秘密保持契約で定めた守秘しなければならない機密資料は、必ずしも営業秘密法で定義された「営業秘密」と一致しなければならないとは限らないが、明確性、合理性、非一般周知性の特性を備えていることが必須であり、且つ第三者による知悉を防止するための秘密保持の措置を講じたものである。

2023-07-19 2022年

■ 判決分類:営業秘密

秘密保持契約で定めた守秘しなければならない機密資料は、必ずしも営業秘密法で定義された「営業秘密」と一致しなければならないとは限らないが、明確性、合理性、非一般周知性の特性を備えていることが必須であり、且つ第三者による知悉を防止するための秘密保持の措置を講じたものである。

■ ハイライト
原告(被控訴人)は下記の通り主張した。被告黄逸庭、陳昱成(控訴人)は以前それぞれ原告の設備テスティング事業処の副社長と中国設備テスティング処の本部長をしており、黄逸庭が所有していた公務用ノートパソコンの中の各部門の財務情報、給与・ボーナス明細表、設備の自動テスティング市場の製品設計図、設備応用側である主要顧客の製品設計図、各週重要事項報告、自動テスティング部門の月報情報、業務販売の売上予測表等の七種情報(それぞれ第一種情報から第七種情報と言い、併せて係争七種情報と称す)が秘密保持契約で約定された機密資料、機密情報、メッセージであると明らかに知悉していたにもかかわらず、黄逸庭は同意を得ることなく、無断で係争七種情報を同人所有のすべてのUSBメモリに複製し、係争秘密保持契約の約定に違反した。同人は離職後、被控訴人と競争関係のあるXcerra Corporation(以下、Xcerra社)に就職し、控訴人の元会社の社員をヘッドハンティングしたことで、被控訴人に人材流出及び営業利益の損失を与えるに至った。

知的財産裁判所第二審判決(110年度民営上字第5号判決)は次の通りである。

一、企業が契約を以て約定した保持しなければならない秘密は、契約自由の原則に基づくものであるので、必ずしも営業秘密法で定義された「営業秘密」と完全に一致しなければならないとは限らないが、明確性及び合理性を依然として備えている必要がある。その内容は少なくとも非一般周知性の特性を備え、且つ第三者による知悉を防止するための秘密保持の措置をすでに講じていることで始めて成立するのであり、いかなる情報であってもすべてが秘密保持の範囲内にあると拡大解釈してはならない。

二、被控訴人が第三者の閲覧に提供したことについて、他人による同情報の取得を防止するために、閲覧を提供した人と秘密保持契約を締結したことについて挙証していない場合、非一般周知性の特性があり、且つすでに第三者による知悉を防止するための秘密保持措置を講じたことを証明したことは認め難く、秘密保持契約で約定された秘密保持の範囲に該当しない。

三、発注予測、運営コスト、粗利益、成長率、出荷状況、遅延原因、売上予測、クライアント戦略の評価等は、公開決算報告書のような会社全体に関する統合情報とは違い、市場または専門分野において特定の方法により調査して取得できる情報ではない。また、給与・ボーナス明細表には、被控訴人の会社の各部門の社員給与、人事評価、賞与の配分、入社日、職務階級、職名等が含まれ、並びに社員についての記録項目があり、各々の社員の能力の優劣、各年度の社員業績及び当該社員に対する会社側の評価を知悉することができ、被控訴人の独占的な情報であり、市場または専門分野において特定の方法により調査して取得できる情報ではなく、たとえ営業秘密法で定義された「営業秘密」に該当しなくても、明確性、合理性及び非一般周知性の特性を備え、且つ被控訴人が第三者による知悉を防止するための秘密保持の措置を講じたものであるため、当然ながら秘密保持契約書で定めた守秘しなければならない「機密資料」に該当する。

II 判決内容の要約

【裁判番号】110年度民営上字第5号
【裁判期日】2022年07月29日
【裁判事由】営業秘密に関する損害賠償等(労働)

控訴人 黄逸庭
控訴人 陳昱成
被控訴人 蔚華科技股份有限公司

上記当事者間の営業秘密に関する損害賠償等(労働)事件について、控訴人が2021年3月12日新竹地方裁判所107年度智字第8号第一審判決に対して控訴を提起し、被控訴人が請求の縮減を申立てた。本裁判所は2022年7月7日に口頭弁論を終結して次の通り判決する。

主文
一、原判決(訴えの請求の減縮の部分を除く)において、百四十一万台湾ドル以上の元利の支払いを控訴人黄逸庭に命じた部分、及び控訴人陳昱成に支払いを命じた部分、及び各当該部分についての仮執行宣言並びに訴訟費用(請求の減縮の部分を除く)についての裁判をすべて破棄する。
二、上記破棄の部分について、第一審における被控訴人の訴え及び仮執行宣言の申立てをすべて棄却する。
三、控訴人黄逸庭の他の控訴を棄却する。
四、第一審、第二審の訴訟費用(請求の減縮の部分を除く)について、控訴人黄逸庭が控訴した部分に関しては、12%を控訴人黄逸庭が負担し、余分は被控訴人の負担とする。控訴人陳昱成が控訴した部分に関しては、被控訴人の負担とする。

