技術の発展が行政審査官又は司法審理者の後知恵に影響を及ぼすことを排除するため、特許の技術的特徴が既に先行技術に開示されていることだけを判断の基準としてはならない。

2014-06-25 2013年

■ 判決分類:特許権

I 技術の発展が行政審査官又は司法審理者の後知恵に影響を及ぼすことを排除するため、特許の技術的特徴が既に先行技術に開示されていることだけを判断の基準としてはならない。

■ ハイライト
先行技術の組合せが、特許の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に完成できるものであることを証明するに足りるか否かの判断基準は、先行技術を機械的に無差別対比するのみであってはならない。なぜなら、発明の殆どは、先行技術の結合により、新たな技術的特徴を生み出すものだからである。また、発明が特許を受けるべき要件に該当するか否かの判断は、出願時にその属する技術分野における通常の知識を有する者を基準としなければならないが、行政手続きによる査定又は司法判断のいずれにせよ、出願時と時間差があり、この時間差において、技術の向上があるのは当然である。また、その時間差が大きければ大きいほど、技術がより一層進歩するので、特許の技術的特徴が既に先行技術に開示されたことだけをもって、出願時にその属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に思いつき且つ運用できると当然のように認定してはならない。そうして、はじめて技術の発展による、行政審査官又は司法審理者の後知恵への影響を排除できる。(出所:法源)

II 判決内容の要約

知的財産裁判所行政判決
【裁判番号】2012年度行専訴字第121号
【裁判期日】2013年4月11日
【裁判事由】特許出願

原告 台達電子工業股份有限公司
被告 経済部知的財産局

上記当事者間の特許出願事件につき、原告は経済部による2012年10月17日付経訴字第10106112810号訴願決定を不服として、行政訴訟を提起した。

主文
訴願決定及び原処分を共に取消す。
被告は、原告が特許を受けようとする第93118303号「スイッチレスノイズの温度制御変速回路」発明の出願が特許をすべき旨の査定をしなければならない。
訴訟費用は、被告の負担とする。

一 事実要約
原告が2003年6月25日に「スイッチレスノイズの温度制御変速回路」を以って、被告に実用新案の登録出願を行い、被告が第92211609号と番号付け、審査を行った。原告は、2004年6月24日に本件出願を実用新案から発明特許に変更し、元の出願日を本件特許出願の出願日とするよう請求した。被告は、第93118303号と番号付け、審査したうえで、拒絶すべき旨の査定をした。原告はこれを不服として、再審査を申請したが、被告は審査を経て、本件を拒絶すべき事由に該当するものと認定し、2010年7月19日に(99)智専三(二)04087字第09920496010号拒絶理由通知書をもって、期限を決めて意見書の提出又は特許の明細書の補正をするよう原告に通知した。これを受けて、原告は2010年11月17日に意見書を提出すると同時に、特許請求の範囲を補正した。審査を経て、被告は、なおも2011年2月11日に(100)智専三(二)04087字第10020107590号特許再審査拒絶査定書をもって、「拒絶すべき」旨の査定をした。原告はこれを不服として、訴願を提起したので、経済部は、2011年7月12日付経訴字第10006101810号訴願決定書をもって、被告が2010年11月17日付補正版における特許請求の範囲第1項から第5項までが進歩性を有しないとする具体的な理由を原処分書で十分に説明しなかったので、請求項ごとに審査する原則に合致しないほか、理由不備の瑕疵があるので、原処分を取消し、改めて適法な処分を下すようにと被告に求めた。その後、被告は改めて審査し、2012年3月21日に(101)智専三(二)04087字第10120267670号審査意見通知書をもって、意見書を提出するようにと原告に通知した。原告が、同年5月11日に意見書を提出したので、被告が審査した結果、なおも2012年5月23日に(101)智専三(二)04087字第10120496590号特許再審査拒絶理由査定書をもって「本件は拒絶すべき」旨の査定をした。原告がこれを不服として、訴願を提出したところ、経済部は2012年10月17日付経訴字第10106112810号決定をもって、棄却した。しかし、原告はなおもこれを不服として、本裁判所に行政訴訟を提起した。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告請求:1.訴願決定及び原処分を共に取消す。2.被告機関に、発明第93118303号出願の特許をすべき旨の査定をすることを命じるよう請求する。
(二)被告請求:被告による原処分は法に違反することがないので、原告による訴えの棄却を請求する。

