「商業的に成功」という進歩性が肯定される要素は、その成功が直接的に発明の技術的特徴によってもたらされたものであり、販売のノウハウ又は宣伝広告のような他の要素によるものではない

2023-05-25 2022年

■ 判決分類:専利権

I 「商業的に成功」という進歩性が肯定される要素は、その成功が直接的に発明の技術的特徴によってもたらされたものであり、販売のノウハウ又は宣伝広告のような他の要素によるものではない

■ ハイライト
原告(係争特許権者)は2014年1月23日に「スリーブラベル機(原文:套標機)」を以って被告(知的財産局)に対して特許出願を行い、被告は審査して特許査定を下した(係争特許、添付図1)。その後参加人(無効審判請求人)が係争特許には特許付与時の専利法第22条第1項第1号、第2項及び第26条第2項規定に違反があるとして、これに対して無効審判を請求した。その後原告は訂正を提出し、被告は審理してその訂正は規定に適合すると認めるとともに、「請求項1乃至6については無効審判の請求が成立し、取り消す」とする処分を下した。原告は原処分の無効審判の請求成立の部分を不服として、行政訴願を提起したが、経済部に棄却された。原告はさらに不服として、知的財産及び商事裁判所に行政訴訟を提起した。裁判所は本件を審理した結果、なお原告の訴えを棄却した。

知的財産及び商事裁判所の判決趣旨は以下の通り:
参加人は係争特許の請求項2乃至3について、証拠2、証拠3、証拠4を無効審判請求の証拠として提出した。裁判官は証拠2、3、4の組合せは係争特許の請求項2の進歩性欠如を証明するに足ると認定した。原告は、係争特許は2021年度の台湾エクセレンス賞(原文:台灣精品獎)の栄誉に輝き、かつ国際的な有名化粧品の包装に採用されたことがあり、商業的に成功をおさめた製品であると認められ、係争特許は容易になし得るものではないことを証明するに足るもので、商業的に成功という要件を満たす等と主張した。ただし、発明が商業的に成功をおさめているという進歩性が肯定される要素であるには、その成功が直接的に発明の技術的特徴によってもたらされたものであり、販売のノウハウ又は宣伝広告のような他の要素によるものではない必要があり、それによって始めて該当する。「台湾エクセレンス賞」の選考項目を調べたところ、単に特許の特許性を又は単に商業的に成功をおさめているかを選考項目の基準にしておらず、商品や企業について多くの評価項目を総合的に考慮しなければならない。このため、係争特許が該賞を獲得したことは、係争特許の特許請求の範囲における技術的特徴が直接的にもたらしたものとは考えがたい。したがって、原告の上記主張に理由があるとは認めがたい。

II 判決内容の要約

知的財産及び商事裁判所行政判決
【裁判番号】110年度行專訴字第54号
【裁判期日】2022年7月20日
【裁判事由】特許無効審判

原告 谷源塑膠股份有限公司(ALLEN PLASTIC INDUSTRIES CO., LTD.)
被告 経済部知的財産局
参加人 李振維

上記当事者間の特許無効審判事件について、原告は2021年9月8日付経訴字第11006307520号訴願決定を不服として行政訴訟を提起した。本裁判所は参加人に対して本件被告の訴訟に独立参加するよう命じた。本裁判所は次の通りに判決する。

主文
原告の訴えを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

一 事実要約
原告は2014年1月23日に「スリーブラベル機(原文:套標機)」を以って被告に対して特許出願を行い、特許請求の範囲は計6項目であった。被告は2017年4月7日に特許査定を下し、第I585007号特許(係争特許)として公告した。その後参加人が係争特許には特許付与時の専利法第22条第1項第1号、第2項及び第26条第2項規定に違反があるとして、これに対して無効審判を請求した。原告は2020年3月24日及び同年9月1日に係争特許の特許請求の範囲及び明細書の訂正本及び補正書類を提出した。被告は原告の上記訂正は規定に適合すると認めるとともに、2021年5月19日に(110)智專三(三)05158字第11020470100号無効審判審決書を以って「請求項1乃至6については無効審判の請求が成立し、取り消す」とする処分(以下「原処分」という)を下した。原告は原処分の無効審判の請求成立の部分に対して不服として、行政訴願を提起したが、経済部により20210年9月8日付経訴字第11006307520号訴願決定(以下「訴願決定」という)を以って棄却されたため、本裁判所に訴訟を提起した。本裁判所は、本件訴訟の判決結果を以って原処分である無効審判における請求成立の部分及び訴願決定を取り消さなければならないとした場合、参加人の権利又は法律上の利益が害されると判断し、職権により参加人に対して本件被告の訴訟に独立参加するよう命じることを決定した。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告の請求:訴願決定及び原処分の「請求項1乃至6については請求が成立する」という部分をいずれも取り消す。
(二)被告の答弁:原告の訴えを棄却する。
(三)参加人の請求:原告の訴えを棄却する。

三 本件の争点
主な争点:証拠2、3、4の組合せは係争特許請求項2、3の進歩性欠如を証明するに足るか否か。

四 判決理由の要約
(一)係争特許の技術:本発明のスリーブラベル機は、主に中心柱を中心とし、收縮フィルム膜同期搬送装置の送出ロールを切断装置の上方に設け、收縮フィルム膜同期搬送装置の引取ロールを切断装置の下方に設けて、前記送出ロールと引取ロールで収縮フィルムに対して同時に送出しながら引取するという動作を行い、たとえ、より薄い収縮フィルムでもシワが生じにくくして、それぞれの収縮フィルムを精確にボトル又は缶の表面に設置することができる。本発明の目的は、様々な厚みを有する収縮フィルムの搬送に用いて、収縮フィルムの品質の問題を克服し、精確にボトル又は缶に被せるスリーブラベル機というイノベーションを提供することである。