一 事実要約
被控訴人による主張:黄逸庭、陳昱成(控訴人)は以前それぞれ原告の設備テスティング事業処の副社長と中国設備テスティング処の本部長をしており、黄逸庭が所有していた公務用ノートパソコンの中の各部門の財務情報、給与・ボーナス明細表、設備の自動テスティングに関する市場における製品設計図、設備応用側である主要顧客の製品設計図、毎週重要事項報告、自動テスティング部門の月報情報、業務販売の売上予測表等七種情報(それぞれ第一種情報から第七種情報と言い、併せて係争七種情報と称す)が、原証五の秘密保持契約、「雇用契約」(以下、原証八雇用契約書)、「秘密保持承諾書」(以下、原証八秘密保持承諾書、以上併せて係争秘密保持契約と称す)の機密資料、機密情報、メッセージであることを彼らは知悉していたのにもかかわらず、黄逸庭は同意を得ることなく、2016年7月27日午後3時前後に無断で係争七種情報を黄逸庭が所有していたUSBメモリに複製し、係争機密保持契約の約定に違反した。彼らは離職後、被控訴人と競争関係のあるXcerra Corporation(以下、Xcerra社)に就職し、控訴人の会社の社員をヘッドハンティングしたことで、被控訴人に人材流出及び営業利益の損失を与え、及び鑑定料、弁護士費用、訴訟費用の支出の損害を受けるに至った。したがって、先順位の請求として、黄逸庭の部分については、原証五秘密保持契約第1、5条の約定により1,159万1,712台湾ドルの支払いを、陳昱成の部分については、原証八雇用契約第5条、秘密保持承諾書第1、6条の約定により559万3,900台湾ドルの支払いを請求する。後順位の請求として、民法第544条(黄逸庭のみ)、第184条第1項の前段、後段、第2項、第185条の規定により、黄逸庭、陳昱成に連帯で1,800万台湾ドルを支払うよう請求する。

二 両方当事者の請求内容
(一)控訴人(被告)の請求:原判決の破棄。第一審における被控訴人の訴えの棄却。
(二)被控訴人(原告)の請求:控訴棄却。

三 本件の争点
(一)秘密保持契約に基づき黄逸庭に1,159万1,712台湾ドルの支払いを求めた被控訴人の請求には根拠があるか。根拠がある場合、金額はいくらか。
(二)雇用契約、秘密保持承諾書に基づき陳昱成に559万3,900台湾ドルの支払いを求めた被控訴人の請求には根拠があるか。根拠がある場合、金額はいくらか。

四 判決理由の要約
(一)企業が経営活動において、自身の営業秘密を保護するために、秘密保持契約を以て、営業秘密を取扱う可能性のある者に秘密保持の義務を負わせることは不可ではない。且つ約定された保持しなければならない秘密は、契約自由の原則に基づき、必ずしも営業秘密法で定義された「営業秘密」と完全に一致しなければならないとは限らないが、やはり明確性及び合理性を備えている必要がある。その内容は少なくとも非一般周知性の特性を備え、且つ第三者による知悉を防止するための秘密保持の措置をすでに講じたことで始めて成立するのであり、いかなる情報であってもすべてが秘密保持の範囲内にあると拡大解釈してはならない(最高裁判所104年度台上字第1654号判決趣旨参照)。

(二)原証五秘密保持契約第1条の規定:「甲の機密資料とは、乙が在職期間において知悉または保有している甲または甲の子会社、関連企業若しくは承継会社に関するすべての資料を指し、技術の研究・開発、製品の設計と製造、業務経営、会計財務、内部の運営管理及び人事、セールス、取扱販売及び代理店、顧客名簿、購買戦略その他業務と関連するすべての各種公式、模型、措置、プログラム、ドキュメント、企画、図表、戦略、計画等の資料を含むがこれらに限らない。」

(三)係争七種情報は原証五秘密保持契約第1条の機密資料であると被控訴人は主張した。調べたところ、第三種情報は自動テスティング設備市場の製品設計図、第四種情報は設備応用側である主要顧客の製品設計図、第七種情報は業務販売の売上予測表である。被控訴人は、Xcerra社は正規品の商品を生産している業者ではあるが、依然として蔚華公司の係争七種情報を取得する権限はない云々と述べた一方、被控訴人は第三、四、七種情報を第三者であるXcerra社の副社長DAVIDGRACEに閲覧させたことがあった。これは被控訴人の上記主張と合致しないのみならず、被控訴人は他人による情報の知悉を防止するために閲覧を提供した者と秘密保持契約を締結したことも証明していないので、被控訴人が第三、四、七種情報が非一般周知性の特性を備えていることをすでに証明した、且つ第三者による知悉を防止するための措置を講じていたとは認定し難く、第三、四、七種情報は原証五秘密保持契約第1条の秘密保持範囲に該当しない。