三 本件の争点
本件の争点は、当該引例の組合せをもって、係争出願の特許請求の範囲第1項から第5項までが、その属する技術分野における通常の知識を有する者が出願前の先行技術により容易に完成できるので、進歩性を有さず、法により発明特許を取得することができないと十分証明することができるか否かである。

四 判決理由の要約
(一)係争特許出願は、スイッチレスノイズの温度制御変速回路である。係争特許の出願と先行技術との差異は、先行技術の駆動回路がPWM信号を受け入れるもので、係争出願の駆動回路は駆動電圧VDを受け入れることだけである。

(二)引例1は2002年8月11日に公告された中華民国第499109号実用新案「二段式回転速度制御のファンモーター」である。引例2は1999年12月に出版されたTHOMAS L. FLOYD 著、廖東城、方志鵬訳の「電子学」書籍第466頁から第469頁までであり、ネガティブフィードバックを有する演算増幅器の説明である。これらは係争特許の出願と関連する技術分野に該当し、公開日も係争特許の出願日である2003年6月25日より早いので、これをもって係争特許の出願が特許要件を有するか否かを判断するための先行技術とすることができる。引例1と請求項1の技術との差異については、引例1が「オペレータ増幅器」を比較電圧の回路に設計し、温度の変化により高電圧又は低電圧だけを出力できる一方、係争特許の出願は、「オペレータ増幅器」をリニア増幅器回路に設計し、温度の変化に相応する高低変化の電圧を出力することにある。両者は、「オペレータ増幅器」の回路設計概念が異なり、回路機能も相違しているので、たとえ「オペレータ増幅器」を比較電圧の回路、及び「オペレータ増幅器」をリニア増幅器の回路に設計したとしても、その属する技術分野における通常の知識を有する者にとっては困難なことではない。しかし、その属する技術分野における通常の知識を有する者が何故引例1の比較電圧回路、及び引例2のネガティブフィードバックを有する演算増幅器を知悉して、リニア回転速度変化を主な技術的特徴とする係争特許の出願を容易に思いついて運用でき、ひいては創出できるのかについて、被告は合理的な説明をしなかった。被告が、ただ機械的な対比を行っただけで、引例1、2に技術的特徴が開示されたことをもって、係争特許の出願請求項1が進歩性を有しないと認定したことは、採用し難いことである。

(三)係争出願の請求項2から5までは、共に請求項1の従属項であるので、引例1、2をもって、係争出願の独立項、つまり請求項1が進歩性を有しないばかりか、その属する技術分野における通常の知識を有する者が引例1及び引例2を組み合わせれば、係争特許の出願請求項2から4までのすべての技術的特徴を容易に完成できることも証明できない。

以上をまとめると、引例1及び引例2の組合せをもって、係争特許の各請求項が進歩性を有しないと証明することができず、被告の訴訟代理人も本件引例1、2のほかに、係争特許出願を拒絶するに足りるその他の理由(本裁判所ファイル第59頁)がないと陳述したことから、被告が前記引例をもって係争特許の出願が拒絶査定時の専利法第22条第4項に違反するので、法定の特許要件に該当しないと認定して、拒絶すべき旨の査定をしたことは、法に合致しないことになる。更に、訴願決定の維持にも誤りがある。従って、原告が訴願決定及び原処分の取消し、被告に係争出願が特許を受けるべき処分を下すよう命じることを請求したことには理由があり、許可されるべきである。

以上を総じると、原告の訴えには理由があるので、知的財産案件審理法第1条、行政訴訟法第98条第1項により、主文の通り判決する。

2013年4月11日
知的財産裁判所第二法廷
審判長裁判官 陳忠行
裁判官 曾啓謀
裁判官 熊誦梅
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