特定の会社に専用実施権を許諾した技術情報であり、秘密保持契約が締結されたものは、営業秘密の秘密性を失わない。

2023-04-24 2022年

■ 判決分類:営業秘密

I 特定の会社に専用実施権を許諾した技術情報であり、秘密保持契約が締結されたものは、営業秘密の秘密性を失わない。

■ ハイライト
 係争資料は、訴外人PPG社からの専用実施権許諾のものであり、且つPPG社が日本、中国大陸地区においても同資料について他の会社に専用実施権を許諾している。だが、係争資料はPPG社が自社で研究開発したものであり、且つPPG社が日本、中国大陸地区の専用実施権の許諾を受けた会社と秘密保持契約を締結しているため、係争技術は依然として秘密性を失わない。また、必成公司は専用実施権者の立場で、営業秘密法により保護される権利主体であるため、法により提訴することができる。

II 判決内容の要約

台湾嘉義地方裁判所刑事判決
【裁判番号】107年度知訴字第4号
【裁判期日】2022年3月25日
【裁判事由】著作権法等の違反

公訴人 台湾嘉義地方検察署検察官
被告人 陳寛讃

上記被告人の著作権法等の違反につき、検察官による公訴提起(107年度偵字第3312号)を経て、移送のうえ(107年度偵字第9337号)と合併審理を行い、本裁判所は次の通り判決する。

主文
 陳寛讃は中国大陸地区で保有している営業秘密を使用する意図があり、営業秘密法第13-1条第1項第2号にいう保有営業秘密を許諾を得ずに複製した罪を犯したので、3年4か月の懲役に処する。
 押収物は添付一の番号1から5、7、16の通りであり、これらを全て没収する。

一 事実要約
 台湾必成股份有限公司(以下、必成公司)は、電子工業グレード及び複合材料のガラス繊維を製造するメーカー(台湾プラスチックグループ関連企業)である。陳寛讃は必成公司の元古参社員であったが、2017年8月2日に必成公司に辞表提出、同31日に正式退職、そして2017年10月中旬、泰山玻纖公司に就職した。
 陳寛讃は必成公司の上級管理職として、必成公司内部の技術面や生産効率などにかかわる関連資料のほとんどが、会社が極力守っているものであり、且つ競争相手に知らせれないようにする営業秘密資料であることを分かっていたはずである。なお且つ、陳寛讃が署名した「誓約書」には、「在職期間及び就職前に知悉若しくは取得した一切の技術または資料(会社、前使用者またはその他第三者の営業秘密、並びに会社の過去、現在及び未来の、第三者と秘密保持を約定した技術資料等を含むがこれらに限らない)は、全て厳格に守秘しなければならず、本人が在職中か否か、または秘密保持契約の締結の有無にかかわらず、いかなる許諾を得ない使用またはいかなる方式による漏洩も絶対にしてはならない。私は、会社が資料の返還を求めるまたは退職する際、直ちに全ての関連技術資料を返還しなければならず、いかなる方法による保有もしてはならない」と明確に記載されている。したがって、陳寛讃は、必成公司が関連技術の漏洩を防ぐために、社員に対して漏洩してはならないこと及び退職に際して全ての技術資料を返還すべきであり、それを保有してはならないよう再三求めたことについて知悉したはずである。それにもかかわらず、陳寛讃は、以後就職する会社における自らの価値を高めるために、添付で示した資料が必成公司の著作財産権若しくは営業秘密またはその両方に属することを明らかに知悉していたのにもかかわらず、無断で複製の方法で他人の著作財産権を侵害し、並びに中国大陸地区で使用する意図、且つ、自己の不法な利益を意図して、許諾を得ずに営業秘密を複製する接続的犯意に基づき、2017年某日から退職直前に前掲資料を不正に複製した時点まで、必成公司の著作財産権若しくは営業秘密またはその両方を損害した。

二 本件の争点
 被告人による無罪答弁の理由:
 被告人は本件の犯行を頑なに否認。主な抗弁は、前掲資料はいずれも同人による必成公司における業務執行の際に必要なものであり、もともと複製、保存する権利を有し、且つ、必成公司の技術はアメリカ企業である必丕志工業公司(即ち、PPG INDUSTRIES, INC.、以下、PPG社)から取得したものであるため、必成公司は営業秘密の所有者資格を有さず、さらに言えばPPG社から技術を他の海外会社に許諾しているので、必成公司が主張するものである営業秘密を主張した情報は既に明らかに同業者の間で知悉され、秘密性を有しない。また、本件の関連資料は他の会社にも当てはめることができないため、経済的価値を有しない。また、必成公司は本件の関連資料の管理について、合理的な秘密保持の措置を講じなかった。

