GOGOROが元管理職二名による悪意ある引き抜き及び競業避止義務違反を訴えたが、賠償不要の判決

2021-10-26 2021年
■ 判決分類:営業秘密

I GOGOROが元管理職二名による悪意ある引き抜き及び競業避止義務違反を訴えたが、賠償不要の判決

■ ハイライト
 GOGORO電動バイクを研究開発製造する「睿能創意股份有限公司(以下、睿能という)」が、モーター研究開発部の元管理職「林松慶」及び人事部門の元管理職「凃志傑」が共同で「湛積股份有限公司(以下、湛積という)」を設立するにあたり悪意をもって社員を引き抜き、競業避止義務条項に違反したとして、両名に対し連帯で800万台湾ドル賠償するよう求めた。しかし、台北地方裁判所(以下、北裁という)は睿能が提出した社員の退職願に基づき、転職した社員の退職理由には家庭、健康及び個人のライフプラン等の都合があるものの、一切引き抜かれたことには触れておらず、さらには退職者の証言によれば、睿能の就業環境が個人の思っていたものに及ばなかったので、退職を考えるに至ったとのことであった。このため、悪意による引き抜きの事実証拠は不十分であると認定した。林の雇用契約は睿能が一方的に定めたものであり、雇用契約の解約後24ヶ月以内において、林は直接または間接的に睿能又はその関係企業と競争する業務に従事してはならないと規定していた。しかし、契約には補償措置が一切なく、明らかに公平性を欠くものであった。確かに睿能はその後林と補償金について約定したと主張し、新北地方裁判所(以下、新北裁という)に285万台湾ドル余りを供託したが、新北裁は双方の会話記録に基づき、明らかにコンセンサスを得ていないのでこの補償は未成立であり、当該競業避止義務条項も無效であると認定した。この為新北裁は両名の賠償を免ずる判決を下したが、睿能が控訴した。
 また、睿能から別途新北地検署に林による刑事営業秘密法違反等嫌疑の告発があったので、捜索と事情聴取を経て、林の20万台湾ドルでの保釈、湛積の石及び戎のエンジニア二名についての勾留を申し立てた。しかしその後、新北裁はこれを不許可とし、石について20万台湾ドルで保釈、戎について40万台湾ドルで保釈と決定した。

II 判決内容の要約

知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】109年労訴字第85号
【裁判期日】2021 年 01 月 07 日
【裁判事由】競業避止義務等の請求履行

原告  睿能創意股份有限公司
法定代理人  陸學森 
被告 林松慶 
     凃志傑
 
上記当事者間における競業避止義務等の請求履行事件について、本裁判所は2020年12月7日に口頭弁論を終結し、以下のように判決する。
 
主文
原告の訴え及び仮執行の申立てをいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

壱 両方当事者の請求内容と声明 

一、原告の主張:
(一) 被告林松慶は2013年5月24日より原告の動力システム設計研究開発部門に任職し、動力システム副理、動力システム資深経理(部長に相当)、動力システム協理(重役に相当)等の職務についていたが、2019年6月1日の退職発効日前は当該部門の最高責任者即ちシニアディレクター(Senior Director)であった。その主な業務内容は、電動バイクモーターの設計、研究開発及び製造の統括管理であった。また、被告凃志傑も元は原告社員であり、原告の人材資源部門の最高責任者を務め、その後人材資源部門においては人材募集業務(Function)の最高責任者(職名はDirector)であった。その職務は原告社員の給与、給与明細、社員氏名及び連絡先等の重要機密情報を十分掌握できるものであった。原告と被告林松慶は2013年4月12日に雇用契約を結び、その内第9.1(a)、(c)条項、及び2015年6月15日に被告凃志傑と結んだ雇用契約中の第7.1(a)、(c)条項には、いずれも競業避止及び引き抜き禁止等の条項があった。

(二) 被告林松慶は退職前の2019年5月末、当月給与を未受領のまま給与振込口座を解約したので、原告は5月分の給与と競業避止補償金を被告に支払うことができなかったが、原告は同年6月28日に新北地方裁判所に競業避止補償金2,850,205元を供託した。しかし被告が退職後に原告と競争関係にある湛積公司に入社したので、雇用契約第9.1(a)条に基づき被告に2021年6月1日まで、直接又は間接的に湛積公司又はその他原告と競争関係にある事業体に就職して電動バイクモーター設計、研究開発又は製造関連の業務に従事してはならないと求め、また、他の形式でも電動バイクモーター設計、研究開発又は製造に関する役務やサポートを上述事業体に提供してはならないと求める。

