無効審判時に専利権の主体と客体の争いを同時に主張できず、面接申請事由は本件と無関係であるとした拒絶は適法
2020/08/24 | 2019年 前のぺージに戻る    
■ 判決分類:専利権

I 無効審判時に専利権の主体と客体の争いを同時に主張できず、面接申請事由は本件と無関係であるとした拒絶は適法

■ ハイライト
参加人は2016年9月12日に実用新案登録を出願し、被告(知的財産局)の審査を経て登録が許可された(以下「係争実用新案」という)。その後原告(無効審判請求人)は係争実用新案には許可時の専利※法第120条の準用する第22条第1項第1号及び第2項規定の違反があるとして、これに対して無効審判を請求した。参加人は訂正を提出し、被告(知的財産局)は案件につき審理した結果、訂正を許可するとともに、「係争実用新案の請求項3乃至8は無効審判請求理由が成立せず、請求項1乃至2は無効審判請求を却下する」という処分を下した。原告はこれを不服とし、手順を踏んで行政訴訟を提起した。知的財産裁判所は審理した結果、なお原告の請求を棄却した。(※訳注:「専利」には特許、実用新案、意匠が含まれる)

争点:被告が無効審判の段階における原告からの面接申請を拒絶したことに誤りがあったのか。

上記の問題について、知的財産裁判所は判決において次のように指摘している。
一.調べたところ原告は、係争実用新案は参加人が原告の創作を窃取して出願したものであり、無効審判の段階で面接を求めたが、被告が本件とは無関係であるとして拒絶したことには明らかに誤りがあると、主張している。しかしながら考察すると、専利法第120条の準用する第76条第1項第1号規定により、専利主務機関は無効審判の審理をするときは、申請又はその職権により専利権者に専利主務機関に出向いて面接を受けるよう通知することが「できる」ため、面接を行うか否かは被告に裁量権があり、必要の有無に応じて、行うか否かを決定できる。

二.さらに調べたところ、原告は係争実用新案の真の考案者ではないという事由で面接を申請したが、無効審判を請求して係争実用新案には新規性及び進歩性の欠如があると主張しており、参加人が係争実用新案の考案者であるか否かは、本件の争点とは関係がない。況してや法に定められた無効審判請求の事由において、専利権者が専利出願権者でない場合、専利出願権共有者である場合、又は専利権者の属する国が我が国国民による専利出願を受理しない場合の争いは、専利権主体に係る争いである。その他の事由について、例えば新規性、進歩性(創作性)などの専利要件を満たさない場合は、専利権客体に係る争いである。

三.専利権主体に係る争いは請求項に分けて争ってはならず、専利権客体に係る争いは請求項に分けて争ってもよい。よって論理上の矛盾を回避するため、無効審判請求は両者を同時に主張することはできない。これは現行の專利審査基準第五篇「無効審判審理」4.3.1 「無効審判請求事由の審理」に明記されているため、原告も係争実用新案が新規性/進歩性を有しないことと参加人が真の実用新案権者ではないことを同時に主張できない。

四.以上をまとめると、被告が原告の面接申請事由が本件と無関係であると認め、面接の機会を与えなかったことに、法における誤りはない。

II 判決内容の要約

知的財産裁判所行政判決
【裁判番号】108年行專訴字第16号
【裁判期日】2019年8月15日
【裁判事由】実用新案無効審判

原告 李建志
被告 経済部知的財産局
参加人 萬聯傢俱有限公司

上記当事者間の実用新案無効審判事件について、原告が経済部2019年1月14日経訴字第10706311150号訴願決定を不服として行政訴訟を提起し、参加人は被告の訴訟に対する独立参加を申し出た。当裁判所は次のとおり判決する。

