著作権者の同一性保持権の侵害の構成は、変更結果が著作権者の名誉に対して、影響を生じたか否かによって判断すべきで、全ての変更行為が侵害行為に該当するものではない。

2014-06-25 2013年

■ 判決分類:著作権

I 著作権者の同一性保持権の侵害の構成は、変更結果が著作権者の名誉に対して、影響を生じたか否かによって判断すべきで、全ての変更行為が侵害行為に該当するものではない。

■ ハイライト
著作権の保護対象は、創作的に表現したものに限られ、アイデアや概念まででは保護されない。ただし、特定アイデアを表現するためには一つの方法しかなく、またはごく限られた有限な方法、或いはアイデアと表現を区別できず、分離することができない場合において、他人の表現方法と同じまたは近似することは、同じアイデアに基づき限られた表現をする際の必然的結果であり、著作権の侵害に当たらない。さらに、著作権者の意に反して同一性保持権が侵害されたかどうかは、その改変の結果が、著作権者の名誉に影響するかどうかの観点から判断すべきであり、一概にすべての改変行為が権利侵害行為であると判断すべきでない。(判決要旨は、法源資訊よりまとめた)

II 判決内容の要約

知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】100年度民著訴字第42号
【裁判期日】2013年1月10日
【裁判事由】著作権侵害に関わる財産権の争議

原告 林玉
被告 馬瑞君
国立台湾工芸研究発展中心

前記当事者間による著作権侵害に関わる財産権の争議事件について、本裁判所は2012年12月13日口頭弁論を終結し、以下のとおり判決する。

主文
被告国立台湾工芸研究発展中心は原告に対して、NT$126,000及び2011年8月25日から弁済日まで、週ごとに年利率5%の利息を加算して支払う。
原告のその他の訴えを棄却する。
訴訟費用は被告が100の13を負担し、その余りを原告の負担とする。
この判決の第1項について、仮執行をすることができる。ただし、被告国立台湾工芸研究発展中心がNT$126,000の担保を供託した場合は、仮執行を免ずることができる。
原告によるその他の仮執行請求をすべて棄却する。

一 事実要約
被告国立台湾工芸研究発展中心(以下、「工芸中心」という)が2008年6月2日に、訴外人芸術家出版社と契約を締結し、その外注の「台湾工芸」季刊誌の文書の著述及び発行などを下請けさせていた。
一方、訴外人芸術家出版社が2007年11月から2009年5月までに刊行した台湾工芸季刊誌「工芸の家」コラムの内容は、そもそも原告が訴外人芸術家出版社の依頼を受けて執筆したものであるが(以下、「係争著作」という)、原告と訴外人芸術家出版社とは係争著作の権利帰属については、文書を交わしていなかった。
しかしながら、被告工芸中心が2009年に刊行した「北台湾芸遊趣」、「南北台湾芸遊趣」書籍はそもそも被告馬瑞君が執筆したものであり、係る文章の内容は係争著作と同じかまたは類似する箇所があると主張があった。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告の請求
(1)共同被告は連帯して原告にNT$100万、並びに起訴状副本の送達日より弁済日まで、年利率5%の利息を支払う。
(2)訴訟費用は被告が共同で負担する。
(3)原告は担保を供託し、仮執行の宣告を請求する。
(二)被告工芸中心の請求
(1)原告の訴え及び仮執行の請求をすべて棄却する。
(2)訴訟費用は原告が負担する。
(3)もし、不利な判決が言い渡されたとき、担保を供し、仮執行の免除を請求する。
(三)被告馬瑞君の請求
(1)原告の訴えを棄却する。
(2)訴訟費用は原告が負担する。
(3)もし、不利な判決が言い渡されたとき、担保を供し、仮執行の免除の宣告を請求する。

三 本件の争点
(一)原告は係争著作の著作者であるか。
(二)被告工芸中心が著作権法第12条第3項に基づき、係争著作の利用権を主張することはできるか。
(三)被告工芸中心が出版した「北台湾芸遊趣」、「南北台湾芸遊趣」の内容は、係争著作と実質的に近似しているか、原告の著作権を侵害しているか。
(四)原告の著作者人格権は侵害されているか。
(五)被告工芸中心と馬瑞君には、原告の著作権を侵害する故意、過失があるか否か。
(六)原告が民法第185条、著作権法第85条、第88条により、被告に連帯して慰謝料NT$20万及び損害賠償金NT$80万を請求したことに根拠はあるか。

(一)原告主張の理由:略。判決理由の説明を参照。
(二)被告答弁の理由:略。判決理由の説明を参照。

四 判決理由の要約
(一) 原告は係争著作の著作権者であり、係争著作について著作財産権を享受することができる。他人に代価を支払って完成した著作は、前条の場合を除き、依頼を受けた者が著作者となる。ただし、契約により出資者を著作者とする約定がある場合は、その約定に従う。著作財産権の帰属について、約定がない場合において、その著作財産権は依頼を受けた者が享受することができる。これは著作権法第12条第1、2項に明文で規定されている。さらに、原告は芸術家出版社から原稿作成の依頼を受けた作者であり、芸術家出版社と雇用関係がある。原告は訴外人から係争著作の執筆依頼を受けた時点では、著作財産権の帰属の約定がなかったため、依頼を受けた者すなわち原告が係争著作の著作者であり、なおかつ係争著作の著作財産権は原告が所有するものである。

