三者間対比法は意匠権侵害判断における補助的手法
2018/02/22 | 2017年 前のぺージに戻る     ダウンロード
■ 判決分類:専利権

Ⅰ 三者間対比法は意匠権侵害判断における補助的手法

■ ハイライト
意匠権侵害に係る対比は、まずは(係争)意匠の意匠権の範囲を確定し、その後に確定された意匠権の範囲と係争製品を対比、判断しなければならない。さらに普通の消費者(訳註:「普通の消費者」とは、係争意匠に係る物品及びその先行意匠を合理的に熟知する者をいう)が関連の商品を選択・購入する観点から、係争意匠権の範囲全体の内容を侵害被疑対象において当該意匠に対応する意匠内容と対比し、それを根拠として侵害被疑対象と係争意匠が同一又は類似の物品及び外観であるか否かを判断する。

「三者間対比法(three-way comparison)」とは、先行意匠を用いて係争意匠の属する分野における先行意匠の状況と三者の類似度を分析し、係争製品と係争意匠について全体の外観の類否を判断する補助的な分析手法である。全体観察、総合判断の手法で係争製品と係争意匠との全体の外観が明らかに類似している又は明らかに類似していないと認定できるならば、三者間対比による分析、判断を行う必要はない。また三者間対比を行うときは、係争意匠の全体の外観と係争製品や先行意匠において対応する意匠内容とを全体的に対比しなければならず、局部的な意匠の特徴が類似しているだけで、その全体の外観が類似すると判断するものではない。(資料出所:知的財産局(TIPO)/智慧財産権電子報)

Ⅱ 判決内容の要約

知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】105年度民專訴字第81号
【裁判期日】2017年2月24日
【裁判事由】専利権侵害排除等

原告 萬國通路股份有限公司(EMINENT LUGGAGE CORP.)
被告 威嘉貿易有限公司(WELL JOB CYCLE MANUFACTORY INC.)
兼法定代理人 李○怡

上記当事者間における専利権侵害排除等事件について、当裁判所は2017年2月13日に口頭弁論を終え、次のとおり判決する:
原告の訴え及び仮執行宣言申立をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

一 事実要約
原告は訴状において以下のように主張している。原告は著名なスーツケースメーカーであり、わが国第D146727号意匠「行李箱(スーツケース)」(以下「係争意匠」)の意匠権者でもある。原告は2016年3月に、被告威嘉貿易有限公司(以下「威嘉公司」)が家福股份有限公司(PresiCarre. Corp.)の店舗で販売していた「ヘアライン柄20インチマット加工キャリーバーケース/ファスナー式ケース」(以下「係争製品」)の視覚的デザインと係争意匠の意匠権の範囲である意匠の説明とが実質上類似しており、係争意匠権を侵害された嫌疑があることを知り、原告は弁護士事務所に委託して被告に対して書面で警告を発し、係争製品を商品棚からおろし、賠償について話し合うよう請求したところ、被告は商品を回収し商品棚からおろす意向を返信したが、原告は同年5月に(オンラインショッピングサイトである)「MOMO購物網」及び「MOMO摩天商城--加賀皮件行李箱專賣店網頁」でまだ販売されているという情報を入手し、同サイトで被告の製品1点を購入した。被告威嘉公司は原告が係争意匠権者であることを知りながら係争製品の販売を続けたため、権利侵害の故意がある。また、被告李○怡は被告威嘉公司の法定代理人であり、公司法(会社法)第23条規定により、被告威嘉公司と連帯賠償責任を負わなければならない。専利法第136条、第142条の同法第96条、第97条準用規定により本件訴訟を提起し、意匠権侵害の排除と防止並びに損害賠償を請求する。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告の請求:
1.被告威嘉公司は係争意匠と同一又は類似の物品を製造、販売、使用すること、又はこれらを目的として輸入することを停止せよ。
2.被告は連帯で原告に500万新台湾ドル及訴状送達の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を連帯で支払え。
3.第2項の請求について、原告は担保を供託するので、仮執行宣言を申し立てる。
(二)被告の答弁:
1.原告の訴えを棄却する。
2.不利な判決を受けたとき、担保を供託するので、仮執行免脱宣言を申し立てる。

