わが国の商標審査の実務において、「逆混同」を採用せず、「先願主義」に基づき先願商標を保護

2020-02-20 2019年
■ 判決分類:商標権

I わが国の商標審査の実務において、「逆混同」を採用せず、「先願主義」に基づき先願商標を保護

原告の金鑛連鎖企業股份有限公司(JIN KUANQ ENTERPRISE CO., LTD.)は知的財産局に対して「金鑛咖啡」商標(出願第107880075号商標、以下「係争商標」)の登録を出願し、第30類「チョコレート、キャンディ、クッキー、…デザート」商品での使用を指定した。審査した結果、係争商標は登録第01068061号「金礦GOLD CROWN及び図」商標及び登録第01895530号「金礦」商標(以下「引用二商標」)に対して商標法第30条第1項第10号に規定される不登録事由があるため、拒絶査定が下された。原告はこれを不服として行政訴願を提起したが棄却されたため、その後本件行政訴訟を提起した。知的財産裁判所は「原告の訴えを棄却する」という判決を下し、その要旨は次のとおりである。
1.わが国の商標法は「先願主義」が採用されており、たとえ先願の登録商標が高度な著名性を有さない場合、又は関連する消費者に広く知られていない場合でも、先願の商標権者はなお法に基づき権利を主張できる。さらに市場における公正な競争を確保し、大きな財力を持つ企業が強力なマーケティングの力を以って先に登録された商標を奪い取ることを避けるため、わが国では実務上、「逆混同」を採用せず、商標法の「先願主義」に基づいて保護すべきは、後願商標ではなく先願商標である(最高行政裁判所105年度判字第465号判決要旨を参照)。
2.たとえ係争商標は広告やマーケティング等を通じて引用二商標よりもわが国の関連する消費者に広く知られているという原告の主張が真実であったとしても、後願商標、即ち係争商標の登録を許可したならば、明らかにわが国の商標法の「先願主義」規定に違反するだけではなく、さらに市場において係争商標と引用二商標が同時に存在するならば、両者の商標図案が高度に類似し、しかも同一又は高度に類似する商品における使用を指定することで、消費者に両者は同一の出所からのものであると誤認させる、又は両商標の使用者の間に関連企業、使用許諾、加盟又はその他これらに類する関係が存在すると容易に誤認させてしまうため、係争商標の登録が確かに消費者に誤認混同を生じさせるおそれがあることを証明できる。また、わが国の商標法は法制度の選択において先願商標の保障が優先されており、それは商標がその後関連する消費者に広く知られたか否かは関係がない。先願商標が実際に使用されていない場合は、なお「取消」制度によりバランスをとることができる(現行商標法第63条第1項第2号を参照)。ゆえに、引用二商標は係争商標の登録出願時(2017年6月13日)にいずれも有効に存続している商標であり、引用二商標が法に基づいて取消が確定するまでは、なお他人の商標の登録出願に対する拘束力があり、また後願商標、即ち係争商標が消費者により広く知られていることを以って、より多くの保護を与えてはならず、原告のこの部分の主張は採用できない。

II 判決内容の要約

知的財産裁判所行政判決
【裁判番号】107年行商訴字第91号
【裁判期日】2019年4月11日
【裁判事由】商標登録

原告 金鑛連鎖企業股份有限公司(JIN KUANQ ENTERPRISE CO., LTD.)
代表者 何宗原董事長
被告 経済部知的財産局
代表者 洪淑敏局長

上記当事者間における商標登録事件について、原告は経済部による2018年9月6日付経訴字第10706309010号訴願決定を不服として行政訴訟を提起していた。当裁判所は次のとおり判決する。