(二)原告は2020年3月24日に係争特許の特許請求の範囲に対する訂正申請を提出し、その後被告が訂正を許可して、2021年6月21日に公告しており、ファイルに記録されている。係争特許の訂正後に記載されている請求項は合計6項目あり、そのうち請求項1は独立項、その他は従属項である。参加人は係争特許の請求項2~3について、証拠2、3、4を無効審判請求の証拠として提出している。証拠2は2000年1月11日公告の台湾第379728号「熱収縮フィルムの機構型搬送装置(原文:熱收縮膜機構式導送裝置)」実用新案、証拠3は1998年4月14日公告の米国第5737900号「Banding method and apparatus with acceleration of band along floating mandrel aimed toward article to be banded」特許、証拠4は2012年3月11日公告の台湾第M424307号「ラベル機のラベル分離切断装置(原文:装置套標機之標籤分離裁切裝置)」実用新案である。

(三)証拠2、3、4の組合せは係争特許の請求項2、3の進歩性欠如を証明するに足る:
1.    係争特許の請求項2は請求項1に従属する従属項であり、従属先である請求項1のすべての技術的特徴を含む。係争特許の請求項2でさらに限定されている特徴は「中心柱の側辺に第一ガイドロールと第二ガイドロールが設けられ、前記第一ガイドロールと前記第二ガイドロールはそれぞれ2つ1組で、中心柱の前側と後ろ側に1つずつ設置しており、前記第一ガイドロールは中心柱の第一柱体に、前記第二ガイドロールは中心柱の第二柱体にそれぞれ設置され、前記第二ガイドロールは動力部品で駆動され;前記中心柱の内部には、前記第一ガイドロールと第二ガイドロールに対応する位置に、第一受動ガイドロールと第二受動ガイドロールが設置され、前記第一受動ガイドロールは前記第一ガイドロールと接触し、前記第二受動ガイドロールは前記第二ガイドロールと接触して、収縮フィルムを引き取る適当な力を形成する」という特徴である。
2.    証拠2、証拠3、証拠4はいずれも「熱収縮フィルムの機構型搬送装置」に該当し、応用される物はすべてボトル、缶等の対象物であり、同じ技術分野に属する。証拠2、3、4は機能と作用の共通性を有するため、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、証拠2、証拠3、証拠4に開示されている技術内容を組み合わせて、係争特許の請求項2に係る発明を容易になし得て、かつ係争特許の請求項2は証拠2、3、4に対して予期せぬ効果を有しないため、証拠2、3、4の組合せは係争特許の請求項2の進歩性欠如を証明するに足る。
3.    係争特許の請求項3でさらに限定されている特徴は「第一ガイドロールと第二ガイドロールは、収縮フィルム同時搬送装置の送出ロール及び引取ロールと垂直を呈するように設置することができ、前記第一ガイドロール、第二ガイドロール及び収縮フィルム同時搬送装置の送出ロール、引取ロールを、収縮フィルムの十字軸方向の面と接触させて、収縮フィルムを安定して下方へ移動させる」という特徴である。
4.    証拠2、4にはすでに、係争特許の請求項3でさらに限定されている特徴が開示されている。さらに証拠2、3、4には組み合わせる動機付けがあるのは前述した通りであり、証拠2、4の組合せは係争特許の請求項3の進歩性欠如を証明するに足るため、当然ながら証拠2、3、4の組合せも係争特許の請求項3の進歩性欠如を証明するに足る。

(四)原告は、係争特許は2021年度の台湾エクセレンス賞(原文:台灣精品獎)の栄誉に輝き、かつ国際的な有名化粧品の包装に採用されたことがあり、商業的に成功をおさめた製品であると認められ、係争特許は容易になし得るものではないことを証明するに足るもので、商業的に成功という要件を満たす等と主張している。ただし、発明が商業的に成功をおさめているという進歩性が肯定される要素であるには、その成功が直接的に発明の技術的特徴によってもたらされたものであり、販売のノウハウ又は宣伝広告のような他の要素によるものではない必要があり、それによって始めて該当する。「台湾エクセレンス賞」の選考項目を調べたところ、単に特許の特許性を、又は単に商業的に成功をおさめているかを、選考項目の基準にしておらず、商品や企業について多くの評価項目を総合的に考慮しなければならない。このため、係争特許が該賞を獲得したことは、係争特許の特許請求の範囲における技術的特徴が直接的にもたらしたものとは考えがたい。したがって、係争特許が2021年度の台湾エクセレンス賞(原文:台灣精品獎)を獲得し、かつ国際的な有名化粧品の包装に採用されたことがあり、商業的に成功をおさめた製品であると認められ、係争特許は容易になし得るものではないと推論できるとする原告の主張に理由があるとは認めがたい。
以上をまとめると、証拠2は係争特許の請求項1、4乃至6の進歩性欠如を証明するに足るもので、証拠2、3、4の組合せは係争特許の請求2、3の進歩性欠如を証明するに足る。したがって、原処分における「請求項1乃至6については無効審判の請求が成立し、取り消す」との処分には誤りがなく、原処分を維持する訴願決定にも法に合わないところはがない。訴願決定及び原処分の「請求項1乃至6については請求が成立する」という部分をいずれも取り消すという原告の請求には理由がなく、棄却すべきである。

以上の次第で、本件原告の訴えには理由がなく、知的財産事件審理法第1条、行政訴訟法第98条第1項前段により、主文の通り判決する。

2022年7月20日
知的財産第三法廷
裁判長 彭洪英
裁判官 王碧瑩
裁判官 林怡伸

添付図1:係争特許の主な図面

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