三 本件の争点
1.意匠の有效性に係る部分:係争意匠は新規性及び創作性を有するのか。
2.意匠権侵害に係る部分:係争製品は係争意匠の意匠権の範囲に含まれるのか。
3.原告の賠償請求に理由はあるのか。損害賠償額はいかに算出するか。
4.原告が侵害の排除と防止を請求することに根拠はあるのか。
(一)原告の主張理由:省略。判決理由の説明を参照。
(二)被告の答弁理由:省略。判決理由の説明を参照。

四 判決理由の要約
(一)係争製品は係争意匠の意匠権の範囲に含まれるのか:
意匠権侵害に係る対比は、まずは(係争)意匠の意匠権の範囲を確定し、その後に確定された意匠権の範囲と係争製品を対比、判断しなければならない。「意匠権の範囲を確定する」とは、図面に開示された内容を基準として、「意匠の説明」の文字を参酌してもよく、それにより図面に表される「外観」及びそれが応用される「物品」を正確に認知し、合理的にその権利の範囲を確定することをいう。確定された意匠権の範囲を侵害被疑対象と対比、判断するとき、先ず侵害被疑対象を解析しなければならない。係争意匠の意匠権の範囲から確定された物品及び外観と照合して、侵害被疑対象において(係争意匠に)対応する意匠内容を認定し、関係のない部分は対比、判断の範囲に入れない。次に普通の消費者が関連の商品を選択・購入する観点から、係争意匠権の範囲全体の内容を侵害被疑対象において当該意匠に対応する意匠内容と対比し、それを根拠として侵害被疑対象と係争意匠が同一又は類似の物品であるか、並びに同一又は類似の外観であるか否かを判断する。

 (1)係争意匠の意匠権の範囲:
意匠権の範囲は「物品」と「外観」で構成される。係争意匠の登録許可公告の図面を根拠とし、さらに「意匠の説明」における意匠の「名称」及び「物品の用途」を参酌すると、係争意匠が応用される物品は物品を収納できる「スーツケース」であると確定できる。係争意匠の登録許可公告の図面を根拠とし、さらに「意匠の説明」に記載される「創作の特徴」を参酌すると、係争意匠の外観は意匠登録出願に係る「図面」の各図面で構成される(スーツケースの)全体形状の通りである。
(2)係争製品の解析:
係争意匠の意匠権の範囲は意匠登録出願に係る「図面」の各図面で構成されるスーツケースの全体形状の通りであるため、対比するときには対応する係争製品のスーツケースの形状についてのみ対比すべきであり、係争製品の色彩は対比の内容には該当しない。
(3)物品の同一又は類似の判断:
係争意匠と係争製品はいずれも物品を収納できる「スーツケース」であり、両者の用途は同じであるため、同一の物品に該当する。
(4)全体の視覚的外観の同一又は類似の判断:
①全体観察、総合判断の対比、判断方法については、普通の消費者が関連の商品を選択・購入する観点から、係争意匠の図面全体の内容と係争製品において該図面に対応する意匠内容とを観察して、それぞれの意匠特徴の同異(共通する特徴と異なる特徴)が全体の視覚的印象に与える影響を総合的に考慮して、「普通の消費者の注意を容易に引く部位又は特徴」を重点とし、その中には「係争意匠が先行意匠とは明らかに異なる意匠特徴」(即ち「新規の特徴」)、「正常な使用において目立つ部位」が含まれる。さらにその他の意匠特徴を併せて、全体の外観を統合した視覚的印象を構成し、係争製品と係争意匠の視覚的印象が混同をもたらすかを総合的に考慮し、混同をもたらす視覚的印象であるときは、両者の全体の外観には実質的な差異がなく、類似の外観であると認定する。
②全体観察と対比による係争意匠と係争製品の「共通する特徴」a~d(添付図3に示す通り):
③全体観察と対比による係争意匠と係争製品の「異なる特徴」、即ち普通の消費者の注意を容易に引く部位又は特徴は特徴eとf(添付図4に示す通り)である。つまり特徴eは係争意匠の先行意匠とは明らかに異なる意匠特徴(即ち「新規の特徴」)であり、一方係争製品にはこの新規の特徴が含まれない。さらに係争製品と係争意匠はいずれも前面パネルに「f.数本の上下の伸び、細いものと太いものが交互に配列される『リブ』」という特徴があるが、係争意匠のリブ上端はケースの形状に沿って折れ曲がり、下端は中央がより長く、両側がより短い配列となっているのに対して、係争製品はリブが上下端ともに直線的に配列され、上端部分に折れ曲がった部分はないため、両者は前面パネルのリブ配列の特徴についても異なっている。
④まとめると、係争製品と係争意匠との異なる特徴eとfは係争意匠の新規の特徴又は正常な使用において目立つ部位であり、いずれも「普通の消費者の注意を容易に引く部位又は特徴」に該当し、両者の共通する特徴a、b、c、dは一般的で周知されたスーツケースの基本的な共通様式にすぎないことから、係争製品と係争意匠の全体の視覚的外観を総合的に判断し、普通の消費者が関連の商品を選択・購入する観点から、両者の外観の異なる特徴によって係争製品の全体の外観と係争意匠とは明確に区別でき、全体がもたらす視覚的印象によって一般の消費者はそれらの全体の造形デザインを区別でき、混同をもたらす視覚的印象には至らないため、係争製品は係争意匠の意匠権の範囲には含まれない。