(二)被告工芸中心は係争著作について、利用権を有しない。
著作財産権が依頼を受けた者の所有のときは、出資者は係る著作を利用することができることは、著作権法第12条第3項に明文で規定されている。原告に出資して、係争著作を執筆させた者は、訴外人芸術家出版社であるため、被告は係争著作について、利用権を主張することができない。

(三)被告工芸中心の「北台湾芸遊趣」、「南北台湾芸遊趣」の内容は原告の著作財産権を侵害している。
1.事実関係について
著作権の保護対象は創作的に表現したものに限られ、アイデアや概念には及ばない、これはすなわちアイデアと表現の二分法である。ただし、特定アイデアを表現するために一つの方法しかなく、またはごく限られた有限な方法、或いはアイデアと表現を区別できず、分離することができない場合において、他人の表現方法と同じまたは近似することは、同じアイデアに基づき限られた表現の必然的結果であり、著作権の侵害に当たらない。これはすなわち思想と表現の合併原則である。工芸家の紹介、背景、作品の基本紹介などの情報の表現方法は、一つに限らないため、「思想と表現の合併原則」は適用されない。さらに、係争著作における工芸家の紹介、背景、作品の基本紹介などの部分は、すべて原告がその事実をベースに自らの文字修飾を加えたものであり、単純な事実陳述ではなく、著作権法によって保護される。
2.工芸家の口述内容について
人物への取材インタビューによる文字著作について、人物取材の内容自体が創作素材に当たり、これに対して、言語の表現と文字表現とは異なるものであり、原告の係争著作のうち、工芸家紹介の部分は選定、再整理、修飾によって仕上げられている点から、それ自体が原告の創意を含んでいる。よって、この部分の著作権は当然として原告の所有である。

(四)原告の著作者人格権が侵害されている。
著作者人格権は著作権法第15条ないし17条では、公表権、氏名表示権、同一性保持権などの類型が規定されている。調べによると、「北台湾芸遊趣」、「南北台湾芸遊趣」は原告の著作を使用していながら、原告の氏名を作者の欄に標示していないがために、他人に原告以外の者による創作だと誤認させたことは、原告の氏名表示権の侵害だと認められる。原告の係争著作がすでに工芸季刊誌に発表されている点から、公表権が侵害されていることは主張できない。さらに、原告が提出した資料では、著作物が改変されたことによって、原告の名誉が毀損されたことを立証できないことから、原告の同一性保持権が侵害されたとは認めがたい。

(五)被告に原告の著作財産権を侵害する故意、過失はあるか否か。
1.被告馬瑞君の部分について
被告馬瑞君は、善意で被告工芸中心の従業員の指示を信頼し、かつ工芸季刊誌で刊行された係争著作の著作財産権の紛争についても知らず、判断できなかったことから、検証の義務を課すことは困難である。よって、被告馬瑞君に主観的に原告著作権を侵害する故意性、過失性があったと認定することは難しい。
2.被告工芸中心の部分について
被告工芸中心は係争著作の著作財産権の取得を確認しないまま、係争著作の内容を参照しても良いと被告馬瑞君に告げたほか、被告馬瑞君が執筆した文章が他人の著作権を侵害しているか否かも詳しく調べずに出版したので、過失性がないとは言い難い。

(六)損害賠償の計算方法
1.財産的損害の賠償
被告工芸中心が原告に対して、工芸家の紹介部分の文字を依頼した原稿料は、NT$5,000であり、被告工芸中心が原告の同意なく原告の著作を使用し、その係る侵害行為による利益所得は、一般の状況において、原告に支払うべきと予想できる原稿料である。
2.非財産的損害の賠償
芸遊趣シリーズ書籍は台湾の工芸文化を推進する目的の出版物であり、被告工芸中心は著作権の侵害を業としていない。本件における被告の過失により、原告が被告に対して請求する非財産的損害賠償は、著作一点につき、NT$1,000が適切である。

以上をまとめると、被告工芸中心は過失により、原告の著作財産権及び著作者人格権を侵害した。しかし、被告馬瑞君には故意による過失はない。よって、原告が著作権法第85条、第88条により、被告工芸中心にNT$126,000及び起訴状副本の送達日の翌日より、すなわち2011年8月25日から(当裁判所ファイル(一)93ページの送達証明を参照)弁済日まで、週ごとに年利率5%の利息を計算して支払うようにと請求したことには理由があるため、これを認めるべきであるが、原告のその他の請求は理由がないことから棄却する。

以上をまとめると、本件原告の一部の訴えには理由があり、一部には理由がないので、知的財産案件審理法第1条、民事訴訟法第79条、第389条第1項第5号、第392条第2項により、主文のとおり判決する。

2013年1月10日
知的財産裁判所第一法廷
裁判官 蔡如琪

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