主文
原告の訴えを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

一 事実要約
参加人は2016年9月12日に「鍋(原文:鍋具)」を以って被告に実用新案登録を出願し、その請求項は8項であった。被告により第105214080号出願案件として方式審査が行われ、登録が許可され、実用新案第M539308号登録証(以下「係争実用新案」)が交付された。その後原告は係争実用新案が許可時の專利法第120条の第22条第1項第1号及び第2項準用規定に違反しており、実用新案登録の要件を満たしてないとして、2017年6月7日にこれに対して無効審判を請求した。参加人は同年8月23日に係争実用新案の実用新案登録請求の範囲の訂正資料(請求項1乃至2を削除し、請求項5乃至6の一部内容を訂正)を提出した。被告は審理した結果、専利法の関連規定を満たしているとして、その訂正資料に基づいて審理を行い、2018年6月20日(107)智専三(一)02016字第10720553740号無効審判審決書を以って「2017年8月23日の訂正事項について訂正を許可する」、「請求項3乃至8について無効審判請求を不成立とする」、「請求項1乃至2について無効審判請求を却下する」という処分を下した。原告は前述の無効審判請求の不成立処分を不服とし、行政訴願を提起し、経済部は2019年1月14日経訴字第10706311150号訴願決定を以って棄却し、原告はそれを不服として、さらに当裁判所に訴訟を提起した。当裁判所は本件訴訟の結果により、訴願決定及び原処分が取り消された場合、参加人の権利又は法律上の利益は損害を被るため、当裁判所は参加人による本件被告の訴訟への独立参加の申出を許可した。

二 両方当事者の請求内容
原告の請求:原処分及び訴願決定を取り消す。 
被告の請求:原告の訴えを棄却する。

三 本件の争点
1.証拠2、4乃至8は係争実用新案の請求項3乃至8の新規性欠如をそれぞれ証明できるか。
2.証拠2、4乃至6、証拠物件五の組合せは、係争実用新案の請求項3乃至7の進歩性欠如を証明できるか。
3.証拠2、4乃至7の組合せは係争実用新案の請求項8の進歩性欠如を証明できるか。
4.被告が原告からの無効審判段階における面接申請を拒絶したことに誤りはあるのか。

四 判決理由の要約
(一)係争実用新案の技術分析:
1.係争実用新案の技術内容:
係争実用新案の目的は、少なくとも先行技術の欠点を克服できる鍋を提供することにある。上記目的を達成するために、係争実用新案の鍋には、一つの鍋本体と一つの固定ユニットを含む。前記鍋本体は少なくとも一つの調理空間を区切るものである。
前記固定ユニットには、前記鍋本体の底面から下方に突出し、かつ内側と外側に隔てて設置された一つの第一固定部と第二固定部が含まれる。前記鍋をガスコンロ上に置く時、前記固定ユニットにより前記ガスコンロの一つの五徳に嵌合して固定し、安定して滑動しないようにして、調理の安全性を向上させることができる。さらに前記固定ユニットの前記第一固定部と第二固定部の設計により、さまざまな形態及び寸法の五徳に使用できるため、使いやすいという効果を有する。 
2.係争実用新案の請求項3を以下のように分析する。
請求項3:前記固定ユニットの前記第一固定部は中空の環状を呈する環状足であり、前記第二固定部は数個の等角度の間隔を有する角足を有し、全ての角足は中央に向かってV字型に開いていることを特徴とする、請求項1記載の鍋。

(二)無効審判証拠の技術分析:
1.証拠2は2016年6月1日公告のわが国出願番号第104219177号実用新案案件であり、その公告日は係争実用新案の出願日(2016年9月12日)より早く、係争実用新案の先行技術となる。 
2.証拠4は2013年9月1日公告のわが国出願番号第102200250号実用新案案件であり、その公告日は係争実用新案の出願日(2016年9月12日)より早く、係争実用新案の先行技術となる。 
3.証拠5は2011年4月11日公告のわが国出願番号第99219547号実用新案案件であり、その公告日は係争実用新案の出願日(2016年9月12日)より早く、係争実用新案の先行技術となる。 
4.証拠6は2007年10月11日公告のわが国出願番号第96203413号実用新案案件であり、その公告日は係争実用新案の出願日(2016年9月12日)より早く、係争実用新案の先行技術となる。 
5.証拠7は2016年7月21日公告のわが国出願番号第104215313号実用新案案件であり、その公告日は係争実用新案の出願日(2016年9月12日)より早く、係争実用新案の先行技術となる。 
6.証拠物件五は2008年7月21日公告のわが国出願番号第96218347号実用新案案件であり、その公告日は係争実用新案の出願日(2016年9月12日)より早く、係争実用新案の先行技術となる。

