日盛證券が日盛投信を商標権侵害で提訴、知的財産裁判所は社名変更不要と判決

2016-08-16 2015年
■ 判決分類:商標権

I 日盛證券が日盛投信を商標権侵害で提訴、知的財産裁判所は社名変更不要と判決

II 判決内容の要約

知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】103年度民商訴字第45号
【裁判期日】2015年8月7日
【裁判事由】商標権侵害行為排除

原告 日盛證券股份有限公司(Jihsun securities Co.,LTD.)
被告 日盛證券投資信託股份有限公司

上記当事者間における商標権侵害排除事件について、本裁判所は2015年7月6日に口頭弁論を終え、次のとおり判決する。

主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

一 事実要約
原告は1961年12月8日に設立を登記され、すでに50年余の歴史がある。営業項目は証券会社、先物取引会社、イントロデューシング・ブローカー及び信託会社である。原告が1987年から次々と出願、取得した登録第29775、36936、101987、103957号等「日盛」商標はファイルに記録されており、20年余にわたり幅広く長期に使用してきたため、業界及び関連の消費者にとって普遍的に認知され、原告企業のトレードドレス及びマークとなっており、きわめて強い識別力を有することは言うに及ばない。
被告は1996年12月26日に会社の設立登記を行った時点で、原告の同意を得ずに、原告がすでに登録していた著名商標「日盛」の二文字を社名の主要部分とし、証券投資信託業、証券投資コンサルティング業(原告証拠13)を経営し、さらに被告が経営する業務も証券の投資信託と投資コンサルティングで、原告が経営する事業(原告証拠1)も証券、信託等の業務であるため、被告が「日盛」をその会社名の主要部分に使用すると、関連する消費者に誤認混同を容易に生じさせ、被告が原告の関連企業である、又は被告が原告の親会社である日盛金控のメンバーであると誤解させる、又は被告と原告又は原告の親会社である日盛金控メンバーとの間に何らかの関係があると誤解させてしまう。
原告は、原告会社と被告会社とは過去に商売上の提携があったが、原告が被告会社の設立登記時に「日盛」の二文字を被告会社名の主要部分とすることを許諾又は同意したものではなく、さらに「会社間に提携関係があるが商標の使用を許諾していないこと」はビジネスにおいて極めてよく見られるビジネス提携形態であり、原告が双方の提携関係において被告社名に係争商標を使用していることを知悉しているからといって、自ら積極的に反対を表明しない或いは単に沈黙を保つだけで、インターネット使い放題の推論で原告がすでに許諾又は同意しているとどうして言えようか、と主張している。
原告は被告が「日盛」二文字を社名の主要部分に使用することで、消費者に誤認混同を生じさせ、係争商標の識別力を毀損(希釈化)し、原告の信用・名声を毀損していると主張し、商標法第69条第1項、第70条第1項第2号の規定により、被告の商標権侵害行為排除を請求した。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告の請求:被告は「日盛」と同一又は類似する文字をその会社名(商号)の主要部分に使用してはならず、「日盛」と同一又は類似する文字を含まない名称に変更登記の手続きを行うべきである。訴訟費用は被告の負担とする。
(二)被告の答弁:原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。

三 本件の争点
(一)原告は被告が「日盛」を会社名に使用することに同意したのか。
(二)本件は被告設立登記当時の商標法と現行商標法のいずれを依拠とすべきか。依拠となる条項は何か。
1.係争商標は被告設立登記当時に著名商標だったか
2.原告の侵害排除請求権は時効が成立するのか
(三)被告が「日盛」を会社名の主要部分に使用することで誤認混同をもたらし、係争商標の識別力を毀損(希釈化)する、又は原告の商品と混同する、又は営業又は役務の施設又は活動を混同するのか。原告の信用・名声にただ乗りしているか。
(四)被告が「日盛」を会社名の主要部分に使用することは善意の使用なのか。
(五)原告による本件起訴は民法第148條第2項規定により信義誠実の原則に反するのか。

