係争実用新案に明らかに「進歩性が否定される要素」がないならば、進歩性欠如の論理付けができず、当該創作には進歩性があると判断すべきである
2022/06/22 | 2021年 前のぺージに戻る    
■ 判決分類:専利権

I 係争実用新案に明らかに「進歩性が否定される要素」がないならば、進歩性欠如の論理付けができず、当該創作には進歩性があると判断すべきである

進歩性の審査は、先行技術を基礎として、専利出願(に係る発明又は創作)の進歩性の有無を判断する。出願に係る発明又は創作と先行技術との違いを比較し、且つ出願に係る発明又は創作がその発明又は創作の属する技術分野における通常の知識を有する者(当業者)にとって出願前の先行技術に基づいて容易になし得るものであるであるか否かについて、出願に係る発明又は創作を全体(as a whole)として判断すべきである。すなわち、特許請求の範囲又は実用新案登録請求の範囲における各請求項に記載される発明又は創作の「全体」について判断し、それが当業者にとって先行技術に基づいて容易になし得るか否かを審査しなければならない。先行技術が進歩性欠如の論理付けをできないときは、客観的事実について先行技術は係争専利の進歩性欠如を証明するのに不十分であると判断すべきである。

II 判決内容の要約

知的財産裁判所行政判決
【裁判番号】109年度行專訴字第50号
【裁判期日】2021年5月13日
【裁判事由】実用新案無効審判

原   告 陳淵慎
被   告 経済部
参 加 人 維力食品工業股份有限公司(Wei Lih Food Industrial Co., Ltd.)

上記当事者間の実用新案無効審判事件について、原告は経済部2020年9月16日経訴字第10906309040号訴願決定を不服とし、行政訴訟を提起し、本裁判所は次の通りに判決する:
  
主文
原告の訴えを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

一 事実要約
参加人は2013年9月11日に「即席麺用碗セット(原文:速食麵碗組)」を以って知的財産局に実用新案登録を申請し、知的財産局は審査して実用新案の登録を許可した(以下「係争実用新案」、添付図1)。その後原告(無効審判請求人)は許可時の専利法第22条第1項第1号及び第2項規定に該当するとして無効審判を請求した。参加人は訂正し、知的財産局の審理を経て「訂正を許可する」並びに「請求項1乃至4については無効審判の請求が成立し、取り消す」という処分が下された。参加人はこれを不服として行政訴願を提起し、被告(経済部)は原処分取消の処分を下した。原告はこれを不服として、知的財産裁判所に行政訴訟を提起した。知的財産裁判所は審理した結果、原告の訴えを棄却した。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告の声明:訴願決定を取り消し、訴訟費用は被告の負担とする。
(二)被告の声明:原告の訴えを棄却し、訴訟費用は原告の負担とする。
(三)参加人の声明:原告の訴えを棄却し、訴訟費用は原告の負担とする。

三 本件の主な争点
証拠2は請求項1の進歩性欠如を証明するのに十分か。

四 判決理由の要約
(一)係争実用新案は内容器及び外容器を含む即席麺用碗セットであり、添付図1に示される通りである。係争実用新案は訂正後の実用新案登録請求の範囲は計4項目からなり、そのうち請求項1は独立項、その他は従属項である。証拠2は2013年7月1日に公告された台湾第M456142号実用新案「紙コップ構造の改良(原文:紙杯結構改良)」である。証拠2の公告日は係争実用新案登録出願日より(2013年9月11日)より前であるため、係争実用新案の先行技術となり、その主な図面は添付図2に示す通りである。
証拠2と係争実用新案の訂正後請求項1の技術的特徴を対比すると、係争実用新案の訂正後請求項1と証拠2との相違点は、係争実用新案の訂正後請求項1でさらに限定されている「該内容器と該外容器の形状とサイズが異なる」等の技術的特徴にある。証拠2は紙コップ(1)を重ねた構造を有するが、該内外層の重ねられた紙コップ(1)はいずれも「同じ形状とサイズ」の容器構造を有し、係争実用新案の訂正後請求項1におけるこの技術的特徴とは異なる。

(二)進歩性の審査は、先行技術を基礎として、専利出願(に係る発明又は創作)の進歩性の有無を判断する。出願に係る発明又は創作と先行技術との違いを比較し、且つ出願に係る発明又は創作がその発明又は創作の属する技術分野における通常の知識を有する者(当業者)にとって出願前の先行技術に基づいて容易になし得るものであるか否かについて、出願に係る発明又は創作を全体(as a whole)として判断すべきであり、出願に係る発明又は創作の各構成要件について逐一先行技術と対比するだけではない。すなわち、特許請求の範囲又は実用新案登録請求の範囲における各請求項に記載される発明又は創作の「全体」について判断し、それが当業者にとって先行技術に基づいて容易になし得るか否かを審査しなければならない(最高行政裁判所99年度判字第584号判決趣旨を参照)。さらに、進歩性の審査は明細書における順を追って、簡単なものから詳しいものへと進む内容でもたらされる「後知恵」によって容易になし得ると判断して、すぐに発明又は創作が進歩性を有しないと認定してはならない。係争専利の全体と証拠を対比し、当業者が出願時の通常の知識を参酌するという観点で、客観的判断を行うべきである(最高行政裁判所109年度判字第29号判決趣旨を参照)。
上述の「先行技術を基礎とする」及び発明又は創作を「全体として判断する」等方法は、気づかずに「後知恵」に陥ることを回避するために、進歩性の審理における重要な参考の根拠である。先行技術が進歩性欠如の論理付けができないときは、「客観的事実」について先行技術は係争専利の進歩性欠如を証明するのに不十分である(進歩性を有する)と判断すべきである。すなわち、係争実用新案の訂正後請求項1が容易になし得るか否かは、「該内容器と該外容器の形状とサイズが異なる」が簡単な変更に対等する云々とすぐに判断できるものではなく、係争実用新案と証拠2について技術手段や創作の目的等様々な方面から見るべきである。

