先行技術がすでにそれが属する技術分野の解決すべき技術的課題を教示していれば、当業者に先行技術を組み合わせる動機付けはあると合理的に予期できるはず

2018-04-25 2017年

■ 判決分類:専利権

I 先行技術がすでにそれが属する技術分野の解決すべき技術的課題を教示していれば、当業者に先行技術を組み合わせる動機付けはあると合理的に予期できるはず

■ ハイライト

係争実用新案登録出願は知的財産局より許可査定を受けた。無効審判請求人はそれが専利法(訳註:特許法、実用新案法、意匠法に相当)第120条の第22条第1項第1、2号及び第2項準用規定違反により実用新案の要件を満たしていないとして、無効審判を請求した。係争実用新案権者は訂正を提出し、知的財産局は訂正を許可して訂正本(訂正版の書類)に基づいて審理し、係争実用新案の請求項2乃至3が前記専利法規定に違反していると認め、無効審判請求成立による(実用新案権の)取消処分を審決した。係争実用新案権者はこれを不服として「証拠3、4の組合せは係争実用新案請求項2の進歩性欠如を証明するに足りない」として行政訴願を提起したが経済部に棄却され、さらに承服できず知的財産裁判所に行政訴訟を提起した。

裁判所は、一.「実用新案の進歩性の判断においては、その考案の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」)が開示された技術で実用新案登録出願に係る組合せの態様をなすための合理的かつ具体的な理由を探究すべきである。さらに先行技術間、並びに先行技術と係争実用新案との間で、それが属する技術分野の関連性、解決しようとする技術的課題、課題を解決するための技術的手段、及び達成しようとする効果の共通性等について、明らかに組み合わせることができない、又は先天的に相容れない事情を有するかを審査すべきである。先行技術がすでにそれが属する技術分野の解決すべき技術的課題を教示しているときは、該分野の当業者が技術分野に関連性があり且つ技術的課題が同一又は類似する先行技術を参考として先行技術を組み合わせる動機付けがあり、先行技術を基礎として転用、置換、変更又はその他の先行技術との組合せを行い、登録出願に係る実用新案全体を容易になし得て、予期できる効果をもたらすことができる。」、二.「本件証拠3、4はいずれも授乳服に関する先行技術であり、当業者が授乳服の構造を改良したいならば、これらの証拠の技術内容を参酌し、組み合わせて運用する合理的な動機付けがある。また証拠4の授乳服は、その上衣の前衣をめくることができ、少なくとも一つの外開口部が設置され、該前衣をめくる又は該外開口部を開くことで前衣の内部にある内開口部に入り、片側の乳房を局部的に露出して、乳児に授乳することができる。それがもたらす効果と係争実用新案請求項2の効果とは全く同じである。証拠4と証拠3とを組み合わせた先行技術は係争実用新案請求項2の全体を容易になし得るもので、予期できる効果をもたらし、係争実用新案請求項2は進歩性を有さないと認めるに足る。」と指摘し、原処分を維持する訴願決定には誤りがなく、原告の訴えを棄却すべきであると認めた。【資料出所:TIPO知的財産権電子報】

II 判決内容の要約

知的財産裁判所行政判決
【裁判番号】105年度行專訴字第44号
【裁判期日】2017年3月8日
【裁判事由】実用新案無効審判

原  告  科邦国際企業有限公司(KOBON LTD.)
被  告  経済部知的財産局
参加人  台湾華歌爾股份有限公司(TAIWAN WACOAL CO., LTD.)

上記当事者間における実用新案無効審判事件について、原告は経済部2016年4月27日経訴字第10506304510号訴願決定を不服として行政訴訟を提起した。当裁判所は参加人に本件被告の訴訟に独立して参加するように命じる決定を行った。次のとおり判決する。