(三) 被告2名の不正な原告社員の引き抜きについて、林松慶雇用契約第9.1(c)条項、凃志傑雇用契約第7.1(c)条に基づき、被告林松慶に対して2021年6月1日まで、及び被告凃志傑に対して2021年10月1日まで、原告の社員に退職やその職務に違背する誘導や勧誘をしてはならないと求める。

(四) 被告林松慶には前述の競業避止及び引き抜き避止条項違反の行為があり、原告に損害を与えたので、原告は林松慶との雇用契約第10条約定及び民法第184条第1項前段、後段規定に基づき被告に2,000,000元の損害賠償を請求することができる。原告はまた、民法第179条規定により、比率に基づいて補償金2,000,000元の返還を請求することができる。

(五) 被告林松慶と被告凃志傑は悪意をもって共同で原告社員を引き抜き、少なくとも原告のプロジェクト及び製造においてマンパワーの不足による遅延を生じさせ、新入社員を新規に訓練するコストと費用等の損害をもたらしたので、原告は林松慶雇用契約第10条、凃志傑雇用契約第8条、民法第184条第1項前段、後段、第185条規定に基づき損害賠償(弁護士費用を含む)を請求することができる。また、被告凃志傑は2019年6月10日に原告に休職を届出て、休職期間は2019年7月1日から同年9月30日までであったが、その後2019年9月3日に原告に退職願を提出した。しかし、被告凃志傑は休職期間に、湛積公司で2019年7月25日の設立前、即ち被告林松慶と共同で積極的に湛積公司の設立、創立をサポートし、湛積公司の共同創立者となった。退職後に、湛積公司の運営長になったので、明らかに凃志傑雇用契約第7.1(a)条の在職期間における競業避止行為の義務に違反したので、第8条約定に基づき賠償責任を負わなければならない。よって、被告2名に連帯で8,000,000元支払うよう請求する。

(六) 請求声明
1. 被告林松慶は2021年6月1日まで、直接又は間接的に湛積公司又はその他原告と競争関係にある事業体に就職して電動バイクモーター設計、研究開発又は製造関連の業務に従事してはならず、また、その他の形式でも電動バイクモーター設計、研究開発又は製造に関する役務やサポートを上述事業体に提供してはならない。
2. 被告林松慶は2021年6月1日まで、被告凃志傑は2021年10月1日まで、原告の社員に退職やその職務に違背する誘導や勧誘をしてはならない。
3. 被告林松慶は原告に2,000,000元、及び起訴状副本送達の翌日から弁済日まで、年利5%で計算した利息を支払わなければならない。
4. 被告林松慶及び被告凃志傑は連帯で原告に8,000,000元、及び民事被告追加状副本送達の翌日から弁済日まで、年利5%で計算した利息を支払わなければならない。
5. 原告は、現金又は同額面の兆豐國際商業銀行南港支店無記名譲渡可能定期預金証を担保として供託し、仮執行宣告の許可を請求する。附表一番号3「声明」欄のとおり。

二、被告の主張:
(一) 原告と被告林松慶、凃志傑との競業避止条項は全て無效のはずであり、双方間の雇用契約は2015年12月16日の労基法第9条の1新設後に「解約」しているので、労基法第9条の1規定の適用がある。もし雇用双方が退職後の競業避止条項締結時に競業避止補償金を約定していない場合、当該競業避止は無效であり、事後に使用者が自ら補償金を労働者口座に振り込んだり、又は自ら預け入れたりする等の任意性給付行為は即ち瑕疵の補正である。本件原告と被告林松慶が締結した雇用契約第9.1(a)条競業避止条項は合理的な補償を約定していないので、上記条項は労基法第9条の1第1項第4号に違反していて無效であり、民法第247条の1第3号の他方に権利を放棄させる、又は他方の権利行使を制限する事情を構成し、明らかに公平性を欠くので無效である。
    