主文
原告の訴えを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

一、事実要約:
原告は2017年6月13日に「金鑛咖啡」商標を以って、「茶葉、茶、…インスタントコーヒーパック、キャンディ、クッキー…」等商品での使用を指定し、被告に登録を出願した。その後2018年1月11日に被告は2件の商標登録出願に分割を行い、分割後の本件出願第107880075号商標(以下「係争商標」)は「チョコレート、キャンディ、クッキー、パン、ケーキ、穀類スナック、月餅、パイナップルケーキ、どら焼き、サンドイッチ、トースト、デザート」商品(以下「クッキー、デザート等商品」)での使用を指定した。被告は審査を行った結果、係争商標には商標法第30条第1項第10号で規定される不登録事由があると認定し、2018年4月23日に商標第0388030号査定書を以って拒絶査定の処分を行った。原告はこれを不服として行政訴願を提起したが、経済部は2018年9月6日付経訴字第10706309010号決定書を以って棄却した。原告は訴願決定を不服として、その後当裁判所に行政訴訟を提起した。

二、原告の主な主張は次のとおりである。
(一)係争商標「金鑛咖啡」の「咖啡」はコーヒー類の商品での使用が指定されていないため、係争商標の「咖啡」は識別性を有さない文字であり、係争商標が識別性を有するか否かの判断を行うときは、「金鑛咖啡」全体をみて行うべきである。外観上、登録商標である出願第01068061号引用商標(以下「061号引用商標」)及び登録商標である出願第01895530号引用商標(以下「530号引用商標」。前記061号引用商標と530号引用商標をあわせて「引用二商標」という)の主要識別部分である「金礦」が2つの漢字から構成されているため、係争商標とは異なる。さらに、係争商標は著名な「金鑛咖啡」グループが提供する商品又は役務を象徴するもので、引用二商標の「金礦」が一般人の理解において金の鉱脈を象徴するものであるのとは異なるため、両者の外観、称呼、観念はいずれも類似性を有しない。原告企業は2000年に創立され、いままでに48ヵ所の営業拠点を展開し、資本総額は5億新台湾ドル、振込資本金は3億余新台湾ドルに上る。原告は2000年12月17日に次々と「金鑛」、「金礦」の商標を登録し、(これらの商標は)コーヒーショップ、レストラン、コーヒー、食品、およびケーキ等の役務に用いられ、市場においては早くから知名度を高め、人々の心に深くブランドイメージを植え付け、係争商標にとって関連するシリーズ商標に該当し、関連する消費者は前記シリーズ商標の商品又は役務を見かけると、出所は原告であると認識することは必至であり、原告はシリーズ商標の登録出願と維持に基づき、シリーズ商標を使用する必要から登録を出願しただけであり、係争商標の登録出願は善意によるものであり、より大きな保護を与えるべきである云々。

(二)以下の判決を請求する:1.訴願決定及び原処分をいずれも取り消す。2.被告は係争商標について登録許可の処分を行わなければならない。

三、被告の主な主張は次のとおりである。
(一)係争商標の図案「金鑛咖啡」は「金鑛」と「咖啡」から構成され、「咖啡」は原料又は成分の説明で、説明的な文字に該当し、識別性がなく、また引用二商標の両者と比べると、見る者の注意を惹く主な識別部分である「金鑛」と「金礦」の外観が類似しており、呼称は混同を生じ、「鑛」、「礦」の部首である「金」と「石」という僅かな違いしかなく、消費者にシリーズ商標を容易に連想させ、二商品が同一の出所からのもの又は異なるものの関連の出所のものであると誤認させてしまう可能性があり、高度類似を構成する商標に該当する。両者の指定商品を比較すると、いずれも「キャンディ、クッキー、穀類スナック、パン、ケーキ」のジャンルに含まれ、高度類似の関係が存在するものに該当する。引用二商標は恣意的商標であり、相応の識別性を有し、係争商標は高度に類似する「金鑛咖啡」を以って登録を出願したもので、それが表彰する出所又は製造の主体について誤認を容易に生じさせてしまう。061号引用商標は2003年に登録され、1回延長しており、15年以上使用している。原告は2017年6月13日になってから登録を出願しており、現存の資料によると、客観的に係争商標の方が消費者により知られているとは認められず、被告がその登録出願を拒絶したことは法に合わないところはない云々。

