帝宝によるベンツ意匠権侵害訴訟、二審で帝宝に1812万余新台湾ドルの賠償命令

J220714Y1 2022年8月号(J276)
 司法院のニュースリリースによると、知的財産及び商事裁判所は独メルセデス・ベンツAGと帝宝工業股份有限公司(Depo Auto Parts Ind. Co., Ltd.、以下「帝宝」)との間の意匠権侵害に係る財産権争議等の民事事件について2022年7月14日に判決を下したという。判決主文、事件の事実及び主な判決理由は以下の通りである。
 壱、判決主文:
一、原判決において帝宝工業股份有限公司、謝綉氣※に対して連帯での支払いを命じた1812万3278新台湾ドルを超える部分及びそれに係る利息、及び前記部分の仮執行宣言及び訴訟費用の裁判をいずれも破棄する。
二、上記破棄部分について、独メルセデス・ベンツAGによる第一審での訴え及び仮執行宣言申立てを棄却する。
三、帝宝工業股份有限公司、謝綉氣によるその余の上訴を棄却する。
四、独メルセデス・ベンツAGによる上訴を棄却する。
五、第一、二審訴訟費用はこれを三分し、その二は帝宝工業股份有限公司、謝綉氣の連帯負担とし、その余を独メルセデス・ベンツAGの負担とする。
六、本判決で帝宝工業股份有限公司、謝綉氣に対して命じた連帯支払いの部分について、独メルセデス・ベンツAGは帝宝工業股份有限公司、謝綉氣に605万新台湾ドルの担保を立てた後に仮執行をすることができる。ただし、帝宝工業股份有限公司、謝綉氣が独メルセデス・ベンツAGに1812万3279新台湾ドルの担保を立てた後に、仮執行を免れることができる。
(※訳注:帝宝工業股份有限公司の代表者)
 弐、事件の事実:
一、独メルセデス・ベンツAG(以下「ベンツ」)の提訴の主張:ベンツは台湾第D128047号意匠「車両のヘッドライト(原文:車輛之頭燈)」(以下「係争意匠」)の意匠権者であり、その存続期間は2009年3月21日から2023年4月22日までである。帝宝工業股份有限公司(以下「帝宝公司」)が生産、製造する自動車ヘッドライト(DEPO型番「440-1179MLD-EM」、「440-1179MRD-EM」)、「340-1133L-AS」及び「340-1133R-AS」製品、以下「係争製品」)がベンツの所有する係争意匠権を侵害しており、これにより専利法第142条において準用する同法第96条、第97条第1項第2号及び同条第2項、民法第184条第1項前段及び公司法(会社法)第23条第2項規定により、帝宝公司及び該公司代表者の謝綉氣はベンツに連帯で6000万新台湾ドルを賠償することを請求する。
二、帝宝公司の答弁:係争製品の全体の外観と係争意匠の外観とには明らかな違いが存在し、同一又は類似を構成せず、係争意匠権を侵害していない;係争意匠は意匠権の重複登録排除規定に違反している;係争意匠の図面は十分に開示されておらず、それに基づいて実施することができない;係争意匠は新規性喪失の例外(グレースピリオド)の適用事由に該当せず、優先権を主張できない;新規性が欠如している;創作性(創作非容易性)も欠如しており、取消事由を有するため、ベンツは帝寶公司に権利を行使できない。ベンツの係争意匠に係る権利行使は公平交易法第9条第1号、第4号、第20条第2号及び第25条規定に違反しており、民法第148条の権利濫用も構成している。ベンツは2014年10月の時点ですでに帝宝公司に権利侵害の事実を通知しているが、2017年3月に本件訴訟を提起したため、(請求権者が侵害を知悉してから)2年間の損害賠償請求権は提訴前に消滅時効が成立している。帝宝公司は損害賠償金額について金型製作のコスト及び経費を控除するよう主張することができ、原判決でコスト経費を控除しなかったのは不当である。また帝宝公司は迂回設計を行っており、故意に権利を侵害しておらず、原判決が故意の権利侵害規定により帝宝公司の係争製品の売上総額2316万2107新台湾ドルに1.295倍を掛けて懲罰的損害賠償金3000万新台湾ドルを算出したことには明らかに誤りがある。
 参、本裁判所第一審判決(106年度民專訴字第34号)で、ベンツによる侵害停止の請求を認め、帝宝公司及びその代表者である謝綉氣に連帯で3000万新台湾ドルをベンツに支払うよう命じ、ベンツのその余の損害賠償請求を棄却したのに対して、双方ともに上訴(控訴)を提起した。
 肆、主な判決理由:
一、権利侵害の部分:本裁判所は、係争製品と係争特許について全体の観察と対比を行った結果、その共通する特徴はいずれも消費者の注意を容易に惹起する部位にあり、異なる特徴は通常の消費者が注意を払わない部位であるか、又は違いがわずかであり、全体の視覚的効果に影響をもたらすには十分ではないため、係争製品と係争特許の外観は類似を構成し、係争意匠権を侵害していると認める。
