商標類否の判断において、恣意的に各商標の要素を抽出分離して互いに組み合わせる方法で論断してはならない

2018-08-27 2017年
■ 判決分類:商標権

I 商標類否の判断において、恣意的に各商標の要素を抽出分離して互いに組み合わせる方法で論断してはならない

■ ハイライト
    原告の麥奇數位股份有限公司(TutorABC, Inc.)は次のとおり主張した。原告は台湾初かつ国内最大規模を有するオンライン英語学習(講師による講義)のサイトであり、アルファベット「O」に「イヤホン」、「マイク」を加えた商標とTutorABC等シリーズ著名商標を有する。被告の巨匠電腦股份有限公司(Gjun Inc.)は2015年から原告商標に高度に類似する標示を使用してオンライン英語教育事業を経営し始めた。被告商標と原告商標は、外観、観念及び呼称において全体が高度に類似し、類似度は極めて高い。さらに両商標の役務は同じであるため、関連の消費者は同一の出所又は関連する出所からのものであると誤認し、そして誤認混同、原告商標の識別性減損が生じてしまう。原告は商標法等規定に基づいて侵害の排除、損害の連帯賠償等を請求した。
    知的財産裁判所は本件の争点である「双方の商標は類似しているのか」について、判決の要旨は次のとおりである。
    原告商標は主に2種類に分けられ、一種類はマイク付イヤホン商標、もう一種類はTutorABC商標である。原告はまずこの2種類の商標を「互いに組み合わせて」被告商標と対比し、両者には、イヤホン、アルファベットのO、マイク、abc及び「線上真人家教(訳註:オンライン家庭教師の意)」という文字がいずれもあると述べた。しかしながら、商標の権利の範囲は個別に登録された商標が権利の基礎であり、個別の商標の間で互いに組み合わせる方法を以って他人の商標の類似を論断できない。ましてや、原告が提出した商標にはいずれも「真人線上英語家教(訳註:オンライン英語家庭教師)」の文字がなく、原告は特にこの部分の文字を加えて対比している。「真人線上英語家教」の文字が原告の提出した巨大広告に使用されていたが、この部分の文字は登録商標には見られず、「商品を表示するトレードドレス」としか見なすことができない。
    原告商標と被告商標はいずれも円形(又は楕円形)、イヤホン、マイク等の要素を有するが、マイク付イヤホン商標の楕円形は明らかにアルファベットOにイヤホンとマイクを加えて擬人化されたものだとわかるが、被告商標は単純な円形であり、その中に極めて大きいabcが配置されているのに対して、イヤホンとマイクは十分に目立たず、全体の視覚的印象もマイク付イヤホン商標とは明らかに異なる。たとえ消費者が時間と場所を異にして隔離的に観察しても、その違いを区別できるはずである。TutorABC商標と対比すると、被告商標にはTutorの文字がなく、商標全体の視覚的印象は円形の中にアルファベットがあるため、TutorABC商標がアルファベットの文字列であるのに比べて、(被告商標は)単にアルファベットOにイヤホンとマイクが付されたもので、明らかにその違いを区別できる。
    商標権に係る権利範囲の確定は商標権の効用の十分な発揮に関わり、その無体財産権という特性により、裁判所が即時に有効な裁判でその範囲を確定することに頼る必要がある。ただし商標権を行使することで排他作用を発揮すると同時に、同業者との競争に対して抑制的な効果をもたらし、少なくとも排他や禁止を受けた同業者は元来の商標又はトレードドレスの使用を変更する必要があり、追加のコストが増加して、その競争条件が悪化し、競争において不利となるため、裁判所は商標権の権利範囲の特定に対して、原則を振りかざして権利者だけを保護し、市場競争の必要性を全く顧みないということはできない。
    また、商標権はすでに登録された商標が保護の対象となり、「商品又は役務のトレードドレス」は著名にならないと保護されず、その権利の保護には特定の範囲があり、恣意的に商標を抽出分離して、保護できる要素を創出してはならない。本件において、原告はアルファベットO、イヤホン、マイクをその独占的な要素としてはならず(とくにイヤホン、マイクはオンライン学習でよく見られる要素である)、またそのTutorABC商標における「Tutor」という文字やその全体の配列を無視することはできず、またマイク付イヤホン商標にabcの文字がなく、これらを追加する状況はいずれも原告商標の権利範囲の制限を形成し、その権利の範囲を被告商標使用の排除にまで拡大すべきではない。(資料出所:TIPO智慧財産権電子報第136期)
tutorABC

