海外特許の無効または実質的に制限及びその実施許諾契約効力の判断

2016-06-27 2015年
■ 判決分類:特許権

I 海外特許の無効または実質的に制限及びその実施許諾契約効力の判断

II 判決内容の要約

【裁判番号】103年度民專訴字第10号
【裁判期日】2015年4月15日
【裁判事由】特許権ライセンス料

原告 宏正自動科技股份有限公司(ATEN International Co., Ltd.)
被告 佑霖科技股份有限公司(Uniclass Technology Co., Ltd.)

上記当事者間における特許権ライセンス料事件について、本裁判所は2015年3月16日に口頭弁論を終え、次のとおり判決する。 

主文
被告は付表に例示されるUSB-SP02、USB-SP02A、USB-SP04、USB-SP04A、UDV-CP02A等の実施許諾製品について2009年5月20日から2014年5月19日までの間の被告の販売数量、販売価格、実施許諾製品の売上総額に関する完全かつ詳細な記録(前記の例示された実施許諾製品が米国内で販売された領収書、輸出申告書、OEM/ODM契約の納品書、領収書を含むがそれに限らない)を提出し原告の点検に供すべきである。
被告は原告に858万5095新台湾ドル及び付表一、付表二にそれぞれ示される起算日から支払い完了日まで年5分の割合による金員を支払え。
原告のその他の請求を棄却する。
訴訟費用は十分の九を被告の負担、その余を原告の負担とする。
本判決第2項について原告が285万新台湾ドルを担保として供託した後に仮執行を行うことができる。ただし、被告が858万5095新台湾ドルを担保として原告に供託したときは、仮免除を免脱できる。
原告のその他の仮執行宣言の申立てを却下する。

一 両方当事者の請求内容
原告の請求:
1.被告は付表に例示されるUSB-SP02、USB-SP02A、USB-SP04、USB-SP04A、UDV-CP02A等の実施許諾製品について2009年5月20日から2014年5月19日までの間の被告の販売数量、販売価格、実施許諾製品の売上総額に関する完全かつ詳細な記録を提出し原告の点検に供すべきである。前記記録は例示された実施許諾製品が米国内で販売された領収書、輸出申告書、OEM/ODM契約の納品書、領収書を含むがそれに限らない。
2.被告は原告に871万8781新台湾ドル及び付表一、付表二にそれぞれ示される起算日から支払い完了日まで年5分の割合による金員を支払え。
3.訴訟費用は被告の負担とする。
4.第2項の請求について原告は担保を現金で供託するので、仮執行宣言を申し立てる。

被告の答弁:
1.原告の請求を棄却する。
2.訴訟費用は原告の負担とする。
3.不利な判決を受けたとき、被告は担保を供託するので、仮執行免脱宣言を申し立てる。

二 本件の争点
(一)係争米国特許3件はすでに「全部」の無効を宣言されているのか、又は無効事由があるのか。
(二)係争契約第4条にある「すべての実施許諾特許請求項が実質的に範囲を制限される又は無効を宣言される状況において」の中の「実質的に範囲を制限される」とは何を意味するのか。係争米国特許3件には「全部」が実質的に範囲を制限される状況があるのか。
(三)係争契約には、民法第246条の「給付不可能なものを契約の対象としている」という契約無効の原因があるのか。
(四)被告は民法第226条、第256条により係争契約を解除できるのか。
(五)被告が民法第227条の2により支払いの免除又は減額を請求できるのか。
(六) 原告が係争契約第3.3条により被告に対して、添付資料(付表)に例示されるUSB-SP02、USB-SP02A、USB-SP04、USB-SP04A、UDV-CP02A等の実施許諾製品について2009年5月20日から2014年5月19日までの間の被告の販売数量、販売価格、実施許諾製品の売上総額に関する完全かつ詳細な記録を提出し原告の点検に供することを請求し、前記記録は例示された実施許諾製品が米国内で販売された領収書、輸出申告書、OEM/ODM契約の納品書、領収書を含むがそれに限らないと主張していることに理由はあるのか。
(七)原告が係争契約第3.1条、第3.4条により被告に対して「871万8781」新台湾ドル及び法定金利の支払いを請求することに理由はあるのか。
(八)被告は原告に対して不当得利の法律関係により原告に580万新台湾ドルの返還を請求し、これを以って相殺するよう主張することはできるのか。「580万新台湾ドル」はライセンス料又は以前双方の損害賠償約定額であるのか。
(九)係争米国特許の有効性はわが国裁判所において認められるのか。わが国の「渉外民事法律適用法(Act Governing the Choice of Law in Civil Matters Involving Foreign Elements)」の第42条「知的財産を対象とする権利は、その権利が保護される場所の法律による」という規定は、どのように適用すべきか。

