「慶餘堂」商標訴訟 原告の漢方薬販売業者に敗訴判決

2015-05-27 2014年
■ 判決分類:公平交易法

I 「慶餘堂」商標訴訟 原告の漢方薬販売業者に敗訴判決

■ ハイライト
祖先伝来の枇杷膏で有名な慶餘堂参薬号有限公司(Ching Yue Tarng Chinese Herbs & Ginseng Co., Ltd.、以下「慶餘堂参薬号」)は慶餘堂医療器材股份有限公司(Formosan Biotech Co., Ltd.、以下「慶餘堂医療器材」)が氏名権を侵害しており不正競争を構成していると判断し、慶餘堂医療器材に対して社名における「慶餘堂」の使用を差し止めるよう裁判所に請求した。最高裁判所は両社の経営する業務の種類が異なるため、一般人は混同することがないと認め、慶餘堂参薬号に敗訴を判決し、これにより判決が確定した。
慶餘堂参薬号は1952年台北市政府に対して会社設立登記を行い、漢方薬の小売・卸売等の業務に従事している。一方、慶餘堂医療器材は台北市政府に対して2000年3月23日に会社設立登記を行い、病院管理コンサルティング、営養カウンセリング、医療器材卸売等の業務に従事している。
第一審、第二審の裁判所は、公司法(会社法)規定に基づき、二つの社名(商号)に異なる業種又は区別可能な文字が表示されているとき、社名は同一ではないと「みなし」、同類の業務の社名について異なる業種が表示されていれば、たとえ名称の要部が同じ又は類似していても、社名は同一ではないとみなす、としている。
慶餘堂参薬号と慶餘堂医療器材の業種は前者が薬品、後者が医療器材で、明らかに異なる。さらに慶餘堂医療器材が慶餘堂参薬号の知名度を利用して、明らかに公正を欠いた方法で競争やビジネス取引に従事したということを、慶餘堂参薬号が立証できないため、慶餘堂参薬号は公平交易法(不正競争防止法、独占禁止法などに相当)違反を事由に慶餘堂医療器材に対して「慶餘堂」を社名に使用することを差し止めることはできない。慶餘堂参薬号は最高裁判所に上訴を提起したが棄却され、これにより全案が確定した【2014年2月15日/聯合報/B1面/台北市 スポーツ】

II 最高裁判所判決内容の要約

最高裁判所民事裁定
【裁判番号】103年度台上字第204号
【裁判期日】2014年2月12日
【裁判事由】侵害排除請求等

上訴人 慶餘堂参薬号有限公司
被上訴人 慶餘堂医療器材股份有限公司

上記当事者間における侵害排除請求等事件について、上訴人は2013年11月5日台湾高等裁判所第二審判決(102年度上字第708号)に対して上訴を提起し、本裁判は次の通り決定する。

主文
上訴を棄却する。
第三審の訴訟費用は上訴人の負担とする。

一 事実要約
事実概要:省略。原審判決を参照。

二 両方当事者の請求内容
(一)上訴人の請求:省略。原審判決を参照。
(二)被上訴人の答弁:省略。原審判決を参照。

三 本件の争点
 本件上訴は民事訴訟法第467条第三審への上訴の要件を満たすか否か。

四 判決理由の要約
本件上訴人は原判決に対して上訴を提起し、該判決の法令違背を事由とした。そこでその上訴理由書の内容を確認してみるとそれは、「慶餘堂参薬号有限公司」と「慶餘堂医療器材股份有限公司」は名称が異なり、上訴人は被上訴人によりその氏名権が侵害されたことを立証していないと認定する等の原審における証拠取捨、事実認定の職権執行について、不当であったと指摘するとともに、原審の論断が厳密さを欠いていて正しく論断していないとするものである。しかし、該判決が違背している法令やその具体的内容、訴訟資料に基づいて該法令違背に該当する具体的事実を示していないうえ、法の継続形成に従事し、裁判の一致性の確保又はその他の法律見解に係わる原則的に重要な理由を具体的に記述しておらず、それが合法的に上訴理由を示しているとは認めがたい。よって上記説明に基づいて、その上訴は不適法であると認める。