II 判決内容の要約

知的財産裁判書民事判決
【裁判番号】105年度民商訴字第38号
【裁判期日】2017年5月22日
【裁判事由】商標権侵害の財産権に係る紛争等

原告 麥奇數位股份有限公司(TutorABC, Inc.)
被告 巨匠電腦股份有限公司(Gjun Inc.)

上記当事者間における商標権侵害の財産権に係る紛争等事件について、当裁判所は2017年4月11日に口頭弁論を終え、次のとおり判決する。

主文
原告の訴えを棄却し、仮執行宣言の申立てを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。

一 事実の概要
原告会社は次のとおり主張している。原告会社は台湾初かつ国内最大規模を有するオンライン英語学習(講師による講義)のサイトであり、アルファベットの「O」に「イヤホン」、「マイク」を加えた商標(以下「マイク付イヤホン商標」)及びTutorABC等のシリーズ著名商標(以下「TutorABC商標」)を所有しており、併せて原告商標(添付図1)と称する。原告が大量に原告商標を使用している事実は、台北建国高架橋、高雄大巨蛋(ビッグエッグ)、各捷運(新交通システム)駅構内における巨大広告で証明できる。被告会社は元来「実体のコンピュータ及び英語教室/塾」のみを経営し、その他の原告とは関係がなく類似していない商標を使用していた。ところが2015年から原告商標に高度に類似する標示(以下「被告商標」、添付図2)を使用してオンライン英語教育事業を経営し始めた。被告商標と原告商標は、外観、観念及び呼称において全体が高度に類似し、類似度は極めて高い。さらに両商標の役務は同じであるため、関連の消費者は同一の出所又は関連する出所からのものであると誤解し、そして誤認混同が生じ、原告商標の識別性が減損してしまう。原告は商標法第68条、第69条第1項、第70条、民法第28条、第184条、第195条、公司法(会社法)第23条、公平交易法(訳注:不正競争防止法、独占禁止法などに相当)第22条第1項第1号に基づいて侵害の排除、損害及び業務上の信用損失に対する連帯賠償、判決文の新聞広告掲載を請求し、2016年8月19日に本件請求を提起した。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告の請求:
1.被告会社は訴状に記載されている図及びその他原告の登録第01281173、01761297、01761541、01281166、01278886、01278887、01350634、01467561号TutorABC及びTutorABCjr著名商標と同じ又は類似する商標又は図を、同じ又は類似する商品又は役務に使用してはならず、会社サイト上に表示されている前述の権利侵害の商標及び図を削除すべきである。
2.被告会社及び代表者は連帯で原告に対し500万新台湾ドル及び訴状副本送達の翌日から支払い済みまで年5部の割合による金員を支払え。
3.被告会社及び代表者は連帯で経費を負担して、本件判決書の事件番号、当事者欄、事由欄及び主文を、新細明体10ポイントのフォントを用いて蘋果日報、自由時報、中國時報、聯合報の全国版第一面の下半面に一日掲載しなければならない。
4.訴訟費用は被告の負担とする。
5.原告は担保を供託するので、仮執行宣言を申し立てる。