(二)以下の判決を請求する:原告の訴えを棄却する。

四、判決理由の要約:
(一)法律の適用基準:原告は2017年6月13日に係争商標(分割前)の登録出願を行い、被告は2018年4月23日に「拒絶」の査定を行った。当裁判所は2019年3月13日に係争商標の商標登録事件について弁論を終結した。本件については被告の査定時、当裁判所の弁論終結時を問わずいずれも適用すべき法規は、2016年11月30日改正公布、2016年12月15日施行の現行商標法となり、いずれの基準時の法規が出願人にとって有利かという問題の審理はない。よって係争出願について登録を許可すべきか否かは現行商標法を以って判断する。

(二)本件の争点:係争商標の登録出願について、商標法第30条第1項第10号の規定を適用するのか。同号のいわゆる「関連する消費者に誤認混同を生じさせるおそれがあるもの」とは、商標が関連する消費者にそれが表彰する商品の出所又は生産の主体に対して誤認混同を生じさせるおそれをいう(最高行政裁判所98年度判字第455号判決要旨を参照)。1.商標識別力の強弱、2.商標の類否とその類似度、3.商品/役務の類否とその類似度、4.先権利者の多角化経営の状況、5.実際の誤認混同の事情、6.関連する消費者の各商標に対する熟知度、7.係争商標の出願人の善意の有無、8.その他の誤認混同の要素等を参酌して、関連する消費者に誤認混同を生じさせるおそれがあるかを総合的に認定しなければならない(最高行政裁判所103年度判字第21号、104年度判字第222、354、435号判決要旨を参照)。

(三)前記各項の判断要素に基づいて以下のように分けて論じる。
1. 商標の類否とその類似度:
(1)文字を商品又は役務の出所を示し区別する表示とすることで識別性を有するか否かは、文字の意味並びにそれと指定商品又は役務との関係によって決まる(商標識別性審査基準4.1を参照)。係争商標は「クッキー、デザート」等商品における使用を指定し、さらに係争商標における「咖啡」はよく見かける飲料の種類であり、「クッキー、デザート」等商品の原料となる可能性があり、しかもビジネス経営において「咖啡」と「クッキー、デザート」等商品を一緒に販売することはよくあるため、係争商標の「咖啡」は消費者が熟知しているもの又は競合する同業者がよく使用する説明的文字であり、識別性の低い文字に該当する。関連する消費者が比較的に注意を払わない状況で一見したときの印象は、「金鑛」の部分にあるため、係争商標において、一見したときの印象が深い主要認識部分は「金鑛」である。
(2)係争商標は特にデザインされていない漢字「金鑛咖啡」で構成されている。061号引用商標は、王冠の図案に中国語の「金礦」と英語の「GOLD CROWN」が組み合わされて構成されている。530号引用商標は、特にデザインされていない漢字「金礦」で構成されている。係争商標の中の「咖啡」という単語はよく見かけられる飲料の名称であり、識別性が低く、消費者はこれを商品又は役務の出所を識別するものとはせず、その主要部分は「金鑛」の2文字であるはずである。これにより、係争商標と引用二商標を比較すると、外観にはいずれも一見したときの印象が深い「金鑛」/「金礦」の2文字があり、外観が類似している。「鑛」と「礦」には金偏と石偏の違いがあるが、同じく金を産出する鉱物資源を容易に連想させ、観念は同じである。061号引用商標にはさらに英語「GOLD CROWN」と王冠の図案があるが、漢字はわが国の消費者が慣用する文字であり、中国語が含まれる商標をみるときは、多くの人は中国語の部分を声に出して呼ぶため、係争商標と引用二商標の称呼も同じである。両者は類似を構成する商標に該当し、しかもその類似度は高い。

