「二つの中船」事件、中船(台船の前身)の元董事が商標の盗用で敗訴確定

2017-06-28 2016年
■ 判決分類:商標権

I 「二つの中船」事件、中船(台船の前身)の元董事が商標の盗用で敗訴確定

■ ハイライト
中國造船股份有限公司(China Ship Building Corporation, CSBC)が会社名を台灣國際造船股份有限公司(CSBC Corporation, Taiwan、以下「台船公司」)に変更した後、同社の前董事(取締役)であり、開隆航業公司(以下「開隆公司」)の経営者であった許○堅が会社名変更に反対していた。(許○堅は株主総会の決議取消を請求する裁判を起こしたが、敗訴が確定したため)元来政府が所有していた「中船」商標を「引き継いで」、自ら「中國造船股份有限公司」を設立した。これに対して台船公司は告訴を提起していたが、最高裁判所は知的財産裁判所の見解を維持し、許○堅による「中船」商標の使用は一般大衆に誤認と混同を容易にもたらすと認め、許○堅に敗訴を言い渡し判決が確定した。許○堅は連続3日間にわたり判決書(主要部分)を新聞に掲載しなければならない。

II 判決内容の要約

最高裁判所民事判決
【裁判番号】105年度台上字第997号
【裁判期日】2016年6月15日
【裁判事由】商標権侵害行為の排除請求等

上告人 中國造船股份有限公司
兼法定代理人 許○堅
被上告人 台灣國際造船股份有限公司

上記当事者間における商標権侵害行為の排除請求等事件について、上告人は2015年2月26日知的財産裁判所第二審判決(103年度民商上字第二号)に対して上告を提起した。当裁判所は次のように決定する。

主文
上告を棄却する。
第三審の訴訟費用は上告人が連帯で負担する。

理由
 本件上告人は原判決に対して上告した。該判決の法令違反を理由としているが、審理したところ、その上告理由書の記載内容は原審の証拠の取捨、事実認定における職権行使を論断したものであり、また原審が論断したものにつき理由なしで違法であると主張しており、当該判決が違反した法令及びその具体的な内容、並びに訴訟資料に示される当該法令違反に符合した具体的事実が明らかに示されておらず、さらに法の継続形成の従事、裁判の一貫性の確保、又はその他の関連する法律見解が原則上重要性を有する理由も具体的に記載されていないため、上告理由が適法に付されているとは認めがたい。
以上の次第で、本件上告は不適法である。民事訴訟法第481条、第444条第1項、第95条、第85條第2項により、主文のとおり決定する。

2016年6月15日
最高裁判所民事第一法廷
裁判長  劉福來
裁判官  李錦美  
裁判官  詹文馨
裁判官  呉光釗
裁判官  梁玉芬  

III 判決内容の要約

知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】103年度民商上字第2号
【裁判期日】2015年2月26日
【裁判事由】商標権侵害行為の排除請求等

上訴人 中國造船股份有限公司
兼法定代理人 許○堅
被上訴人 台灣國際造船股份有限公司

上記当事者間における商標権侵害行為の排除請求等事件について、上訴人は2013年12月16日当裁判所102年度民商訴字第22号第一審判決に対して上訴を提起した。当裁判所は2015年2月3日に口頭弁論を終え、次のように判決する。

主文
上訴を棄却する。
原判決の主文第2項1行目の「本件判決書」は「本件第一審民事判決書」に変更すべきである。
第二審訴訟費用は上訴人の負担とする。
原判決主文第一項前段において上訴人に「中國造船」と同一又は類似する文字をその会社名の主要部分に使用してはならないと命じた部分について、被上訴人は165万新台湾ドルを担保として供託した後に仮執行を行ってもよい。ただし、仮執行の手続きが行われる前に上訴人が165万新台湾ドルを担保として供託したならば、仮執行を免脱できる。
被上訴人のその他の仮執行に係る請求は棄却する。

