外国会社の本国が台湾と同じく、WTOの加盟国であれば、当該外国会社は台湾で法に基づき、営業秘密侵害の告訴を提起することができる。

2022-02-21 2021年
■ 判決分類:営業秘密

I 外国会社の本国が台湾と同じく、WTOの加盟国であれば、当該外国会社は台湾で法に基づき、営業秘密侵害の告訴を提起することができる。

■ ハイライト
告訴人は、台湾の認許を受けていないデンマーク会社であり、被告人等が告訴人の従業員を通じて告訴人が有している営業秘密を取得し、且つ同種類商品の委託製造に使用していることを発見した。それ故、2017年2月14日に弁護士を委任して、検察機関に被告人等がその営業秘密を侵害していると告発したため、検察官が、被告人等が営業秘密法第13条の1第1項第4号の他人が有する営業秘密を不正に取得、使用した罪に問われるとして、公訴を提起した(台湾高雄地方検察署107年度偵字第2783号)。
第一審裁判所は2018年11月1日に改正施行前の会社法に基づき、告訴人が認許を受けていない外国法人であり、法人団体ではないので、刑事告訴を提起することができないと認定し、公訴不受理の判決を下した。検察官が控訴を提起した後、知的財産裁判所では、告訴人は合法な告訴人であり、本件の告訴権を有していると認め、且つ被告人等の審級利益も併せて酌量して、原判決を破棄して、第一審裁判所に差し戻した。被告人等はこれを不服とし、最高裁判所に本件の上告を提起した。最高裁判所は知的財産裁判所による判決の趣旨と結論は合致すると認定し、上告を棄却した。
前記の問題について、最高裁判所による判決は次のとおり見解を示した。
一、世界貿易機関(World Trade Organization、WTOと略称する)の「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(Agreementon Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights、TRIPSという)」をはじめとする各協定は、国内法の効力を有する。告訴人は、TRIPSに関する最低限の保護基準及び内国民待遇の規定に基づき、台湾における営業秘密法所定の営業秘密定義に該当する「未公開情報」の直接侵害について、告訴権を有するので、合法的に告訴を提起することができる。
二、2018年8月1日に改正公布した会社法第4条第2項(2018年11月1日より施行)、及び2020年1月15日に新設した営業秘密法第13条の5は、被告人等が告訴人の有する営業秘密を不正に取得、使用して本件を犯したことについて、親告罪であると法律に規定されているどうかや、その内容及び範囲の規定、または告訴権の有無及びその行使、取り下げの有無の刑罰法律の変更とは関わりがない。

II 判決内容の要約

最高裁判所刑事判決
【裁判番号】109年度台上字第1639号
【裁判期日】2021年2月25日
【裁判事由】営業秘密法違反

上告人 江福元
       王偉銘
       荘錦烽
       富利康科技股份有限公司

前記上告人等が営業秘密法違反事件につき、知的財産裁判所による中華民国108年3月25日付第二審判決(108年度刑智上訴字第5号、起訴番号:台湾高雄地方検察署107年度偵字第2783号)を不服とし、上告を提起したため、本裁判所は次の通り判決する。

主文
上告を棄却する。

一 事実要約
本件公訴の趣旨を次のとおり要約する。上告人江福元、莊錦烽及び王偉銘(以下併せて江福元等3人という)はそれぞれ富利康科技股份有限公司の董事長、董事及び工場長であり、同社の代表者及び被用者である。また、業務遂行のために、デンマーク企業Haldor Topsoe A/S社(以下HTAS社という)のデンマーク国籍のエンジニアPeter Sehestedt Schoubye(以下PSと略称する)が知っていて、且つ把握しているセラミックフィルター触媒浸透液の原料、成分、比率、製造プロセス、製図、品質管理データと川上供給元等関連営業秘密はHTAS社が有するものである。江福元等3人はPSがHTAS社の許諾を得ないで、使用または漏洩してはならないことを明らかに知りながら、自己の不当利得を意図して、PSの漏洩をとおして、取得した後、同種類製品等の委託製造に使用したことにより、営業秘密所有者であるHTAS社の利益に損害を与えた。それ故、江福元等3人が営業秘密法第13条の1第1項第4号の他人が有する営業秘密を不正に取得し、且つ使用した罪を犯したと認定した。第一審判決は、HTAS社に告訴権がなく、合法的に告訴を提起していないと認定したため、公訴不受理の判決を下した。
しかし、第二審で審理した結果、HTAS社が有する前記の営業秘密が営業秘密法第2条所定の秘密性、経済価値を有し、及び合理的な秘密保持の措置をとっていたなどの要件に合致すると疎明したほか、その有する前記の営業秘密が江福元等3人により不法に侵害されたと主張し、なおかつHTAS社には、江福元等3人による前記の犯行に対する告訴権があり、且つ合法的に告訴を提起したので、本件の第一審判決において合法的に告訴を提起しておらず、訴訟条件を欠いている状況はないと認定し、第一審判決を破棄して、台湾高雄地方裁判所の審理に差し戻した。被告人等はこれを不服とし、HTAS社は、2017年2月14日に告訴を提起した時点で告訴権がなかったので、合法的な告訴に該当しないと主張して、上告を提起した。

二 本件の争点
(一)HTAS社は台湾の認許を受けていないが、本件の告訴権を有するか?
(二)会社法第4条第2項の改正、営業秘密法第13条の5の新設は、刑罰法律の変更と関わりがあるか?