2. 商品/役務の類否とその類似度:
商標法第19条第6項では、商品又は役務の類似に関する認定は、商品又は役務の区分の制限を受けないと規定されている。そして、商品又は役務の類否判定において、一般的社会通念及び市場での取引状況を参酌して、商品又は役務の各種関連要素を総合的に判断するべきである(最高行政裁判所法院105年度判字第42号判決要旨を参照)。係争商標と引用二商標を比較すると、いずれも「キャンディ、クッキー、穀類スナック、パン、ケーキ」等の関連商品であり、その原料、用途、機能はほぼ同じであり、かつ通常は同じ生産者から提供される。両者は機能、用途、材料、生産者、販路及び販売場所等の要素においていずれも共通する又は関連する箇所があり、一般的社会通念及び市場での取引状況から判断して、同一又は類似の商標を表示するならば、一般的な商品の消費者はそれが同じ出所又は異なるものの関連する出所からのものであると誤認するため、両者の指定商品は、同一又は高度類似の商品を構成するものである。

3. 商標識別力の強弱:
(1)原則的に「独創的商標」の識別力が最も強く、よく見かけられる事物を内容とする「恣意的商標」と商品/役務と関連する示唆的説明を内容とする「示唆的(暗示的)商標」の識別力はより弱くなる。識別力が強い商標ほど、商品/役務に関連する消費者により深い印象を与え、他人が少しでも便乗(フリーライド)すれば、購買者に誤認混同を生じさせる可能性がある。530号引用商標はその「金礦」という単語が既存の語彙であり、独創性が高くはなく、恣意的商標に該当する。また061号引用商標は中国語の「金礦」以外に、英語の「GOLD CROWN」と王冠のようなデザインの抽象的図案が組み合わされているが、中国語の「金礦」、英語の「GOLD CROWN」、王冠のようなデザインの抽象的図案のいずれも既存の語彙又は事物であり、これも恣意的商標である。引用二商標の図案は使用が指定された『ケーキ、パン』等の商品と関連性がないため、消費者は直接それが商品又は役務の出所を示し区別する標識であるとみなし、相応の識別性を有し、もし他人が少しでも便乗したならば、関連する消費者が誤認混同する状況を惹き起こす可能性は極めて高い。係争商標は「金鑛咖啡」から構成され、『咖啡』は一種の飲料品であり、それは指定する『デザート』等商品と関連性があり、商品を説明する意味を有する。よって係争商標は全体的にみて、「金鑛」と「咖啡」が組み合わされた名称と商品指定の意味を有し、消費者もそれを直接的に商品を示し出所を識別する標識であるとみなして他人の商品と区別するため、これは引用二商標と同じく、恣意的商標であり、識別性を有する。これにより係争商標と引用二商標の商標図案全体は高度類似を構成し、かつ指定商品も同一又は高度類似に該当し、一般消費者は見分けることができず、それが表彰する出所又は生産主体に対して容易に誤認混同が生じてしまう。
(2)原告は次のように主張している:原告は大量に係争商標を販売に使用し、デザートの小売を行っており、関連する消費者に広く認識され、ストロングマークに該当し、使用による識別力を有する。しかも係争商標については長期間にわたって多角経営に力を入れ、良好なブランドイメージを確立し、国内コーヒー市場において確固たる地位を占めており、関連する消費者は当然ながら係争商標が使用を指定している商品又は役務の出所は原告であると強く認識しており、その他の商標と誤認混同するおそれはない云々。ただし前項(第29条第1項)第1号の「指定商品や役務の品質、用途、原料、産地又は関連する特性のみを描写する説明で構成されたもの」、又は第3号の「その他、識別性を具えない標識のみで構成されたもの」に該当する場合、出願人が使用し、しかも取引においてすでに出願人の商品又は役務を識別する標識となっているならば、出願してもよいと、商標法第29条第2項に規定されている。条文によると、登録を出願する商標に第1号又は第3号に定める生来的識別力がない状況にあったものが、取引において使用されて出願人の商品又は役務を識別する標識となることにより、使用による識別力を有するものとなるため、使用による識別力を論ずる前提は、登録を出願する商標が生来的識別力を有さないことであり、両者は使用の累積、無から有、量の変化による質の変化、相互排斥という観念である。よって商標の標識が生来的識別力を有するならば、さらに使用による識別力を論じる必要性はない(最高行政裁判所104年度判字第792号判決要旨を参照參照)。調べたところ、係争商標は「金鑛咖啡」から構成され、「咖啡」は消費者が熟知している飲料という説明的文字であることから、係争商標は全体的に「金鑛」と「咖啡」が結合してなり、関連の消費者が一見したときの印象については「金鑛」の2文字に集まり、「金鑛」は使用を指定する「クッキー、デザート」等商品とは関係がなく、関連する消費者は通常それを商品又は役務の出所を標示し識別する標識とみなす。即ち、係争商標は指定商品や役務の品質、用途、原料、産地又は関連する特性のみを描写する説明ではなく、隠喩の方法で指定商品の関連する特徴を示唆して説明するものであり、一般的社会通念に基づき、関連する消費者は想像と推理を行う必要があり、それによって始めて係争商標から指定商品の特性を連想することができ、隠喩の効果を達成し、関連する消費者は直接的にそれを指定商品又は役務の標示及び出所識別の標示とみなし、生来的識別力を有する。前記判決要旨からみて、係争商標はすでに生来的識別力を有することから、「係争商標はストロングマークであり、使用による識別力を有し、引用二商標とは誤認混同を生じさせるおそれはない」という原告の前記主張は採用できない。