事実及び理由
一.両方当事者の請求内容:
(一)被上訴人の原審における請求:
1.上訴人は「中國造船」と同一又は類似する文字をその会社名の主要部分に使用してはならず、「中國造船」と同一又は類似する文字を含まない会社名に変更登記を行わなければならない。
2.上訴人は連帯で費用を負担し、本件判決書の裁判番号、当事者、裁判事由及び主文全文を蘋果日報(高さ11.4cm×幅4.4cmの紙面)、聯合報(高さ13.8cm×幅4.95cmの紙面)及び自由時報(高さ4.5cm×幅9.2cmの紙面)の全国版第一面題字欄下又は横にそれぞれ3日連続で掲載しなければならない。
(二)原審は、上訴人は「中國造船」と同一又は類似する文字をその会社名の主要部分に使用してはならず、「中國造船」と同一又は類似する文字を含まない会社名に変更登記を行わなければならず、かつ連帯で費用を負担し、本件判決書の裁判番号、当事者、裁判事由及び主文全文を蘋果日報、聯合報及び自由時報の全国版第一面題字欄下又は横にそれぞれ3日連続で掲載しなければならないとの判決を下し、上訴人はこれを不服として上訴を提起した。
(三)被上訴人の当裁判所における答弁:
1.上訴を棄却する。
2.担保を供託するので、仮執行宣言を求める。
(四)上訴人の当裁判所における請求:
1.原判決を破棄する。
2.被上訴人の第一審における訴えを棄却する。
3.被上訴人の仮執行宣言の請求を棄却する。
4.上訴人は担保を供託するので、仮執行免脱宣言を求める。