(二)被告の請求:
原告の請求を棄却する。

三 心証を得た理由
(一)本件は民事訴訟法第182条により訴訟手続きを停止することを決定すべきではなく、また好ましくない。その理由は次のとおりである。:
1.本事件は商標権の権利範囲に係る紛争である。商標権は無体財産権であり、その権利の範囲は有体財産のように境界や実体が存在する物でその範囲を確定することができず、権利について紛争が発生したときは裁判所によって事件ごとに範囲を画定する必要がある。しかしながら財産権の範囲が不明で、財産の使用効率に影響をもたらし、財産の経済的効用価値の妨げとなるとき、迅速に財産の権利範囲を確定することは、権利者の私益だけではなく、社会全体の経済価値に係る公益に関わる。したがって、急いで保護するのに値する利益がある場合を除き、裁判所は訴訟手続停止の決定を行うか否かを決めるときに、訴訟手続きの停止が無体財産権の範囲確定に対する不利な影響を考慮する必要があり、訴訟手続き停止の事由に係る妥当性を厳しく審理しなければならない。

2.被告は、原告が使用の禁止を請求する図が被告の登録商標であり、現在原告が無効審判を請求しており、その結果がまだ出ておらず、民事訴訟と行政手続きの判定結果が異なることを回避するため、訴訟手続きの停止をするのが好ましいことを、訴訟手続きの停止を申し立てる事由としている。また智慧財産案件審理法(知的財産案件審理法)第16条の訴訟手続停止の不適用規定に対して、これは被告が原告の権利に無効、取消の事由があることを抗弁するときに限られるべきであり、被告が抗弁する権利を以ってさらに有効性に係る紛争を生む事情には及ばないと主張している。

3.ただし智慧財産案件審理法第16条の立法趣旨には、「知的財産に係る民事訴訟において、被告が知的財産権が存在しないと主張し、行政訴訟を提起したとき、又は第三者が知的財産権の有効性に対して無効審判及び行政訴訟を提起したとき、民事訴訟は最初に示した規定により審理を停止し、その権利の有効性と権利侵害の事実は同一の訴訟手続きで一度に解決できない。当事者が民事訴訟手続きを引き延ばすたびに、知的財産権者は即時の保障を得ることができない。」等と述べられており、被告が原告の権利に取消、無効の事由があると抗弁することはその立法の前提事実である。しかしながらそこに示される「当事者が民事訴訟手続きを引き延ばすたびに、知的財産権者は即時の保障を得ることができない」という理由を以って、被告が抗弁する権利に有効性に係る紛争が同時に存在する場合にも適用できる。かつ同じ立法趣旨において「知的財産権は私権であり、その権利の有効性に係る争点は、私権の紛争であり、民事裁判所により民事訴訟手続きにおいて判断されるものであることに理論上不当なところはない。とくに知的財産裁判所の民事裁判官は知的財産権の有効性を判断する専門能力を有し、その訴訟の終結に認定が必要である権利の有効性に係る争点について、別途行政訴訟の結果を待つ必要はない。」等と述べられており、本条の適用範囲は被告が原告の権利の有効性に係る抗弁を行うという事情に限定する必要はないと認められる。

4.同条の立法趣旨において行政院は「本法は民事訴訟及び行政訴訟の二元分立を採用する制度であるため、民事裁判官が個別の事件において全面的に知的財産権の有効性の判断を行うならば、それと同時に行政訴訟がもたらす可能性がある見解の不一致を残して、人民の専門裁判に対する信頼を傷つけてしまう」という異なる意見を示している。ここから、立法者はそれらの間における価値の衝突を秤にかけて、なおも本条を立法し、立法者はすでにその価値の選択を行っていることがわかり、被告が立法者の捨てた法価値に固執して紛争することは、根拠がないものである。

