侵害排除請求権及び損害賠償の計算

2013-12-30 2012年

■ 判決分類:実用新案権

I 侵害排除請求権及び損害賠償の計算

■ ハイライト
侵害排除は一種の不作為請求権であるので、客観上、侵害事実または侵害のおそれが十分であるなら、侵害者の主観的要件を論じる必要がない。且つ権利内容の完全実現の上、もしある事由の妨害にあったり、または妨害のおそれがあった時、権利所有者は当然、権利の完全性を保つために、当該妨害の排除を請求する権利があり、その際、侵権者の主観的要件とは無関係のはずである。これについては、無体財産権も同様であり、特許権者が享有している排他的権利は、加害者の妨害行為により完全性の喪失、または妨害のおそれにより、完全性を喪失する可能性があるので、特許権者は当然侵害排除または侵害防止を請求することができるが、主観上、故意または過失があるか否かを論じる必要はない。また侵害行為の損害賠償債権は、権利者が侵害行為により受けた財産上または非財産上の損害を補填するものであり、その主旨は個人の自由及び社会安全の基本価値を調和させるもので、過失責任主義を原則とする。即ち加害者に違法に他人の権利を侵害する故意または過失があることをその成立要件とし、もしその行為に故意または過失がない場合、賠償を語れるものではない。係争実用新案製品の主な機能は即ち自動撥ね飛ばし装置であり、且つ当該製品はその他製品の技術特徴と異なることは、消費者が購入する主な根拠であり、もしこの機能がなければ、消費者は自然と一般的な手動製品を購入するので、上訴人が侵害行為により得た利益は、当然機器全体で計算し、単に当該技術装置の部品比率で計算するものではない。【資料元:知的財産局整理】

II 判決内容の要約

知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】100年度民專上字第47号
【裁判期日】2012年4月26日
【裁判事由】実用新案権に関する財産権の侵害争議等

上訴人 昌澤工業股份有限公司
兼法定代理人 林坤益
被上訴人 鑫龍精密股份有限公司

上記当事者間の実用新案権に関する財産権の侵害争議等事件につき、上訴人は2011年8月25日付本裁判所99年度民專訴字第215号第一審判決に対し上訴を提起した。本裁判所は2012年4月12日に口頭弁論を終結し、以下のように判決を下す。

主文
上訴を棄却する。
第二審の訴訟費用は上訴人の負担とする。

一 事実要約
被上訴人は実用新案第M333949号の権利者であり、係争実用新案は経済部知的財産局(以下、知的財産局という)による実用新案技術報告により、特許性(実用新案の性質)があると認定されている。ところが、上訴人昌澤工業股份有限公司(以下、昌澤公司という)は被上訴人の同意または許諾を得ずに、係争実用新案の技術を利用し、品名、品番がUB-2100ECK、UB-23SECK、UB-25SECK、UB-3100VECK及びUB-3100ECKである集塵器製品(以下、係争製品という)を製造、販売した。原審は損害賠償部分について、被上訴人に一部勝訴の判決を下し、連帯して被上訴人に2,660,569新台湾ドル及び2010年11月19日から償還日まで、年5%で計算した利息を支払うよう上訴人に命じた。また侵害排除部分について、被上訴人に全部勝訴の判決を下し、且つそれぞれ担保を供託した後、仮執行を行うことができ、及び仮執行を免じることができると被上訴人及び上訴人に命じた。上訴人は敗訴部分を不服として、上訴を提起し、被上訴人に不服はなかった。

二 両方当事者の請求内容
(一)上訴人の声明:1.原判決の上訴人に不利な部分を取消す。2.上記の取消部分について、被上訴人の第一審での訴え及び仮執行の申立てをすべて棄却する。3.もし不利な判決を受けた場合、担保を供託して、仮執行の免除宣告を請求する。
(二)被上訴人の声明:上訴を棄却する。