二.心証を得た理由:
本件双方の争点は、協議を経て当裁判所ファイル第1冊151~152頁、当裁判所ファイル第2冊3頁の準備手続調書に示される通りに簡略化した。ここで次のように分けて述べる:
(一)本件に適用すべき商標法:
1.上訴人は2009年2月9日に会社の設立を登記しており、「中國造船」商標(以下「係争商標」、添付図1-1~図1-5に示すとおり)が著名商標であることを明らかに知りながら、「中國造船」を上訴人企業の会社名の主要部分とし、係争商標を侵害した等と被上訴人は主張し、侵害の排除と判決書の新聞掲載を請求した。上訴人企業が2009年2月9日に「中國造船股份有限公司」を会社名として設立登記した後、商標法の「商標権」と「会社名」の衝突に関する規範は2011年6月29日に改正公布され、2012年7月1日に施行されている。よって本件は被上訴人がその商標権侵害を主張した行為に基づき、行為の時点の商標法を適用すべきである。
2.調べたところ、上訴人企業は2009年2月9日に設立の登記をした時から「中國造船股份有限公司」の会社名を使用しており、会社存続期間において、上訴人企業はその会社名を使用して事業を経営してきた。2003年5月28日改正公布の商標法(以下、「2003年商標法」)第62条第1号、第2号、及び現行商標法第70条第2号に規範されているのはいずれも、他人の著名な登録商標または該著名商標にある文字を自らの会社名として使用することであり、設立登記又は会社名の登記変更の行為に限らない。会社名は股份有限公司(株式会社)定款に記載すべき事項であり、会社名の登記にも一定の要件と制限がある(上訴人企業が設立された時、有効であった2009年1月21日改正公布の公司法(会社法)第18条第1、4、5項、第129条第1号の規定を参照)。被上訴人が指摘している上訴人企業が被上訴人の著名な登録商標にある文字「中國造船」を自らの会社名の主要部分とした行為は、その起点が上訴人企業の会社設立登記が完了した時点である。よって本件は上訴人企業が「中國造船」を会社名の主要部分として設立登記をしたことが係争商標権を侵害しているか否かを斟酌するのに、行為(設立登記)の時点における法律、即ち2003年商標法を適用すべきである。上訴人企業の設立登記の当初に被上訴人の商標権が侵害されておらず、その後商標法の関連規範が改正されたとしても、遡及適用する特別規定がなければ、「法の不遡及原則」に基づいて、改正後の規定はその施行日以降に発効するものであり、被上訴人はその後に改正・施行された商標法の規定により遡及して商標権を主張し、侵害の排除又は防止を請求してはならない。本件に商標権者が主張する権利侵害の時点に有効な商標法を適用したならば、企業経営者が適法に会社名を登記した後、法律が規定する要件の寛厳が変動したこと、又は商標権者が請求する時点の相違によって、時に商標権の侵害を構成したり、時に構成しなかったりするため、長期に当該会社名を以て事業を経営し、他人と取引の往来を行い、会社の信用と名声を築いてきた企業経営者にとって公平ではなくなる。
3.前述のとおり、上訴人企業が「中國造船」を会社名の主要部分としたことが商標権侵害行為を構成するか否かは、上訴人企業が2009年2月9日に会社名を登記した時点で有効だった商標法を以て論断の依拠とすべきである。上訴人企業が「中國造船」を会社名の主要部分としたことで最初から商標権を侵害したとみなす状況があったならば、該侵害はすでに発生しているため、存在継続期間にちょうど商標法が保護要件を変更したような場合は、商標権者が侵害を排除又は防止するよう要求した時点の商標法を以て、該侵害が現在もなお存在するのか判断し、商標権者が侵害の排除又は防止に係る請求権を行使できるか否かを判定すべきである。
4.最高裁判所101年度台上字第902号民事裁判では、行為者(廣濱國際有限公司)が1999年5月に著名商標権者の商標の文字「INTEL」をその会社の英語名とするよう申請して営業主体又は出所を表彰する標識として使用し、さらに該事件の商標は1997年から2006年までにはすでに著名の水準に達していたが、行為者は該商標の文字を該会社の英語名とし、さらには商標法が2003年に改正・施行された後も該名称を使用し続けたことで、該商標の識別性を毀損した。商標権者が2003年商標法第62条第1款規定に基づき、行為者に「INTEL」を会社の英語名の主要部分として使用することを停止するよう請求することは、法の不遡及原則に違反するものではない。よって行為者には商標法が2003年に改正される以前にすでに該商標の識別性を毀損する状況があり、商標法が2003年に改正・施行された後に該事件の事実審裁判所が判決した時まで継続されており、商標権者は2003年商標法第61条第1項規定を適用して、使用停止の請求を行うことができる。さらに最高裁判所99年度台上字第958号民事判決も同じ見解を採用している。よって当裁判所の前記法律見解はこの2つの最高裁判所判決の見解に従うものであることを、加えてここに説明しておく。