主文

原告の訴えを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

一 事実要約

原告は2012年11月30日に「哺乳衣」(訳註:授乳服の意)の実用新案登録を出願した。その実用新案登録請求の範囲は請求項が12項目あり、請求項1は独立項、その他は従属項であった。被告は形式審査を経て許可査定し、第M449467号実用新案証書を発給した。その後、参加人は係争実用新案が許可時の専利法第120条の第22条第1項第1号、第2号及び第2項準用規定に違反しているため、これに対して無効審判を請求した。原告は2014年5月、11月、12月、2015年2月2日及び同年月13日に実用新案登録請求の範囲の訂正本(それによると2015年2月13日の訂正では請求項1、請求項4乃至12を削除するとともに、独立項である請求項1に元来従属していた請求項2、3を独立項に訂正している)を提出し、被告の審理を経て、2015年11月19日に「2015年2月13日付の訂正事項については訂正事項を許可する。請求項2乃至3は無効審判請求成立により取り消すべきである。請求項1、4乃至12は無効審判請求を棄却する」との処分が下された。原告は前記の「請求項2乃至3は無効審判請求成立により取り消す」との処分を不服として、行政訴願を提起したが、経済部は2016年4月27日に「訴願棄却」の訴願決定書を発したため、原告はなお不服として当裁判所に行政訴訟を提起した。当裁判所は職権により参加人に本件被告の訴訟に独立して参加するよう命じた。

二 両方当事者の請求内容

(一)原告の請求:(1)原処分の「請求項2乃至3は無効審判請求成立により取り消す」部分に関する処分、及び訴願決定をいずれも取り消す。(2)訴訟費用は被告の負担とする。
(二)被告の答弁:(1)原告の請求を棄却する。(2)訴訟費用は原告の負担とする。
(三)参加人の請求:(1)原告の請求を棄却する。(2)訴訟費用は原告の負担とする。

三 本件の争点

(1)証拠3と証拠4の組合せは、係争実用新案請求項2の進歩性欠如を証明できるか。
(2)証拠4と証拠6の組合せは、係争実用新案請求項2の進歩性欠如を証明できるか。
(3)証拠3と証拠5の組合せは、係争実用新案請求項3の進歩性欠如を証明できるか。
(4)証拠5と証拠6の組合せは、係争実用新案請求項3の進歩性欠如を証明できるか。

四 判決理由の要約

(一)「実用新案権の無効審判請求を提起することができる事情は、登録許可処分が下された時の規定による。」と専利法第119条第3項前段に規定されている。調べたところ、係争実用新案登録出願日は2012年11月30日、登録許可査定日は2013年2月20日であり、実用新案登録請求の範囲はその後訂正して訂正公告がなされ、法により出願日に遡り発効した。係争実用新案に無効審判請求の事由があったのかは、その登録許可査定時の専利法規定によるべきであり、即ち2011年12月21日改正公布、2013年1月1日施行の専利法で判断すべきである。

(二)係争実用新案登録請求の範囲:係争実用新案は原告が2015年2月13日に訂正申請を提出し、被告が本件無効審判と併せて審理して訂正許可を公告した。係争実用新案は訂正後、請求項2、3のみが残った。

(三)引例:証拠3はわが国第M440657号実用新案、証拠4はわが国第M290669号実用新案、証拠5は日本第JP0000-000000A号特許、証拠6はわが国第M285235号実用新案で、それらの公告日及び公開日はいずれも係争実用新案登録出願日よりも早く、係争実用新案の先行技術となるに足る。

(四)係争実用新案の請求項2、3はいずれも進歩性を有さない:

1.実用新案の進歩性の判断においては、その考案の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」)が開示された技術で登録出願に係る実用新案の組合せの態様をなすための合理的かつ具体的な理由を探究すべきである。さらに先行技術間、並びに先行技術と係争実用新案との間で、それが属する技術分野の関連性、解決しようとする技術的課題、課題を解決するための技術的手段、及び達成しようとする効果の共通性等について、明らかに組み合わせることができない、又は先天的に相容れない事情を有するかを審査すべきである。先行技術がすでにそれが属する技術分野の解決すべき技術的課題を教示しているときは、該分野の当業者が技術分野に関連性があり且つ技術的課題が同一又は類似する先行技術を参考として先行技術を組み合わせる動機付けがあり、先行技術を基礎として転用、置換、変更又はその他の先行技術との組合せを行い、登録出願に係る実用新案全体を容易になし得て、予期できる効果をもたらすことができる。本件証拠3、4、5、6はいずれも授乳服に関する先行技術であり、当業者が授乳服の構造改良に従事するならば、これらの証拠の技術内容を合理的に参酌し、組み合わせて運用することができる。

2.証拠3、4と係争実用新案請求項2との対比:

