消費者にとってゲーム光ディスクの価値は娯楽効果にあるため、その主要価値は商標権ではなく著作権

2015-01-29 2013年
■ 判決分類:著作権

I 消費者にとってゲーム光ディスクの価値は娯楽効果にあるため、その主要価値は商標権ではなく著作権

■ ハイライト
本件では海賊版ゲーム光ディスクが著作権と商標権を同時に侵害している。メーカーは価格設定において、投入した資金に生産者としてのゲームに対する品質保証を加算した後、該ゲームの光ディスクに平均配賦して算出している。したがって投入したコストは著作権の価値に反映され、品質の保証は商標権の価値となっている。しかしながら消費者にとっての価値は娯楽効果にあり、たとえゲーム光ディスクが有名企業によるものであっても、娯楽効果が高くなければ消費者に購買させることは難しく、ゲーム光ディスクの主要価値は著作権部分にあるといえる(裁判要旨内容は法源資訊股份有限公司が整理)。

II 判決内容の要約

知的財産裁判所刑事付帯民事判決
【裁判番号】102年度重附民上字第3号
【裁判期日】2013年10月17日
【裁判事由】著作権法違反

上訴人 王○花
    呉○恁
    柳○仁
被上訴人 米マイクロソフト(Microsoft Corp.)

上記当事者間における上訴人による著作権違反の付帯民事訴訟事件について、上訴人は台湾新北地方裁判所の2012年12月27日に為された一審付帯民事訴訟判決(100年度知重附民字第7号)を不服として上訴を提起した。本裁判所は次のとおり判決する。

主文
原判決における上訴人に対する元金及び利息部分590万新台湾ドル余の連帯支払い命令と、該部分の仮執行宣言をいずれも取り消す。
前記取消部分について、被上訴人の原審における請求及び仮執行宣言申立をいずれも棄却する。
上訴人のその他の上訴を棄却する。

一 両方当事者の請求内容

一.被上訴人の請求:
1.上訴人の王○花、呉○恁、柳○仁等は連帯で被上訴人に80,595,550新台湾ドル及び起訴状副本の送達翌日から支払い済みまで年5%での割合による利息を支払うべきである
2.上訴人等は連帯して費用を負担し、本件の刑事最終事実審の判決書主文及び事実欄、並びに本件の民事最終事実審の判決書主文欄を、縦25センチ×横19センチのサイズで、経済日報の第一面下半分に1日間掲載しなければならない。
3.上訴人は連帯して費用を負担し、起訴状添付資料一に記載された謝罪文を、縦25センチ×横19センチのサイズで、経済日報の第一面下半分に1日間掲載しなければならない。
4.第1項声明について、被上訴人は担保を立てるので、仮執行宣言申立の許可を請求する。
二.上訴人等の請求:
被上訴人の請求及び仮執行宣言申立の許可請求を棄却すべきである。
三.原審では、1.上訴人の王○花、呉○恁、柳○仁は連帯して被上訴人に695万7,735新台湾ドルを支払うとともに、上訴人の王○花、吳○恁は2011年9月30日から、上訴人の柳○仁は2011年10月1日からそれぞれ支払い済みまで年5%での割合による利息を支払わなければならない、2.上訴人の王○花、呉○恁、柳○仁は連帯して費用を負担し、本件の民事最後事実審判決書の主文欄を、25センチ×19センチのサイズで、経済日報一面の下半分に1日間掲載しなければならない、3.被上訴人のその他の主張は棄却する、4.原判決第1項について、被上訴人が231万9,000新台湾ドルを上訴人の王○花、呉○恁、柳○仁に担保として立てた後、仮執行してもよい、との判決が下された。上訴人等はこの判決を不服として上訴を提起した。上訴の請求は1.原判決の上訴人等に不利な部分を取り消す。2.前記取消部分について、被上訴人の一審における請求及び仮執行宣言申立の許可請求を棄却する。被上訴人の答弁声明による上訴を棄却する。

