金門酒廠の商標を侵害、民間酒造メーカーに20万新台湾ドルの賠償命令判決

2018-03-27 2017年
■ 判決分類:商標権

I 金門酒廠の商標を侵害、民間酒造メーカーに20万新台湾ドルの賠償命令判決

■ ハイライト
「金門高粱酒」のメーカーとして名高い金門酒廠実業股份有限公司(Kinmen Kaoliang Liquor Inc.、以下「金門酒廠」)は、金門浯江酒廠実業股份有限公司(以下「金門浯江酒廠」)がそれが製造する「金門53°高粱酒」に金門酒廠の登録商標に類似する「金門及び金門島嶼図」を使用し、合計100万人民元(約443万新台湾ドル)の利益を得て、「金門高粱酒」等の商標権を侵害したとして提訴し、金門浯江酒廠に165万新台湾ドルの賠償金を請求していた。知的財産裁判所は先日、金門浯江酒廠に対して、金門酒廠に20万新台湾ドルの賠償金を支払うよう命じる判決を下した。本件はさらに上訴できる。
裁判官は、「金門」はすでに消費者が高粱酒(コーリャン酒)を区別するときの依拠となっており、その他の中国語や図形との組合せの有無を問わず、識別性をすでに有していると認めた。しかしながら、「金門53°高粱酒」のボトルラベルの図案全体は金門高粱酒と大きく異なるため、裁判官は本件の権利侵害の情状と主観的な悪質性は重大ではなく、金門酒廠が請求している賠償金165万新台湾ドルは高すぎ、20万新台湾ドルが妥当であるとの判決を下した。(自由時報2017年4月8日)

II 判決内容の要約

知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】105年度民商訴字第24号
【裁判期日】2017年3月31日
【裁判事由】商標権侵害行為排除等

原   告 金門酒廠実業股份有限公司
法定代理人 黃○舜   
被   告 金門浯江酒廠実業股份有限公司
兼法定代理人陳○怡   
被   告 陳○賜   

上記当事者間における商標権侵害排除等事件について、当裁判所は2017年2月22日に口頭弁論を終え、次のとおり判決する:

主文
一.被告は中華民国登録第00978354、00774758、00844985号商標と同一又はそれに類似する図案を酒類の商品及び酒類の役務、商品の包装、看板、サイト、広告又はその他の表徴(トレードドレス)に使用してはならない。
二.被告は連帯で20万新台湾ドル及びこれに対する2016年6月18日から支払い済みまで年5分による金員を支払え。
三.原告の余の訴えを棄却する。
四.訴訟費用は被告が連帯で十分の八を負担し、その余を原告の負担とする。

一 事実及び理由

(一)原告の主張:
原告は係争商標一、二、三の商標権者であり(商標図案は本判決添付図一~三の通り)、係争商標はすでに著名商標と認定されている。被告陳○怡は被告金門浯江酒廠実業股份有限公司(以下「金門浯江酒廠」)の名義上の代表者であり、被告陳○賜は実質上の代表者であり、それら2名は原告が係争商標の商標権者であることを知りながら、被告金門浯江酒廠が製造、販売する「金門53°高粱酒」(以下「係争商品」)に原告の係争商標と同一又はそれに類似する「金門及び金門島嶼図」を使用して利得を上げた。よって係争和解契約第2条,商標法第68条第1、3号,第70条第1、3号,第69条第1、3項,民法第185条、第28条,公司法(訳註:会社法に相当)第23条第2項,公平交易法(訳注:不正競争防止法、独占禁止法に相当)第30条、第31条、改正前公平交易法第20条第1項第1号により本件訴訟を提起する。
請求:1.被告らは係争商標一、二、三と同一又はそれに類似する図案を酒類の商品及び酒類の役務、商品の包装、看板、サイト、広告又はその他の表徴(トレードドレス)に使用してはならない。2.被告らは連帯で165万新台湾ドル及びこれに対する起訴状送達翌日から支払い済みまで年5分による金員を支払え。3.訴訟費用は被告の連帯負担とする。
(二)被告の答弁:
請求:1.原告の訴えを棄却する。2.訴訟費用は原告の負担とする。

