商標の文字で商品又は役務の出所を表示して区別する標識が識別性を有するかは、その文字の意味とその指定商品又は指定役務との関係によって決まる

2021-06-24 2020年
■ 判決分類:商標権

I 商標の文字で商品又は役務の出所を表示して区別する標識が識別性を有するかは、その文字の意味とその指定商品又は指定役務との関係によって決まる

II 判決内容の要約

知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】109年民商訴字第13号
【裁判日期】2020年8月10日
【裁判事由】商標権侵害行為差止め(排除)等

原告 朱〇亦
被告 韓饗館

上記当事者間の商標権侵害差止め等事件について、当裁判所は2020年6月30日に口頭弁論を終え、次のとおり判決する。

主文
原告の訴えを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

一 事実要約
原告は登録第01516284号「韓廚及び図」商標(以下「提訴根拠の商標(根拠商標)」、添付図1の通り)の商標権者であり、現在なお商標権の存続期間内にある。被告は2019年1月12日から「尼歐韓廚」(以下「係争図案」、添付図2の通り)の店名でレストランを経営して飲食サービスを提供している。原告が発見した後、同年2月25日に書簡を以って被告に係争図案又は根拠商標と同一の又は類似のその他の文字又は図案の使用を直ちに中止するよう通知した。しかしながら、被告は係争図案をレストラン経営に使用し続けており、それを証明できるFacebookのファンページ、外観の写真などがある。原告が同年7月9日に被告の経営パートナー全体に対する商標権侵害の刑事告訴をして始めて被告は店名を「尼歐廚房」に変更したが、Facebookのファンページ、Uber Eatsのデリバリープラットフォームではなお「尼歐韓廚」で経営を続けている。根拠商標の商標権侵害には故意又は過失があるとして、(原告は)当裁判所に民事訴訟を提起した。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告の請求声明:
被告は「韓廚」又はその他の原告第01516284号登録商標と同一又は類似の文字又は図案をレストラン、飲食店又は飲食提供と同一又は類似の商品又は役務に使用してはならない。
被告は原告に15万新台湾ドル及び起訴状副本送達の翌日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
(二)被告の答弁声明:
原告の訴えを棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。

三 本件の争点
(1) 係争図案と根拠商標とは類似し、関連の消費者に誤認混同を生じさせるおそれはあるのか。
(2) 被告による係争図案の使用には、根拠商標侵害の故意又は過失があるのか。
(3) 被告による係争図案の使用に根拠商標侵害の故意又は過失があるならば、原告が商標法第69条第3項規定により請求でき損害賠償額はいくらか。

(一)原告の主張理由:省略。判決理由の説明を参照。
(二)被告の答弁理由:省略。判決理由の説明を参照。

四 判決理由の要約
(一)商標法第36条第1項第1号には、 商業取引の慣例に合致する誠実且つ信用できる方法で、自己の氏名、名称、又はその商品又は役務の名称、形状、品質、性質、特性、用途、産地又はその他商品又は役務自体の説明を表示するもので、商標として使用されていないものは、他人の商標権の効力に拘束されない、と規定されている。その構成要件3項目は、(1)商業取引の慣例に合致する誠実且つ信用できる方法による商品又は役務の説明であること;(2)自己の氏名、名称、又はその商品又は役務の名称、形状、品質、性質、特性、用途、産地又はその他商品又は役務自体の説明を表示するものであること;(3)商標として使用されていないこと、即ち他人の商標を説明として使用していること、である。
文字で商品又は役務の出所を表示して区別する標識が識別性を有するかは、文字の意味とその指定商品又は指定役務との関係によって決まる。文字に商品又は役務の品質、機能又はその他の特性に関する説明が含まれない又は極めて少ない場合、識別性が極めて高い文字商標であり、逆の場合は識別性が低い文字商標である。指定商品又は指定役務の通称名、又はその品質、機能又はその他の特性のような直接的で明らかな説明的文字は識別性を有しない。調べたところ、異国料理の提供又は異国料理店の場合、「法廚」、「義廚」、「德廚」等(訳注:法はフランス、義はイタリア、德はドイツを指す)のようにその国名の頭文字を冠して称呼するのが通常である。このような表現方法は、消費者がある程度の想像、思考、推理を必要とせずにすぐ商品又は役務の関連性を理解でき、これらの商標には識別性がない。よってデザインされていない「韓廚」の二文字は、関連する商品又は役務の品質、用途、原料、産地又は関連する特性の説明を描写しているだけで、識別性を有さない。
 根拠商標は韓国服を着た子供のイラストと美術デザインされた「韓廚」の二文字から組み合わされたもので、その全体には創意工夫により元来の単純な韓国料理に関する概念を転化したものであり、その創作の目的は消費者に根拠商標を商品又は役務の出所を示す標識として識別性を持たせることであり、デザインされていない「韓廚」二文字とは異なり、識別性を有する。