(一)原告の主張理由:省略。判決理由の説明を参照。
(二)被告の答弁理由:省略。判決理由の説明を参照。

三 判決理由の要約

壱.手続方面
本件双方は2009年特許技術実施許諾契約書に調印し、係争契約において解決しようとする紛争、一方の履行又は不履行に係る問題について台湾の裁判所を管轄裁判所とし、かつ中華民国の法令を準拠法とすることに合意している。前記渉外民事法律適用法第20条第1項の規定により、双方の係争契約の法律行為によって発生した債権・債務の成立及び効力は、当事者の意思に基づきわが国の法律がその準拠法となる。
前記係争特許3件が米国特許であることは双方が争うものではなく、特許権は法律の規定により発生する権利であり、各国の領域内で保護を受け、原則的には各国の法律に準拠すべきである。前記説明により、前記係争特許の取得・消失・変更は米国の法律によって判断されるべきであり、それが妥当である。
本件原告は、係争契約によりライセンス料の支払いを請求するもので、米国裁判所で起訴された事件は権利侵害行為による損害賠償を請求するものであり、訴訟の対象が一方は契約請求権、もう一方は権利侵害行為による損害賠償請求権であるため、両者の訴訟対象は異なり、同一事件ではなく、民事訴訟法第182条の2第1項に定められる「同一事件について更に訴えたとき」という要件を満たさず、この条項により訴訟手続きの中止を決定することはできない。
本件原告は係争契約によりライセンス料支払いを請求し、上記米国訴訟事件では係争契約を解約した後に権利侵害行為による損害賠償を請求するもので、両者の訴訟対象は異なり、米国訴訟事件の権利侵害行為の法律関係が成立するか否かは、当然ながら本件訴訟の先決問題になるというものではない。

弐.実体方面
(一)係争契約第4条の文意
係争契約第4条には「すべての実施を許諾された特許請求項が実質的に範囲を制限される又は無効を宣告されるという状況において、佑霖公司は本契約のすべての義務を免除される権利がある。このような状況において、いなかる一方も本契約書においてすでに支払った又は支払うべき費用について返還又は取得を主張してもよい」と約定されている。上記約定の文意は、係争特許3件の請求項すべてが実質的に範囲を制限される又は無効を宣告されるという状況において始めて、被告は本契約のすべての義務を免除される権利がある。上記約定により被告がすべての義務を免除される条件は「すべての実施を許諾された特許請求項が実質的に範囲を制限される又は無効を宣告される」ことであり、さらに分析するとその要件は1.すべての実施を許諾された特許請求項が実質的に範囲を制限される、又は2.すべての実施を許諾された特許請求項が無効を宣告されることであり、それによって始めて該当する。係争特許が「実質的に範囲を制限される」とは、係争特許が無効を宣告されることではなく、さもなければ「すべての実施を許諾された特許請求項が無効を宣告される」とのみ約定すればよく、「実質的に範囲を制限される」は不要なはずである。よって双方の係争契約第4条でいう「実質的に範囲を制限される」とは係争特許が無効ではないが、その特許権が法律又はその他の要因により行使できない、又は一部の請求項についてのみ権利を行使でき、特許権が実質的に範囲を制限されることを指す。

(二)本件はすべての実施を許諾された特許請求項が実質的に範囲を制限される又は無効を宣告されるという状況がみられず、係争275特許(即ち米国第6,564,275号特許)は請求項5、7が取り消されず、すべてが無効を宣告されていない。係争287特許(即ち米国第6,957,287号特許)は米国特許であり、米国特許商標庁から無効を宣言されておらず、たとえ被告はその「パテントファミリー」がわが国において特許請求の範囲を訂正しているとする主張が事実であっても、なお係争287特許が無効を宣告されたとは認めがたい。係争287特許又は係争112特許(即ち米国第7,035,112号特許)はいずれも米国特許であり、無効を宣告されていない。
以上をまとめると、係争275特許、287特許、112特許には、すべての実施を許諾された特許請求項が実質的に範囲を制限される又は無効を宣告されるという状況は存在せず、被告に係争契約のすべての義務を免除される権利はない。

(三)本件係争契約には最初から支払い不能の状況がない
係争契約には「すべて」の実施を許諾された特許請求項が実質的に範囲を制限される又は無効を宣告されるという状況がみられず、本件係争契約は最初から(ab initio)支払いできない契約の対象であるとする被告の主張は採用できない。

(四)被告は民法第226条、第256条により契約を解除してはならない
調べたところ、係争275特許の請求項5、7及び及係争287特許、112特許は、係争契約締結後に有効である。係争契約第1条に定める「実施許諾製品」には、被告が自ら使用する又は顧客ブランドで販売される製品、及び被告が自ら使用する又は顧客ブランドで販売される少なくとも1項目の実施許諾された請求項を侵害するいかなる製品が含まれるがこれらに限らず、つまり被告が前記係争275特許、287特許、112特許における請求項のいずれかを使用している実施許諾製品は、いずれも係争契約が実施を許諾する範囲に含まれる。これによって、被告が係争契約の実施許諾を経ずに、上記係争275特許、287特許、112特許におけるいずれか一請求項を実施許諾製品に使用すれば権利侵害に該当する。よって原告の係争275特許の請求項5、7及び係争287特許、112特許は、係争契約締結後になお有効であり、かつ被告はその製品に係争275特許の請求項5、7及び係争287特許、112特許を使用していないとは抗弁しておらず、原告によるこの部分の特許の実施許諾は被告にとって、いわゆる「支払いが一部不能であり、その他の部分の履行が債権者にとって利益がない」という状況はない。被告が民法第226条、第256条により契約を解除することは根拠があるものではない。