二 心証を得た理由

(一)係争商標に識別性はあるのか。商標法第29条第1項第1号に定める登録できない事由があるのか。

調べたところ、係争商標一は「金門」という中国語で構成され、係争商標二は枠の中に「金門」という中国語と「KIN-MEN」という外国語で構成され、係争商標三は「金門島嶼図」と「KINMEN」という外国語で構成されている。三件の係争商標に含まれる「金門」という中国語又は外国語及び「金門島嶼図」は原告が製造する酒類の商品の地名であるが、原告が1952年に金門で創業してすぐに各種酒類である「高粱酒(コーリャン酒)」を製造し、すでに50年という長い歴史を有する。年間に製造される各種酒は1千万本を上回り、国内以外に欧米各地で販売されている。それが製造する高粱酒は品質に優れ、多くの消費者から称賛され、「金門」は高粱酒という商品を区別する依拠として消費者に用いられ、関連する事業者又は消費者に広く認知され著名となっており、使用による識別性を有する。

(二)係争商標は商標法第63条第1項第2号の撤回(取消)事由を有するのか。

原告の商品である高梁酒の多くには「金門高梁酒」、又はそれに外国語「KINMEN KAOLIANG LIQUOR」や「金門島嶼図」を加えたものが表示されており、多くの店舗又はオンラインショップにはいずれも原告の商品表示がみられ、かつ高梁酒は酒類の通称名であり、原告は「金門高梁酒」の文字商標を登録した際に「高梁酒、KINMEN KAOLIANG LIQUOR」については専用権放棄声明(ディスクレーム)を行っている。よって原告が「金門高梁酒」又は「金門KIN-MEN高梁酒」を商標として表示する酒はすべて係争商標を使用した事実があると認められ、同一性の範囲を超えるものではない。

(三)係争商品における「金門島嶼図」と「金門」という文字の使用は商標の使用に該当するのか。商標法第36条第1項第1号の他人の商標権の効力に拘束されない事情に該当するのか。

被告は「金門島嶼図」及び「金門」という中国語は係争商品が金門で製造されたことを表示するもので、商標の使用ではない云云と述べている。ただし調べたところ、一般商品の表示方法を参酌すると、商品の原産地は通常商品包裝の下方又は裏側のような目立たない箇所に表示されており、商品の原材料、産地、製造者及び販売者の名称及び所在地等の情報とともに列記され、商品又は包装箱の正面中央には表示されない。係争商品の包装箱側面には原産地が「台湾省金門県」ではなく「台湾」と記載されており、さらに原産地の表示以外に包装箱の正面中央に「金門島嶼図」の中に「金門」という中国語を含む方法で商品原産地を表示する必要があるのか。係争商品の包装箱正面にある「○○」の字体は「金門島嶼図」及び「金門」よりも小さく、「金門島嶼図」には「金門」という中国語が含まれ、外包装の正面中央という最も目立つ箇所に表示され、「53°高粱酒」とともにいずれも黄色い文字であり、消費者が一見したときの印象は、「金門島嶼図」と「金門」、「53°高粱酒」に注意がひきつけられ、「金門島嶼図」、「金門」及び「53°高粱酒」の三者を結び付けようとする意図が明らかにある。全体的にみると、一般的な産地説明の表示方法とは異なり、被告が取引習慣に合う信義誠実の方法で係争商標を使用したとはいいがたい。
係争商品の包装箱に表示される「○○」、「CST ○○廈門集團」の文字、又はボトルのラベルの「ヘルメットを被った人物像デザイン図」はたとえ出所を示す機能があったとしても、これによって包装箱の「金門」及び「金門島嶼図」を排除するものではなく、それらも出所を示す機能を有しており、さらに訴外人○○公司はタイヤメーカーであり、関連する消費者は同社がプレゼントする高梁酒が他の醸造メーカーによって製造されたことを推知することができ、係争商品の包装箱に「○○」、「CST ○○廈門集團」以外に、係争商標と同一又はそれに類似する「金門島嶼図」の中に「金門」という中国語を含むものを表示したことは、関連する消費者に原告の著名な「金門」又は「金門高梁酒」シリーズ商標を連想させるには十分であり、よって「金門島嶼図」の中に「金門」という中国語を含む図案は、商品の出所を表彰する機能を有し、被告の弁解は採用できない。