(二) 声明:1.原告の請求を棄却する。2.もし不利益な判決を受けた場合、被告は担保供託による仮執行免除を請求する。

弐 判決理由の要約
  
一、本裁判所判断:
(一) 労基法の第9条の1新設前における過去の実務事例によれば(例えば、台湾高等裁判所101年度労上字第14号判決、同裁判所101年度労上字第45号判決、同裁判所95年度労上字第32号判決参照)、競業避止約定の一般的合理性審査基準は次のとおりである。一、使用者に競業避止特約に基づき保護を受けるべき正当な利益がなければならず、例えば使用者の固有知識又は営業秘密である。二、被用者の前使用者の所での職務及び地位が、例えば主要な営業幹部、低職務技能に該当せずに上記の正当な利益を知ることができる。例えば特別な技能、技術がなく、なお且つ職位が低く、企業の主要な営業幹部ではなく、弱い立場の労働者であって、たとえ退職後に同様又は類似業務の企業に就職しても、元の使用者の営業の妨げになる可能性がない場合、競業避止約定は労働者の転職の自由を拘束するものと認めるべきであり、公序良俗に反するので無效である。三、被用者の転職の対象、期間、地域、業務活動の範囲の制限は、合理的な範疇を越えないものでなければならない。四、労働者の競業避止による損害を補填する代償措置が存在しなければならず、被用者の生活に困難をきたさないようにする等の各項要素が、2015年12月16日新設の労基法第9条の1所定の次の規定と相応のものでなければならない。即ち「次に掲げる規定のいずれかに該当しないとき、使用者は、労働者と離職後の競業避止を約定してはならない。一、使用者に保護を受けるべき正当な営業利益があるとき。二、労働者が担当する役職または職務で、使用者の営業秘密に接触または使用できるとき。三、競業避止期間、地域、労働活動の範囲及び就業対象が合理的範囲を超えないとき。四、使用者が、労働者が競業行為に従事しないために受ける損失を合理的に補償したとき。前項第4号でいう合理的な補償には、労働者が労働期間中に受け取った賃金は含まれない。第1項各号規定のいずれかに違反したとき、その約定は無効となる。」よって、確かに新設の規定を遡及適用することはできないが、司法実務では上記判決先例の見解を参酌して、上記4要件をもって林松慶の雇用契約に所定の退職後の競業避止条項が合理的であるかを法理判断することができるので、当然当該条項が労基法第9条の1第1項規定の新設前に「締結」されたものであるから、その適用すべき事理及び規範が異なるというものではない。

(二) 「当事者の一方が同類の契約の条項に用いることを予定して定めた契約が、左列各号の約定である場合に、その情状が明らかに公平性を欠くものであるなら、当該部分の約定は無效である。一、予定契約条項の当事者の責任を免除又は軽減するもの。二、他方当事者の責任を加重するもの。三、他方当事者に権利を放棄させる、又はその権利行使を制限するもの。四、その他他方当事者にとって重大な不利益があるもの。」と民法第247条の1にも規定されている。労基法第9の1条の新設前に、もし競業避止条項に上記の合理的要件がなく、なお且つ使用者が一方的に同類契約の条項に用いる予定で定めた契約は、当該条項が被用者に権利放棄させる、又はその権利行使を制限するものなので明らかに公平性を欠く情状があると認めるべきである。調べたところ、林松慶の雇用契約第9.1(a)条は原告が一方的に定めたものであり、条項には被用者への補償措置約定が一切なかったので、確かに公平性を欠くものであり、民法第247条の1第3号規定に基づき、無效である。

(三) 確かに原告は、上記条項に補償金の約定がなくても、その後に双方で補償金の約定を締結し、自ら新北地方裁判所の供託所に補償金2,850,205元を供託して補償した等と述べ、更には原告が提出した被告との対話記録内容からわかるとおり、原告は被告との契約解約後、確かに被告と退職後の競業避止補償金について話し合う意思があったものの、被告が当時同意しなかったので、原告は双方に一切約定がない情況下で、自ら新北地方裁判所供託所に被告の補償のために供託したと述べた。しかし、これが双方間の競業避止約定に基づく給付だとは認めがたく、よって被告に受領する義務はない。ましてやその無效は最初から最後まで無效であり、原告による事後の一方的且つ自発的な供託行為により、上述の無效な競業避止条項を有效化して、これに基づき他方当事者を拘束するようなことはできない。