四 判決理由の要約
(一)原告は被告が「日盛」を会社名に使用することに同意したのか。
原告は2008年及び2007年12月31日の財務報告書の財務諸表の付注(続)(注1)に「当社(即ち原告)は子会社である日盛證券投資信託(股)公司(即ち被告)の業務発展を強化するため、2008年3月にそれに対する投資を追加し、持ち株比率を20%として、それを当社が持分法で計上する長期株式投資とする」と記載している。前記財務諸表はファイルされ、参照できる(本裁判所ファイル(四)117頁)。原告は前記財務諸表で被告を子会社と記述している。さらに原告の歴代の董事長(訳注:代表取締役に相当)である○○○、○○○も原告の董事長在任期間に、被告が「日盛」をその会社名の主要部分に使用し、関連の宣伝又は広告の文面に添付図1の商標を使用すること…にいずれも同意すると声明しており、声明書はファイルされ、調べることができ(本裁判所ファイル(四)48頁、49頁)、これからも2007年原告の財務諸表では子会社即ち被告との業務発展を強化していたことがわかり、確かに原告の前董事長○○○、○○○が被告に「日盛」の使用をいずれも同意していたことに他ならない。
さらに、原告の財務諸表が被告を子会社として記載し、原告の歴代董事長○○○、○○○もそれらの在任期間に被告に「日盛」の会社名を使用することに同意していたことから、被告が「日盛」を会社名に使用していたことに対して原告は単なる沈黙をしていたのではなく、被告が「日盛」を会社名に使用していることを明らかに知り、積極的に被告の設立に協力し、さらには被告の業務の販売に参加していたことは明らかであり、たとえ原告が被告に「日盛」を会社名として使用することに同意したことを証明できなくても、双方による上記の特定な状況があり、長期的な業務の協力、取引があったため、原告はすでに被告に対して「日盛」を会社名に使用することに黙示による同意を行ったと認めることができ、道理に符合する。よってその後原告と被告との関係に変化が生じて、原告が以前の黙示による同意を否認したものである。

(二)商標法の適用に係る争議
1.原告添付図1、2の商標は著名商標である
著名商標は商標が表す識別力及び信用・名声が関連の事業者又は消費者に普遍的に熟知されるものをいい、著名商標の認定は個別の状況について、以下の要素を考慮する:(1)商標の識別力の強弱、(2)関連の事業者又は消費者が商標を知悉又は認識する程度、(3)商標使用の期間、範囲及び地域、(4)商標宣伝の期間、範囲及び地域、(5)商標の出願又は登録の有無及び登録、登録出願の期間、範囲及び地域、(6)商標の権利執行に成功した記録、特に過去に行政又は司法機関に著名であると認定された状況、(7)商標の価値、(8)その他著名商標と認定するに足る要素。著名の判断は著名の程度に達しているかであり、国内の関連の事業者又は消費者の判断による。その関連の事業者又は消費者の範囲には、(1)商標又は商標を使用する商品又は役務の実質的又は潜在的な消費者、(2)商標又は標章を使用する商品又は役務の流通経路関係者、(3)商標又は標章を使用する商品又は役務を経営する関連の事業者が含まれる。調べたところ、原告は1988年5月16日及び1989年7月1日に添付図1、2の商標(原役務標章)を登録しており、知的財産局の商標資料検索結果がファイルされ、参考することができる。添付図1、2の商標(原役務標章)はいずれも原告の会社名「日盛」に由来するもので、特殊な設計により、既存の語彙ではなく、相当な識別力を有する。
台湾証券取引所が発行した証券取引資料によると、日盛證券は1995年及び1996年に証券会社の取引額番付で2位を占めており、405期証券取引所資料がファイルされ参照でき、これにより原告が添付図1、2の係争商標登記時にはすでに相当の市場における地位を有していることがわかる。原告は添付図1、2の商標を登録した後、營業に係る申請書、許諾書、同意書、通知書、委託書等の文書に使用しており、台湾股票博物館(Taiwan Stock Museum)には原告の添付図1商標が標示された宣伝用風船の写真が展示されており参照できる。これは原告の市場における優位な地位によってその営業に係る文書、広告に添付図1、2の商標が使われてきたもので、1996年末に被告が設立された時点には10年近くに使用されており、すでに関連の事業者又は消費者に熟知され、著名商標であったと認定できる。