(四)商標の使用であるならば、商標法第68条第1号、第3号及び商標法第70条第1号、第3号に該当するのか。

調べたところ、係争商標一は「金門」という中国語で構成され、係争商標二は「金門」という中国語と「KIN-MEN」という外国語が上下に配列されて構成され、係争商標三は「金門島嶼図」の中に「KINMEN」という外国語が配置されて構成されている。係争商品の包装箱に使用されている「金門島嶼図」の中に「金門」という中国語がある図案は、係争商標一、二の「金門」及び係争商標三の「金門島嶼図」を組み合わせて構成されたもので、全体的にみると、係争商品の上記図案と係争商標一、二、三とは一見したときの印象が極めて似ており、かつ同一の商品である高梁酒に使用されているため、関連する消費者に両者の商品は同一の出所からのものであると誤認させる、又は両者の使用者の間に関連企業、使用許諾関係、加盟関係又はその他これらに類する関係が存在すると誤認させるおそれがあり、商標法第68条第3号の商標権侵害行為に該当する。
被告の行為はさらに商標法第70条第1号、第3号に規定される商標権侵害行為が成立している云々と原告は主張しているが、商標法第70条は商標権侵害とみなす行為であり、同法第68条の商標権侵害行為がすでに成立している場合、同法第70条が成立する余地はなく、原告の主張は採用できない。

(五)被告による係争商品における「金門島嶼図」及び「金門」という文字の使用は改正前公平交易法第20条第1項第1号に違反しているのか。

係争商品が押収された時点にはすでに公平交易法の改正が施行されており、かつ原告は2015年2月6日に公平交易法の改正が施行される以前に係争商品が生産されていたことについて挙証して証明しておらず、被告による係争商品における「金門島嶼図」及び「金門」という文字の使用は改正前の公平交易法第20条第1項第1号規定に違反しているとする原告の主張に根拠はない。

(六)原告が被告に係争商標を使用しないように請求することに理由はあるのか。

被告らによる係争商品における「金門島嶼図」及び「金門」という文字の使用は原告の係争商標一、二、三の商標権を侵害していることは前述のとおりである。さらに「商品」と「役務」が合流するという現今のビジネスモデルの動向を斟酌すると、「酒類商品」と「酒類役務」は類似を構成していると認めるべきであり、それにより現今のビジネス経営の実務に合わせることができる。したがって原告が商標法第69条第1項により被告に係争商標一、二、三と同一又はそれに類似する図案を酒類の商品及び酒類の役務、商品の包装、看板、サイト、広告又はその他の表徴(トレードドレス)に使用してはならないと請求することには理由がある。

(七)原告が被告に連帯で損害賠償を行うよう請求することに理由はあるのか。いかほどの賠償額を請求することができるのか。

「商標権者が損害賠償を請求するときは、次の各号に掲げる一を選択してその損害を計算することができる:三.押収した商標権侵害に係る商品の販売単価の1500倍以下の金額を損害額とする。但し、押収した商品が1500点を超えるときは、その総額で賠償額を定める。」、「前項の賠償額が明らかに相当しないときは、裁判所がこれを斟酌して減額することができる」と商標法第71条第1項第3号、第2項に定められている。当裁判所は、係争商品は被告金門浯江酒廠公司が他人からの注文で生産したものであり、係争商品の包装箱及びボトルのラベルはいずれも購入者が提供したもので、さらに係争商品の包装箱及びボトルのラベルには訴外人の「○○」、「CST ○○廈門集團」という文字並びに「ヘルメットを被った人物像デザイン図」、並びに「生産者:金門浯江酒廠實業股份有限公司」及び所在地の記載があり、包装箱の正面及び側面の中央にある「金門島嶼図」及び「金門」の図案は係争商標に類似しており、関連する消費者に誤認混同を生じさせるおそれがあるものの、ボトルラベルの図案全体の表現が原告の生産する高梁酒とは大きく異なる等の事情を斟酌して、本件の権利侵害の情状及び主観的な悪質性は重大ではなく、原告が請求している賠償金165万新台湾ドルは高すぎるため、20万新台湾ドルまで減額するのが妥当だと認める。

(八)以上の次第で、原告は商標法第69条第1、3項,民法第185条、第28条,公司法第23条第2項規定により、被告は係争商標一、二、三と同一又はそれに類似する図案を酒類の商品及び酒類の役務、商品の包装、看板、サイト、広告又はその他の表徴(トレードドレス)に使用しないよう請求し、被告等が連帯で20万新台湾ドル及びこれに対する2016年6月18日から支払い済みまで年5分による金員を支払うよう請求する範囲においては理由があり、許可すべきである。この範囲を超える請求には理由がなく、棄却すべきである。

2017年3月31日
知的財産裁判所第二法廷裁判官 彭洪英
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