(四) 以上に基づけば、被告林松慶の雇用契約第9.1(a)条は無效であり、湛積公司と原告間における競争関係の有無を問わず、原告がこの条項に基づいて、2021年6月1日まで直接又は間接的な湛積公司への就職又は役務提供、又は何らかの方法による従事、経営又は原告と競争する役務又は協力の提供をしてはならないと被告林松慶に命令するよう請求することはできない。

(五) 原告は被告林松慶、凃志傑に原告社員の退職を教唆又は誘引してはならないと請求したが、それならば当然被告2名が林松慶雇用契約第9.1(c)条、凃志傑雇用契約第7.1(c)条に違反した行為の事実について挙証責任を負わなければならない。しかし原告が提出した退職願によれば、同人等が記載した退職理由は、自宅休養、身体休養のため、個人のワークライフプラン、工業自動化/IOT関連産業の業務内容を希望する、家庭の事情、健康事情及び個人のワークライフプラン、実家手伝い、通勤距離が遠すぎる、家族の世話、個人の都合、個人生活テンポの修正及び生活就業関係の見直し、南部への帰郷、健康問題等であり、彼らの退職と被告2名になんらかの関連があるとは認めがたい。上記退職願と原告の証人による証言等ではいずれも原告の元社員の退職が被告2名の教唆によるものだと証明することができず、なお且つ原告は今まで被告2名がいったいどのような方法で原告のどの社員に退職を教唆したのか、又はどのように当該社員と原告間の正当な職務行為を破壊して彼らに原告会社を自発的に退職させたのかについて具体的に説明できていないので、上述の社員が次々に退職して湛積公司に就職したという事実をもって、彼らの退職が被告2名からの不適切な教唆によるものだったと推論することは困難である。以上により、被告2名には林松慶雇用契約第9.1(c)条、凃志傑雇用契約第7.1(c)条に違反した行為があった等の原告の主張は、採用できない。

(六) 以上に基づけば、被告林松慶が雇用契約第9.1(a)(c)条項所定義務に違反したり、又は民法第184条第1項所定の故意又は過失により不法に他人の権利を侵害したり、又は故意に公序良俗に反する方法で他人に損害を与えた事情があったと認めることは困難であり、原告が被告に2,000,000元の損害賠償を求めたことも、認めることができない。さらには、被告がその後新北地方裁判所供託所に当該供託金の受取りを申請したと十分証明できる証拠も一切ないので、被告が原告からの金錢給付の利益を受けたと認定することはいっそう困難である。従って、原告が民法第179条規定に基づき被告に不当利得2,000,000元の支払いを請求したことには、根拠がない。

(七) 被告凃志傑の名刺には「共同創立者及び運営長」という役職名の記載があるが、名刺に記載の内容は被告凃志傑が原告に在職していた期間に被告林松慶と共同で湛積公司の創立及経営に従事していた、又はその他原告と競争する行為があったことを証明するには不十分である。即ち原告がこの名刺をもって、被告凃志傑に在職期間において既に雇用契約第7.1(a)条の在職期間競業避止条項違反の行為があったと主張し、雇用契約第8条条項に基づき被告2名に連帯で8,000,000元賠償するよう請求したことには、理由がない。また原告は、その他被告2名が民法第184条第1項所定の故意又は過失により不法に他人の権利を侵害した、又は故意に公序良俗に反する方法で他人に損害を与えた事情の証拠を提出して証明しておらず、原告が民法第184条第1項、第185条規定に基づき被告2名に連帯で8,000,000元賠償するよう請求したことには、同じく理由がない。
   
二、結論:
   上述をまとめると、本件原告の全ての請求には一切理由がない。原告の訴えが棄却する以上、その仮執行の申立ても依拠を欠くので、併せて棄却しなければならない。双方のその他の攻擊又は防御方法及び提出した証拠については、全て本判決の結果に影響しないので、逐一論ずることはしない。

2021年1月7日
労動法廷裁判官 李桂英
書記官 郭書妤
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