三 判決理由の要約
 営業秘密の保護要件:
 1、他人の営業秘密を複製、取得、使用、漏洩する罪の判断は、まず営業秘密の内容及びその範囲を確定しなければならず、そして行為者が複製、取得、使用、漏洩した営業秘密にかかわる技術情報について、秘密性、経済的価値及び秘密保持の措置等があるか否か等の要件を逐一酌量しなければならない。仮にその秘密が抽象的な原理、概念に該当し、且つ一般にこの関連情報にかかわる人がパブリックドメインを介して推知することができるもの、若しくは特別な努力を払う必要なく同様の成果を得ることができるもの、若しくは特定の人員による管理や関連人員による取得の制限等合理的な措置を講じないものは、いずれもこの罪の構成要件に該当しない(最高裁判所107年度台上字第2950号刑事判決趣旨参照)。
 2、営業秘密の所有者が秘密保持の主観的意図を有し、事業展開の活動における信頼関係あるいは雇用、販売等契約の中の秘密保持条項に基づき、既に合理的な秘密保持の措置を講じて、その秘密性を維持し、営業秘密を合理的に開示して特定の他者に提供した場合は、その秘密性もやはり失わない。即ち、営業秘密の秘密性は相対性のものであり、絶対性のものではない。また、営業秘密の保護範囲は、実際的及び潜在的な経済的価値を含み、利益を得るか否かは問わない。このほか、営業秘密法に言う合理的な秘密保持の措置に該当するか否かについては、営業秘密の所有者に主観上保護の意欲があり、且つ客観上は秘密保持に関する積極的な作為もあり、当該情報を秘密として保持しようとする意思を人に理解させなければならず、並びに当該情報を容易且つ任意に接触できない方法を以て管理しなければならない。事業者が営業秘密の管理について講じた措置の執行方法及びその程度は、特定の情報が営業秘密法により保護を受けることができるか否かの認定に影響する。それ故、事業者は適切及び具体的な営業秘密の保護方法により、管理の品質及び水準を高め、営業秘密が侵害に遭うリスク及びその可能性を小さくする。合理的な秘密保持の措置の程度に達したか否かを判断するには、具体的な事件における当該営業秘密の種類、従業員の人数の多寡、空間の大小、事業者の財力、マンパワー、並びに社会的通念を総じて認定するものであり、即ち、たとえ事業の主体が同様の二社の秘密保持の措置ではあっても、合理的な秘密保持の措置の程度に達したか否かについては、上記の異なる事業経営状況により、異なる認定となる可能性があり、一概には言えない。なお、合理的な秘密保持の措置は、単に事業者が秘密保持の規定を詳細に挙げることを指すだけではなく、一滴の水も漏らさないまたは金城鉄壁というような秘密保持の程度に達さなければならないことを指すものでもなく、重要なことは主観上確実に秘密保持の意欲があるか、及び客観上マンパワー、財力が限られている状況で適切に実施したかにより、積極的な秘密保持の作為に達しているかを認定する。別の角度から言えば、仮に事業の主体が既に上記の主観的な秘密保持の意欲、客観的な秘密保持の措置に達していれば、事業者が自ら定めた一層高い基準の秘密保持の規範を完全に満たさなかったとしても、これに基づいて合理的な秘密保持の措置がないと軽率に認定してはならない。さもないと、自らで一層高い基準を設ける意欲があるが、マンパワー、財力等その他現実的な状況により今のところ達成できない事業者を懲罰することに違いなく、産業全体の発展に不利である。
 3、営業秘密が誰に帰属するかについては、原始的取得と承継的取得にわけることができる。後者の状況には大抵他者の営業秘密の譲受け(営業秘密法第6条第1項)、被許諾(営業秘密法第7条第1項)、承継及び営業合併等の事情がある。
  (1)秘密性
  a.証人張正権の証言からわかるように、ガラス繊維製品の良不良は、溶融炉の設計、白金ノズルの各項目のパラメータ、原材料の配合方法、スラリー液の配合方法、及び各種プロセスの条件に対する制御によるものである。
  b.ガラス繊維製品の品質の優劣を判断する一つの重点は、「鳥目」の有無及びその深刻さであり、被告人が書いた報告書から見れば、この点も確かに顧客の購買意欲に影響するものであり、且つ鳥目を改善する過程で生産能力と効率についても考慮しなければならず、一方に気を取られると他方が疎かになるということを避ける必要もある。また、証人張正権の証言内容においても、被告人の書いた改善報告書においても、鳥目の発生は張力にかかわると言及しており、この点は白金ノズルの設計と関係している。
  c.異なる業者が同種類の製品を生産する際、生産のプロセス、原材料の配合方法は大抵同様であるかもしれないが、生産する際の任意のステップに一部分でも異なっていれば、最終結果の優劣に影響する可能性があり、成功した業者は当然この種の重大な差異を安易に競争相手に漏らすことを望まない。この差異性は当然ながら関連専門分野の者にも知悉されず、秘密性を有する。
  (2)経済的価値性
