不当利得返還請求権を基礎とし専利権(実用新案権)の移転登録を請求

2016-08-01 2015年
■ 判決分類:実用新案権

I 不当利得返還請求権を基礎とし専利権(実用新案権)の移転登録を請求

II 判決内容の要約

知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】103年度民專訴字第71号
【裁判期日】2015年6月3日
【裁判事由】専利権(実用新案権)の権利帰属等

原告 一銘科技工業股份有限公司(WINNER LASER TECH CO., LTD.)
被告 李○章 

上記当事者間における専利権(実用新案権)の権利帰属等事件について、当裁判所は2015年5月13日に口頭弁論を終結し、次のとおり判決する。

主文
中華民国新型専利(訳注:「専利」には発明専利(特許)、新型専利(実用新案)、設計専利(意匠)が含まれるが、本件では新型専利を指すため、以下本件専利を「実用新案」と記す)第M378835号「具高含墨量及高轉印率之轉印輪具(インキ収容量及びインキ移転性に優れたアニロックスロール)」の実用新案登録出願権、実用新案権はいずれも原告が所有するものであることを確認する。
被告は第M378835号「具高含墨量及高轉印率之轉印輪具(インキ収容量及びインキ移転性に優れたアニロックスロール)」の実用新案権を原告に移転登録せよ。
訴訟費用は被告の負担とする。

一 事実要約
原告の主張:被告は2003年4月3日から2014年1月24日までの間に原告会社に在籍しており、被告は原告の故・前董事長黄○○氏の次女の婿であり、原告は信任及び業務執行における利便上の必要性から、公司法(会社法)第29条規定により董事会(訳注:取締役会議に相当)の委任を経て、会社登記上「経理人」(訳注:雇われ経営者)が記載されていない状況において、2008年から被告を原告内部の「総経理」(訳注:社長に相当)として雇用し、原告の内部の商品研究開発、生産及び販売推進等の業務をとりしきらせた。ところが被告は2009年10月28日に原告の係争実用新案の核心的研究開発資料、リソース及び設備を利用して実用新案技術を考案し、自らを考案者及び出願人とし、原告の同意を得ず故意に隠して、原告の営業秘密資料を以って経済部知的財産局に対して実用新案登録出願を行い、自らを実用新案権者(考案者及び出願人)として登録し、2010年4月21日知的財産局から実用新案権登録許可が公告された。
原告が本件訴訟を提起したのは、被告とその妻黄○○が原告の2014年1月10日の董事長選挙結果を不服として原告会社を離職し、さらに同年同月12日に無断で会社から重要書類を持ち出したことにより、被告が無断で係争実用新案を被告自身の名義で登録して原告の係争実用新案権等に係る権益を侵害していたことを原告が始めて知ったためである。 
係争実用新案は被告が原告会社に在籍した期間において実用新案登録出願作業を担当した考案であり、さらに係争実用新案はアニロックスロールであり、その技術内容は原告会社の経営項目と同じである。それらから係争実用新案は被告が原告会社在籍期間に職務上実用新案出願を担当していて完成した本来原告企業が所有すべき考案であることが分かり、専利法第7条第1項規定により係争実用新案の実用新案登録出願権、実用新案権は原告が所有すべきであり、被告は係争実用新案の考案者ではなく、係争実用新案の登録出願権を有さず、実用新案権者でもない。

原告の請求:主文に示すとおり。
被告の答弁:原告の請求を棄却する。

二 本件の争点
(一)被告は在籍期間に原告会社で取得した資料を以って知的財産局に出願し係争実用新案権を取得したのか。
(二)本件には専利法第7条第1項の職務発明(考案)規定が適用されるのか。
(三)原告が不当利得の法律関係により被告に係争実用新案の実用新案権を原告に移転登録するよう請求することに理由はあるのか。

三 判決理由の要約
(一)被告は確かに原告会社の資料を利用して出願し係争実用新案権を取得した:
事実証拠及び証人劉○○の証言から、被告が出願した係争実用新案の技術内容は原告会社がALE社から購入したCOBRA彫刻ソフト/ハードシステムに由来するもので、証人劉○○が評価報告を製作し、パラメータを測定し、さらに簡単なレポートを製作して営業担当者等に提出している。よって原告が提出した原告証拠10から13までを構造、効果、目的及び技術内容について係争実用新案の技術内容と対比すると、全体的にみて同じ考案であり、被告が係争実用新案の考案者であるとは認めがたい。