(二)本件の争点
【09】原告は被告商標と原告商標とが類似していると主張し、これにより商標混同排除請求権(商標法第68条第1項第3号、第69条第1項)、商標希釈化排除請求権(商標法第70条第1号、第69条第1項)、商標侵害による損害賠償請求権(商標法第69条第3項)、著名トレードドレス混同排除請求権(公平交易法第24条、第29条)、概括的不正競争排除請求権(公平交易法第25条、第29条)、権利侵害行為による損害賠償請求権(民法第184条)を主張した。よって双方の商標の類否が最も重要な判断の争点である。
【10】原告は双方の商標が類似していると主張している。そのうち原告商標は主に2種類に分けられ、一種類はマイク付イヤホン商標、もう一種類はTutorABC商標である。原告はまずこの2種類の商標を互いに組み合わせて被告商標と対比し、両者にはいずれも、イヤホン、アルファベットのO、マイク、abc及び「線上真人家教(訳註:オンライン家庭教師の意)」という文字があると主張している。しかしながら、商標の権利の範囲は個別に登録された商標が権利の基礎であり、個別の商標の間で互いに組み合わせる方法で他人の商標の類似を論断できない。ましてや、原告が提出した商標にはいずれも「真人線上英語家教(訳註:オンライン英語家庭教師)」の文字がなく、原告は特にこの部分の文字を加えて対比している。「真人線上英語家教」の文字は原告の提出した巨大広告に使用されているが、この部分の文字は登録商標には見られず、「商品を示すトレードドレス」としか見なすことができない。ただし原告が提出したそれぞれの広告はその掲載時間の長さを判断することができず、広く消費者に知悉されているといえるのか。また、原告が提出した当裁判所102年度民商上字第3号判決はTutorABC商標を著名商標と認定しているが、TutorABC商標に「真人線上英語家教」の文字を加えたものを著名トレードドレスと認定していない。たとえ著名トレードドレスの混同排除請求権の類似対比を行ったとしても、「真人線上英語家教」の文字を恣意的に組み入れて対比することはできない。したがって、原告の前述対比方法を以って双方の商標が類似している、又は被告商標が原告商品のトレードドレスに類似しているとは認定しがたい。
【11】原告はさらに双方の商標が誤認混同のおそれを構成し、無効審判成立により登録を取り消すべきか否かに関する謝銘洋教授の法律意見を提出しており、その中で双方商標の類否に関する内容は主に「両者は同様に円形のアルファベットOを商標の主体としており、両者の違いは一方が円形、他方が楕円形であることで、違いは極めて小さい。さらに両者はいずれもイヤホンとマイクが付され、一方はヘッドホン型、他方は片側のみの耳掛け型で、その違いには限りがあり、外観と観念についてはいずれも高度な類似性を有する。無効審判を請求された商標には中国語と英語で『巨匠線上真人家教』、『abconline』という文字があるが、『abc』の字体がやや大きいのを除き、その他の『巨匠線上真人家教』、『online』は明らかに小さく、『abc』の上方と下方にそれぞれ配置されており、消費者の注意を惹起したり、消費者が商標全体を見た後に印象付けたりすることは難しく、商標全体を観察するときに、重要な意味をもたない」と述べられている。謝教授はさらに最高行政裁判所105年度判字第42号判決の判決文を大幅に引用し、本事件の参考とするに値すると述べている。さらに二つの事件の違いを比較して「無効審判を請求された商標は、アルファベットのOの中にabcがあり、これは前述の事件とは異なる箇所である。しかしながらabcはよく見かけるアルファベットの組合せであり、全体を観察すると、その重要性は0やヘッドホンとマイクに比べて明らかに低い。ましてやそのabcが、請求人が無効審判請求の根拠とするもう一つの商標であるTutorABC商標の末尾と同じであって、大文字小文字の違いのみで、無効審判を請求された商標がわざと原告商標を摸倣し、その知名度を利用しようとしたことは明らかである」と指摘している。