二 判決理由の要約

(一)被上訴人の主張によると、上訴人等は2008年7月1日から2010年9月28日までの間、被上訴人の同意又は許諾を受けずに、被上訴人の著作権及び商標権を侵害した海賊版光ディスクを販売し、さらに新北市○○区○○街○○号00楼及び○○市○○区○○○路○○○巷○○○○○号00楼に海賊版のXBOXゲーム光ディスク85枚、XBOX 360ゲーム光ディスク30,006枚を所持していたため、警察は2010年9月28日に上記数量の海賊版光ディスクを押収した等の事実がある。すでに本裁判所102年度刑智上訴字第22号判決において上訴人等は著作権法第91条の1第3項の光ディスクが著作財産権を侵害していると知りながら頒布した罪、商標法第97条の模倣商標の商品を販売した罪、刑法第216条、第220条第2項、第1項、第210条の準私文書偽造同行使罪を犯し、観念的競合に基づき一番重い罪である刑法第216条、第220条第2項、第1項、第210条の準私文書偽造同行使罪を以って論じることが認められている。また、上訴人等は著作権法第91条の1第3項の光ディスクが著作財産権を侵害していると知りながら頒布した罪、商標法第97条の模倣商標の商品を販売した罪、刑法第216条、第220条第2項、第1項、第210条の準私文書偽造同行使罪について、犯意を連絡し、行為を分担したため、共同正犯であり、上訴人の呉○恁は1年6ヵ月の懲役、上訴人の王○花は1年の懲役、執行猶予4年、上訴人の柳○仁は1年2ヵ月の懲役にそれぞれ処せられた。該刑事判決書1部は、ファイルにあるので調べることができる。当初の規定から引証して、被上訴人が主張する前記事実は、真実であると認めるべきである。
(二)調べたところ、上訴人の王○花、呉○恁、柳○仁等は刑事判決付表3に示される38種類の被上訴人が発行したゲームソフト光ディスク(総数2,933枚余り)を違法に共同で頒布、所持したほか、刑事判決付表1、2に示される「XBOX Development Kit」又は「XBOX 360 Development Kit 」のコンピュータプログラム著作物を含む光ディスク総数30,091枚余りを違法に頒布、所持しており、その罪状は軽微ではない。上訴人等は低い利潤で販売しているが、摘発された本件の犯罪期間は1年以上にわたり、短くないため、被疑侵害物は一定の数量が市場で流通しているはずである。さらに上訴人が低い利潤で販売していること、被上訴人の市場経済における地位と上訴人等の年齢、社会的地位、就労所得及び経済状況等の様々な状況を参酌し、原審が刑事判決付表3に示されるゲームプログラムソフトについては一著作物あたり10万新台湾ドルで損害額を算出し、「XBOX Development Kit」、「XBOX 360 Development Kit」の著作物については30万新台湾ドルでそれぞれ損害額を算出したことは妥当であると認める。被上訴人は上訴人の王○花、呉○恁、柳○仁に対して連帯してその著作権が受けた損害額である計440万新台湾ドル(即ち38×10万新台湾ドル+2×30万新台湾ドル=440万新台湾ドル)を請求してもよい。
(三)調べたところ、本件上訴人の王○花、呉○恁、柳○仁が刑事判決添付資料1~6に示される被上訴人の所有する商標権を侵害した模倣商標光ディスクは合計30,091枚あり、すでに1,500件を上回っている。改正前商標法第63条第1項第3号のただし書規定に基づいて、(押収した商品が1500件を超えるときは)その総額で賠償金額を定めるべきである。また、原審は本件で押収した原告商標権を侵害した商品の小売単価については、押収した価格表、見積書等の証拠書類から、価格表の「360」という記載が「XBOX 360」の模倣商標光ディスク1枚当たりの販売単価であり、これは見積書において「三」という略称となっていることを知り得る。また価格表のおける「D5」、「D9」の記載は不明確であり、それが何を意味するのかを一目で知ることは難しいが、日本のソニー・コンピュータエンタテインメントが発行する「PlayStation2」ゲーム光ディスクは正規版、海賊版に拘らず、その販売価格はいずれも被上訴人の発行する「XBOX」、「XBOX 360」光ディスクよりも低い。また「XBOX」、「XBOX 360」のゲーム光ディスクはいずれも被上訴人が発行しているもので、販売価格の格差は大きくない。価格表において「D9」が示す模倣商標光ディスクの小売単価は、「360」で示される単価に相当、又は近似しており、「D9」の記載が「XBOX」模倣商標光ディスクの小売単価を示し、見積書では「九」という略称になっていることは明らかである。さらに上記価格表と見積書を詳細にみると、前述の被上訴人の商標権を侵害する光ディスクの販売単価は最高130新台湾ドル、最低40新台湾ドルで、その平均は85新台湾ドルであり、妥当である。被上訴人はこれに対して不服を声明しておらず、上訴人等が被上訴人の商標権を侵害した光ディスクの部分について、平均小売価格85新台湾ドルを以って計算すべきである。被上訴人は上訴人の王○花、呉○恁、柳○仁に連帯して商標権が受けた損害金額2,557,735新台湾ドル(30,091枚×85新台湾ドル)を損害額として請求することができる。
(四)本裁判所は上訴人が一つの海賊版ゲーム光ディスクで同時に他人の著作権と商標権を侵害していることを参酌する。理論上ではゲーム光ソフト価格の設定において、ゲーム光ディスクメーカーは該ゲームに投入した資金とコストに、ゲーム光ディスクメーカーによる生産者としてのゲーム光ディスクの品質に対する保証を加えた後、生産する同種のゲームの光ディスクに平均配賦している。前者はゲーム光ディスクの著作権の価値であり、後者はゲーム光ディスクの商標権の価値である。ただし消費者にとってゲーム光ディスクの真の価値は、それが提供する娯楽効果によって決まるはずである。即ち、ゲーム光ディスクの著作権部分は、ゲーム光ディスクが提供できる娯楽効果が高くなければ、たとえ著名なゲームメーカーが製造したものであっても、関連する消費者の購買意欲を高めることは難しく、従ってゲーム光ディスクの主要価値は、著作権部分で決定されるはずである。本件の商標権の算出部分は、押収された被疑侵害物数量で計算され、従って同一の被疑侵害物において著作権侵害の損害賠償額を算出し、さらに商標権侵害の損害賠償額を算出することは被上訴人が実際に受けた損害を上回る状況が発生しているため、150万新台湾ドルに酌減すべきである。上訴人等は40新台湾ドルから130新台湾ドルの価格で被上訴人が所有する刑事裁判添付資料1~6に示される商標権を侵害する模倣商標光ディスクを販売したことを参酌し、上訴人等が共同で販売した価格と許諾された合法ゲーム光ディスクとの格差が大きく(市価の約1割)、この市場の消費者は該ゲーム光ディスクが模倣商標の商品であり、被上訴人が許諾した正規品ではないと容易に判別できるため、被上訴人が主張する上訴人等が販売した海賊版光ディスクの品質が低劣であることによる業務上の信用の損失については、根拠がない。被上訴人は業務上信用の損失を理由として、上記規定に基づき上訴人に連帯して100万新台湾ドルに上る業務上信用の損害を賠償するよう請求していることは、理由があるとは認めがたい。従って、被上訴人が上訴人の王○花、呉○恁、柳○仁に連帯して590万新台湾ドル(440万新台湾ドル+150万新台湾ドル)を請求することには理由があり、上記の範囲を超える部分の請求は認めるべきではない。
(五)著作権法第99条の判決が刑事判決を指すことについて、民事判決の掲載に関する規定にはすでに同法第89条にみることができ、かつ同法第99条の立法理由には本条が刑事訴訟法第315条規定を参考にして規定されたことが示されているため、本条の新聞紙掲載は刑事裁定を以って為すべきである。調べたところ、上訴人が被上訴人の著作財産権を侵害した事実は、上訴人が低価格で海賊版光ディスクを販売し、被上訴人の著作財産権を侵害し、消費者に正規版の代わりに海賊版を買おうとする投機的心理を起こさせたことも、被上訴人の著作財産権にとって無形の侵害であり、被上訴人が著作権法第89条規定に基づいて、上訴人が連帯して費用を負担し、本件の民事最終事実審の判決書主文欄を縦25センチ×横19センチのサイズで、経済日報の第一面下半分に1日間掲載するよう請求することには理由があり、許可すべきである。被上訴人が著作権法第99条の規定に基づいて本件の刑事最終事実審の判決書主文及び事実欄を新聞に掲載するよう請求する部分については、刑事裁定を以って為すべきであり、被上訴人による本件刑事付帯民事訴訟手続請求は法に合わないため、許可しない。調べたところ、上訴人は低価格で海賊版光ディスクを販売し、被上訴人の著作財産権を侵害しており、すでに購入した者又は購入しようとする者はいずれもそれが海賊版光ディスクであり、被上訴人の会社が販売する正規品ではないことを明らかに知っており、被上訴人の社会における評価はこれにより減損されていないため、本件は被上訴人の名誉を侵害していないことから、被上訴人のこの部分の請求に理由があるとは認めがたい。

