思想と表現の融合法理により、同一の描写対象についての描写が言語上の制約ゆえに同様となったものは、著作権侵害を論ずることができない。

2014-05-15 2011年

■ 判決分類:著作権

I 思想と表現の融合法理により、同一の描写対象についての描写が言語上の制約ゆえに同様となったものは、著作権侵害を論ずることができない。

II 判決内容の要約

基礎データ

知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】98年度民著訴字第36号
【裁判期日】2010年4月13日
【裁判事由】著作権侵害に関わる財産権争議等
原   告 甲○○
被   告 乙○○
上記当事者間における著作権侵害に関する財産権争議等事件につき、本裁判所は2010年3月23日の口頭弁論終結を経て、以下のように判決を下す。

主文
原告の訴えを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

一 事実の要約
原告は元「勝利之光」雑誌社の記者であった被告乙○○を起訴し、次のように主張した。即ち同人は第256期「全球防衛雑誌」の「韓国軍艦博物館巡礼」の一文(以下、係争著作)が原告が著作権を有する著作であると明らかに知りながらも、営利を意図して「勝利之光」雑誌第649期「插橋湖海軍公園」の文章を執筆する際に「韓国軍艦博物館巡礼」の一文を剽窃した。またそれは原告の同意若しくは許諾を受けていない上、出所や参考書籍も明記しなかったので、故意に原告氏名を遺漏した。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告声明:
1.被告は原告に92370 新台湾ドルを賠償すべきである。
2.被告は本件判決書を幅12センチ、長さ18センチのサイズで中国時報、聯合報及び青年日報に各一日掲載するべきである。
(二)被告声明:
1.原告による訴えの棄却と判決すること。
2.もし不利な判決を受けた場合、担保供託による仮執行免除の許可を請求する。

