著作権登記には権利推定の効力がなく、当事者間に争議があった場合、なお自らが挙証責任を負うべきである。

2019-01-30 2018年
■ 判決の分類:著作権

I 著作権登記には権利推定の効力がなく、当事者間に争議があった場合、なお自らが挙証責任を負うべきである。

■ ハイライト
原告は著名音楽家であり、歌曲を50余年創作してきて、著作財産権を他人に譲渡したことはなかった。ある日創作曲を整理したところ、中華音楽著作権協会(以下「著作権協会」という)に登録していた600あまりの曲の過半数の著作権者が「喜馬拉雅音楽股份有限公司」(以下「喜瑪拉雅公司」という)と、「大唐国際影音多媒体科技股份有限公司」(以下「大唐公司」という)だと登録されており、しかも、この2社がその名義でロイヤリティを徴収していることに気づいた。そのため、原告は不当利得の返還及び権利侵害行為による損害賠償を主張し、2社にそれぞれ1,920,000台湾ドルあまりと、1,000,000台湾ドルを請求した。被告2社はいずれも、原告がすでに係争歌曲の著作財産権を海山公司に譲渡したので、被告等は海山公司から著作財産権を譲受けたり、または転じて許諾を受けて利用していると主張するとともに、海山公司の譲渡証明書及び著作権登録資料を証拠として提出した。
裁判所の判決は次の通り認定した。著作権登録はそもそも行政管理の手段及び調べに備える性質に過ぎず、権利推定の効力がなく、原告が係争著作の著作財産権を海山公司に譲渡したことを証明するには足りない。それに譲渡証明書の署名及び記載内容は前後矛盾しており、真実性に疑義があり、海山公司がかつて著作財産権を取得していたとは認め難いので、被告が海山公司から権利を譲受けられるはずがない。被告大唐公司は著作財産権者でないのにもかかわらず、もともと原告に帰すべきロイヤリティを徴収していたので、民法179条に基づき、受け取った利益を返還すべきである。一方、被告喜瑪拉雅公司は訴外人可登公司にロイヤリティの徴収を委任していたため、不当利得の直接受取人には当たらないが、可登公司は自らが受け取った利益を被告喜瑪拉雅公司に移転していて、且つ被告喜瑪拉雅公司は自らが有償により譲り受けたことを証明することができないので、民法183条に基づき、受け取った利益を返還すべきである。

II 判決内容の要約

知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】106,民著訴,53
【判決期日】1070601
【判決事由】著作権侵害における財産権争議

原告 劉○○
被告 喜瑪拉雅音楽事業股份有限公司
被告 大唐国際影音多媒体科技股份有限公司

前記当事者間における著作権侵害による財産権争議事件について、2018年4月27日に当裁判所における口頭弁論を終了し、以下の通り判決する。

主文
一、被告喜瑪拉雅音楽事業股份有限公司は原告に対して、1,500,542台湾ドル及びこれに対する2017年7月13日から弁済日みまでの年5%の割合による利息を支払え。
ニ、被告大唐国際影音多媒体科技股份有限公司は原告に対して、15,176台湾ドル及びこれに対する2017年7月12日から弁済日までの年5%の割合による利息を支払え。
三、原告のその他訴えを棄却する。
四、本判決の第1項について、被告に対して原告が事前に500,181台湾ドルの担保を供託した場合、仮執行をすることができるが、原告に対して被告喜瑪拉雅音楽事業股份有限公司が1,500,542台湾ドルの担保を供託した場合、仮執行を免ずることができる。
五、本判決の第2項について仮執行をすることができるが、原告に対して被告大唐国際影音多媒体科技股份有限公司が15,176台湾ドルの担保を供託した場合、仮執行を免ずることができる。
六、原告のその他仮執行の申立てを棄却する。
七、訴訟費用は被告喜瑪拉雅音楽事業股份有限公司が千分の514、大唐国際影音多媒体科技股份有限公司が千分の5、原告が千分の481を負担する。