(二)上訴人企業が「中國造船」を会社名とした行為は係争商標権を侵害している:
1.係争商標は上訴人企業が2009年2月9日に設立を登記した時点ですでに著名商標であった:
(1)調べたところ、被上訴人は1973年11月7日に「中國造船股份有限公司」として設立が許可され、1977、1978年には次々とわが国造船史上最大規模である44万5000載荷重量トンの石油タンカー2隻を建造した。またかつてはコンテナ船、石油タンカー、混載貨物船、特殊船舶、軍艦等を建造したこともあり、被上訴人は台湾唯一の巨大造船会社である。「台船『大船入港』、第一銀行が84億新台湾ドルのシンジケートローンの主幹事に」と題する中央通訊社(The Central News Agency)のニュースサイト資料及び「台湾造船業発展の略史」と題する文章を参照できる。また、Googleの検索サイトにおいて「中國造船股份有限公司」というキーワードで検索して得られる資料はすべて被上訴人を指すものである。Googleサイトの資料記録を参照できる。さらに「博客來書籍館」サイトにおける行政院檔案管理局(National Archives Administration)2012年7月1日出版「航領伝世-中國造船股份有限公司-台湾産業経済ファイルデジタルアーカイブ纂輯-№9」の内容紹介資料、及び行政院檔案管理局の台湾産業経済案件「中船ファイル」でいうところの「中國造船股份有限公司」はいずれも被上訴人を指すものである。また被上訴人が建造した船舶が1998年、1999年、2002年、2003年、2004年にそれぞれ英国王立船舶設計協会(RINA)の最優秀船(Significant Ship)に選ばれており、それが建造した1万2600載荷重量トンのコンクリート船は2005年3月19日に中國造船暨輪機工程師学会(Taiwan Society of naval architects and marine engineers)から「年度船舶賞」を贈られている。
(2)被上訴人は2007年3月1日に株主総会で名称を変更する決議がなされる前に吊り上げビーム上に「中國造船」の図案を使用しており、これは月刊誌「台灣國際造船」第444期の「悲歡歲月」右下方図、被上訴人の中国語紹介ビデオ及びキャプチャー画像、被上訴人の現在のサイトにある「動画での紹介」のページ(URL:http://www.csbcnet.com.tw/CSBC/Introduction/video_ne.aspx_new。)における動画「台船簡介- 中文_0000000_1.wmv」の開始から2分25秒~2分50秒の箇所に見られ、当裁判所の検証を経て、原審ファイル246~247頁と同じ画面がファイルされており、上訴人が争わないところである。係争商標は2008年になって始めて登録が出願されたが、前述の吊り上げビームに使用される「中國造船」の図案と係争商標の図案は完全に同じものであり、客観的にみて被上訴人はすでに販売の目的で「中國造船」の図案を使用し、自らの商品と役務を表彰しており、関連の消費者にそれが商標であると認識させるに足るものである。
(3)前述のとおり、偉利船務代理股份有限公司(以下「偉利公司」。訳註:上訴人は2007年2月9日~2010年2月8日に偉利公司の董事長を務めた)は添付図2に示される「中國造船」を以て商標登録を出願したが、2008年に知的財産局から拒絶査定を受け、同年3月18日第0305710号、0000000号、0000000 号拒絶査定書では、添付図2-2~2-4に示される「中國造船」商標が被上訴人の著名商標である「中國造船」と同じであり、「造船サービス」、「船舶小売」、「船舶運輸」等の役務での使用を指定したため、関連の公衆に誤認混同を生じさせるおそれがあり、2003年商標法第23条第1項第12号及び第24条第1項規定により拒絶すべきであると認められている。同年4月23日第0306736号拒絶査定書では、被上訴人が1973年に設立され、国内で船艦、運輸機械の建造を専門に営み、誰もが知る著名な国営企業となり、その後2007年に「台灣國際造船股份有限公司」に改名したが、なお同じ事業の主体であり、その権利、義務及び業務経営は一括して引き継がれており、国内の消費者が通常の注意力を払ったとき、いずれも商標の存在を広く知っており、況してや出願人が船舶代理に従事する関連企業であり、通常の経験則から判断して、それが関連する商品又は役務の業界情報に対して接触して知っているはずであり、偉利公司が同じ中国語の「中國造船」の商標を出願し、その事業目的と同じ又は類似する添付図2-1に記載されるような商品での使用を指定することで、関連の公衆にその商品の生産する主体又は出所に対して誤認混同を生じさせるおそれがあるため、前述の法条規定を適用して、拒絶すべきであると認められている。