三 本件の争点
本件の主な争点:1.上訴人が2011年10月7日に台湾に輸入した品番「2100CK」集塵器の実物と原審での被上訴人証拠14、22、25、26等及び上訴人証拠1、3、4、5等資料は、当該品番「2100CK」集塵器が係争実用新案より早く販売されていたことを証明できるか、係争実用新案に進歩性がないと証明できるか。;2.上記「2100CK」集塵器等販売事実及び被上訴人証拠5即ち上訴人が所有している実用新案第M333944号、上訴人の行為が特許法第57条第1項第2号規定でいう「出願前、既に国内で実施されていたもの」に該当すると証明できるか、または少なくとも「既に必要な準備を完了したもの。」であり、係争実用新案権の効力が及ばないと認定できるか。;3.原審で認定された損害賠償は、係争実用新案が係争製品の内部構造の一部のみであり、原審で計算された販売金額を基準として比率により計算すべきものであるか。

四 判決理由の要約
(一)特許製品カタログは製品の販売対象等の対外的な書面説明であり、当然製品の内部構造や特許技術を完全に描写、開示する必要はなく、またカタログに記載されている各技術の要件も実体的製品と少々異なるからといって、直ちに当該実体的製品カタログであることを否認する理由もなく、もし確かに当該製品カタログと実体的製品が証拠関連性があると証明できる証拠があった場合、当該製品カタログを無効審判請求の証拠(例えば公開日等)とすることができる。調べたところ、上訴人は被上訴人証拠7、即ち上訴人昌澤公司発行の製品カタログ正本を提出したが、その中の第13、14頁に品番「UB-2100ECK」、「UB-3100ECK」の製品図及び規格が掲載されており、且つその裏表紙に、印刷出版日が2007年10月とあり、これは係争実用新案の出願日(即ち2008年1月17日)より早く、係争実用新案の登録要件を比較する証拠とすることができる。しかし、当該カタログを調べたところ、外観があるのみで、係争実用新案の構造は見られない。また上訴人は自らで撮影した「UB-2100ECK」、「UB-3100ECK」の実物写真を提出したが、当該製品写真には製品品番と銘柄が表示されておらず、上訴人が自ら書いて、表示した品番があるのみであることから、被上訴人証拠8、9、10、11により被上訴人証拠7カタログの製品構造について証明できるとは認定し難い。従って、上訴人が原審で提出した証拠はすべて被上訴人証拠7カタログ上の製品構造について証明できないので、被上訴人証拠7カタログのみで、係争実用新案に登録要件がないと証明することはできない。また上訴人は、アメリカから輸入した上訴人証拠1の品番「2100-CK」の集塵器一台(即ち上訴人証拠1)の構造が、被上訴人証拠7カタログにある製品と同一であることや、係争実用新案の出願日前に既に存在していた構造であると証明できないので、これらを係争実用新案を取消すべき理由を証明できる証拠とすることができない。

(二)被上訴人はまた、上記「2100CK」を販売した事実及び被上訴人証拠5の実用新案があるので、特許法第57条第1項第2号の先使用権の規定と一致し、係争実用新案の効力が及ばない云々と弁解したが、上記「2100CK」の販売等を調べたが、その販売した製品の構造について証明できないので、先使用の状況があったことは証明できない。また被上訴人証拠5の実用新案は係争実用新案の出願日より早く、且つ同じく集塵器の装置であるが、調べたところ、被上訴人証拠5は係争実用新案「軸継手装置」のような技術特徴を開示しておらず、また当該軸継手装置は係争実用新案が容易くフィルター内側面のろ過材に積聚するほこりを下方の集塵袋に撥ね飛ばす創作目的の主な技術特徴を達成でき、且つ被上訴人が提出した実用新案技術報告中、知的財産局も被上訴人証拠5と係争実用新案を比較して、係争実用新案に進歩性があると認定した。加えて、係争実用新案の技術特徴は被上訴人証拠5と完全に同一のものではないので、上訴人が被上訴人証拠5による先使用であるので、実用新案権効力が及ばないと抗弁したことは、信用できない。