以上の次第で、本件上訴は不適法である。民法訴訟法第481条、第444条第1項、第95条、第78条に基づき、主文のとおり決定する。

2014年2月12日
最高裁判所民事第六法廷
裁判長 陳重瑜
裁判官 劉靜嫻
裁判官 魏大喨
裁判官 林金吾
裁判官 林恩山
2014年2月24日

III 原審裁判所判決内容の要約

台湾高等裁判所民事判決
【裁判番号】102年度上字第708号
【裁判期日】2013年11月5日
【裁判事由】侵害排除等

上訴人 慶餘堂参薬号有限公司
被上訴人 慶餘堂医療器材股份有限公司

上記当事者間における侵害排除等事件について、上訴人は2013年5月22日台湾台北地方裁判所101年度訴字第5142号第一審判決に対して上訴を提起し、本裁判所は2013年10月15日に口頭弁論を終了して次のとおり判決する。

主文
上訴を棄却する。
第二審訴訟費用は上訴人の負担とする。

一 事実要約
(上訴人の主張によると)本件上訴人は1952年8月25日台北市政府から会社設立登記の認可を受け、社名を「慶餘堂参薬号有限公司」とした。漢方薬卸売業、漢方薬小売業、化粧品卸売業、化粧品小売業、食品・食料雑貨卸売業、食品・食料雑貨及び飲料小売業、貿易業及びその他の法令で禁止・制限されていない業務に従事している。また1954年10月21日には経済部知的財産局から第00000000号「慶餘堂参薬号及び図(カラー)」商標権を取得し、その專用期限は2014年10月20日である。2012年10月16日に取得した第00000000号「慶餘堂」商標権は専用期限が2021年10月15日となっている。ところが、被上訴人は2000年3月23日に「慶餘堂医療器材股份有限公司」の名称で会社設立登記を行い、その名称の要部である「慶餘堂」は上訴人の社名の要部である「慶餘堂」と全く同じである。かつ被上訴人が登録した業務項目には食品飲料小売業及び貿易業が含まれ、上訴人の業務項目と同じである。その他の業務項目は病院管理コンサルティング業、営養カウンセリング業、医療器材設備製造業、医療器材卸売業、薬品検査業等であり、上訴人が経営する業務と同じく医療分野に属する。被上訴人の名称は取引上、人々に上訴人と誤認混同させるおそれがある。被上訴人は「慶餘堂」の三文字を社名の要部としており、上訴人の氏名権を侵害している。さらにそれが経営する業務が上訴人と同じである、又は同じく医療分野に属するため、不正競争に該当し、取引の秩序に影響するに足る。よって上訴人は、民法第19条及び公平交易法第24条、第30条の規定に基づき被上訴人に「慶餘堂医療器材股份有限公司」をその社名として使用しないよう請求した(原審は上訴人に敗訴の判決を下し、上訴人は不服として上訴を提起した)。

二 両方当事者の請求内容
(一)上訴人の請求:原判決を破棄する。被上訴人は「慶餘堂医療器材股份有限公司」をその社名として使用してはならない。訴訟費用を被上訴人の負担とする。
(二)被上訴人の答弁:上訴を棄却する。訴訟費用を上訴人の負担とする。

三 本件の争点
 上訴人が被上訴人の「慶餘堂医療器材股份有限公司」という社名使用によってその氏名権を侵害しており、取引の秩序及び明らかな不公平に影響するに足ると主張し、公平交易法第24条規定違反を事由として、民法第19条、公平交易法第30条の規定に基づき被上訴人に上記社名を使用することを差し止めるよう請求することに理由は有るか無いか。