2.被告は「日盛」を会社名に使用できるのか。
(1)被告が設立登記を行った当時、1993年商標法には現行商標法第70条第2号にあるような「他人の著名な登録商標であることを明らかに知りながら、当該著名商標にある文字を、自らの会社…又はその他営業主体を表す名称として、関連の消費者に誤認混同を生じさせるおそれがある、又は当該商標の識別力又は信用・名声を毀損するおそれがあるとき、商標権を侵害するものと『みなす』」とする規定に類するものは無かった。さらに1993年商標法第77条の規定により役務標章(サービスマーク)にも同法第65条の刑罰規定が適用されることは、前述の通りである。前記刑罰構成要件において、民事権利侵害行為が構成されるのか、その要件には商標に識別力又は信用・名声を毀損する、又は関連の消費者に誤認混同を生じさせるという具体的な結果又は危険な結果等の要件を加える必要があるのかについては、法律で明確に規定されていない。準用の結果、前記刑罰構成要件の行為に該当したとしても、民事権利侵害行為を構成するかどうかには疑いの余地がないとはいえず、1993年商標法では他人の著名商標における文字を自らの会社名の主要部分に使用することを商標(専用)権の侵害とみなすとは明確に規定されていない。

(2) 被告が設立登記を行った後、2003年商標法第62条に「商標権者の同意を得ず、次に掲げる事情の一がある場合、商標権を侵害するものとみなす。 一.他人の著名な登録商標であることを明らかに知りながら、同一又は類似の商標を使用する、又は当該著名商標にある文字を、自らの会社名、商号名、ドメインネーム又はその他営業主体又は出所を表す標識として著名商標の識別力又は信用・名声を毀損するおそれがあるとき。 二.他人の登録商標であることを明らかに知りながら、当該商標にある文字を、自らの会社名、商号名、ドメインネーム又はその他営業主体又は出所を表す標識として、商品又は役務に関連する消費者に誤認混同を生じさせるおそれがあるとき。」と規定されている。1993年商標法第65条の悪意を以って他人の登録商標にある文字を自らの会社名の主要部分として使用して同一の商品又は類似の商品の業務を経営したときの刑罰規定は削除された。該第62条の立法趣旨には「近年、著名商標にある文字を、自らの会社名、商号名、ドメインネーム又はその他営業主体又は出所を表す標識として、それにより生じる商標権侵害の係争が増えつつあり、明確にするため、商標権侵害とみなす態様を規定する必要性がある。また、擬制の方法で『侵害』態様を規定し、その構成要件は特に厳格にする必要があり、『毀損』又は『誤認混同』の結果が発生することにより始めて該当する。……(a)第1号は著名な登録商標を対象とし、他人の著名な登録商標であることを明らかに知りながら、同一又は類似の商標を使用する、又は当該著名商標にある文字を、自らの会社名、商号名、ドメインネーム又はその他営業主体又は出所を表す標識として当該著名商標の識別力又は信用・名声を毀損するおそれがあるものを商標権侵害と見なすと定め、著名な登録商標を保護するとともに、近年他人の著名商標を冒認出願してドメインネームとする新たな問題に対して明確に規定するものである。(b)第2号は登録商標を対象として、他人の登録商標であることを明らかに知りながら、当該商標にある文字を使用して、関連の購入者に誤認混同を生じさせるおそれがあるとき、始めて商標権侵害と見なす」と説明しており、2003年商標法で始めて商標における文字を自らの会社名とするものを商標権侵害と「見なす」と明確に限定したことがわかる。