  a.必成公司は電子工業グレードガラス繊維の世界市場シェアにおいては約15~20%を占め、凡そ40億台湾ドル(以下、同)である。中国と台湾の工場合わせた生産力は凡そ23万トン、電子工業グレードガラス繊維の世界市場におけるシェアは約16%であり、現在の市場シェアが最大であるため、必成公司が電子工業グレードガラス繊維の分野において相当程度の競争力を有していることは明らかである。必成公司がガラス繊維を生産する際、研究・発明・改善したソフトウェア・ハードウェアの施設、生産ラインの計画、原材料の配合方法、及び製造プロセスの設計等を使用することは、当然ながら、良好な製品の品質の維持、生産効率の向上、製造コストの低減等と密接に関連している。したがって、本件における上記の情報にかかわるあらゆるファイル・資料は、実際的または潜在的な経済的価値を有しないとは確かに言い難い。
  b.たとえ被告人が抗弁したように、必成公司の使用した生産設備が旧型設計で、溶融炉のトン数が同業者より少なく、且つ関連のパラメータを同業者に直接当てはめることができないとしても、上記情報にかかわるファイル・資料が依然として経済的価値を有するとの認定を妨げるものではない。同業者による参考、検討に供することができる資料でありさえすれば、それを以て学習時間の節約、または錯誤の減少により、生産効率を上げることができるので、経済性を有する。それ故、経済性を有するか否かを判断するにあたって、当該技術が業界最新のものか、生産効能が業界最大であるかとは実は必然的な関係がなく、当該技術が営業秘密の所有者に実際的及び潜在的な経済的価値をもたらすことができれば足りるのである。
  (3)合理的な秘密保持の措置
  必成公司は技術の関連資料の漏洩を防ぐために、多くの制限措置を講じた。
  a.門限を設け、並びに写真及び撮影機能が付いている機器、ノートパソコンを工場に持ち込むことを従業員に禁止している。
  b.コンピュータのUSBポートに使用制限をかけ、且つ情報安全の管理について関連規定を設けている。
  c.一部の図面、文書に「confidential」という機密表示、「**制限される文書、無断複写禁止**」、「密」等の文字を記載し、当該図面、文書が機密性を有することを対外的に表明することは、必成公司に主観上は秘密保持の意欲があるということであり、且つ客観上は秘密保持についての積極的な作為がある適例である。
  d.秘密保持の関連契約を締結するよう下請業者に求めている。
  e.「誓約書」への署名を従業員に求め、従業員による営業秘密法の罰則の知悉を確保し、並びに従業員に在職中における秘密保持、退職時における既知、保有の技術または資料の返還を保証させている。
  (4)本裁判所により営業秘密と認定された一部のファイル・資料(詳細は後述)について、必成公司は被許諾者の立場であり、依然として営業秘密法における権利の主体に該当する。
 たとえ被告人が述べたように、PPG社に他の会社(日本電気硝子株式会社NEG、中国中国大陸淄博中材龐貝捷金晶玻纖有限公司)と許諾関係(本裁判所巻二十三365ページ)であるとしても、これは特定の地域における専用実施権許諾契約に該当するはずであり、契約の双方が、技術の漏洩がないことを確保するために、必然的に秘密保持についての関連協定に署名することになり、さもなければ重大な技術の原始的所有者、即ちPPG社による技術の再許諾サブライセンスの利益を損なうことになる。必成公司とPPG社との許諾契約第2条から見れば、必成公司はPPG社から取得した技術資料を厳格に守秘しなければならず、並びに必成公司に技術資料の保存・取得の権限を制限しなければならないと求め、且つ権限を取得した者も秘密保持協定に署名しなければならない等の文字(偵3312巻81ページ)を双方により約定していたことも証明できる。また、上記第三者会社の二社が所有しているガラス繊維の製造プロセス技術は、PPG社との許諾関係という特殊な繋がりを介して取得したもの(必成公司と同様)であり、同社がもともと知悉していたものではない。この点から見ても、PPG社の関連技術資料は確かに「関連情報にかかわる一般人が知悉するものではない」ということを実証したことに外ならない。仮にガラス繊維についてのPPG社の製造プロセス技術は、既に関連情報にかかわる一般人に知悉されているものであり、秘密性を有しないならば、なぜ必成公司を含む多くの会社はわざわざPPG社と許諾契約に署名しなければならないのか。したがって、被告人が抗弁したような、PPG社が技術を他国の会社に許諾したから、関連技術資料は秘密性を有しない云々については、明らかに誤解があり、信用するに足りない。

 以上を総じ、本件における事実証拠は明確であり、被告人の犯行を認定するに足りるので、法により罪責を論じ、刑罰を課すべきである。

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