以上をまとめると、被上訴人は権利侵害行為を法律関係として、上訴人に連帯して5,900,000新台湾ドルとそれぞれ起訴状副本の送達翌日(即ち上訴人の王○花、呉○恁は2011年9月30日、上訴人の柳○仁は2011年10月1日)から支払い済みまで年5%での割合による利息を支払うとともに、上訴人が連帯して費用を負担し、本件の民事最終事実審の判決書主文欄を縦25センチ×横19センチのサイズで、経済日報の第一面下半分に1日間掲載するよう請求することにはいずれも理由があり、許可すべきである。前記の範囲を超える請求には理由がなく、棄却すべきである。上訴人が原判決により支払いを命じられた金額が前記の元金と利息の部分を上回った部分について、上訴には理由があり、本裁判所は当該部分を取り消し、この部分について原審における請求及び仮執行申立の許可請求をいずれも棄却する。その他の上訴には理由がないので、棄却すべきである。

以上の次第で、本件上訴は一部に理由があり、一部に理由がないため、知的財産事件審理法第1条、第27条第2項、刑事訴訟法第490条本文、第369条第1項前段、第368条に基づき、主文の通り判決する。

2013年10月17日
知的財産裁判所第二法廷
裁判長 陳忠行
裁判官 曾啟謀
裁判官 熊誦梅

TIPLO ECARD Fireshot Video TIPLO Brochure_Japanese TIPLO News Channel TIPLO TOUR 7th FIoor TIPLO TOUR 15th FIoor