定の特許要件に該当せず、拒絶査定をしたことは、法に反するものである。また訴願決定で維持されたことにも誤りがある。それ故、原告が、訴願決定及び原処分の取消しを請求したことには、理由があり、許可されるべきである。本件は、拒絶査定をすべきその他の事由に該当しないことから、原告が改めて、係争特許の出願について、直ちに特許を付与すべき旨の査定を被告に命じるよう本裁判所に請求したことにも理由があるので、併せて許可されるべきである。

前記を総合すると、本件原告の訴えに理由があり、智慧財産案件審理法第1条、行政訴訟法第200 条第3号、第98号に基づき、主文のとおり判決する。

中華民国99年7月8日
知的財産裁判所第二法廷
審判長裁判官  陳国成
裁判官    陳忠行
裁判官    熊誦梅

五 関連条文抜粋
行政訴訟法 第 111、200条(2010.01.13)
専利法 第 21、22、26、44、48、49 条(2003.02.06)
智慧財産案件審理法 第 1 条(2007.03.28)
行政程序法 第 36、37、38、39、40条(2001.12.28)
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