(四)第一種情報は2016年の各部門の財務情報、第五種情報は各週重要事項報告(原裁判第二巻第248-257ページを参照)、第六種情報は自動テスティング部門から毎月会長・社長及び上級管理職への報告資料(原裁判第二巻第258-282ページを参照)であり、その内容は発注予測、運営コスト、粗利益、成長率、出荷状況、遅延の原因、売上予測、クライアント戦略の評価等を含み、被控訴人の公開決算報告書のような会社全体に関する統合情報とは違い、市場または専門分野において特定の方法により調査して取得できる情報ではない。第二種情報は給与・ボーナス明細表であり、その内容は被控訴人の会社の各部門の社員給与、人事評価、賞与の配分、入社日、職務階級、職名等を含み、またそれには「年度をまたぐ給与表」、「提案月給」、「提案金額」、「管理職の調整」、「James調整」等の項目があるため、各々の社員の能力の優劣、各年度の社員業績及び当該社員に対する会社側の評価を知悉することができる。それは被控訴人の独占的な情報であり、市場または専門分野において特定の方法により調査して取得できる情報ではない。したがって、前記第一、二、五、六種情報が非一般周知性を備えていると認定することができ、且つ陳昱成も刑事事件において、蔚華公司の社員給与及び人事資料、顧客名簿、販売戦略、製品の価格及びコスト等の資料は守秘しなければならない重要な資料である云々と供述しており、また、黄逸庭も被控訴人の会社の副社長として、当該資料は守秘しなければならない情報であることを陳昱成より更に知悉していたはずであるため、前記第一、二、五、六種情報は明確性及び合理性を備えているものである。

(五)このほか、第一、六種情報はプレゼンテーション用ファイルであり、その上に「SpiroxConfidential」文字が印刷されていた。証人林庭芬は刑事事件の取調べにおいて、「会社による指示については、社員雇用契約及び情報に関する秘密保持契約はともに守秘の規定があった。会議については、会議の秘密保持に関する規定があり、会議通知の際、会議の秘密保持に関する情報が会議資料に入っていて、且つ会議の司会者も一回口頭で呼びかけていた。通常の会社経営管理には管理権限表があり、機密資料を見る権限を階層化して管理し、このほか、会社のサーバは異なる部門に異なる権限が設定され、自己専用のアカウント番号とパスワードを入力すると、自己の権限により入ってそれを見ることができた」云々と証言した。また、裁判所による刑事事件の審理の際、林庭芬は「蔚華公司は社員が入社した際、秘密保持契約書への署名、且つ離職時における会社資料の返還を求める。蔚華公司は社員に公務用パソコンを支給し、通常は社員のパソコンの中にどのような資料があるかを確認しない。黄逸庭は蔚華公司から支給されたノートパソコンを持っており、パソコンの起動にパスワードが必要であり、黄逸庭は部門長クラスの幹部なので、更に給与・ボーナス明細表のファイルのパスワードを保有していた。陳昱成は部門長クラスの幹部ではないので、ファイルを開くことができない」云々とも証言した。それに加えて、陳昱成が刑事事件において、自分の部門のコスト、見積、人事資料を知っていただけであり、会社の上層部はその部門と関係のないことについては、同人に知らせない云々と供述したことを参照すると、以上を総じて、前記情報には一定の閉鎖性があり、被控訴人が第三者による知悉を防止するための秘密保持の措置も講じていたことが分かる。黄逸庭が署名した原証五秘密保持契約第1条において、被控訴人が指示していない用途に機密資料を複製・保存してはならないとすでに約定されたにもかかわらず、黄逸庭は故意に当該約定に違反したので、これを以て、被控訴人が第三者による知悉を防止するための秘密保持の措置を講じなかったと主張してはならない。

(六)よって、たとえ第一、二、五、六種情報は営業秘密法で定義された「営業秘密」に該当しなくても、原証五秘密保持契約第1条で示す「内部の運営管理及び人事」資料に該当し、且つ明確性、合理性及び非一般周知性の特性を備えており、被控訴人もすでに第三者による知悉を防止するための秘密保持の措置を講じていたので、以上の説明によれば、上記情報は当然ながら原証五秘密保持契約第1条で定めた守秘しなければならない「機密資料」に該当する。

(七)黄逸庭の部分について、被控訴人が先順位の請求において原証五秘密保持契約第5条の約定により、黄逸庭に141万台湾ドル、及び訴状謄本が送達された翌日、即ち2018年7月28日より弁済日まで、年利5%で計算した利息の支払いを請求したことは、確かに根拠があり、許可すべきである。この部分を超えた請求については、理由がないものとする。

(八)陳昱成の部分について、陳昱成は黄逸庭の複製行為について共同実行または意思連絡はなく、被控訴人が先順位の請求において原証八雇用契約第5条、秘密保持承諾書第1、6条により、陳昱成に元利合計559万3,900台湾ドルの支払いを請求したこと、後順位の請求において民法第184条第1項の前段と後段、第2項、第185条の規定により、黄逸庭と連帯して陳昱成に対して元利合計1,800万台湾ドルを支払わなければならないと請求したことについては、すべて理由がないものとする。

2022年7月29日知的財産第一法廷
裁判長裁判官 李維心
裁判官 陳端宜
裁判官 蔡如琪

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