(三)証拠2は複数のコップが同じ構造を維持しながら、「底部」の内折縁(4)に対するデザイン変更で、「『単一』のコップの高さ」を調整したものであり、係争実用新案は「碗の形状」を重視したデザイン変更で、「『複数』の碗の形状とサイズ」を調整したものであり、両者の技術手段と創作の目的は明らかに異なる。
当業者にとって、碗とコップのサイズを調整する簡単な基礎的能力を有するものの、証拠2の創作全体は複数のコップを重ね合わせたときに、積み重ねる空間を減らすもので、証拠2を基礎として、当業者がコップに対して行うサイズ設計の変更、修飾等は、なお「複数のコップを同一に維持する」という構造における調整に限られ、さもないと複数のコップが異なることで証拠2の「複数のコップを重ね合わせたときに、積み重ねる空間を減らすもの」という創作全体の目的に反するものとなる。それに対して、係争実用新案の「内外容器の形状」を調整するという設計方針は、紙封止材を熱圧着する等の特定の課題を解決するための技術的手段である。係争実用新案と証拠2との技術的手段と創作目的が大きく異なる状況において、証拠2が呈する客観的事実は、当業者が「内外容器形状」に対する調整を容易に想到して実施できると直接推定することはできず、係争実用新案の訂正後請求項1全体の技術的特徴は、証拠2の簡単な変更には該当しない。証拠2は係争実用新案の訂正後請求項1全体の技術的特徴を開示しておらず、しかも「該内容器と該外容器の形状とサイズが異なること」は証拠2の簡単な変更であると直接的に推定することはできないことが分かる。また係争実用新案の訂正後請求項1全体の技術的特徴は「該内容器と該外容器の形状とサイズが異なる」という設計を有するものである。係争実用新案の訂正後請求項1は証拠2から容易になし得るものではなく、よって証拠2は係争実用新案の訂正後請求項1の進歩性欠如を証明するのに十分ではない。

(四)証拠2の各紙コップの開口縁部も互いに積み重なっているため、係争実用新案は「内容器の体積を縮小すること」を手段として解決することができ、形状とサイズを簡単に修飾することは、公知の常識にすぎず、容易になし得る云々、と原告は主張している。しかしながら調べたところ、進歩性の判断は「先行技術を基礎とすること」と創作「全体に対する判断」を以って行うべきであることは前述したとおりであり、係争実用新案の「該内容器と該外容器の形状と細部が異なる」という技術的特徴は形状とサイズの簡単な修飾にすぎない云々という原告の主張は、すでに「後知恵」に陥っている。さらに専利審査基準における「進歩性の判断手順」には「進歩性が否定される要素」と「進歩性が肯定される要素」が含まれており、もし「進歩性が否定される要素」がないならば、進歩性欠如の論理付けができず、当該発明には進歩性があると判断できる(専利審査準第2-3-17至2-3-18頁)。証拠2は明らかに「進歩性が否定される要素」がなく、係争実用新案の進歩性欠如の論理付けができず、該創作には進歩性があると判断すべきである。

(五)以上をまとめると、証拠2は係争実用新案の訂正後請求項1の進歩性欠如を証明するのに十分ではない。証拠2と証拠3の組合せは係争実用新案の訂正後請求項1、2、4の進歩性欠如を証明するのに十分ではない。証拠2とその他証拠3、証拠4との組合せは係争実用新案の訂正後請求項3の進歩性欠如を証明するのに十分ではない。原処分で下された「請求項1乃至4については無効審判の請求が成立し、取り消す」という部分の処分については誤りがあり、
被告が下した「原処分を取り消し、原処分機関は6ヵ月以内に改めて適法の処分を行う」という訴願決定に違法なところはない。訴願決定の取消しを求める原告の訴えには理由がなく、棄却すべきである。

以上の次第で、本件原告の訴えには理由がなく、知的財産事件審理法第1条,行政訴訟法第98条第1項前段に基づき、主文のとおり判決する。

2021年5月13日
知的財産裁判所第二法廷
裁判長 汪漢卿
裁判官 林欣蓉
裁判官 彭洪英

 
添付図1:係争実用新案の主な図面
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添付図2:証拠2の主な図面
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