4. 関連の消費者の各商標に対する熟知度:
(1)関連する消費者が対立する両商標に対していずれも相当に熟知している場合、即ち両商標が市場に並存するという事実がすでに関連する消費者の認識するところであり、異なる出所からのものであると識別できる場合は、この並存する事実をできるかぎり尊重すべきであるが、関連する消費者が対立する二商標のいずれか一つを熟知するならば、より熟知される商標により大きな保護を与えるべきである。関連する消費者の商標に対する熟知度は、当該商標が使用される広さの程度に関連する。原則的に主張する者が関連する使用の事実証拠を提出してこれを証明しなければならない(最高行政裁判所108年度判字第113号判決要旨を参照)。原告は、係争商標が「クッキー、デザート」等商品に使用されており、すでに関連する消費者に熟知され、より強い識別力を有しているため、引用二商標と誤認混同を生じるおそれはないと主張し、それが提出した証拠を根拠としているが、原告の証拠資料を総合的にみると、宣伝広告の内容を「クッキー、デザート」等商品と照らし合わせて調べられないこと、又は「金鑛咖啡」の文字が完全な形で使用されていないこと、又はその期日が係争商標の登録出願日である2017年6月13日よりも遅いことから、それらを係争商品の実際の使用を証明する証拠とすることはできず、客観的に係争商標の登録の時点で関連する消費者により熟知されているため、引用二商標と区別でき、両者の商品の出所を誤認するには至らないとは認められない。
(2)原告は以下のように主張している:2017、2018年度税金関連の資料から、原告の売上高の方が多く、引用二商標の商標権者である蔡○が経営する流線公司が引用二商標を使用する商品の売上高はより少なく、係争商標はすでに関連する消費者に熟知するものとなっているため、登録を許可しても消費者に誤認混同を生じさせるおそれはない云々。調べたところ、原告の2017年度売上高は7億2367万3150新台湾ドル、2018年度の売上高は5億215万1879新台湾ドルであり、一方、流線公司の2017年度売上高は73万6518新台湾ドルで、2018年度の売上高は営利事業所得税(訳注:日本の法人税に相当)の申告をしていないため資料がなかった。このため係争商標が2017年6月13日に登録を出願した時点で、原告企業の2017年度売上高は流線公司よりも多かったと認めることができる。しかしながら原告は本件の口頭弁論が終結するまでに、係争商標を使用している部分の収益、売上高等の関連資料を根拠として提供せずに、前述の原告企業2017年度営業収入だけを根拠としており、なおこれをもって原告が係争商標の使用を指定した「クッキー、デザート」等商品の販売資料に該当するかどうかを認定できない。原告は2018年度営業収入の資料がないことについては、係争商標の登録出願日である2017年6月13日よりも後のことなので、当裁判所は斟酌する必要がない。さらに、引用二商標の商標権者は流線公司ではなく蔡〇であり、また流線公司の収益が少ないことを以って、係争商標の登録出願時に引用二商標よりも関連する消費者に熟知されているとは認め難く、原告のこの部分の主張は採用できない。
(3)商標は法に基づき登録を出願して始めて商標権の保護を主張できる(商標法第2条規定を参照)ことから、わが国の商標法は「先願主義」を採用していることがわかる。先願の商標が高度な著名性を有さない場合、又は関連する消費者に広く知られていない場合でも、先願の商標権者はなお法に基づき権利を主張できる。さらに市場における公正な競争を確保し、大きな財力を持つ企業が強力なマーケティングの力を以って先に登録された商標を奪い取ることを避けるため、わが国では実務上、「逆混同」を採用せず、商標法の「先願主義」に基づいて保護すべきは、後願商標ではなく先願商標である(最高行政裁判所105年度判字第465号判決要旨を参照)。たとえ係争商標が広告やマーケティング等の措置によって引用二商標よりわが国の関連する消費者に広く熟知されているという原告の主張が真実であると認めたとしても、後願商標、即ち係争商標の登録を許可したならば、わが国の商標法の「先願主義」の規定に違反し、さらに市場において係争商標と引用二商標が同時に存在するならば、両者の商標図案が高度に類似し、しかも同一又は高度に類似する商品における使用を指定することで、消費者が両者は同一の出所からのものである、又は両商標の使用者の間に関連企業、使用許諾、加盟又はその他これらに類する関係が存在すると容易に誤認させることから、係争商標の登録が消費者に誤認混同を生じさせるおそれが確かにあることを証明できる。また、わが国の商標法は法制度の選択において先願商標の保障が優先されており、それは商標がその後関連する消費者に広く知られたか否かは関係がない。先願商標が実際に使用されていない場合は、なお「取消」制度によりバランスをとることができる(現行商標法第63条第1項第2号を参照)。ゆえに、061号引用商標の存続期間は2023年11月15日まで、530号引用商標の存続期間は2028年1月31日までであり、引用二商標は係争商標の登録出願時(2017年6月13日)にいずれも有効に存続している商標であり、引用二商標が法に基づいて取消が確定するまでは、なお他人の商標の登録出願に対する拘束力があり、また後願商標、即ち係争商標が消費者により広く知られていることを以って、より多くの保護を与えてはならず、原告のこの部分の主張は採用できない。