(4)その後被上訴人は2007年3月1日の株主総会で元来の会社名である「中國造船股份有限公司」を「台灣國際造船股份有限公司」に変更するとともに、吊り上げビームに使用した「中國造船」図案を「台灣國際造船」に変更したが、被上訴人は2008年に係争商標の登録を出願して登録され既にファイルに記録されている。且つ改名後、そのサイト、発行した月刊誌「台灣國際造船」等に添付図3に示されるシリーズの商標図案が使用され、その中の「中國造船」の右上方には登録商標の符号が標示されており、被上訴人が継続して著名商標「中國造船」を使用し続け、改名したからといって係争商標を使わなかったというわけではない。被上訴人のホームページとサブページのタイトル名の箇所にはすべて「台灣國際造船原『中國造船』」という文字が掲載されており、被上訴人の会社紹介(中国語版)DVD、サイトにおける「動画での紹介」の内容にはいずれも被上訴人が「中國造船股份有限公司」から「台灣國際造船股份有限公司」へ変遷した歴史が紹介されており、これらはすべて関連の消費者に「中國造船」商標の図案と被上訴人及びそれが提供する商品、役務との関連性を十分に認知させるものであり、改名によって関連する消費者の印象から消えていくものではない。よって被上訴人は「中國造船」を商標として使用していない云々という上訴人の主張は採用できない。
(5)被上訴人の范総経理は2007年3月1日の株主総会で発言し、被上訴人は大株主である経済部の政策に合わせるため、さらに中国大陸の造船会社名と混同することを避けるために会社名を変更することが必要だと説明した。被上訴人は上記の要因を考慮して「中國造船」の会社名を使用しないことにしたが、前述したように、被上訴人は係争商標「中國造船」を使用し続けており、被上訴人が会社名を変更したことを以てただちに係争商標を使用している事実はないと称する上訴人の主張は採用できない。
(6)よって、被上訴人の設立は政府が1973年から推進した「十大建設」政策に合せたもので、その造船の実績はわが国の関連する消費者が熟知するところで、台湾地区において唯一の大型造船会社であり、「中國造船」と聞けばすぐに被上訴人を連想し、関連する消費者は広く認知していると認めることができ、係争商標は上訴人が2009年2月9日に会社設立を登記した時点で、すでにわが国の関連する消費者に広く認知され、著名商標の水準に達していた。
2.上訴人が「中國造船」の文字を会社名の主要部分とすることで、関連する消費者に誤認混同をもたらした:
(1)調べたところ、上訴人許○堅は1981年に被上訴人の法人株主である開隆公司の代表者を務め、かつては幾度か被上訴人の董事(取締役)を務めたこともあり、それは株式で証明できる。さらに被上訴人は2007年の第1回臨時株主総会で、「当株主は中船公司に31年以上投資してきたが、中船公司の名称は大変素晴らしいと思う。なぜ変更する必要があるのか。なぜ中船の名前を譲ってしまうのか。」、「我々は台湾という名前に反対しているのではなく、素晴らしい名前を守りたいのだ。『中船公司』は素晴らしい名前で、30年の歴史を持つ看板だ……」と発言したが、この株主総会で名称変更が決議されてしまった。上訴人許○堅は台湾高雄地方裁判所に対して株主総会不成立確認の訴訟を提起したが、裁判所から敗訴が言い渡され確定した。さらに上訴人許○堅は偉利公司の責任者を務めていた2008年に「中國造船」を商標図案として登録を出願したが、知的財産局は被上訴人の著名商標「中國造船」を以って出願を拒絶査定した。よって上訴人許○堅は「中國造船」が被上訴人の取得している登録商標であり、知的財産局が著名商標であると認定していることを明らかに知っていたにもかかわらず、2009年2月9日に「中國造船」の名義で会社設立の登記を行った。
(2)商標法において消費者とは、適切に商品又は役務の取引流通に反応するに足る者をいい、市場運営の角度、つまり供給、需要の双方からみると需要者を指し、即ち取引過程における商品又は役務の需要側を指し、必ずしも最終消費者とは限らず、取引形態も購買者だけとは限らず、消費者保護法の「消費者」と同じ解釈を行うことができない。経済部2007年発行の「商標法第23条第1項第12号でいう著名商標の保護に関する審査基準」、2012年発行の「商標法第30条第1項第11号でいう著名商標の保護に関する審査基準」では「いわゆる関連する事業者又は消費者とは、商標を使用する商品/役務の取引の範囲を以って基準とする。それには次の3つの状況が含まれるが、これらには限るものではない:1. 商標が使用する商品又は役務の実質的な又は潜在的な消費者。2. 商標が使用する商品又は役務の販売ルートに関わる者。3. 商標が使用する商品又は役務を経営する関連の事業者。」と解釈されており、事業者と消費者を併せて定義されているため、列挙された3つの状況はいずれも消費者と事業者を解釈でき、消費者又は事業者に分けるべきではなく、且つ3つの状況に限らない(最高行政裁判所103年度判字第712号判決を参照)。よって大型造船会社であり、すべての顧客は海運会社又はわが国の海軍であり、一般消費者ではない云々という上訴人の主張は、商標法でいう「関連する消費者」の意味を明らかに誤解しているため、採用できない。