(3)法律に特別規定がある場合を除き、「程序從新實體從舊」(訳注:手続き規定は新しいものを適用、法令は古いもの(行為当時施行)を適用)を法適用の原則とし、私法権利義務の発生とその内容は原則的に行為の時点又は事実が発生した時点の法律規定を適用すべきであり、最高裁判所98年度台上字71第997号、102年度台上字第1986号民事判決を参照できる。
上述の通り、被告が1996年12月26日に設立登記された時点で、1993年商標法では他人の登録商標における文字を自らの会社名の一部に使用することが民事権利侵害行為を構成するかどうかについて、要件が明確に規定されておらず、2003年商標法改正で初めて他人の登録商標であることを明らかに知りながら、当該商標にある文字を、自らの会社名として、商品又は役務に関連する消費者に誤認混同を生じさせるおそれがあるとき、商標権侵害と「見なされ」、現行商標法に到るまで商標権侵害と見なされており、法規定は徐々に整備されていった。立法の沿革により、被告が設立登記を行った時点で1993年商標法では他人の登録商標を会社名の主要部分とする権利侵害行為態様に対する要件規定は不明であり、拠り所が無かった。その後幾度かにわたり改正され、商標権侵害と「見なす」構成要件が徐々に確定されたため、被告が設立登記を行った時点で1993年商標法に違反していたと判断し難い。たとえその後商標法の関連規定が改正されたとしても、遡及適用する特別規定がなければ、「法律不遡及」原則及び「實體法從舊」原則(訳注:両原則とも日本の「法の不遡及原則」に相当)に基づき、原告はその後に改正施行された商標法の規定に基づいて被告に侵害排除を請求してはならない。況してや原告が現行商標法第70条第2号の規定を引用して侵害排除云々を主張するならば、企業経営者が会社名を登記した後、法律規定要件が寛厳に係わる改正により、又は原告の起訴請求の時点の違いによりその結果が異なってしまい、公平ではない。

(4)会社名と商標(専用)権の機能からみて:
被告は1996年12月26日に原告「日盛」商標の名称を自らの会社名の主要部分として使用し、原告が黙示による同意を行ったことは前述のとおりである。即ち、1993年商標法の「悪意」を以って使用する主観的構成要件には該当しない。さらに被告が経営する証券投資信託業、証券投資コンサルティング業と、原告添付図1、2の係争商標が使用を指定する株式売買業務の役務とを比較すると、両者とも類似する証券サービス業であり、被告が係争商標の図案である「日盛」を会社名とすることを原告が黙示による同意を行ったことから、原告には当初、役務の出所を表す被告会社名と役務の出所を表す添付図1、2の係争商標との両者の機能を区別する意向はなかったことが明らかであり、被告が「日盛」を会社名とすることは制限されるものではない。

(5)被告が添付図1、2の係争商標図案における「日盛」を会社名を使用することに対して原告が黙示による同意を行い、さらに被告設立当時の1993年商標法では、他人の商標図案にある文字を会社名に使用することを権利侵害行為とみなすとは明確に規定されていなかったため、被告が「日盛」を会社名に使用することは違法ではない。

(6)以上をまとめると、被告が「日盛」を会社名として使用することは違法ではなく、原告が、1993年商標法第65条又は現行商標法第70条第2号の規定により、被告は「日盛」と同一又は類似する文字をその会社名(商号)の主要部分に使用してはならず、「日盛」と同一又は類似する文字を含まない名称に変更登記の手続きを行うべきであると請求することには理由がなく、棄却すべきである。本件事実証拠は明確であり、双方のその他の攻撃防御方法及び援用されていない証拠は、本裁判所が斟酌した後に判決の結果に影響をもたらさないと判断し、逐一論述しないことをここに併せて説明する。

2015年8月7日
知的財産裁判所第三法廷
裁判官 杜惠錦
2015年8月10日
書記官 鄭郁萱

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