5. 係争商標の出願人の善意の有無:
(1)商標の主な機能は自らの商品又は役務を表彰して、他人の商品又は役務と区別できるようにすることであるため、商標の登録出願又は商標の使用は商標の識別機能を発揮することにある。もし関連する消費者にその出所を誤認混同させる可能性を明らかに知っていて、さらには一般消費者にその出所を誤認混同させようと企み、商標の登録を出願したならば、その出願は善意によるものではないため、保護を受けるべきではない。原告は、2000年12月17日に「金鑛」、「金礦」の登録を次々と出願し、コーヒーショップ、レストラン、コーヒー、食品及びケーキ等の役務に用い、市場において著名となり、ブランドイメージを人々の心に深く植え付けており、係争商標の登録(出願)は善意によるものである云々と主張している。調べたところ、原告はかつて「金鑛」、「金礦」の図案を以って商標登録を出願したが、その指定商品又は指定役務は「ホット/コールドドリンク店、飲食店、軽食店、フルーツカキ氷店、レストラン、コーヒーショップ、ビアホール」であり、係争商標の指定商品である「クッキー、デザート」等商品とは異なる。また(その他の商標登録資料をみると)各当該商標の図案、又は王冠の図案、又は王冠の図案と英語の「Crown」を組み合わせたものは、いずれも係争商標とは異なり、なおこれを以ってそれがすでに「金鑛」、「金礦」を本件の指定商品である「クッキー、デザート」等商品に用いていたとは認定し難い。
 (2)さらに、原告と引用二商標の商標権者である蔡○は同業者であり、引用二商標が上記関連商品に使用されてすでに相当の年月が経っており、係争商標が2017年6月13日に登録を出願された時点で、原告が引用二商標の使用の事実を知らなかったのかどうかは、すでに疑わしいのではないか。さらに「金鑛」をキーワードとして検索すると、商標検索システムで容易に引用二商標の存在を知りえるため、原告による係争商標の登録出願は善意によるものとは言い難い。しかも、たとえ原告による係争商標の登録出願が善意によるものだったとしても、対立する二商標が関連する消費者の誤認混同を生じさせるか否かを個別の案件において判断するには、前記のその他の関連する要素を参酌して総合的に判断すべきであり、単に係争商標の登録出願が善意によるものだという個別の要素を以って、係争商標は消費者に誤認混同を生じさせるおそれはないと当然認めるというものではないことを、ここに述べておく。