(3)上訴人企業が登記している事業目的は「船舶及び同部品製造業」、「工業用港又は工業用埠頭における船舶の簡易修理業」、「船舶及び同部品の卸売業」、「船舶及び同部品の小売業」、「造船コンサルタント業」等、「海上構造物、船舶専用機械及び同部品の製造」等であるのに対して、被上訴人が登記している事業目的は「船舶及び同部品製造業」、「商港区における船舶の簡易修理業」、「小型船での運送業」、「船舶リース業」、「商港区はしけ業」、「サルベージ(引き揚げ)業」、「海難救助業」、「商港区における船舶貨物フォワーディング業」、「船舶輸送業」、「海上貨物輸送フォワーディング業」等であり、両者は同じ、又は極めて類似している。また係争商標の使用を指定している商品と役務も添付図1に示すとおりいずれも船舶に関連している。上訴人企業の名称の主要部分と係争商標の文字がいずれも「中國造船」であり、且つ係争商標は上訴人企業が2009年2月9日に設立登記をした時点で国内の関連する消費者に広く熟知されていたことは前述のとおりであり、客観的に上訴人企業の会社名の主要部分である「中國造船」は関連する消費者に該社が被上訴人と同一又は関連する商品、役務の出所である、又はその使用者間に関連企業、使用許諾関係、加盟関係又はその他これらに類する関係が存在すると誤認させるおそれがある。
(4)さらに、上訴人許○堅が運輸業界関係者の集まる公の場において、「中國造船股份有限公司董事長許○堅」名義の賀聯(祝賀の対句)を用いて被上訴人の顧客に混同を生じさせたため、被上訴人はその商業上の信用を大いに毀損されたとして2012年6月13日上訴人企業に警告書を送った。また上訴人企業は「中國造船」の名義で会社設立を許可された後、米国のPORTER HEDGES LLP 法律事務所に委託して2013年1月30日被上訴人に書簡を送り、被上訴人による米国での名称「CSBC」の使用は、上訴人企業と関連、結合があることを想起させると指摘した。これからもまた上訴人企業による「中國造船」、「China Ship Building」名義での会社登記が関連する者に係争商標と誤認混同させる可能性があると証明できる。さらに経済部商業司の「公司及分公司基本資料」検索サイトにおいて上訴人企業(統一番号:00000000)を検索した結果においても、その中に被上訴人の基隆總廠が1978年9月2日に出願した「中船標章(カラー)」商標(出願番号:000000000)が含まれており、実際に誤認混同の状況がみられた。
3.上訴人は「中國造船」の文字を会社名の主要部分としたことで、係争商標の識別性及び信用・名声を毀損した:
前述したとおり、係争商標は2009年2月9日に会社設立を登記した時点で、すでにわが国の関連する消費者に広く認知され、著名商標の水準に達していたが、上訴人の会社名の主要部分と著名商標である係争商標の文字である「中國造船」は完全に同じであり、これによって上訴人企業が会社名に「中國造船」を使用した行為は、単一の出所を強烈に示す係争商標を二種類以上の商品又は役務の出所を示すものとし、関連する消費者に係争商標に対して単一の連想または独自性を有する印象をもたらさなくして、係争商標の識別性を毀損するに足る。また上訴人企業は適法に設立された会社である。しかし船舶の建造、修繕等の業務を経営するには巨額の資金、大型設備、重機が必要であり、極めて特殊専門性が高い分野であるにもかかわらず、上訴人企業の登記資本金はわずか100万新台湾ドルである。それが登記している事業目的は船舶及び同部品製造業、工業用港又は工業用埠頭における船舶の簡易修理業、船舶及び同部品の卸売業、船舶及び同部品の小売業、造船コンサルタント業等の船舶の建造、修繕の業務に関連しているほか、国際貿易、衣料品製造、自動制御設備工程、食用油の卸売、飲料の卸売、茶葉の卸売、金属製品の卸売、日用品の卸売、ペットフード及びペット用品の卸売、建築管理、投資コンサルティング、管理コンサルティング、産業育成、ソフトウェア出版等のその他の分野もカバーしている。客観的に係争商標を表彰する商品、役務の提供者及び契約履行能力、品質等のビジネスに関する評価、信用・名声又は商売上の信用などについて疑問や過小評価の連想を関連する消費者にもたらし、係争商標の信用・名声を毀損してしまう。制止しなければ、関連する消費者に係争商標を任意に使用することができると誤解させ、該著名商標の識別性と信用・名声を毀損してしまう。