(三)証拠2、4乃至8は係争実用新案の請求項3乃至8の新規性欠如を証明するのに十分ではない:
1.係争実用新案の鍋底面の下方に突出した固定ユニットには第一固定部と第二固定部があり、証拠2、4、6、7にはいずれも係争実用新案の請求項3の「前記第二固定部は数個の等角度の間隔を有する角足を有し、全ての角足は中央に向かってV字型に開いている」という技術的特徴が開示されていない。証拠5には係争実用新案の請求項3で特定されている「前記固定ユニットの前記第一固定部は中空の環状を呈する環状足である」という技術的特徴が開示されていない。証拠2、4乃至7のいずれも係争実用新案の請求項3の新規性欠如を証明するには十分ではない。 
2.係争実用新案の請求項4乃至8はいずれも直接的又は間接的に請求項3に従属している従属項であり、請求項3の全ての技術的特徴を含んでおり、証拠2、4乃至8がいずれも係争実用新案の請求項3の新規性欠如を証明できないことは前述したとおりであり、前記証拠は係争実用新案請求項3の全ての技術的特徴を含む請求項4乃至8の新規性欠如を証明するのにも十分ではない。

(四)証拠2、4乃至6、証拠物件五の組合せは係争実用新案の請求項3乃至7の進歩性欠如を証明するには十分ではない:
1.係争実用新案の明細書段落【0011】乃至【0014】及び図5を参酌すると、係争実用新案の請求項3は鍋本体(2)の底面に設けられた固定ユニット(3)によって五徳(12)に嵌合して固定され、前記鍋(2)が前記五徳(12)上で安定して滑動しないようにし、さらに前記固定ユニット(3)は第一固定部(31)と第二固定部(32)の内外二重固定設計によってさまざまな形態及び寸法の五徳(12)に使用でき、使いやすく、応用の幅が広いという効果を有することが分かる。
2.調べたところ、証拠2、5は係争実用新案と解決しようとする課題並びにそれが達成する効果はいずれも異なり、しかも鍋が二重に五徳上で嵌合して固定されるという構造と効果を教示も暗示もしていない。
さらに証拠6には、係争実用新案の請求項3のような前記第一固定部及び第二固定部の内外二重固定設計によってさまざまな形態及び寸法の五徳に適用できる効果を達成することが開示されていない。さらに証拠4には係争実用新案の請求項3の「前記固定ユニットの前記第一固定部は中空の環状を呈する環状足である」及び「前記第二固定部は数個の等角度の間隔を有する角足を有し、全ての角足は中央に向かってV字型に開いている」等の構造が開示されていない。
係争実用新案の鍋本体の底面において内側と外側に隔てて設置された第一固定部と第二固定部は、前記第一固定部が中空の環状を呈する環状足であり、第二固定部が数個の等角度の間隔を有する角足を有し、全ての角足は中央に向かってV字型に開いているという異なる構造を呈し、さまざまな形態の五徳に対応できるという創作の目的と達成できる効果は、証拠5、6及び証拠物件五のいずれにも教示も暗示もされていない。係争実用新案の請求項3の構造と全く異なる状況において、たとえ証拠2、4乃至6、証拠物件五がいずれも鍋又は加熱容器に関連する技術分野に属していても、(係争実用新案の請求項3は)その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」)が出願前の先行技術である証拠2、4乃至6、証拠物件五を簡単に応用して組み合わせ、容易になし得るものではない。よって証拠2、4乃至6、証拠物件五の組合せは係争実用新案の請求項3の進歩性欠如を証明するには十分ではない。
3.証拠2、4乃至6、証拠物件五の組合せが係争実用新案の請求項3の進歩性欠如を証明するには十分でないことは、前述したとおりである。前記証拠の組合せは係争実用新案請求項3の全ての技術的特徴を含む請求項4乃至7の進歩性欠如を証明するにも十分ではない。

