女性がナンパ男性の個人メールを公開、著作権侵害で1万1000新台湾ドルの賠償命令

2017-02-22 2016年
■ 判決分類:著作権

I 女性がナンパ男性の個人メールを公開、著作権侵害で1万1000新台湾ドルの賠償命令

ハイライト
個人メールにも独創性があり、勝手に公開すると著作権法に違反することになる。知的財産裁判所は、洪○○(女)が陳○○(男)との間で交わしたメール(陳○○の当初の目的はナンパ)の内容をネットで公開したことは陳○○の書信の著作権を侵害するものであると認め、洪○○に1万1000新台湾ドルの損害賠償を命令した一審判決を維持した。本件は上訴できる。
判決書によると、陳○○は洪○○に好意を抱き、2011年10月に高雄誠品書店にて、個人のメールアドレスを書いたナンパ目的のメモを洪○○のリュックにしのばせた。洪○○は陳○○に返事のメールを出したが、陳○○から生まれ年と住所等の個人情報を質問されたため回答を拒否したところ、陳○○はメールで「君たち女性って頭の構造に問題がある!」、「まったく意味がわからない」等と罵倒した。
洪○○は罵倒された後、ナンパされた経緯と双方間で交わされたメールの内容を「高雄で出会ったキチガイ」というタイトルをつけてPTT高雄版に投稿し、陳○○のメールアドレスと、ネットユーザーから提供された政大書城で発生した同様の事件の動画(にリンクするURL)を公表した。
陳○○は洪○○を名誉妨害(訳注:名誉毀損に相当)で告訴したが、一、二審ではいずれも、洪○○は不満を発散しただけで公然の侮辱を構成しないと認定された。陳○○は権利侵害の民事訴訟に切り替え、一審の高雄地方裁判所は、陳○○のメールの内容には独創性があり、著作権法の保護を受けるべきであると認め、洪○○に1万1000新台湾ドルの損害賠償を命じる判決を下した。洪○○はこれを不服として上訴したが(二審の知的財産裁判所に)棄却された。【自由時報2016年4月27日】

II 判決内容の要約

知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】104年度民著上字第13号
【裁判期日】2016年4月14日
【裁判事由】著作権侵害の財産権に係る係争等

上訴人  洪○○
被上訴人 陳○○

上記当事者間の著作権侵害の財産権に係る係争等事件により、上訴人は2015年8月31日台湾高雄地方裁判所103年度訴字第420号第一審民事判決に対して上訴を提起し、本裁判所は2016年3月10日に口頭弁論を終え、次のとおり判決する。

主文
上訴を棄却する。
第二審訴訟費用は上訴人の負担とする。

一 事実要約
被上訴人は上訴人に好意を抱き、機に乗じて個人のメールアドレスを書いたナンパ目的のメモを洪○○のリュックにしのばせた。上訴人はメモに書かれていたメールアドレスを以て被上訴人に返事のメールを出した。上訴人が被上訴人に質問された生まれ年と住所等の個人情報に関する回答を拒否したところ、被上訴人はメールで「君たち女性って頭の構造に問題がある!」、「まったく意味がわからない」等と罵倒した。上訴人は罵倒された後、ナンパされた経緯と双方間で交わされたメールの内容を「高雄で出会ったキチガイ」というタイトルをつけて「批踢踢實業坊(PPT)」サイト(以下、PPTサイト)の高雄版に投稿し、被上訴人のメールアドレスと、ネットユーザーから提供され、被上訴人が数年前に録画されている政大書城で発生した同様の事件の監視ビデオ動画にリンクするURLを公表した。
原審は上訴人に著作財産権の侵害について1万新台湾ドルを、著作者人格権の侵害について1000新台湾ドルを支払うとともに、PPTサイトに公表した被上訴人のメールの内容を削除するよう命じる判決を下した。上訴人はこれを不服として、上訴を提起した。

二 両方当事者の請求内容
(一)上訴人の請求:
(1)原判決の上訴人に不利な部分を取り消す。
(2)上記取消部分について、被上訴人の第一審における請求を棄却する。
(3)第一審及び第二審の訴訟費用は被上訴人の負担とする。
(二)被上訴人の答弁:
(1)上訴を棄却する。
(2)第一審及び第二審の訴訟費用を上訴人の負担とする。