4.上訴人企業は適法に設立され、適法な経営を行っており、いかなる商品・役務も消費者に混同を生じさせることはなく、多くの事業目的は被上訴人の事業とは無関係であり、無関係の事業目的は禁止すべきではない云々と上訴人は主張している。上訴人企業は2009年2月9日に主務機関から「中國造船股份有限公司」として設立登記することを許可されたが、前述したとおり、上訴人は係争商標の中の「中國造船」という文字を会社名として使用しており、且つ上訴人企業が登記している事業目的には船舶及び同部品製造業、船舶及び同部品の卸売業、船舶及び同部品の小売業等が含まれ、係争商標が使用を指定する商品、役務と同一か、高度に類似しており、誤認混同並びに係争商標の識別性及び信用・名声の毀損という状況がみられており、商標権の侵害と見なすことができる。一部の事業目的が会社登記の主務機関から登記を許可されたからといって、他人の商標権を侵害した責任を免れるものではない。また「該商標の識別性又は信用・名声を毀損するおそれがある」とは、著名商標の元来強烈に単一の出所を示すという特徴と魅力が他人による不当な希釈化又は毀損に遭うことを回避するため、消費者の印象をあいまいにするおそれをもたらすことを要件としており、よって擬制の形式で商標権侵害とみなし、著名商標保護の目的を達成する。たとえ他人が著名商標に類似する商標又は経営の主体を表彰する名称を、著名商標が使用を指定している商品又は役務と競争関係を有さない又は類似しない商品又は役務に使用したとしても、広く使用した結果、著名商標の識別性を希薄化する可能性がある。これは即ち商標希釈化からの保護において解決すべき課題である(最高裁判所102年度台上字第2408号民事判決を参照)。よって上訴人のこの部分の抗弁は採用できない。
5.以上をまとめると、係争商標は2009年2月9日においてすでに著名商標であった。さらに上訴人許○堅は上記の状況を明らかに知りながら、被上訴人の同意を得ずに直接係争商標の中にある「中國造船」という文字を会社名として上訴人企業を設立し、関連する消費者に誤認混同を生じさせ、且つ係争商標の識別性と信用・名声を毀損したため、2003年商標法第62条第1、2号規定に違反している。また現行商標法第70条第2号規定は実際の誤認混同、識別性又は信用・名声の毀損の発生を要件としないと改正されており、本件の口頭弁論が終結した時まで、上訴人許○堅は依然として上訴人企業の法定代理人であり、且つ上訴人企業は「中國造船」の会社名を使用し続け、関連する消費者に誤認混同を生じさせるおそれと、係争商標の識別性又は信用・名声を毀損するおそれがあり、上訴人には同法第70条第2号の商標権侵害とみなす状況があり、被上訴人が同法第69条第1項規定により「中國造船」と同一又は類似する文字をその会社名の主要部分に使用してはならず、「中國造船」と同一又は類似する文字を含まない名称に会社名の変更登記を行わなければならないと上訴人に請求したことには根拠がある。
(三)新聞掲載に関する判決部分:
調べたところ、被上訴人は著名な造船会社であり、上訴人許○堅は係争商標が著名商標であることを明らかに知りながら「中國造船」の文字を上訴人の会社名の主要部分とし、船舶業界関係者及一般大衆に客観的に上訴人企業と被上訴人には関連性があると誤認させ、客観的に係争商標を商標する商品、役務の提供者及び契約履行能力、品質等のビジネスに関する評価、信用・名声又は商売上の信用などに対して疑問や過小評価の連想を関連する消費者にもたらし、係争商標の信用・名声を毀損することで、被上訴人の係争商標権が侵害されていると見なすことができる状況があることは、すでに前述している。会社登記は会社代表者が行う会社の業務の一つであり、法令に違反し他人に損害を与えたときは、会社と連帯で賠償する責任を負わなければならない。よって被上訴人は民法第195条第1項後段、公司法(会社法)第23条第2項の規定により、上訴人が連帯して費用を負担し、判決書を新聞に掲載するよう請求できる。係争商標が著名商標であることと、上訴人の前述した権利侵害の態様及び経緯、双方間の経済的地位、資金力(各社の資本総額を参照)等の状況を斟酌して、原審が被上訴人が毀損されたビジネス上の信用を回復するため、上訴人に本件第一審民事判決書の裁判番号、当事者、裁判事由及び主文を蘋果日報(高さ11.4cm×幅4.4cmの紙面)、聯合報(高さ13.8cm×幅4.95cmの紙面)及び自由時報(高さ4.5cm×幅9.2cmの紙面)の全国版第一面題字欄下又は横にそれぞれ3日連続で掲載するよう命じる判決を下したことは、客観的に被上訴人の信用・名声を回復するのに十分であり、且つ必要なものであったと認められる。原判決の主文の第2項1行目に記載される「本件の判決書」は本件がすでに第二審の審理に入っているため、「本件の第一審民事判決書」に訂正すべきである。
(四)被上訴人は上訴人が被上訴人の商標権を侵害し、公平交易法(訳注:日本の不正競争防止法や独占禁止法に相当)第20条第1項第2号規定に違反すると主張するとともに、現行商標法第69条第1項の侵害排除、公平交易法第30条の侵害除去の規定により上訴人に「中國造船」をその会社名の主要部分に使用してはならず、会社名の変更登記を行なうよう請求するほか、依公平交易法第34条、公司法第23条第2項、及び民法第195条第1項後段規定により、上訴人に連帯で判決文の新聞掲載費用を負担するよう請求しており、被上訴人はそれぞれの該単一声明について上記規定により併合して請求している。商標法、民法の規定に基づく請求に理由があるとき、公平交易法については審理する必要がないこと(最高裁判所101年度台上字第902號民事判決を参照)を加えてここに説明しておく。

