意匠の補強証拠には提出時期の制限がなく、行政救済段階で提出された時、行政裁判所は斟酌しなければならない。

2023-01-17 2022年
■ 判決分類:専利権

I 意匠の補強証拠には提出時期の制限がなく、行政救済段階で提出された時、行政裁判所は斟酌しなければならない。

II 判決内容の要約

知的財産及び商事裁判所行政判決
【裁判番号】110年度行專訴字第63号
【裁判期日】2022年5月18日
【裁判事由】意匠出願

原告 友達光電股份有限公司(AUO Corporation)
被告 経済部知的財産局

上記当事者間の意匠出願事件について、原告は経済部が2021年10月6日にした経訴字第経訴字第11006308090号訴願決定を不服として行政訴訟を提起した。本裁判所は次の通り判決する。

主文
原告の訴えを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

一 事実要約
原告は2020年2月27日、被告(知的財産局)に「モニターの一部」の意匠登録を出願した。その後原告は同年12月17日に補正本(補正資料)を提出して、意匠名を「モニター」に変更して再審査を請求した(以下「係争出願」という。添付図1を参照)。被告が補正本に基づいて審査した結果、再審査の拒絶査定書にて「拒絶」の処分を下した。原告はこれを不服として行政訴願を提起し、経済部は審理した結果、拒絶処分(原処分)を維持する決定を下した。原告はなお不服として、行政訴訟を提起した。知的財産及び商事裁判所は審理した結果、原告の訴えを棄却した。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告の請求:
1.訴願決定及び原処分をいずれも取り消す。
2.被告に係争出願に登録を許可する処分を求める。
3.訴訟費用は被告の負担とする。
原告の請求理由:省略。判決理由の説明を参照。

(二)被告の答弁:
原告の訴えを棄却する。
被告の答弁理由:省略。判決理由の説明を参照。

三 本件の争点
原告は、係争出願は創作非容易性を有すると主張しているが、被告は、係争出願はその意匠の属する分野における通常の知識を有する者(当業者)が初審査の引用文献及び再審査の引用文献に基づいて当該出願の全体の外観デザイン特徴を容易に想到することができるため、係争出願は創作非容易性を有さないと認めた。本件の争点は、初審査の引用文献と再審査の引用文献が係争出願の創作非容易性欠如を証明できるか否かである。

四 判決理由の要約
(一)係争出願は車載モニターであり、方形モニターの下方部に横向きに排列された3個の円形穿孔が設けられている。意匠権の範囲は「物品」及び「外観」で構成されている。係争出願の出願時に提出された図面に基づき、さらに明細書の意匠名称及び物品の用途を斟酌すると、係争出願が応用される物品は自動車ダッシュボードの「モニター」であり、また、係争出願の図面と明細書に記載されている意匠の説明から、係争出願の外観は各図面から構成される全体の形状であると確定できる。係争出願の図面は添付図1を参照できる。

(二)初審査の引用文献と再審査の引用文献についての説明
1.初審査の引用文献に係る意匠の内容:一枚の方形飾り板であって、前記飾り板の上方部には角が丸い方形の穿孔があり、前記飾り板の下方部には横向きに排列された3個の円形穿孔があり、かつ中央の穿孔の上端両側には1個ずつ小さな円形穿孔が設けられている。初審査の引用文献に係る図面は添付図2を参照できる。

2.再審査の引用文献に係る意匠の内容:再審査の引用文献は方形の車載モニターであり、前記モニター上には数個の円形ダイヤルがある。再審査の引用文献に係る図面は添付図3を参照できる。

(三)初審査の引用文献と再審査の引用文献との組合せは、係争出願の創作非容易性欠如を証明できる
1.係争出願は自動車ダッシュボードの「モニター」であり、初審査の引用文献は自動車用音響パネルの飾り板に応用され、再審査の引用文献は自動車ダッシュボードの表示パネルに応用される。係争出願の物品と初審査の引用文献及び再審査の引用文献の物品とはいずれも自動車用の表示パネル又は前記パネルの付属品である。よって初審査の引用文献と再審査の引用文献は当業者の先行意匠である。

2.係争出願が開示するのは円形穿孔であるのに対して、再審査の引用文献が開示するのは円形ダイヤルであり、係争出願の出願時に提出された優先権主張の書類に開示されている具体的な使用態様の写真から、それら円形穿孔は自動車ダッシュボードに取り付ける車内温度調整の円形ダイヤルや車載設備を操作する円形ボタンに対応して表示パネル上に設けられた穿孔設計であることが分かり、係争出願と再審査の引用文献との相違点は、再審査の引用文献には取付前の円形穿孔が開示されていないことのみである。