(二)原告は先行意匠の個別のパネル設計の正面図についてそれぞれ三者間対比を行うことにより、係争製品と係争意匠は広いものと狭いものが交互に配列される凸状リブを有するパネル設計であるわかり、先行意匠の二者に比べて全体の視覚的印象が明らかにより類似しており、係争製品と係争意匠の類似を補助的に判断できる云々と主張している。ただし調べたところ、いわゆる三者間対比法とは、先行意匠を用いて係争意匠の属する分野の先行意匠の状態と三者間の類似度を分析することにより、係争製品と係争意匠との全体の外観の類否を判断する補助的分析方法である。全体観察、総合判断の方法で係争製品と係争意匠との全体の外観が明らかに類似している、又は類似していないと認められたならば、さらに三者間対比法の分析、判断を行う必要はない。これにより、本件は係争製品と係争意匠の全体の視覚的外観を総合判断して、普通の消費者が関連の商品を選択・購入する観点から、両者の外観の異なる特徴によって係争製品の全体の外観と係争意匠を明らかに区別でき、混同の視覚的印象をもたらすに至らない。すでに前述したとおり、三者間対比法で分析判断する云々とする原告のさらなる主張は採用することができない。

(三)まとめると、係争製品は係争意匠の意匠権の範囲には含まれず、被告威嘉公司が係争製品を製造、販売することは、係争意匠を侵害しておらず、係争意匠は無効であるとする被告の抗弁を審理する必要はない。したがって原告が係争製品は係争意匠を侵害していると主張し、専利法第136条、第142条の同法第96条、第97条準用規定に基づいて本件訴訟を提起し、請求の趣旨に示されるように請求することには理由がなく、棄却すべきである。また原告の訴えが棄却されたことにより、その仮執行宣言申立もその根拠を失い、併せて棄却すべきものである。

以上の次第で、本件原告の訴えには理由がなく、智慧財産案件審理法(知的財産案件審理法)第1条、民事訴訟法第78条により主文のとおり判決する。

2017年2月24日
知的財産裁判所第三法廷
裁判官  張銘晃