三 本件の争点
 上訴人は被上訴人の著作権を侵害しているのか。上訴人は賠償責任を負うべきか。責任があるのならば、(賠償金の)金額はいくらか。被上訴人が上訴人に対してPPTサイトに上訴人によって公表された被上訴人に係る原審判決添付資料一、添付資料二に示されるようなメール(以下「係争メール」)の文章を削除するように請求することには根拠があるのか。
(一)被上訴人の主張:
 上訴人は2011年10月15日22時頃、被上訴人の同意を得ず、さらに他人のメールの内容を公開することを禁止するPPTサイトの規定に違反して、被上訴人の書信の著作物の内容を上訴人が発表する文章の大部分の内容としてPPTサイトへ投稿して「批幣(訳注:同サイトで流通する仮想通貨)」を取得し、被上訴人の書信の著作権(著作者人格権と著作財産権を含む)を侵害した。よって原審において著作権法第84条、第85条、第88条及び第88条の1の規定により上訴人にそれがPPTサイトに公表した被上訴人に関する内容の文章を削除するよう請求するとともに、上訴人に賠償責任を負うよう請求した。
(二)上訴人の主張:
1. 上訴人は自分のメールをネット上に貼り付けたに過ぎず、単に自らの経験を以てネットユーザーに注意を喚起したかっただけで、文章の内容はいずれも公の批評を受けることができる客観的事実であり、内容を捏造して被上訴人を誹謗し、その社会的評価を貶めようとするものではない。そのメールの内容の真実性については被上訴人も争っておらず、上訴人が故意又は過失により被上訴人の人格権を侵害したとはいいがたく、メールをやりとりした対話記録を公開しただけであり、上訴人が被上訴人の著作権を侵害し損害賠償の責任を負うべきとは認めがたく、かつ上訴人もこれらの文章を貼り付けることで利益を得ていない。メモは被上訴人が自主的に上訴人のリュックに入れたもので、被上訴人がメモにおける情報を公開することを望んでいたことを意味するものである。
2. 原審は形式上、被上訴人のメールの内容を書信の著作物と認定しているのみで、書信の実質的な内容は探究されておらず、実質上、その書信は上訴人と被上訴人の対話内容にすぎず、特殊な商業的価値はなく、たとえ当該文書の著作物に独創性があったとしても、その価値は高くなく、かつ社会の公共利益の調和を図り国家の文化発展を促すものではない。利用目的と性格については、法に基づき合理的な使用と認定すべきことは当然であり、台湾高等裁判所検察署知的財産分署103 年度上声議字第576号不起訴処分書を証拠として提出する。
3. 被上訴人は電子メールという方式で上訴人と対話しており、危険引受に類似する概念に該当する。被上訴人はすでに話を口に出しているため、それは自ずと第三者に話されるという可能なリスクを引き受けるべきであり、かつ「一旦個人が自らのプライバシーを他人に告知したならば、それは自らのプライバシーを他人に知らせることに『同意』したと見なすことができ、『個人は他人が第三者に話すことができないよう制御することができず』、かつそれが拡散することを制御できないため、即ちそれは当該談話の対象以外の第三者が秘密を知悉し得るという結果を望んでいるはずである」と認め、解釈上は著作権法でいうところの公表の概念であると認定すべきである。
4. 被上訴人が上訴人に対して上訴人がPPTサイトに公表した被上訴人に係る内容の文章を削除するように請求する云々については、当該文章は被上訴人が起訴する前にPPTサイトのシステムによって自動的に削除されている。

四 判決理由の要約
(一) 本裁判所は原判決の添付資料一、添付資料二の電子メールの内容を吟味したところ、他人を批判したり罵倒したりする文章ではあるが、それは被上訴人が電子メールの形式で本人の思想と感情を外部に表現したものであり、被上訴人の知恵が投入され、被上訴人の精神力の作用による成果であり、被上訴人の個人の特質を十分に表現しており、その個性又は独創性であり、創造性の最低限の度合いを有しているため、著作物を美観だけで差別しない原則に基づいて保護を受けることができる。さらに原判決の添付資料一、添付資料二の電子メールの内容は著作権法第9条で規定する保護を受けない著作物ではないため、独創性を有する言語の著作物であり、著作権法の保護を受けるものである。電子メールは被上訴人が上訴人に送ったものだが、被上訴人は上記メール内容の著作権者である。
(二) 刑事判決で認定された事実は独立した民事訴訟において拘束力を有さない。さらに著作権法第52条、第55条規定はいずれも「すでに公表された著作物」を要件としており、係争メールの著作物は双方間の往来のみであり、公表されておらず、公の評価を受けることができるものではなく、また上訴人は係争メールの著作物がすでに公表されていると立証していないため、著作権法第52条、第55条規定は適用されず、したがって著作権法第63条第3項、第65条第1項規定を適用する余地もない。上訴人は被上訴人が上訴人のリュックにメモを入れた事について、上記メモを論述するだけでよく、被上訴人と上訴人との間で交わされたメールすべてを複製して公開する必要はなく、また上訴人は係争メールのすべての内容を引用しており、適当に括弧で断片を引用して逐一批判するものではなく、合理的な使用とは認定しがたい。よって上訴人が係争メールを複製して公開したことは、合理的な範囲にはなく、合理的な使用とは認めがたい。
(三) 著作者人格権には公表権と氏名表示権が含まれる。上訴人は被上訴人の同意を得ずに未公開の著作物、即ち係争メールの内容をPPTサイトにおいて公衆に公開し、被上訴人の公表権を侵害したため、被上訴人の著作者人格権侵害に該当する。上訴人が引用した係争メールは複製して公開され、氏名が表示されていないが、著作権法第64条には出所の明示の目的は著作権者の著作者人格権における氏名表示権を保護し、公衆に引用した著作物の作者が誰であるかを告知することである。本件被上訴人は本件訴訟手続きにおいて係争著作物を公開しない権利を一貫して表明しており、上訴人はその意向に反して係争著作物を公開したが、被上訴人の氏名を表示しておらず、その氏名表示権の侵害には該当しない。
(四) 上訴人が被上訴人の係争メールの内容を発表した文章の大部分として「批幣」を取得し、被上訴人の書信の著作権を侵害したと被上訴人が主張している件について、「批幣」の価値は見積もることができず、上訴人が著作権の侵害を業としていないこと、被上訴人も実際の損害額を証明できないこと等を酌量した結果、この部分の著作財産権及び著作者人格権の侵害による資産以外の損害賠償額をそれぞれ1万新台湾ドル、1000新台湾ドルとするのが妥当であると認める。
(五) 本件上訴人は被上訴人が起訴する前にPPTサイトのシステムに自動的に削除されている云々と答弁しているが、上訴人はそれが事実であると立証しておらず、この部分の主張は採用できない。よって被上訴人が上訴人に係争メールの内容を削除するよう請求することには理由があり、許可すべきである。

2016年4月14日
知的財産裁判所第一法廷
裁判長 陳忠行
裁判官 熊誦梅
裁判官 曾啓謀
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