【12】謝教授の上述の意見を詳細に読み、さらに双方の商標を実際に対比してみると、以下のことを発見できる。つまりマイク付イヤホン商標と被告商標を対比すると、両者はいずれも円形(又は楕円形)、イヤホン、マイク等の要素を有する。ただしマイク付イヤホン商標の楕円形は明らかにアルファベットOにイヤホンとマイクを加えて擬人化されたものだとわかるが、被告商標は単純な円形であり、その中に極めて大きい(ほぼ商標全体の中央を占める程度の)abcが配置されているのに対して、イヤホンとマイクは十分に目立たず、全体の視覚的印象はマイク付イヤホン商標とは明らかに異なり、消費者が時間と場所を異にして隔離的に観察したとしても、その違いを区別できるはずである。TutorABC商標と対比すると、被告商標にはTutorの文字がなく、商標全体の視覚的印象は円形の中にアルファベットがあり、TutorABC商標がアルファベットの文字列であるのに比べて、(被告商標には)アルファベットOにイヤホンとマイクが付され、明らかにその違いを区別できる。謝教授の意見においては、被告商標におけるabcの文字が大きいことが認められているが、このように被告商標の中央を占めているabcの文字が消費者の注意を惹起したり、それを見た後に印象付けたりするのに十分かについては、何ら解釈も記されていない。
【13】さらに大切なことは、本事件が民事権利侵害訴訟であるのに対して、謝教授が作成した意見は商標行政における無効審判請求で登録を取り消すか否かに対するものであり、両者間には要件においても重要な違いがある。つまり、民事権利侵害訴訟において、権利を侵害していると訴えられた商標は実際どのように使用されたかが重要である(この点は商標混同の排除、希釈化の排除、損害賠償及び著名トレードドレス混同排除の請求権にも反映され、いずれも「使用」を要件としている)のに対して、商標を登録する時や無効審判を請求された時、商標がすでに使用されている必要がないため、抽出対比がその判断の核心となる。この観点から謝教授は意見の中で、被告商標が実際にどのように使用されたのかを探求することも、事実の証明をすることもしていない。よって被告商標が実際に使用される時にその登録された内容と一致しないならば、実際の使用を以って類似を構成するか否かの判断を行って始めて法律要件に合う判断となる。
【14】原告が提出した証拠によると、被告商標の使用状況はそのサイトにある。その実際の使用状況は、被告商標の円形の中にある「巨匠線上真人家教」の文字が、円形図の右側に移動され、かつ各文字のサイズも円形図とほぼ同じである。これは原告が提出した民間の公証人が該サイトにアクセスして印刷した書類で証明できる。このように被告商標の円形図と「巨匠線上真人家教」を並列する方法によって、消費者は原告商標と容易に区別でき、類似のおそれがある箇所は認められない。この一点は明らかに、謝教授の意見における「『巨匠線上真人家教』は明らかに小さな文字で『abc』の下方に配置されており、消費者の注意を惹起したり、消費者が商標全体を見た後に印象付けたりすることは難しい」という論断において考慮、斟酌されていない。上述の公証人がアクセスしたサイトの各ページに示されている極めて小さな円形のラベルを詳細にみてみると、その右側にある「巨匠線上真人家教」が「ABC-Online」に変更されているが、頁全体における比率は極めて小さく、円形ラベルが示す内容はほぼ識別ができず、また原告商標との何らかの類似があるとも認められない。
【15】原告は口頭弁論が終えた後、さらに被告商標の円形図が単独で使用され、並列の「巨匠線上真人家教」が省略されている関連の証拠を提出した。これらの証拠は典型的に法律によって斟酌してはならない証拠であり、たとえこの通りであってこれらの証拠を斟酌したとしても判決結果に影響がないと認め、以下にこれらの証拠に対する考えを示す。
【16】まずは、これらの証拠は原告の口頭弁論終結時までの挙証を反証するには不十分である。原告が主張する請求権の基礎は、公平交易法第25条、民法第184条を除けば、いずれも「使用」がその要件であり、原告は被告商標がいかに使用しているかに最初から注意して挙証すべきであった。ただし、原告の元来の挙証は被告商標の実際の使用状況、つまり「巨匠線上真人家教」の文字を並列していたことを軽視していたことは明らかである。次に、原告が補充提出した添付資料において、大部分は大きな「巨匠線上真人家教」の文字がみられ、被告商標の円形図と並列されている。この部分の被告商標の使用は、【14】の説明のとおりであり、原告商標と類似しているとは認定できない。最後に、一部分で被告商標の円形図を単独使用する状況がみられるが、いずれもYOUTUBEの動画における数秒間の停止画像であり、これらのアップロードされた動画はいずれも「巨匠線上真人」がアップロードしたものと表示されており、その動画がいずれも「巨匠線上真人」の広告であることがわかる。その使用全体の状況からみると、消費者は観た広告が「巨匠線上真人」の広告であると区別し、認知できる。とくに強調すべきことは【12】で述べたとおり、被告商標の図は円形の中に鮮明なabcの文字が置かれており、それはマイク付イヤホン商標、TutorABC商標に類似していると認定できず、加えて以上の使用状況の説明から、双方の商標が類似していると認定することはなおさらできない。