事実要約
原告は1961年頃に歌曲を創作し始めてからいままで、創作した歌曲の著作財産権を他人に譲渡したことはなかった。原告は著作権協会の会員であり、原告が創作し、著作権協会データベースに登録していた歌曲の過半数が原告の所有ではなく、それぞれ被告喜瑪拉雅公司(この部分の著作は以下「係争著作1」という)と、被告大唐公司(この部分の著作は以下「係争著作2」という)が著作権者になっており、かつ、著作権協会から、もともと原告に帰すべき著作財産権費用を徴収していたことを知った(喜瑪拉雅公司は徴収を可登公司に委任していた)。被告自らが係争著作の著作財産権者の立場で、係争著作の利用者から許諾報酬を徴収し利益を受け取っていたことが原告に損害を与えたため、原告が民法179条、同法184条の規定に基づき、損害賠償と不当利得の返還を請求した。
被告喜瑪拉雅公司は以下の通り抗弁した。原告は1971~1979年の間に係争著作1の著作財産権を全部海山公司に譲渡していて、かつ、海山公司が、内政部に著作権をそれぞれ申請し、すべての著作財産権を取得していた。海山公司はさらに1984~1986年の間に係争著作1の著作財産権をすべて喜瑪拉雅公司に譲渡し、それは著作権譲渡証明書、著作権登録申請書および譲渡許可台帳があって調べることができる。よって、喜瑪拉雅公司は確かに係争著作1の財産権者であり、原告が指摘した権利侵害行為及び不当利得に当たらない。さらに、海山公司の譲受けた著作財産権は登録してあり、喜瑪拉雅公司は海山公司から権利を譲り受けたので、善意の第三者に当たり、善意により係争著作1を取得したことに該当する。
被告大唐公司は以下の通り抗弁した。係争著作2は、それぞれ2006年、2008年間に、訴外人大棠公司から使用許諾を受け、一方、大棠公司はそれぞれ海山公司と鄭鎮坤氏より買い受けて取得していた。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告の請求
1. 被告喜瑪拉雅公司は原告に対して1,920,224台湾ドル及び起訴状の写し送達日の翌日から弁済日までの年5%の割合による利息を支払う。
2. 被告大唐公司は原告に対して1,000,000台湾ドル及び起訴状の写し送達日の翌日から弁済日までの年5%の割合による利息を支払う。
3. 原告は担保を供託するので、仮執行の宣告許可を申立てる。
(二)被告の請求
1. 被告喜瑪拉雅公司の請求:原告の訴え及びその仮執行の申立てを棄却する。不利な判決を受けた場合、担保を供託するので、仮執行の免除許可を申立てる。
2. 被告大唐公司の請求:原告の訴えを棄却する。不利な判決を受けた場合、担保を供託するので、仮執行の免除許可を申立てる。

三 本件の争点
1. 原告は直接または転じて係争著作の著作財産権を被告に譲渡していたか。
2. 被告は著作財産権を善意または時効によって取得していたか。
3. 被告は不当利得の返還責任を負うべきか。

四 判決理由の要約
(一)原告は係争著作の著作財産権者である。
1. 著作権協会が書簡で本裁判所に返答した資料によると、係争著作が協会に登録している著作者はともに原告であり、被告等も係争著作は原告の創作品であることを否認しなかったので、原告が係争著作の著作者であることは間違いない。
2. 内政部の著作権登録について、申請の際同部は実質審査を行っておらず、登録は行政管理の手段及び調べに備える性質に過ぎず、権利推定の効力を有しない。当事者間に争いがあった場合は、自らが挙証して司法機関が著作権法及び具体的な事案に基づいて事実を調査して認定すべきである。(最高裁判所84年度台上字第2739号刑事判決、最高裁判所99年度台上字第50号刑事判決、当裁判所101年度民著上字第9号民事判決を参照)本件について、被告等は係争著作の著作権登記に関わる私権推定の効果に関わる整った有力な論説を提示していない。
3. 係争著作の著作権譲渡証明書の多くは署名の筆跡や記載内容などに前後矛盾するところがあり、記載されていた原告の身元情報も原告の身分証明書及び当裁判所が照合した原告の戸籍謄本と異なっていることから、当該著作権譲渡証明書は真実とは認め難い。原告が係争著作の著作財産権を海山公司に譲渡または許諾したことの裏付けには不十分である。一方、被告喜瑪拉雅公司も前記の著作財産権譲渡証明書は確かに原告の署名だと証明できないと自ら認めた。よって、被告等は直接または転じて海山公司から係争著作にかかる著作財産権を譲り受けることができるはずがない。
4. 原告が係争著作の著作人である一方、被告も原告が係争著作の著作財産権を第三者に移転、譲渡または許諾したことを証明できないことから、原告が係争著作の著作財産権人であることは間違いない。

(二)本件の被告等には、時効による取得または善意による取得の規定を適用する余地はない。
著作権はそもそも抽象的に存在していて、物権者のように特定の有体物を占有していれば、他人による使用を排除するということはできない。よって、著作権は動産物権のような表現を形成することができない。もし、第三者が善意により著作権を取得できると認めたり、取引安全性を過度に保護してしまうと、著作人の創作意思を低下させてしまい、著作権法の立法目的を達成できない。よって、善意による取得制度は、著作権法において、準用する余地はない。(当裁判所101年上字第9号民事判決趣旨、最高裁判所103年度台上字第5号上告棄却確定民事判決参照)。よって、本件には、時効による取得または善意による取得の規定を適用する余地がなく、被告喜瑪拉雅公司による善意による取得の答弁には、理由がない。