以上をまとめると、上訴人は「中國造船」と同一又は類似する文字をその会社名の主要部分に使用してはならず、「中國造船」と同一又は類似する文字を含まない名称に会社名の変更登記を行わなければならず、且つ連帯で費用を負担し、本件第一審判決書の裁判番号、当事者、裁判事由及び主文全文を蘋果日報(高さ11.4cm×幅4.4cmの紙面)、聯合報(高さ13.8cm×幅4.95cmの紙面)及び自由時報(高さ4.5cm×幅9.2cmの紙面)の全国版第一面題字欄下又は横にそれぞれ3日連続で掲載しなければならないという被上訴人の請求には理由がある。上訴趣旨では、原判決が不当であるため、破棄し改めて判決するよう請求しているが、理由がなく、棄却すべきである。さらに、被上訴人は当裁判所の審理時に担保として供託するので、仮執行宣言を申し立てると追加陳述している。審理したところ、原判決の第1項前段で上訴人は「中國造船」と同一又は類似する文字をその会社名の主要部分に使用してはならないと命じた部分について、本件訴訟物の価値を参酌し、被上訴人は165万新台湾ドルを担保として供託した後に仮執行を行ってもよいが、上訴人は同額の担保を供託したならば、仮執行を免脱できると斟酌して決定した。その他の仮執行宣言申し立てについて、原判決の主文第1項後段で上訴人に命じている登記変更、及び第2項で命じている本件第一審民事判決書の新聞掲載の部分は、性質上仮執行を行うことは好ましくなく、棄却すべきである。

以上の次第で、本件上訴には理由がなく、民事訴訟法第449条第1項、第78条により主文のとおり判決する。

2015年2月26日
知的財産裁判所第三法廷
裁判長 蔡惠如
裁判官 蔡如琪
裁判官 林秀圓
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