(一)上訴人主張の理由:省略。判決理由の説明を参照。
(二)被上訴人答弁の理由:省略。判決理由の説明を参照。

四 判決理由の要約
(一)民法第19条の氏名権侵害に関する部分:
調べたところ、上訴人はその社名に業種である「蔘藥」(注:「号」は区別できる文字の審査範囲には入れない。「公司名稱及業務預査審核準則(社名及び業務の事前審査準則)」第6条第3項第1号規定を参照)を表示し、また被上訴人はその社名に「医療器材」と表示しており、一つは薬品、一つは医療器材であり、明らかに異なり、第三者は双方が異なる法人の主体であると区別できるため、双方がその社名で第三者と取引するときに誤認混同を生じさせるおそれはない。また上訴人が経営する業務は漢方薬卸売F108011、漢方薬小売F208011、化粧品卸売F108040、化粧品小売F208040、食品・食料雑貨卸売F102170、食品・食料雑貨及び飲料小売F203010、貿易F401010、認可業務以外の法令で禁止・制限されていない業務等であり、一方被上訴人の経営する業務は病院管理コンサルティングI103030、営養カウンセリングI104010、図書卸売F109010、書籍文具小売F209010、食品飲料小売F203010、医療器材設備製造CF01011、医療器材卸売F108031、貿易F401010、薬品検査IC01010、生物技術サービスIG01010等業務であり、食品・食料雑貨及び飲料小売F203010、貿易F401010の二業務のみ同じだが、双方の社名にはすでに異なる業務を示す区別できる文字が表示されており、異なる社名であるみなすべきである。したがって、被上訴人が会社を設立した後、主務官庁から使用認可を得た社名を使用しており、業務の経営又はその他の法律行為(即ち社名の意味及び機能について通常に使用すること)を以って違法であるとはいい難く、それが上訴人の社名の主観的意味と客観的行為を侵害したとは直接的に認定できない。さらに上訴人は1954年10月21日に「慶餘堂参薬号及び図(カラー)」商標権を取得、2012年10月16日に「慶餘堂」商標権を取得し、創立以来現在まで60年以上商標を使用しており、医薬保健分野における「慶餘堂」の三文字は上訴人の代名詞である云々と主張している。氏名は自他を区別する言語的標識として人を個別化し、その人の同一性を確定するものである。社名の法的意味と機能も企業の主体性を識別することにあり、その他の企業主体と区別することができる。社名を上記の意味と機能に基づいて通常に使用することと、商品又は役務の出所を表すために付されるトレードドレス(商標)として積極的に使用することとは異なり、商標権の取得期間の長さは社名(氏名権)が侵害されているか否かとは別のものであり、被上訴人がいかにその医療器材等の商品又は役務に「慶餘堂」を使用し出所を示すトレードドレス(商標)として使用しているかを究める点について、本件上訴人は釈明するに足る具体的主張や立証を行っておらず、また被上訴人が故意であるか過失であるかも立証していない。上訴人の「慶餘堂参薬号有限公司」氏名権が違法に侵害された点について、被上訴人の社名「慶餘堂医療器材股份有限公司」における「慶餘堂」が上訴人の社名の要部及び登録商標における「慶餘堂」の三文字と同じであるため、被上訴人は上訴人の氏名権を侵害している云々との主張に拘っているが、前述の説明のとおり採用するに足らない。したがって民法第19条規定に基づき裁判所に対して被上訴人による社名「慶餘堂医療器材股份有限公司」の使用差止めを請求することには根拠がない。