(1)証拠3はすでに係争実用新案請求項2が進歩性を有さないことを証明するに足る。

(2)証拠4の効果と係争実用新案請求項2の効果とは全く同じである。証拠4と証拠3とを組み合わせた先行技術は係争実用新案請求項2の全体を容易になし得るもので、予期できる効果をもたらし、係争実用新案請求項2は進歩性を有さないと認めるに足る。

(3)原告は係争実用新案が証拠3とは異なっており、さらに係争実用新案は証拠3を改良したもので、授乳時にはだけてしまうリスクを減らし、製作の時間とコストを削減できると主張している。しかしながら、実用新案は自然法則を利用した技術思想で、物品の形状、構造又は組合わせに関する創作であり、よって進歩性の判断は当業者が先行技術の開示内容と出願時の通常の知識に基づいて該創作の全体を容易になし得るかを斟酌すべきである。係争実用新案請求項2のすべての技術的特徴は証拠3と対比すると、内層の2枚タイプを1枚タイプに簡単に変更したものに過ぎず、この簡単な変更は明らかにこの技術を熟知した技術者にとっては容易になし得るものであるため、係争実用新案請求項2は進歩性を有さないと認められる。たとえ原告が係争実用新案は製作工程やコストが少なく、歩留まり率が向上されたと主張したとしても、この分野の当業者にとって2枚タイプのの内層を1枚タイプに容易に変更できるという事情を妨げるものではない。

3.証拠4、6とその組合せは、係争実用新案請求項2が進歩性を有さないと判断するに足る:

(1)証拠4の技術的特徴と機能は、係争実用新案請求項2が進歩性を有さないことを証明できる。

(2)証拠6は係争実用新案請求項2が進歩性を有さない依拠となり得る。証拠4、6の技術的特徴と機能は、それが属する技術的分野が解決すべき課題を教示しており、両者を組み合わせることで、さらに登録出願に係る実用新案全体を容易になし得て、予期できる効果をもたらすため、係争実用新案請求項2は進步性を有さないと認めるに足る。

4.証拠3、5の組合せは請求項3が進歩性を有さないと認めるに足る:

(1)証拠3と係争実用新案請求項2のすべての技術的特徴を対比すると、内層の2枚タイプを1枚タイプに簡単に変更したものに過ぎない。証拠3と係争実用新案請求項3のすべての技術的特徴を対比すると、内層の2枚タイプから1枚タイプへの簡単な変更以外に異なる点は、内層の2つの内側縁部の一端が連結しているのが「ネックライン」ではなく「バストライン」であることのみである。

(2)係争実用新案請求項3の「内層の2つの内側縁部の一端がバストラインに連結する」は、証拠5の技術的特徴に対する簡単な位置の変更にすぎない。

(3)係争実用新案請求項3は証拠3、5を組み合わせた技術的特徴の簡単な変更であり、当業者であれば出願前の先行技術により容易になし得るものであり進歩性を有さない。

5.証拠5、6の組合せは請求項3が進歩性を有さないと証明するに足る:

(1)証拠6は係争実用新案請求項2が進歩性を有さないと証明でき、かつ証拠6は係争実用新案請求項3の「内層の2本の内側縁部はバストラインに連結している」を除くその他の技術的特徴が進歩性を有さないと証明できる先行技術である。

(2)証拠5が図示するとおり、係争実用新案請求項3は周知の技術を運用した簡単な位置の変更にすぎないことがわかる。

(3)係争実用新案請求項3は証拠6と証拠5を組み合わせた先行技術の簡単な変更であり、それには当業者にとって容易になし得るものであり、進歩性を有さないことは明らかである。

(五)以上をまとめると、係争実用新案請求項2、3はいずれも進歩性を有さず、被告がなした係争実用新案「請求項2乃至3は無効審判請求成立により取り消す」との処分、及び訴願機関の訴願棄却の決定には法に合わないところはなく、原告が以前からの主張に徒にこだわり、原処分の「請求項2乃至3は無効審判請求成立により取り消す」部分に関する処分、及び訴願決定の取消を請求することは明らかに理由がないため、これを棄却すべきである。以上の次第で、智慧財産案件審理法(知的財産案件審理法)第1条、行政訴訟法第98条第1項前段により主文のとおり判決する。


2017年3月8日  
知的財産裁判所第三法廷
裁判長 林欣蓉 
裁判官 張銘晃
裁判官 魏玉英

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