(二)商標の類否判断は、商標の図案全体を観察しなければならず、これは商品又は役務に係る消費者の目の前に提示されるのは全体の図案であり、分割された一部ではないためである。またいわゆる「主要部分」の観察については、商標は全体の図案を提示するものであるが、商品又は役務に関連する消費者が注目する又は事後に印象が残るのは図案において比較的目立つ部分であり、この目立つ部分が「主要部分」である。主要部分の観察と全体の観察は互いに対立するものではなく、主要部分は最終的に商標がその商品又は役務に関連する消費者に与える全体の印象に影響をもたらす重要な構成部分であるため、全体観察並びにその主要部分の比較という方式で商標の類否を判断する。
調べたところ、添付図2の係争図案はデザインされていない字体の「尼歐」と「韓廚」が組み合わされており、「韓廚」の二文字は強調されておらず、主観的に「韓廚」を商標として使用する意図があったとは認めがたい。また単純な「韓廚」の二文字は商品又は役務に係る関連の品質、用途、原料、産地又は関連の特性の説明であって、出所を表示して区別する機能を有さないことは、前述したとおりである。よって創意デザインがなされていない「尼歐韓廚」の図案は、その中の「尼歐」こそが商品又は役務の消費者が注目する又は事後に印象が残る主要部分であり、係争図案における「韓廚」は被告の商品又は役務の特性の説明にすぎず、客観的に関連の消費者は「韓廚」で商品又は役務の出所を識別するものではない。さらに、被告の係争図案が「韓廚」を使用して、故意に目立たせようとしておらず、商業取引の慣例に合致する誠実且つ信用できる使用方法に該当する。
根拠商標は、韓国服を着た一組の子供のイラストとデザインされた「韓廚」の二文字を組み合わせたもので、その図の部分と文字の部分の割合は同じで、互いに補完し合っており、関連の消費者はその全体で商品又は役務を表彰する標識としている。係争図案はデザインされていない「尼歐韓廚」等の文字から成り立ち、消費者は「尼歐」で主に出所を識別しているのは前述のとおりである。根拠商標と係争図案は、通常の知識経験を有する消費者が購買時に普通の注意を施し、時間と場所を異にして隔離的かつ全体的に観察し、一連に称呼した場合、根拠商標と係争図案の異なると区別できるため、両者は類似しないと認められる。関連の消費者に両商標の商品又は役務が同じ出所からのものであると誤認させたり、両商標の使用者の間に関連企業、使用許諾関係、加盟関係又はその他これらに類する関係が存在すると誤認させたりするにはいたらず、誤認混同を生じさせるおそれはない。
         
(三)被告が使用する係争図案について、その中の「韓廚」二文字は一般的な商品又は役務自体の特性に関する説明の文字であり、しかも被告には根拠商標を侵害する故意はなく、係争図案と根拠商標は関連の消費者を誤認混同させるおそれがないことは前述したとおりである。まして被告のレストラン名はすでに「尼歐廚房」に改名されており、これは双方が争うところではない。またそのFacebookファンページとUber Eatsデリバリープラットフォームの資料も2020年3月17日以降には「尼歐廚房」に変更されている。原告の陳述はファイルされており、原告が、被告は根拠商標権を侵害しており、損害賠償及び侵害の防止と差止めを請求することには理由がなく、棄却すべきである。

2020年8月10日
知的財産裁判所第三法廷
裁判官 杜惠錦
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