新規性、進歩性が欠如する専利は、社会公衆が使用できるパブリックドメインの技術であり、被許諾者によるその有効性に関する抗弁を認めるべき

2016-12-28 2015年
■ 判決分類:実用新案権

I 新規性、進歩性が欠如する専利は、社会公衆が使用できるパブリックドメインの技術であり、被許諾者によるその有効性に関する抗弁を認めるべき

■ ハイライト
契約目的物である専利(訳注:「専利」には、特許、実用新案、意匠が含まれる)は主務機関による取消しが確定していないものの、被許諾者がその専利の有効性について争い、裁判所が該専利に新規性、進歩性の欠如により取り消すべき事由があると合法的に認定した場合、双方の間で被許諾者は該専利権が存在せず、許諾者の専利は支払不能の状況を構成していると主張してもよく、民法第347条により同法第350条、第353条規定を準用し、債務不履行関連規定に基づき、許諾者にその権利を行使してもよい。また新規性、進歩性を有さない専利は、即ち社会公衆が使用できるパブリックドメインの技術であり、被許諾者がその有効性について抗弁することを許すべきである。

II 判決内容の要約

最高裁判所民事判決
【裁判番号】104年度台上字第2016号
【裁判日期】2015年10月22日
【裁判事由】專利権使用許諾契約

上告人 騵創科技股份有限公司
被上告人 陞達科技股份有限公司

上記当事者における專利権使用許諾契約事件について、上告人は2014年2月20日知的財産裁判所第二審判決(101年度民專上字第58号)に対して上告を提起した。本裁判所は次のとおり判決する。

主文

上告を却下する。
第三審の訴訟費用は上告人の負担とする。

判決理由の要約
一.上告人は起訴して次のとおり主張している。双方は2009年1月15日に技術移転及び使用許諾契約(以下「係争契約」という)を締結した。使用許諾の目的物はわが国実用新案証書番号M328034号(以下「係争わが国実用新案」という)及び中国大陸実用新案証書番号1092031号(以下「係争大陸実用新案」という)の実用新案権(併せて「係争実用新案」という)並びに実用新案技術移転であり、或いは「以磁場及磁場感測器做為座標定位之指向桿的結構或裝置(磁場及び磁気センサで座標定位を行うポジショニング・スティックの構造又は装置)」を被上告人の使用に供するものである。被上告人は2010年3月31日に係争実用新案を含む製品を展示し、係争実用新案を利用した製品は最終開発段階に入っていると述べていることから、被上告人は係争契約内容を履行し、また使用していることも判るが、いかなるライセンス料も支払っておらず、催告に対しても黙殺した。係争契約の約定により、被上告人に対して2010年4月から2011年2月までの間のライセンス料97万5000米ドルに法定遅延利息を加えて支払うことを命じるよう請求する。

二.被上告人は次のとおり抗弁している:双方による契約締結後、上告人は係争契約添付資料Aの関連物品、資料(以下「A資料」という)を渡しておらず、技術移転の事実はなく、且つその技術は実施できないため、被上告人は相当の経費と人力を開発に投入したが、「マウス」が備えるべき機能も達成できなかった。さらに係争実用新案は新規性及び進歩性が欠如しており、実用新案の要件を満たさず、使用許諾の目的物とすることはできず、支払不能の目的物であるため係争契約は無効であると認めるに足る。たとえ有効だったとしても、被上告人は前後して2009年2月3日、2011年5月6日又は訴訟進行中に契約解除、契約解約の意思表示を行っており、上告人はライセンス料を請求できない。