二、意匠の有効性の部分:係争意匠と同日に出願されたD128048号意匠は意匠権の重複登録排除規定に違反していない。さらに係争意匠の図面は十分にその設計内容を開示しており、当業者がその内容を理解してそれに基づいて実施が可能である。係争意匠の図面は優先権基礎出願のすべての内容に対して、異なる視覚的効果をもたらしておらず、「同一意匠」であると認めるべきであり、優先権を主張できる。帝宝が提出した先行技術の証拠はいずれも係争特許の新規性欠如又は創作性欠如を証明するには足らず、係争意匠は有効である。
三、公平交易法第9条第1号、第4号、第20条第2号及び第25条及び民法148条規定違反の部分:
(一)本裁判所は、本件の自動車を販売する「メインマーケット」と販売後の部品を修理する「アフターマーケット」との間に実質上の連動性があり、メインマーケットの競争における制限がアフターマーケットに影響して、メイン/アフターマーケットの連動現象が生じるため、メインマーケットとアフターマーケットは同一の関連する市場であると見なすべきであると認める。アフターマーケットを単一の市場と見なして、ベンツがアフターマーケットで独占的地位を占めていると認めるべきではない。ベンツは自動車を販売するメインマーケットにおけるシェアが6%乃至8%にすぎず、独占的又は支配的な地位を占めておらず、公平交易法第9条第1号、第4号の独占事業者による不正行為禁止関連規定に違反していない。またベンツのメインマーケットにおけるシェアが高くはなく、しかも意匠権者には他人にその意匠の実施を許諾する義務がないため、ベンツが帝宝公司に許諾する意向がなく、本件の意匠権を行使した行為も、公平交易法第20条第2号の正当な理由なく、他の事業者に差別的待遇を与える行為及び公平交易法第25条の取引秩序に影響するに足りる欺罔又は著しく公正さを欠く行為であるとは認められない。
(二)ドイツ自動車工業会(VDA)は2003年に、ドイツ自動車業界が意匠保護法を適用して独立系の部品サプライヤと市場シェアを争奪することはせず、部品市場の競争を妨げないと約束する声明を発表していること、さらにベンツが十数年にわたってその意匠権を行使しなかったことから、帝宝公司の信頼を得るに十分であり、大量の人力と金銭を係争製品(車両ライト)の生産に投入してきたが、ベンツは約束に反してドイツと我が国で訴訟を提起し、帝宝公司が係争製品を製造、販売することを禁止しており、その言行不一致の行為は、民法第148条に定める信義誠実の原則に反するものであり、(権利濫用は)権利失効を適用されるべきだ、と帝宝公司は主張している。しかしながら本裁判所は、ドイツ自動車工業会が前記声明を発表していても、法的効力は有せず、上記声明が永久に世界の法律に対して拘束力を有するとは認め難く、帝宝公司の抗弁は採用できない。
四、侵害停止及び損害賠償の部分:
(一)帝宝公司が製造する係争製品が係争意匠権を侵害しているため、ベンツが、帝宝公司に対して侵害の停止、即ち係争製品の製造・販売を停止するほか、係争製品の完成品、半製品、係争製品を組立、製造する金型又はその他の器具をすべて廃棄するよう請求するとともに、帝宝公司及びその代表者に対して連帯で損害賠償責任を負うよう請求したことは正当である。
(二)帝宝公司は時効に係る抗弁を提出したが、本裁判所は、ベンツが2013年帝宝公司に書簡を送ったときは、カタログの写真に基づいて行ったものであり、係争製品を取得して権利侵害の対比を行っておらず、帝宝公司の権利侵害行為を明確に知悉していないため、帝宝公司による消滅時効に係る抗弁は採用できないと認める。さらに、損害賠償金額について、帝宝公司は金型製作のコスト及び経費を控除するよう主張しているが、本裁判所は、帝宝公司が提出した一部の財産目録と以前報告された金型型番が一致しないため採用を認めず、その余の型番の一致した部分についてはコストと経費を控除することを許可する。また、帝宝公司はアフターマーケット向け車両ライトの専門メーカーであり、ベンツの車両ライトの外観と関連の意匠権については知悉しているはずであり、それが製造する係争製品が係争意匠を侵害したのは故意によるもので、一切の情状を酌量した結果、専利法第97条第2項規定により、すでに証明されている損害額の1.5倍を賠償金と定める。
五、本件判決はまだ確定されておらず、双方はいずれも第三審に上訴(上告)を提起できる。(2022年7月)
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