進歩性の審査において、複数の引用文献の間で技術分野に関連性がある場合でも、「解決しようとする課題の共通性」若しくは「機能又は作用の共通性」、又は「教示及び示唆の有無」等の事項をさらに判断する必要があり

2023-09-22 2022年

■ 判決分類:専利権

I 進歩性の審査において、複数の引用文献の間で技術分野に関連性がある場合でも、「解決しようとする課題の共通性」若しくは「機能又は作用の共通性」、又は「教示及び示唆の有無」等の事項をさらに判断する必要があり

参加人は2017年2月20日に「ステージカー用大型LEDスクリーン構造(係争実用新案)」を以て被告に実用新案の登録を出願し、被告は登録を許可した。その後、原告(無効審判請求人)は係争実用新案が許可当時の専利法第120条の第22条第2項準用規定に違反しているとして、これに対する無効審判を請求した。被告は審理した結果、「請求項1乃至2については無効審判の請求が成立しない」との処分を下した。原告は不服として行政訴願を提起したが、経済部に棄却された。原告はこれを不服として、知的財産及び商事裁判所に訴訟を提起した。裁判所の審理を経て、なお原告の訴えが棄却された。

主な争点:証拠2乃至証拠11の組合せは、係争実用新案請求項1、2の進歩性欠如を証明できるのか。

上記の問題について、知的財産及び商事裁判所は次のように指摘している。

一、当業者が複数の引用文献の技術内容を組み合わせる動機付けの有無を判断するとき、複数の引用文献の間に「技術分野の関連性」があるのか、互いに「解決しようとする課題の共通性」や技術内容によりもたらされる「機能又は作用の共通性」があるのか、並びに関連の引用文献の技術内容に複数の引用文献の技術内容を組み合わせる「教示又は示唆」が明確に記載されているか、暗示されているかするのか等の要素を総合的に考慮しなければならない。

二、且つ複数の引用文献の間で技術分野に全く関連性がない場合は、通常、当業者が複数の引用文献の技術内容を組み合わせる動機付けがあるとは認めがたい。逆に、複数の引用文献の間で技術分野に関連性がある場合でも、「解決しようとする課題の共通性」若しくは技術内容によりもたらされる「機能又は作用の共通性」、又は「教示及び示唆の有無」等の事項をさらに判断する必要がある。それによって始めて、当業者が複数の引用文献の技術内容を組み合わせる動機付けがあると認定できる。

三、調べたところ、証拠2、証拠3、証拠4に開示されている可動式背景ボードは主に複数の背景ボード(折板)を提供するものであり、それらの間を従来の家庭用蝶番(羽根)を用いる方式で連結し…大型LEDスクリーン関連の技術を有しない。証拠5は動力を利用して作動させる…ただしそのLEDスクリーン接続技術は係争実用新案と明らかに異なる…証拠6、証拠7はビデオウォール関連の技術分野に属し、…証拠8乃至証拠10はモバイル電子製品の折畳み式スクリーンに係る技術分野に属する。証拠6(ビデオウォール)、証拠7(電光掲示板)、証拠8(表示装置)、証拠9(表示装置)、証拠10(折畳み可能なスクリーン)はいずれもLEDスクリーンに関連する技術であるが、いずれもステージカー技術と関連がなく、その中で証拠9、10は折畳み式表示装置であっても、係争実用新案との関連性は低い。以上から、証拠2乃至証拠10はそれぞれ異なる技術分野に属し、証拠の群における技術分野の関連性が低く、且つ証拠2乃至証拠10の解決しようとする課題が異なることが分かり、…組合せの動機付けがあるとは認め難い。

四、さらに調べたところ、証拠2乃至証拠10はいずれも設置して固定した後、取付けと取外しを繰り返すことが容易ではなく、いずれも繰り返して取付けと取外しが可能な構造ではない。証拠11は短時間で脱着できる構造で2つの本体を結合できるが、短時間での取付けと取外しを達成する作用が異なる。即ち、証拠2乃至証拠10と証拠11との間に作用、機能の共通性がなく、客観的にみて、組み合わせる動機付けがない。

五、さらに、証拠9は枢接軸と収容槽が凹凸に対合することで、シームレスに合体接続している。ただし証拠2乃至証拠8、証拠10、証拠11は大型スクリーンの合体接続によって画面が不連続となる現象が発生することを解決するシームレスの合体接続ではなく、且つ証拠9のシームレスの合体接続に関する技術内容を組み合わせる教示又は示唆が実質的に暗示されていない。