(三)被告等は不当利得を構成している
1. 原告は係争著作の著作権者であり、被告等が係争著作にかかる著作財産権を有しないことは前述の通りである。よって、著作権協会のロイヤリティは当然原告に帰すべきであり、被告大唐公司が受け取っていたロイヤリティのうち、原告に帰すべき部分は、不当利得に該当し返還すべきである。揚声公司の書簡回答によると、業界の慣習でロイヤリティを算出していた。よって、原告の揚声公司にかかる給付の部分もこの方式に基づいて請求額を算出していたことから、採択できる。従って、原告の被告大唐公司に対する請求は、15,176台湾ドルの範囲において、理由があることから、認めるべきであり、この部分を超える部分には理由がないので、棄却すべきである。
2. 民法183条「不当利得の受領者が受け取ったものを無償にて第三者に与えることによって、受領者がこれにより返還義務を免除された場合は、第三者が返還義務を免除された範囲において、返還責任を負う」。さらに、民事訴訟法277条本文「当事者自らにとって有利な事実を主張する場合は、かかる事実について、挙証責任を負う。」よって、請求人が挙証して、民法183条でいう利益を得た第三者と証明された場合は、有償による譲り受け及び有償の額を証明しなければ、係る額において、その条で定められた返還責任を免除することができない(台湾高等裁判所南支所89年度重上更(四)字第27号民事判決趣旨参照、最高裁判所90年度台上字第780号民事判決により上告棄却が確定)と明記している。従って、本件は可登公司が受領した代金を有償で譲り渡したと主張する被告喜瑪拉雅公司が有償な譲り受け及び有償の額などの自らに有利な事実について、挙証責任を負うものである。
3. 被告喜瑪拉雅公司が、著作権協会から可登公司に給付した代理受取代金を受領したと自らこれを認め、かつ、かつては可登公司と投資関係があったことから、可登公司は喜瑪拉雅公司のために係争著作の代理受取りをした可能性がある。喜瑪拉雅公司が可登公司による代理受け取りが有償であること及び、有償の額など自らにとって有利な事実を証明することができない以上、当然、民法183条でいう「返還義務を免除する限度において」の「限度」を代理受取代金の全部と見なすべきであり、よって、喜瑪拉雅公司は民法183条の規定に基づき、可登公司が代理で受け取った代金全額を返還しなければならない。さらに、著作権協会、瑞影公司、揚声公司からの書簡回答資料と、前述した作曲者、作詞者が半分ずつの計算方式によれば、価額の合計は1,500,542台湾ドルである。原告の喜瑪拉雅公司に対する請求はこの範囲において理由があるため許可すべきであり、この範囲を超える部分には、理由がないことから、棄却すべきである。

(四)原告による被告大唐公司及び被告喜瑪拉雅公司に対する財産給付の請求について、許可と棄却の範囲は前述の通りである。さらに、本件が不当利得にかかる法律関係に基づいて、主文第1、2項のとおりに判決を言い渡している以上、原告の権利侵害を法律関係とした請求については、新たに別途許可と棄却の言い渡しをしない。原告が被告喜瑪拉雅公司を訴えた部分について、原告陳明が担保供託により、仮執行の宣告を請求していることについて、原告の勝訴部分において、合わないところはなく、斟酌の上相当な担保額を設定してこれを許可するとともに、被告喜瑪拉雅公司の請求に基づき、担保供託により、仮執行を免除する。さらに、原告の敗訴部分に関わる仮執行の請求は依拠が失われたため、棄却すべきである。原告が被告大唐公司を訴えた勝訴部分に関わる給付金額は500,000台湾ドルを超えていないことから、民事訴訟法389条1項5号の規定に基づき、職権を持って仮執行を言い渡すとともに、担保供託により、仮執行を免除する。さらに、原告の敗訴部分に関わる仮執行の請求は依拠が失われたため、棄却すべきである。

以上をまとめると、本件原告の一部の訴えには理由があり、一部には理由がないことから、知的財産案件審理法1条、民事訴訟法79条、85条1項5号、389条1項5号、390条2項、392条2項により、主文のとおり判決する。

2018年6月1日
知的財産裁判所第3法廷裁判官 伍偉華
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