三.原審による審理結果は次のとおりである:
(一)被上告人がこれまでライセンス料を支払っていない等と上告人が主張する状況について、被上告人は争ってはおらず、真実であると信じることができる。ただし、上告人は係争契約の約定に基づいて、A資料を渡す義務があり、上告人は契約後1ヵ月以内にすべての資料を渡している云々と抗弁しているが、提出された資料及び証人の供述はいずれも有利な証明として採用できず、それが支払義務を履行したとは認めがたい。
(二)被上告人は、係争実用新案の請求項1乃至12は進歩性を有せず、取り消すべき事由があると抗弁し、すでに提出されている無効理由の証拠1乃至3を証拠としている。原審において始めて該証拠を提出しているが、被上告人が第一審において係争実用新案の取消しを主張する理由は、ファイル内の証拠資料から意図的に訴訟を遅延させる意図があった、又は重大な過失により期限が切れてから新証拠を提出したとは認めがたく、上告人が智慧財產案件審理細則(知的財産案件審理細則)第33条規定を引用して裁判所は上記証拠を参酌すべきではないとする主張は採用できない。
(三)係争実用新案の請求項は12項あり、そのうち請求項1は独立項、その他は従属項である。無効理由の証拠1は2004年6月24日に公開された米国の実用新案、無効理由の証拠2は2004年7月1日に公開されたわが国の実用新案であり、この公開日は係争実用新案登録出願日よりも先であり、係争実用新案の先行技術である。係争実用新案と対比したところ、無効理由の証拠1は係争実用新案の請求項1,2,3,8,10,11に新規性がないことを証明でき、無効理由の証拠1は係争実用新案請求項4,9,12に新規性がないことは証明できないが、進歩性がないことを証明できる。無効理由の証拠1と通常の知識との組合せにより、係争実用新案の請求項5に進步性がないことを証明できる。無効理由の証拠1と無効理由の証拠2との組合せにより、係争実用新案の請求項6,7に進歩性がないことを証明できる。これらは係争わが国の実用新案が取り消されるべき事由である。
(四)以上のことから、上告人が契約に基づいてA資料を渡しておらず、被上告人が2011年5月6日に契約解除の意思を表示したことは、証拠がないものではなく、況してや係争実用新案には取り消すべき事由があり、被上告人は民法第347条に基づいて同法第350条、第353条の権利の瑕疵担保に関する規定を準用し、債務不履行の規定により契約を解除できる。被上告人は2013年12月11日に法廷にてこの事由により係争契約を解除することを示しており、係争契約は遡及的に消滅していると認めるべきである。上告人が係争契約の約定により、被上告人に97万5000米ドル及びその遅延利息を支払うよう請求することは法に合わず、許可すべきではない。よって(原審が)第一審による上告人勝訴の判決を破棄し、上告人の請求棄却の判決を下したことは法において誤りはない。

四.当事者が知的財産権に(専利権の)取消し、(商標権の)取消しの事由があると主張又は抗弁する場合、裁判所はその主張又は抗弁に理由があるか否かを判断しなければならない。裁判所が(専利権の)取消し、(商標権の)取消しの事由があると認定した場合、知的財産権者は該民事訴訟において相手方に権利を主張してはならない。これは知的財産案件審理法第16条規定から明らかである。係争のわが国実用新案は主務機関、即ち経済部知的財産局より取消しが確定されていないが、被上告人が該実用新案の有效性について争っており、原審も該実用新案は新規性、進歩性を有さず、取り消すべき事由があると認定しており、双方の間で被許諾者は該実用新案権が存在せず、支払不能の状況を構成すると主張してもよく、民法第347条により同法第350条、第353条規定を準用し、債務不履行関連規定に基づき、その権利を行使してもよい。また新規性、進歩性を有さない実用新案は、即ち社会公衆が使用できるパブリックドメインの技術であり、被許諾者はその有効性について抗弁できる。係争実用新案には取り消すべき事由があるため、被上告人は係争契約を解除できると原審が認めたことは、民法第353条、第256条の規定に適合し、法令違背はないといえる。該実用新案は取消しが確定されておらず、その他の排他効力を有し、権利には瑕疵がなく、被上告人はそれにより契約を解除することはできない云々とする上告人の主張は採用できない。
被上告人が係争実用新案の内容を利用して利益を得たことは無く、双方が民法第259条に基づいて原状回復を行うかの問題については被上告人の解除権行使に影響するものではない。さらに被上告人が上記事由を以って係争契約を解除することには根拠があり、上告人がA資料を渡しておらず、被上告人は契約を解除してもよい云々と原審が述べることについて、事実認定と法の適用に不適切なところはなく、判決結果とはかかわりない。上告の論旨は、以前の主張を繰り返しており、原審における証拠の取捨、係争実用新案の新規性、進歩性の欠如の認定等に関する職権の行使が判決結果と関わりのないことから、原判決が法令に違背していると指摘し、その破棄を請求したことには、理由がない。

五.以上の次第で、本件上告には理由がない。民事訴訟法第481条、第449条第1項、第78条により、主文のとおり判決する。

2015年10月22日
最高裁判所民事第六法廷裁判長  高孟焄  
                      裁判官  袁靜文  
                      裁判官  鄭雅萍  
                      裁判官  陳光秀  
                      裁判官  鍾任賜  
本件正本が原本と相違ないことを証明する。
                      書記官  
2015年11月2日
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