六、以上をまとめると、証拠2乃至11はそれぞれ異なる技術分野に属し、証拠の群において技術分野の関連性が低く、解決しようとする課題が異なり、証拠2乃至証拠10と証拠11との間に作用、機能の共通性がなく、示唆と教示がない中、たとえ当業者は証拠2乃至11に開示された技術を組み合わせたとしても、係争実用新案の請求項1の考案を容易になし得るとは言い難いため、証拠2乃至11の組合せは係争実用新案の請求項1の進歩性欠如を証明するに足らない。

II 判決内容の要約

知的財産及び商事裁判所行政判決
【裁判番号】111年度行専更一字第2号
【裁判期日】2022年11月16日
【裁判案由】実用新案無効審判

原告  張信平
被告  経済部知的財産局
参加人  呉佳政

上記当事者間の実用新案無効審判事件について、原告は経済部が2019年10月30日にした経訴字第10806313360号訴願決定を不服として行政訴訟を提起した。最高行政裁判所の審理差戻しにより、本裁判所は次の通り判決する。:

主文
原告の訴えを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

一 事実要約
参加人は2017年2月20日に「ステージカー用大型LEDスクリーン構造(原文:舞台車大型LED顯示幕之構造)」を以て被告に実用新案の登録を出願した。被告は登録を許可して、第M542584号実用新案登録証(以下「係争実用新案」という。請求項は計2項)を交付した。その後、原告は係争実用新案が許可当時の専利法第120条の第22条第2項準用規定に違反しているとして、これに対する無効審判を請求した。被告は審理した結果、「請求項1乃至2については無効審判の請求が成立しない」との処分(以下「原処分」という)を下した。原告は不服として行政訴願を提起したが、経済部に棄却された(以下「訴願決定」という)。原告はこれを不服として、当裁判所に訴訟を提起した。当裁判所の原審では、訴願決定及び原処分を取り消すとともに、被告に係争実用新案の請求項1、2について無効審判請求成立の審決を行うよう命じた。参加人が上訴(上告)した後、最高行政裁判所は原審判決を破棄し、当裁判所に審理を差し戻した。

二 両方当事者の請求内容
原告の請求:1.訴願決定及び原処分を取り消す;2.被告は係争実用新案の請求項1、2について「無効審判の請求が成立し、取り消す」との審決を下さなければならない。
被告の請求:原告の訴えを棄却する。

三 本件の争点
1.証拠2乃至証拠11の組合せは、係争実用新案請求項1、2の進歩性欠如を証明できるのか。
2.添付資料1、甲証4と証拠9の組合せは、係争実用新案請求項1、2の進歩性欠如を証明できるのか。

四 判決理由の要約
1.係争実用新案の技術内容:
係争実用新案は、ステージカー用LEDスクリーンの構造であって、それはステージカーの車体上に大型LEDスクリーンが設置され、前記大型LEDスクリーンは、一つのメインスクリーンと二つのサイドスクリーンを組み合わせて構成され、前記メインスクリーンの上端と下端にはそれぞれ一つのトップバーと一つのボトムバーが設置され、前記トップバーとボトムバーは車体に固定され、端部には上下に二つの固定スリーブが設置され、前記二つのサイドスクリーンはそれぞれメインスクリーンの左右両側に位置し、前記サイドスクリーンの上端と下端には同様にそれぞれ一つのトップバーと一つのボトムバーが設置され、前記トップバーとボトムバーはメインスクリーンのトップバー、ボトムバーと互いに接続でき、且つ端部にはいずれも接続スリーブが突出して設置され、前記接続スリーブはメインスクリーンに設置された固定スリーブの間に対合的に置かれ、ピンをスリーブに挿入することで、二つのサイドスクリーンがメインスクリーンに組み合わせて固定され、これにより各スクリーン同士は完全に対合的に接続され、画面が連続して、中断されないステージカー用大型LEDスクリーンを確保できるというものである。