三 判決理由の要約
(一)TRIPSは多国間貿易協定であり、WTOの加盟国に対して、国際法の拘束力を有するほか、司法院釈字第329号解釈によれば、それは、台湾が国際組織と締結した国際の書面協定(条約)であり、また、その内容は国家の重要事項または国民の権利義務に直接関わっており、且つ行政院が立法院の審議に送付し、それを採択しているほか、大統領が批准書に署名したうえ、公布した後は、法律と同一の位置づけなので、国内法の効力を有する。
(二)TRIPSが立法院の審議を経て採択され、且つ大統領が2001年11月20日に批准書に署名し、公布した後、外国会社の本国が台湾と同じく、世界貿易機関の加盟国であれば、前記外国会社は、台湾政府の認許を受けているか否かを問わず、TRIPSの最低限保護基準及び本国民待遇の規定に基づき、台湾における営業秘密法所定の営業秘密定義、「未公開情報」の直接侵害に該当する場合、刑事訴訟手続きの範囲における最低限保護の要求の下で、台湾の本国民待遇を下回らない地位を取得するので、台湾の会社と同様に、(一般)告訴権を有する。また、自訴権は、台湾の刑事訴訟で採用されている国家訴追原則に関わり、例外であってはじめて個人による自訴の提起が認められる法制度設計なので、2018 年8月1日の会社法第4条の改正公布前は、台湾政府の認許を受けていない外国法人は自訴を提起してはならないことになっていた。
(三)2018年8月1日に改正公布の会社法規定は、外国会社の認許制度を廃止し、2018年11月1日に発効、施行された。その後、WTO組織の下でTRIPSの規制を受ける事項については、外国会社が台湾の認許を受けたかを問わず、台湾の法的規定において、台湾の会社と同一の権利能力を有することが確認された。つまり直接被害者としての被害事実について、告訴(一般)権を有し、合法的に告訴を提起することができるので、国内法の効力を有するTRIPSの規制事項及び改正後の前記会社法の規定は、未認許の外国会社の営業秘密が直接被害された事実についても、(一般)告訴権を有するとの考えがあり、両者は一致するものであると言える。
(四)営業秘密法において2020年1月15日に第13条の5「認許を受けていない外国法人は、本法規定の事項について、告訴、自訴又は民事訴訟を提起することができる」との(特別)告訴権の規定が新設された。その立法理由における「外国法人は台湾の認許を受けなければ、法人資格がないので、司法院字第533号の解釈により、自訴を提起する権利がないと認定されると、その営業秘密が侵害されたとき、法律の手段により救済を受けることができない。そうすると、国際貿易の促進の妨げとなり、且つ台湾への外国企業からの投資に不利になる。……その権利を保護するために、認許を受けていない外国法人も訴訟主体になることができる規定を新設した」等の説明趣旨から分かるように、明らかに立法の過程には水平リンケージ欠如の瑕疵がある。営業秘密法の前記新設規定は、認許を受けていない外国会社に「自訴権」を付与したが、当該会社の「告訴権」は、前記TRIPS規制事項及び改正後の会社法からなる法律体系としては、確認の性質を重複して述べただけにとどまる。それ故、前記会社法第4条第2項の改正、営業秘密法第13条の5の新設は、HTAS社が有する営業秘密を不正に取得したという江福元等が犯した案件は、親告罪であると法律に規定されているかや、その内容及び範囲の規定、または告訴権の有無及びその行使、取下げの刑罰法律の変更とは関わりがない。
(五)これを踏まえ、HTAS社が2017年2月14日に弁護士を委任して法務部調査局航業調査処基隆調査站及び台湾高雄地検に、江福元等3人が営業秘密法第13条の1第1項第4号に違反した事実をもって告訴を提起したことは、親告罪の犯行に対して合法的に告訴を提起したのではないとは言い難い。原判決が、第一審において本件が合法的に提起されていないとして、直ちに江福元等3人に対する公訴不受理の判決を下したことは適切ではないとして、第一審のこの部分に関する判決を破棄し、改めて台湾高雄地方裁判所の審理に差し戻したことは、その判決趣旨と結論についてやはり法に合致する。また、富利康科技股份有限公司の部分について、検察官が営業秘密法第13条の1第1項所定の罰金刑を科すべきであるとして公訴を提起したことは、刑事訴訟法第376条第1項第1号の規定により、第三審裁判所に上告してはならない。よって、その上告は合法ではないので、却下すべきである。

以上を総じて、刑事訴訟法第395条前段により、主文の通り判決しなければならない。

2021年2月25日
刑事第一法廷審判長裁判官 郭毓洲
                  裁判官 沈揚仁
                  裁判官 王敏慧
                  裁判官 林靜芬
                  裁判官 蔡憲徳
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