3.しかしながら上記相違点は、初審査の引用文献に開示されているものと同様に自動車の空調、音響等のダイヤルに取り付けるため、前記上記パネルの飾り板下方部に横並びに等間隔で排列された円形穿孔が設けられており、容易に想到できる意匠であり、係争出願の当業者であれば、再審査の引用文献における方形表示パネルの円形ダイヤル又は円形ボタンの位置と初審査の引用文献における横向きに等間隔で排列された円形穿孔の設計とを簡単に組み合わせて変更することができ、即ち係争出願の前述した(引用文献と)異なる外観設計の特徴を容易になし得る上、前記横向きの等間隔で排列された3個の円形穿孔の位置と排列を変更でき、係争出願の外観全体に特異な視覚的効果をもたらすことができないため、初審査の引用文献と再審査の引用文献の組合せは係争出願の創作非容易性欠如を証明できる。

(四)商標登録の取消/無効(訳注:異議申立による取消や無効審判による無効などに相当)と廃止(訳注:取消審判による取消に相当)又は専利権(訳注:特許権、実用新案権、意匠権に相当)の無効に係る行政訴訟において、当事者は口頭弁論が終結する前に、知的財産裁判所(現在は知的財産及び商事裁判所に改名)は同一の取消/無効・廃止の理由について提出された新証拠をなお斟酌しなければならないと、知的財産事件審理法第33条第1、2項に規定されている。上記条文がいうところの新証拠とは、同一の取消/無効理由で提出された新証拠を指すが、上記証拠力を補強する補強証拠については、上記条文で規定されておらず、訴訟終結を妨げる状況を除いて、事実審の口頭弁論終結前に随時提出してもよく、行政裁判所は補強証拠について上記の証拠調査、事実認定の職責を尽くさなければならず、この種の補強証拠は元来の取消/無効・廃止の理由及び既存の証拠と同じ関連の範囲内にあるため、提出時期の制限はなく、行政裁判所は斟酌しなければならず、除外する理由はない。よって関連の引用文献が出願時の通常の知識であるか否かについて、単一の証拠で当該先行意匠の水準に係る事実の存在を証明できず、当事者が訴訟中に当該事実の関連証拠を提出したならば、補強証拠に該当し、斟酌しなければならない。

(五)被告は本裁判所において2022年4月27日に口頭弁論を行った時、2018年8月28日付けの「友達が高性能で、信頼性の高い車載用及び機内エンターテイメントシステム用パネルを発表」というニュース報道を提出し、これは再審査の引用文献の証明力を補強するものであり、前記説明から引証すると、補強証拠は新証拠ではなく、本裁判所は斟酌すべきである。上記ニュース報道を調べたところ、自動車用スマートコックピットのディスプレイの写真以外に、記事には「ダッシュボードは表示エリアに対称の孔があり、ボタンやダイアルを取り付けることができる」と言及されており、係争出願以前にディスプレイに円形の孔を設けることについて、その事実がすでに存在していたことを証明できる。被告が提出した上記ニュース報道は、原拒絶理由及び既存証拠と同一の関連範囲にあり、補強証拠であり、ディスプレイに円形の孔を設けることは先行意匠であり、それらの円形穿孔はいずれもダイヤル又はボタンに対応するために設けられたものであることを証明でき、再審査の引用文献及び補強証拠であるニュース報道はいずれも、ディスプレイに円形の孔を設けて、ダイヤル、ボタン等の取付けを可能とするデザインが先行意匠に該当するという事実の存在を証明でき、出願時の通常の知識であり、当業者のその意匠の属する分野における技術水準を形成するのに用いることができる。よって、原告の主張は採用できない。

(六)まとめると、初審査の引用文献及び再審査の引用文献の組合せは係争出願の創作非容易性欠如を証明できるため、原告の主張には理由がなく、棄却すべきである。

以上の次第で、本件原告の訴えには理由がなく、知的財産事件審理法第1条、行政訴訟法第98条第1項前段により、主文の通り判決する。

2022年5月18日
知的財産第三法廷
裁判長 彭洪英
裁判官 王碧瑩
裁判官 林惠君
 
  
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