(三)双方商標の類似は各請求権と関係があるのか。
【17】原告が主張する各項の請求権において、商標混同排除請求権(商標法第68条第1項第3号、第69条第1項)、商標希釈化排除請求権(商標法第70条第1号、第69条第1項)、商標侵害による損害賠償請求権(商標法第69条第3項)、著名トレードドレス混同排除請求権(公平交易法第24条、第29条)はそれぞれ「登録商標に類似する商標の使用」、「類似する商標の使用」、「類似の使用」がその請求権の成立要件とされている。被告商標は実際の使用状況において、原告商標とは類似しておらず、【10】~【16】で述べたとおり、原告による上述の各請求権に対する主張はいずれも理由がない。双方の商標が類似していないという認定結果において、原告が主張する「誤認混同を生じさせるおそれ」、「識別性又は信用・名声に損害を生じさせるおそれ」はさらに認定を論述する必要はない。
【18】原告はさらに概括的不正競争排除請求権(公平交易法第25条、第29条)、権利侵害行為による損害賠償請求権(民法第184条)を主張しているが、被告が使用する被告商標と原告商標は消費者が区別でき類似しておらず、その行為に不正(取引秩序に影響するに足る欺瞞的な又は著しく公正さを欠く)又は不法なところはなく、この部分の請求権の主張にも理由がない。
【19】以上をまとめると、商標権に係る権利範囲の確定は商標権の効用の十分な発揮に関わり、その無体財産権という特性により、裁判所が即時に有効な裁判でその範囲を確定することに頼る必要がある。ただし商標権を行使することで排他作用を発揮すると同時に、同業者との競争に対して抑制的な効果をもたらし、少なくとも排他や禁止を受けた同業者は元来の商標又はトレードドレスの使用を変更する必要があり、追加のコストが増加して、その競争条件が悪化し、競争において不利となるため、裁判所は商標権の権利範囲の特定に対して、原則を振りかざして権利者だけを保護し、市場競争の必要性を全く顧みないということはできない。また、商標権はすでに登録された商標が保護の対象となり、商品又は役務のトレードドレスは著名にならないと保護されず、その権利の保護には特定の範囲があり、恣意的に商標を抽出分離して、保護できる要素を創出してはならない。本事件において、原告はアルファベットO、イヤホン、マイクをその独占的な要素としてはならず(とくにイヤホン、マイクはオンライン学習でよく見られる要素である)、またそのTutorABC商標における「Tutor」という文字やその全体の配列を無視することはできず、またマイク付イヤホン商標にabcの文字がなく、これらを追加する状況はいずれも原告商標の権利範囲の制限を形成し、その権利の範囲を被告の商標使用の排除にまで拡大すべきではない。

四 結論
本件原告の訴えには理由がなく、棄却すべきである。原告の仮執行宣言の申立てもすでに根拠がなく、却下すべきである。民事訴訟法第78条の規定により、訴訟費用は敗訴した原告の負担とする。

2017年5月22日
知的財産裁判所第三法廷
裁判官 蔡志宏
TIPLO ECARD Fireshot Video TIPLO Brochure_Japanese TIPLO News Channel TIPLO TOUR 7th FIoor TIPLO TOUR 15th FIoor