三 本件の争点
(一)原告による主張の理由:判決理由の説明を参照。
(二)被告による答弁の理由:判決理由の説明を参照。

四 判決理由の要約
(一) 著作権の保護目的は表現に及ぶのみであって、思想、概念には及ばず、これが即ち思想と表現の二分法である。思想は、概念性質上公共資産に当たり、もし著作権保護範囲を思想、概念にまで拡張すると、他人の自由創作を制限することになり、著作権法第1 条で掲げる「著作者の著作権益を保障し、社会公共利益を調和させ、国家文化の発展を促進する」という立法目的を失うことになる。また、もし思想又は概念が一種又は有限の表現方法のみであるとすると、それにより他の著作者は他種の方法を持たないか又は限られた方法でのみ当該思想を表現できるだけとなる。もし著作権法がこのような限られた表現方法の使用を制限すると、思想も原著作者による独占となり、人類文化、芸術の発展に影響するのみならず、憲法による人民の言論、講学、著作及び出版の自由という基本的人権の保障を侵害することになる。よって学理上、著作権法が発展させた思想と表現の融合法理(The merger doctrine of idea and expression)により、表現方法に限りがある情況下で、当該の限りある表現と思想を融合させたものは著作権保護の目的とならないと言える。従って、同一思想について限りある表現方法しかない場合、たとえ他人の表現方法と同一又は近似していても、それは同一思想表現が有限であることの必然的結果であって、やはり著作権の侵害を構成しない。
(二) 著作権の複製による侵害だと判断する要件は二つあり、一は被告がかつて著作権者の著作に接触(access)したか、二は被告の著作と著作権者の著作が実質的に相似(substantial similarity)しているかである。本件被告は勝利之光雑誌第625 期「江陵市統一公園軍事博物館」の一文及び第649 期「插橋湖海軍公園」の一文を「竺筠」というペンネームで発表したことについては争議がなく、なお且つ自身もかつて全球防衛雑誌社の編集をしていた際に原告の上記文章を見ていることは、接触の要件に該当する。しかし、複製による侵害を構成しているのか否かは、やはり被告の文章と原告の文章の内容が実質的に相似を構成しているかどうかを見た上で確定しなければならない。
(三) 本件は双方の合意を経て劉孔中教授による鑑定がなされた。その結果は次のとおりである。:
被告が勝利之光雑誌第625 期で発表した「韓国東海畔的軍事博物館─江陵市統一公園軍事博物館」の一文と原告の一文は実質的な類似性を欠いている。被告が勝利之光雑誌第625 期で発表した「韓国東海畔的軍事博物館─江陵市統一公園軍事博物館」の一文は、第一部分で江陵市統一公園軍事博物館の特色(韓国老陽字号駆逐艦及び1996年に捕獲した韓国攻撃型原潜を同時に展示)及び地理的位置を紹介している。第二部分は展示されている韓国陽字号駆逐艦の由來、武器配備、博物館に改装された経緯及び内部配置と開放方式を紹介、第三部分は、韓国攻撃型原潜が捕獲された過程及び内部の配備を紹介し、その中で被告は自ら訪問したと記している(「筆者の所見では、アクラ級攻撃型原潜の内部設備は大変粗末」)、第四部分では当該軍事博物館の室内展覽館及び陸軍武器陳列エリアの紹介について、構想、章節、内容、文字、語句、撮影写真の選択において、全て被告の個性若しくは独自性が現れており、原告の一文とは実質的な類似性を欠いている。もちろん、被告の当該文章の第二部分で、展示されている韓国陽字号駆逐艦が博物館に改装された経緯及び内部配置と開放方式を紹介する際、一部内容と原告一文の少数の文字(原告文章又は被告本文のいずれかと比べても、全て少数文字のみ)が類似又は同一である箇所があるが(逐字同一ではないので、実際のところ原告の起訴状のように151 字と計算することはできない)、その内容はいずれも性質の描写であり、二文の核心又は重要部分ではない。また、描写対象が同一である為、叙述文字の選択にも制限があり、同一又は類似の語句があることは避けられないが、だからと言って二文が実質的な類似性を有すると推論することはできない。
被告が勝利之光雑誌第649 期で発表した「插橋湖海軍公園─全州号駆逐艦と我国陽字号が同型で、本来の風貌をよく保っている」の一文と原告の一文も実質的な類似性を欠いている。:
被告が勝利之光雑誌第649 期で発表した「插橋湖海軍公園─全州号駆逐艦と我国陽字号が同型で、本来の風貌をよく保っている」の文章はやや短く、第一部分は本文を書いた動機であり、老陽字号駆逐艦が我国で歴史的遺物となったことから語り始め、博物館建設を通してどのようにこの歴史を捉えるのかを論じるので、「ソウル南方の唐津郡插橋湖観光旅行区にある『海軍テーマパーク』」を参観することを思いついたとし、韓国老陽字号駆逐艦と我国同級駆逐艦の武器配備の異同を比較し、同時に当該公園に展示されているLST 戦車揚陸艦、S-2E対潜哨戒機、A-AV7 水陸両用車及びM47 戦車、3インチ艦砲、船錨等に言及している。第二部分の標題は「甲板を室内陳列館に改装」で、当該公園内の戦車揚陸艦の内部展示、全州号駆逐艦と戦車揚陸艦の陳列方式を紹介している。第三部分は参観に開放されている甲板部分を紹介し、最後に全州号の艦艇へリコプター格納庫が艦艇コーヒーショップに改装されたのは「殊更に惜しい」と意見を述べている。構想、章節、内容、文字、語句、撮影写真の選択のいずれに於いても、全て被告の個性若しくは独自性が現れており、原告の一文とは実質的な類似性を欠いている。もちろん、被告のこの部分の内容に原告一文と類似又は同一である箇所があり(逐字同一ではないので、実際のところ原告のように429 字と計算することはできない)、被告の当該文の文字数と比べて、少なくはないが、その内容は全て描写性質であり、二文の核心又は重要部分ではない。また、描写対象が同一である為、叙述文字の選択にも制限があり、同一又は類似の語句があることは避けられないが、だからと言って二文が実質的な類似性を有すると推論することはできない。
(四) 原告は被告が剽窃したのはその文章でも軍艦がある方式で陳列されていること及び軍艦内部配置と開放使用方法等の箇所に集中していると指摘しているが、これらの物は何れも固定の静物であり、被告文章と原告文章の描写対象が同一である為、描写文字の選択上制限があり、同一又は類似の語句となるのは避けがたい。上記で説明した思想と表現の融合法理に依れば、たとえ被告のこの部分の表現方法が同一又は近似であっても、それは同一思想表現に限りがあることの必然的な結果である。ましてや当該部分は原告、被告文章の小さな一部を占めているだけであり、双方文章の核心又は重要部分ではないので、被告が原告の上記文章を複製したとは認め難い。上記劉孔中教授の鑑定結論でも同じ認定である。よって、原告が被告が上記二文章によりその上記文章著作財産権を侵害したと主張し、著作権法第88条に基づき上記声明のとおりの判決を請求したことには理由がなく、棄却されるべきである。
(五) 本件事証は既に明確であり、双方のその他攻撃防禦方法も判決結果に影響しないので、逐一論述しないことを、ここに説明しておく。

以上結論として、本件原告の訴えには理由がなく、知的財産案件審理法第1条、民事訴訟法第78条に従い、主文のように判決する。

2010年4月13日
知的財産裁判所第二法廷
裁判官 陳忠行
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