(五)証拠2、4乃至7の組合せは係争実用新案の請求項8の進歩性欠如を証明するには十分ではない:
係争実用新案の請求項8は直接的に請求項7に従属し、間接的に請求項3に従属する従属項であり、請求項3の全ての技術的特徴を含む。当業者であっても、証拠2、4乃至6、証拠物件五を組み合わせて、係争実用新案請求項3の全ての技術的特徴を完成しようとする動機付けを持ち難く、しかも証拠7には係争実用新案の請求項3の「前記固定ユニットの前記第一固定部は中空の環状を呈する環状足である」及び「前記第二固定部は数個の等角度の間隔を有する角足を有し、全ての角足は中央に向かってV字型に開いている」等の技術的特徴が開示されていないことは、前述したとおりである。よってたとえ証拠2、4乃至7がいずれも鍋又は加熱容器に関する技術分野に属していても、当業者がそれらを組み合わせて係争実用新案請求項8の全ての技術的特徴を完成しようとする動機付けを持ち難い。よって証拠2、4乃至7の組合せは係争実用新案の請求項8の進歩性欠如を証明するには十分ではない。

(六)被告が原告からの無効審判段階における面接申請を拒絶したことに誤りはあるのか:
原告は、係争実用新案は参加人が原告の創作を窃取して出願したもので、原告から無効審判の段階で面接を求めたが、被告が本件には無関係であるとして拒絶したことには明らかに誤りがある云々と主張している(訴状第8頁を参照)。しかしながら考察すると、専利法第120条の準用する第76条第1項第1号規定により、専利主務機関は無効審判の審理をするときは、申請又はその職権により特許権者に専利主務機関に出向いて面接を受けるよう通知することが「できる」ため、面接を行うか否かは被告に裁量権があり、必要の有無に応じて、行うか否かを決定できる。さらに調べたところ、原告は参加人が係争実用新案の真の考案者ではないという事由で面接を申請したが、無効審判を請求して係争実用新案には新規性及び進歩性の欠如があると主張しており、参加人が係争実用新案の考案者であるか否かは、本件の争点とは関係がない。況してや「法に定められた無効審判請求の事由において、専利権者が専利出願権者でない場合、専利出願権共有者である場合、又は専利権者の属する国が我が国国民による専利出願を受理しない場合の争いは、専利権主体に係る争いとなる。その他の事由について、例えば新規性、進歩性(創作性)などの専利要件を満たさない場合は、専利権客体に係る争いとなる。専利権主体に係る争いは請求項に分けて争ってはならず、専利権客体に係る争いは請求項に分けて争ってもよい。よって論理上の矛盾を回避するため、無効審判請求は両者を同時に主張することはできない。」と現行の專利審査基準第五篇「無効審判審理」4.3.1 「無効審判請求事由の審理」には明記されているため、原告は係争実用新案が新規性/進歩性を有しないことと参加人が真の実用新案権者ではないことを同時に主張できない。よって、被告が原告の面接申請事由が本件と無関係であると認め、面接の機会を与えなかったことに、法における誤りはない。

(七)以上をまとめると、証拠2、4乃至8のそれぞれは係争実用新案の請求項3乃至8の新規性欠如を証明できず、証拠2、4乃至6、証拠物件五の組合せは、係争実用新案の請求項3乃至7の進歩性欠如を証明できず、証拠2、4乃至7の組合せは係争実用新案の請求項8の進歩性欠如を証明できず、よって被告が下した「請求項3乃至8の無効審判請求不成立」という処分は法に合わないところがなく、訴願決定を維持したことにも誤りはない。原告が原処分及び訴願決定を取り消し、被告に無効審判請求成立の処分を命じるように請求することには理由がなく、棄却すべきである。

以上の次第で、本件原告の請求には理由がなく、智慧財産案件審理法(知的財産案件審理法)第1条、行政訴訟法第98条第1項前段、第218条,民事訴訟法第385条により、主文のとおり判決する。

2019年8月15日
知的財産裁判所第二法廷
裁判長 汪漢卿
裁判官 熊誦梅
裁判官 曾啟謀