2.証拠2乃至証拠11の組合せは、係争実用新案請求項1、2の進歩性欠如を証明できるのか:
 (1)証拠2乃至11はいずれも係争実用新案請求項1の技術的特徴を完全に開示していない。
①証拠2~4にはステージカーに適用される可動式の背景ボードの構造が開示されており、いずれも係争実用新案のステージカーに設置されるLEDスクリーンの技術とは異なる。
②証拠5の数個のLEDディスプレイは上下昇降する方式で接続するもので、これは係争実用新案のLEDスクリーンが横方向に接続するのとは、なお異なる。
③証拠6には折畳み式液晶ビデオウォールが開示されている。証拠6のジャンルは係争実用新案のステージカーというジャンルとは異なり、又証拠6には長方形基板の連結技術についても詳細に記載されていない。 
④証拠7は単なるLED電光掲示板であり、ステージカーとの結合関係がない。証拠7の結合技術は係争実用新案におけるメインスクリーンとサイドスクリーンとの接続技術とは異なる。
⑤証拠8は単なる複数のディスプレイを有する装置であり、ステージカーとの結合関係がない。且つ証拠8の接続技術は係争実用新案と異なる。
⑥証拠9は単なるマルチスクリーン表示装置であり、ステージカーとの結合関係がない。且つ証拠9の表示装置の接続技術は係争実用新案と異なる。 
⑦証拠10は単なるマルチスクリーン表示装置であり、ステージカーとの結合関係がない。且つ証拠10の結合部における結合方式は係争実用新案における固定スリーブと接続スリーブの結合方式と異なる。
⑧証拠11はステージカー又はLEDスクリーン等に関する技術内容とは全く関連性がない。

 (2)証拠2乃至11には組合せの動機付けがない:
①進歩性の審査を行う時、複数の引用文献(即ち先行技術)の技術内容の組合せに関わるならば、後知恵を避けるため、その考案が属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、当業者)が複数の引用文献の技術内容を組み合わせて、実用新案登録出願に係る考案を完成する動機付けの有無を考慮しなければならず、なお複数の引用文献の技術内容を恣意的に寄せ集めて、その考案は当業者が容易になし得るものであると認めてはならない。当業者が複数の引用文献の技術内容を組み合わせる動機付けの有無を判断するとき、複数の引用文献の間に「技術分野の関連性」があるのか、互いに「解決しようとする課題の共通性」や技術内容によりもたらされる「機能又は作用の共通性」があるのか、並びに関連の引用文献の技術内容に複数の引用文献の技術内容を組み合わせる「教示又は示唆」が明確に記載されているか、実質的に暗示されているかするのか等の要素を総合的に考慮しなければならない。複数の引用文献の間で技術分野に全く関連性がない場合は、通常、当業者が複数の引用文献の技術内容を組み合わせることができる動機付けがあるとは認めがたい。逆に、複数の引用文献の間で技術分野に関連性がある場合でも、「解決しようとする課題の共通性」若しくは技術内容によりもたらされる「機能又は作用の共通性」、又は「教示及び示唆の有無」等の事項を判断する必要がある。それによって始めて、当業者が複数の引用文献の技術内容を組み合わせる動機付けがあると認定できる(最高行政裁判所109年度上字第932号判決の差戻趣旨を参照)。
②調べたところ、証拠2、3、4は従来の背景を有するステージカーの技術分野に属し、大型LEDスクリーン関連技術を有しない。証拠5はディスプレイが昇降するステージカーの技術分野に属する。それはステージカーと大型LEDスクリーンの関連技術を同時に有するが、LEDスクリーン接続に係る技術的特徴が係争実用新案とは明らかに異なる。証拠6、証拠7はビデオウォール関連の技術分野に属する。証拠8乃至証拠10はモバイル電子製品の折畳み式スクリーンに係る技術分野に属する。証拠6(ビデオウォール)、証拠7(電光掲示板)、証拠8(表示装置)、証拠9(表示装置)、証拠10(折畳み可能なスクリーン)はいずれもLEDスクリーンに関連する技術であるが、いずれもステージカー技術と関連がなく、その中で証拠9、10は折畳み式表示装置であっても、係争実用新案との関連性は低い。以上から、証拠2乃至証拠10はそれぞれ異なる技術分野に属し、証拠の群における技術分野の関連性が低く、且つ証拠2乃至証拠10の解決しようとする課題が異なり、係争実用新案の請求項1に特定されているトップバー、ボトムバー、固定スリーブ及び接続スリーブの連結関係をステージカーに応用するという技術的特徴に関する教示も示唆もなく、且つ係争実用新案のステージカー用大型LEDスクリーンがトップバーとボトムバーの内側への縮みと外側への伸びによって対合的に接続するという効果を有しないことが分かり、組合せの動機付けがあるとは認め難い。
③証拠2乃至証拠10はいずれも設置して固定した後、取付けと取外しを繰り返すことが容易ではなく、いずれも繰り返して取付けと取外しが可能な構造ではない。証拠11は短時間で脱着できる構造で2つの本体を結合できるが、短時間での取付けと取外しを達成する作用が異なる。即ち、証拠2乃至証拠10と証拠11との間に作用、機能の共通性がなく、客観的にみて、組み合わせる動機付けがない。
④以上をまとめると、証拠2乃至11はそれぞれ異なる技術分野に属し、証拠の群において技術分野の関連性が低く、解決しようとする課題が異なり、証拠2乃至証拠10と証拠11との間に作用、機能の共通性がなく、示唆と教示がない中、たとえ当業者は証拠2乃至11に開示された技術を組み合わせたとしても、係争実用新案の請求項1の考案を容易になし得るとは言い難いため、証拠2乃至11の組合せは係争実用新案の請求項1の進歩性欠如を証明するに足らない。