(三)侵害排除は一種の不作為請求権であるので、客観上、侵害事実または侵害のおそれがあるだけで十分であり、侵害者の主観的要件を論じる必要がなく、且つ権利内容の完全実現において、もしある事由の妨害にあったか、または妨害のおそれがあった時、権利所有者は当然、権利の完全性を保つために、当該妨害の排除を請求する権利がある。よって、この時は侵権者の主観的要件と関係がないはずである。権利者が享有している排他的な権利が、加害者の妨害行為により完全性の喪失、または妨害のおそれがあり、完全性を喪失する可能性があるなら、権利者は当然侵害排除または侵害防止を請求することができ、主観上、故意または過失があるか否かを論じる必要はない。上訴人が製造、販売した係争製品は既に被上訴人の係争実用新案の登録請求の範囲の第2項の権利を侵害しており、且つ上訴人と被上訴人の経営事業と同一であるので、既存の危険状況で判断すれば、確かに再度侵害のおそれがあり、予め防犯する必要がある。従って、被上訴人が品番UB-2100ECK、UB-23SECK、UB-25SECK、UB-3100VECK、UB-3100ECKの集塵器製品やその他の原告の中華民国第M333949号の実用新案特許を侵害する製品について、製造、販売の申込み、販売、使用または上記目的での輸入行為をしてはならないと上訴人に請求したことには、理由がある。

(四)また侵害行為の損害賠償債権は、権利者が侵害行為により受けた財産上または非財産上の損害を補填するもので、その主旨は個人の自由及び社会安全の基本価値を調和させるものであり、過失責任主義を原則とし、即ち加害者に違法に他人の権利を侵害する故意または過失があることをその成立要件とするので、もしその行為に故意または過失がない場合、賠償についても語れるものではない。調べたところ、上訴人昌澤公司と被上訴人は共に集塵筒の自動撥ね飛ばし装置を製造、販売している同業者であり、且つその法定代理人の間には親戚関係もあり、被上訴人は上訴人より早くからこの業務を経営していたので、上訴人昌澤公司は関連技術及びその製品特性を熟知していたはずである。しかし、調査をせずに、係争製品を製造、販売して、係争実用新案を侵害したので、注意すべきなのに、注意しなかったか、または取引上に必要な注意を怠ったので、当然被上訴人に対し損害賠償責任を負わなければならない。また損害賠償額の計算について、被上訴人は特許法第85条第1項第2号に基づき請求し、即ち侵害行為で得た利益を本件請求の損害賠償額とした。調べたところ、係争実用新案の創作目的は、自動撥ね飛ばし装置を提供し、ダストファルターの内部のほこりの清理に応用し、モーターの回転を通して、自動的に当該軸継手装置により当該撥ね飛ばす部品を廻し、ダストファルターの内部のほこりを撥ね飛ばすものであり、先行技術との差異は、かつての撥ね飛ばし装置は人力を利用して回転取手を廻し、撥ね飛ばし部品を回転させ、撥ね飛ばしベーンを廻して、集塵の機能を生じていたことである。従って、係争実用新案製品の主な機能は即ち自動撥ね飛ばし装置であり、且つ当該製品はその他製品の技術特徴と異なることも、消費者が購入する主な根拠であり、もしこの機能がなければ、消費者は当然一般的な手動製品を購入する。従って、上訴人が侵害行為で得た利益は、当然1台の機器で計算し、単に当該技術装置の部品比率で計算するものではない。原審で東山稽徵所の2011年5月13日付中区国税東山一字第100003971号書簡に添付された製品の製造販売明細表及び台中関税局の2011年6月7日付中普業二字第1001008544号書簡に添付された輸出入申告書に記載されていた品番UB-2100ECK、UB-23SECK、UB-25SECK、UB-3100VEC、UB-3100ECK集塵器の販売数量、販売金額、生産コスト及び利潤を、上訴人が係争実用新案の侵害により得た利益とし、且つこれを以って上訴人が被上訴人に連帯で2,660,569新台湾ドル賠償すべきだと計算したことには、理由がある。

2012年4月26日
知的財産裁判所第二廷
審判長裁判官 陳忠行
裁判官 曾啟謀
裁判官 熊誦梅
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