(二)公平交易法第24条、第30条に定める取引秩序に影響するに足る欺罔又は著しく公正さを欠く行為を排除する部分:
いわゆる「取引秩序」とは善良な風俗の社会倫理と市場機能競争のビジネス競争倫理に適合する取引行為をいい、具体的には社会倫理と自由、公正競争精神に適合するために維持する取引秩序を意味する。「取引秩序に影響するに足る」について判断するときは、全体の取引秩序に影響するに足るか否か(例えば被害者数の多寡、もたらされた損害の量と程度、その他事業者に対する抑止効果の有無、及び特定の団体又はグループに対する欺罔又は著しく公正さを欠く行為の有無等の事項)を考慮すべきであり、若しくは今後潜在的な多数の被害者に影響を及ぼす効果がある案件であるか否かを考慮すべきであり、その場合は取引秩序に実際にもたらされた影響に限定しないことが必要であり、それによって始めて公平交易法第24条が適用される(「公平交易委員會對於公平交易法第二十四條案件之處理原則(公平交易委員会の公平交易法第24条案件に対する処理原則)」第5条を参照)。
上訴人は「慶餘堂参薬号及び図(カラー)」、「慶餘堂」の二商標について、漢方薬(材)、漢方薬西洋薬混合剤、草薬、批杷膏、草本栄養補給品、四物丸、消痔丸、清肝丸、調経丸、補腎丸、補血丸、栄養滋養剤、栄養補給品等商品での使用を登録しており、医療器材とは異なる。また上訴人が提出しているインターネット検索結果の記載内容は、イエローページの会社資料以外に、消費者による慶餘堂批杷膏、益母膏、鼻丸等の薬品に関する討論はいずれも「医療器材」とは何ら関わりもない。(原審ファイル第13、14頁)。
さらに被上訴人は2006年に登録を出願し、その後2008年7月に登録を許可された「慶餘堂医療器材股份有限公司FORMOSAN BIOTECH CO.,LTD及び図」商標の指定商品は第5、10、35、42類の医療用栄養(食)品、栄養補給品、医療器材、輸出入代理サービス、各種書刊、雑誌、生物化学製品の品質検査試験、生物化学等の研究分析及びコンサルティング等商品(商品区分は5、10、35、42類)と登録されており、上訴人が43年間使用してきた登録商標「慶餘堂参薬号及び図(カラー)」の指定商品である第12類商品(漢方薬)とは異なっている(原審ファイル第13、60頁)。上訴人が「慶餘堂」商標を第5類商品(漢方薬材、漢方薬西薬混合剤、草薬、膏丸、栄養補給品等商品)での使用を指定して出願したのは2012年10月であり(原審ファイル第14頁)、被上訴人の「慶餘堂医療器材股份有限公司FORMOSAN BIOTECH CO.,LTD及び図」商標が第5類商品医療用栄養(食)品、栄養補給品の使用を指定して登録された時期より4年余り遅い(原審ファイル第60頁)。被上訴人が2008年登録した商標の指定商品区分は漢方薬ではない。上訴人が第12類の漢方薬商品以外に第5、10、35、42類商品も経営しており、すでに相当の努力を行ってきたとする事について、上訴人は挙証せずに説明しており、上訴人が業界において相当の知名度を有する云々と事実無根の主張を行っているが、真実であるとは信じ難い。況してや社名は法律上の意味及び機能が企業の主体性を識別するものであり、その他の企業主体と区別することができる。社名の通常の使用が商品及び役務の出所を付与するトレードドレス(商標)の積極的な使用とは異なることはすでに述べたとおりである。上訴人は被上訴人が確かにその社名を商品又は出所を付与するトレードドレス(商標)として積極的に使用し、上訴人の知名度を利用して、明らかに公正を欠いた方法で競争やビジネス取引に従事し、全体の取引秩序に影響をもたらし、消費者の権益に損害を与えた等の自らに有利な事実について、挙証せずに説明し、それがすでに取得している「慶餘堂参薬号及び図(カラー)」、「慶餘堂」商標専用権とインターネットにおけるそれが販売する漢方薬膏丸に関する討論を以って、被上訴人による「慶餘堂医療器材股份有限公司」の社名使用は取引秩序に影響するに足る欺罔又は著しく公正さを欠く行為である云々とする主張は採用し難い。したがって、上訴人が被上訴人の公平交易法第24条違反を事由とし、第30条規定に基づいて被上訴人の社名使用を差し止めるよう請求することには根拠がない。

以上をまとめると、原審が上訴人の敗訴を判決したことには、法において誤りがない。上訴人が原判決を破棄し判決を翻すよう請求することには理由がなく、棄却すべきである。

以上の次第で本件上訴には理由がなく、民事訴訟法第449条第1項、第78条に基づき、主文のとおり判決する。

2013年11月5日
民事第十法廷
裁判長 張宗権
裁判官 許翠玲
裁判官 周玫芳
2013年11月7日

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