 (3)証拠2乃至11の組合せは係争実用新案請求項1の進歩性欠如を証明するに足らず、請求項1に従属する請求項2の進歩性欠如を証明するにも足らない。
 
3.添付資料1、甲証4と証拠9の組合せは、係争実用新案請求項1、2の進歩性欠如を証明できるのか:
 (1)添付資料1、甲証4、証拠9には係争実用新案の請求項1の技術的特徴が完全に開示されておらず、組み合わせる動機付けがない:
添付資料1の番号7乃至10、16等の写真には、ステージカーのビデオウォールは中央のメインスクリーンから左右にそれぞれサイドスクリーンが接続されて構成されていることが開示されているが、添付資料1の番号17、18、29乃至35等の写真には、スクリーンがバックボードに設置され、バックボード上に固定スリーブ又は接続スリーブがあること、即ちメインスクリーンとサイドスクリーンの上端と下端にはいかなるバーも設置されていないことが開示されており、これは係争実用新案とは異なる。
このため、添付資料1、甲証4には係争実用新案の請求項1の技術的特徴が開示されていない。証拠9にも係争実用新案の請求項1の技術的特徴が開示されていないことは前述した通りである。
以上をまとめると、添付資料1、甲証4、証拠9には係争実用新案の請求項1の技術的特徴が完全に開示されていない。また証拠9はモバイルタイプのマルチスクリーン表示装置であり、明らかにステージカー関連の技術分野に属するものではない。よって、添付資料1、甲証4、証拠9は異なる技術分野に属し、且つ関連性がなく、当業者には前記引用文献を組み合わせる動機付けがあるとは認め難い。しかも示唆と教示がない中、たとえ当業者が添付資料1、甲証4、証拠9に開示された技術を無理に組み合わせたとしても、係争実用新案の請求項1の考案を容易になし得ないため、添付資料1、甲証4、証拠9の組合せは係争実用新案の請求項1の進歩性欠如を証明するに足らない。

 (2)添付資料1、甲証4、証拠9の組合せは係争実用新案の請求項1の進歩性欠如を証明するに足らず、請求項1に従属する請求項2の進歩性欠如を証明するにも足らない。

以上をまとめると、証拠2乃至11の組合せ、及び添付資料1、甲証4、証拠9の組合せはいずれも、係争実用新案請求項1、2の進歩性欠如を証明するに足りない。したがって、被告が原処分において係争実用新案請求項1乃至2については無効審判の請求が成立しないと審決したことには誤りはなく、原処分を維持した訴願決定にも法に合わないところはない。原告が、訴願決定及び原処分を取り消すとともに、.被告に係争実用新案の請求項1、2について「無効審判の請求が成立し、取り消す」との審決を下すよう命じるという原告の訴えには理由がなく、棄却すべきである。

以上の次第で、本件原告の訴えには理由がなく、知的財産事件審理法第1条、行政訴訟法第98条第1項前段により、主文の通り判決する。

2022年11月16日
知的財産第四法廷
裁判長 林欣蓉
裁判官 呉靜怡
裁判官 陳蒨儀 

TIPLO ECARD Fireshot Video TIPLO Brochure_Japanese TIPLO News Channel TIPLO TOUR 7th FIoor TIPLO TOUR 15th FIoor