(五)被告の係争契約による支払義務
1.実施許諾製品の販売数量、販売価格、売上総額の記録を提供する部分について:
約定により、被告は実施許諾期間における実施許諾製品の販売数量、販売価格、実施許諾製品の売上総額に関する完全で詳細な記録を保留しなければならず、原告は年に一度被告の上記記録を点検することができる。
被告は契約による履行義務を履行しておらず、原告は被告に対して付表に例示されるUSB-SP02、USB-SP02A、USB-SP04、USB-SP04A、UDV-CP02A等の実施許諾製品について2009年5月20日から2014年5月19日までの間の販売数量、販売価格、実施許諾製品の売上総額に関する完全かつ詳細な記録(例示された実施許諾製品が米国内で販売された領収書、輸出申告書、OEM/ODM契約の納品書、領収書を含むがそれに限らない)を原告の点検に供することを請求していることには理由があり、許可すべきである。

2.USB-SP02A、USB-SP04A、UDV-CP02A実施許諾製品のライセンス料に係る部分について:
係争契約が約定に基づき、被告は係争契約の発効日から実施許諾期間において、毎四半期の終了後45日以内に、実施許諾製品の四半期販売数量から契約で約定されたレートで算出したライセンス料を原告に支払う義務がある。調べたところ、双方が契約した実施許諾期間は2009年5月20日から2015年5月19日までであり、その後原告が2014年5月20日に係争契約を解約し、かつ係争契約の付記条項第2条でライセンス料は2009年5月12日から起算されると約定されており、つまり原告の請求するライセンス料の期間は2009年5月12日から2014年5月19日までであり、法規に符合しないところはない。またライセンス料のレートは係争契約第3.1条に実施許諾製品の実際の販売額の7.5%と約定されていたが、その後付記条項第2条について双方は2009年5月12日から2011年5月11日までの間のレートを6%とすることに同意しており、原告が2009年5月12日から2011年5月11日までについて実施許諾製品の販売額の6%で算出したライセンス料、2011年5月12日から2014年5月19日までについては実施許諾製品の販売額の7.5%で算出したライセンス料を支払うよう被告に請求することには理由がある。

(六)被告が民法第227条の2により支払いの免除又は減額を請求できるかについての部分:
双方が係争契約を定めるとき、被告は契約履行中に係争特許3件に実質的に範囲を制限される又は無効を宣告されるという状況の可能性を予測できており、自らリスクを評価して、契約を締結するか、さらにはその支払い内容を考慮することができたはずである。その契約が成立した後になって、予測していた状況が実際に発生したからといって、状況の変更を主張し、民法第227条の2により支払額の減免を請求することは法規に符合しているとは言いがたく、棄却すべきである。

(七)被告が580万新台湾ドルで相殺することを請求する部分:
係争契約で約定される「賠償総額」、「ランニングロイヤルティ補償」の580万新台湾ドルはライセンス料であり、被告は相殺を請求できると主張している。係争契約とその付記条項の内容全体からみて、580万新台湾ドルはライセンス料ではない。係争契約第2条には「賠償総額」が約定され、この条文によって「賠償額」が明確に記載されており、さらに前記係争契約の序文には原告は被告の係争特許3件の侵害に対して提訴する可能性があると記載されており、この「賠償額」は双方の係争特許3件に関する紛争によるものであり、被告が「賠償額」を「ライセンス料」と誤認する余地は断じて無い。
つまり係争契約第2条の580万新台湾ドルがライセンス料であり付表一の2009年5月12日から2011年5月11日までの間のライセンス料と相殺するとする被告の主張は、採用できない。

以上をまとめると、原告が被告に対して(一)被告は添付資料(付表)に例示されるUSB-SP02、USB-SP02A、USB-SP04、USB-SP04A、UDV-CP02A等の実施許諾製品について2009年5月20日から2014年5月19日までの間の被告の米国における販売数量、販売価格、実施許諾製品の売上総額に関する完全かつ詳細な記録(前記の例示された実施許諾製品が米国内で販売された領収書、輸出申告書、OEM/ODM契約の納品書、領収書を含むがそれに限らない)を提出し原告の点検に供するべきである、(二)被告は原告に858万5095新台湾ドル及び付表一、付表二にそれぞれ示される起算日から支払い完了日まで年5分の割合による金員を支払うよう請求することには理由があり、許可すべきである。この範囲を超える請求については理由がなく、棄却すべきである。

以上の次第で、本件原告の請求には一部に理由があり、一部に理由がないため、智慧財産案件審理法(知的財産案件審理法)第1条、民事訴訟法第79条に基づき主文のとおり判決する。

2015年4月15日
知的財産裁判所第三法廷
裁判官 杜惠錦

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