6.販売の方法と場所:
商品又は役務の販売方法について、商品又は役務の販路又は役務の提供場所が同じであるときは、一般消費者が同時に接触する確率が高く、誤認混同の可能性が高くなってしまう。逆に、直販、ネットショッピング又は通販等の販路を通じるときは、それと一般市場の販売者との間で誤認混同が発生するおそれは低くなる。商品の販売又は役務の提供が行われる場所も、誤認混同のおそれの程度に影響を与える。原告は、引用二商標の商標権者である蔡○が経営する流線公司の資本金総額がわずか25万新台湾ドルであり、現在高雄市でレストラン「流線美食文創餐廳」を経営しているだけで、地域を超えたいかなる経営も行った形跡はない云々と主張している。しかしながら調べたところ、引用二商標はすでに実際の販売とマーケティングに使用されており、また両者の商標はいずれも「キャンディ、クッキー、穀類スナック、パン、ケーキ」等の関連商品に使用されており、関連する消費者が係争商標と引用二商標に同時に接触する機会を排除できず、関連する消費者に両者の商標の商品が同一の出所からのものであると誤認させる、又は両者の商標の使用者の間に関連企業、使用許諾関係、加盟関係又はその他これらに類する関係が存在すると誤認させる可能性が極めて高い。

7.以上をまとめると、係争商標と引用二商標は、両者の全体の商標図案が高度に類似している高度類似の商標であること、また同一又は高度に類似する商品に使用することを指定していること、引用二商標は相応の識別性を有していること、関連する消費者が係争商標をより熟知しているという証拠はないこと、係争商標の登録出願は善意によるものではないこと、両者の販売の方法又は提供の場所が重複している可能性があること等の要素から、関連する消費者は両者の商標に同時に接触して、誤認混同を生じる可能性がある。たとえ係争商標の登録出願が善意によるものであると認めて、登録出願が善意によるものである等のその他要素に対する要求を引き下げたとしても、係争商標の登録は関連する消費者に両者の商標の役務が同一の出所からのものである又は出所が異なるものの関連する出所からのものであると誤認させる、又は両者の商標を使用する者の間に関連企業、使用許諾関係、加盟関係又はその他これらに類する関係が存在すると誤認させるに至ると認定できる。本件について上記の各要素を総合的に斟酌した結果、客観的に係争商標には関連する消費者にそれと引用二商標の商品が同一の出所のものであると誤認させる、又はその使用者の間に関連企業、使用許諾関係、加盟関係又はその他これらに類する関係が存在すると誤認させることで、誤認混同を生じさせるおそれがあると認める。上記説明から、第30類「クッキー、デザート」等商品での使用を指定して係争商標の登録を出願することに、商標法第30条第1項第10号の規定を適用すべきである。

五、以上の次第で、係争商標の登録には商標法第30条第1項第10号に定められる不登録事由があるため、被告が係争商標の登録を拒絶する処分を行ったことに誤りはなく、維持の訴願決定にも誤りはない。原告が以前からの主張に徒にこだわり、訴願決定及び原処分を取り消し、被告に係争商標登録に対する許可処分を命じるよう請求することは理由がないため、これを棄却する。以上の論結に基づき、本件原告の訴えには理由がなく、知的財産案件審理法第1条、行政訴訟法第98条第1項前段により、主文のとおり判決する。

2019年4月11日
知的財産裁判所第三法廷裁判長 蔡惠如
裁判官 黃珮茹
裁判官 張銘晃
書記官 葉倩如

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金礦
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