(二)本件は専利法第7条第1項の職務発明(考案)規定は適用されない:
本件係争実用新案は2010年4月1日に登録許可が公告されたため、2004年7月1日に施行された専利法規定を適用されるべきである。本件の双方でが争う職務発明(考案)の部分については、改正前の専利法規定に基づく。改正前専利法第7条第1項、第2項には「被用者(従業員)が職務上完成した発明、実用新案、又は意匠について、その専利出願権及び専利権は使用者に属し、使用者は被用者に相当の報酬を支払わなければならない。但し、契約に別段の約定がある場合はその約定に従う。前項の職務上の発明、実用新案、又は意匠は、被用者が雇用関係中の職務の遂行において完成した発明、実用新案、又は意匠をいう。」と規定されている(現行専利法第7条第1項については「設計」専利に関する用語のみの変更があった(訳注:意匠に対応する中国語の「新式様」が「設計」に変更)が、その実質的内容に変更はない)。本規定は1944年5月29日専利法が制定施行されたとき、第51条には「被用者が職務上完成した発明について、その専利権は使用者に属する。但し契約を定めている場合は、その契約に従う。」と規定されており、その後2004年1月21日の専利法改正において現行の内容となった。
いわゆる「被用者が職務上完成した発明」(訳注:現行専利法第7条では発明だけではなく、実用新案、意匠も含む)とは、同条第2項規定を参酌すると、被用者と使用者との間の雇用契約における権利と義務の約定に基づき、使用者の製品の開発、生産に従事、参加又は執行することをいう。つまり、使用者が被用者を雇用する目的は、研究・開発の業務を担当させることである。使用者は専ら発明を目的として、又は生産技術を改良するために被用者を雇用して研究・発明又は改良に従事させ、被用者は発明を完成する業務を委託され、使用者の設備、経費等を使用してその発明、実用新案又は意匠の製品を完成するもので、使用者が供する給与及びその施設の利用及びチームの協力とは対価の関係があるため、専利法の規定により、「被用者が職務上完成した発明」の専利出願権及び専利権は使用者に帰属する。
調べたところ、被告は2003年6月28日から原告会社の董事(訳注:取締役に相当)及び董事長特別助理(訳注:取締役会長特別助手に相当)に就任し、2008年1月2日には原告会社の総経理(訳注:社長に相当)に就任したことは、被告が提出した原告会社の登記資料及び原告が尋問請求した証人陳○○の証言から証明でき、双方が争うものではない。被告が董事と総経理の職に就いたことは、雇用関係に該当しないことは明らかだ。たとえ原告がいうところの被告と原告会社との間の関係は水平の提携又は委任の関係ではなく、上下に従属する雇用関係であったとしても、被告が原告会社に在職した期間には、双方で約定したのは労務内容であって、被告が係争実用新案を完成する業務に参加することを約定するものではなく、被告も原告会社のために専ら研究開発に従事する人員ではなく、その係争実用新案登録の出願は、その業務契約における義務の履行ではないため、いわゆる「職務発明(考案)」ではなく、専利法第7条第2項規定の立法趣旨とは合わないため、専利法第7条第1項の規定により係争実用新案は被告が「職務発明(考案)」であり、実用新案権は原告の所有に帰属するとする原告の主張は、採用できない。

(三)原告は不当利得の法律関係に基づき被告に係争実用新案権の登記を移転するよう請求できる:
専利権は無体財産権であり、受益者に法律上の原因なく、他人が専利権を出願できる創作を受益者が無断で自らの名義で出願して専利権を取得したことより、他人が所有する財産権に損失をもたらしたときは、受益者には不当利得が成立し、他人は民法第179条の不当利得規定に基づき受益者に該財産権の返還を請求できる。
調べたところ、係争実用新案と原告が提出した原告証拠10~13の技術内容は同じであり、さらに原告証拠11~13は係争実用新案が登録出願する前にすでに存在する資料で、両者は同じ技術であり、被告は係争実用新案を取得する以前の考案過程について関連の証明を提出できないため、被告が係争実用新案を取得した正当な権原を理解することはできない。原告が、被告は原告会社内部の設備、リソース等を利用し無断で係争実用新案登録を出願したと主張することは前述のとおりであり、前記の説明により、原告が民法第179条前段規定により、被告に係争実用新案について原告に返還(移転登録)するよう請求することには根拠がある。
  本件係争実用新案は被告が出願したもので、考案者として被告が記載されており、係争実用新案の公告本を証拠とすることができる。被告は自らを考案者として出願したが、被告はその考案過程を立証できず、原告は係争実用新案出願前の同じ技術内容について原告証拠10〜13の証拠を提出しており、被告が係争実用新案登録を出願した時、原告は総経理でもあり、被告は原告会社の資料を利用して出願し、係争実用新案権を取得したと合理的に推認できることは、前述したとおりである。被告は改正前専利法第5条第2項の考案者の要件を満たしておらず、被告は係争実用新案の登録出願権を取得していない。

結論:本件原告の請求には理由があり、智慧財産案件審理法(知的財産案件審理法)第1条、民事訴訟法第78条により、主文のとおり判決する。

2015年6月3日
知的財産裁判所第一法廷
裁判官 李維心
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