前訴訟において前行政処分の違法による取消判決が確定している場合、前行政処分を基礎とする後行政処分を対象として提起した後訴訟に対して、裁判所は前訴訟の確定判決を基礎として判決しなければならない。

2020-09-26 2020年
■ 判決分類:公平交易法

I  前訴訟において前行政処分の違法による取消判決が確定している場合、前行政処分を基礎とする後行政処分を対象として提起した後訴訟に対して、裁判所は前訴訟の確定判決を基礎として判決しなければならない。

■ ハイライト
本件被告公平交易委員会(訳注:公正取引委員会に相当)は、原告凱擘公司が取引相手に対して正当な理由なく差別的待遇を与え、公平交易法(訳注:不正競争防止法及び独占禁止法に相当)第20条第2号に違反したとして、凱擘公司に前処分を下して行政罰に処した。さらに凱擘公司が前処分の趣旨に基づいて期限内に差別的待遇の改善を行わなかったことを理由に、後処分を下して再び凱擘公司を行政罰に処した。凱擘公司は、前処分に対して行政訴訟を提起し、最高行政裁判所による前処分を違法とする判決が下され確定した。凱擘公司は再び後処分に対して行政訴訟を提起し、台北高等行政裁判所は、前処分がすでに違法であることが裁判所の判決によって確定しており、前処分で課された期限付き改善義務はすでに存在せず、凱擘公司は前処分に基づいて改善する必要はないため、後処分は違法である、と認めた。

II 判決内容の要約

台北高等行政裁判所判決
【裁判番号】106年訴字第1650号
【裁判期日】2020年1月16日
【裁判事由】公平交易法

原告 凱擘股份有限公司(kbro Inc.)
代表者 鄭俊卿(董事長)
被告 公平交易委員会
代表者 黄美瑛(主任委員)
補助参加人 全國數位有線電視股份有限公司(DigiDom Cable TV Co., Ltd.)
代表者 李光漢

主文
原処分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。

一 事実要約
原告である凱擘股份有限公司(kbro Inc.)はケーブルテレビ・チャンネルの代理業者(訳注:凱擘の公式サイトにはケーブルテレビ事業統括運営会社(MSO)と記載)であり、原告は補助参加人、大豐有線電視股份有限公司(DAFENG TV LTD.、以下「大豐公司」)、新高雄有線電視股份有限公司(NEW-KAOHSIUNG TV LTD. 、以下「新高雄公司」)、數位天空服務股份有限公司(SKY DIGITAL CONVERGENCE SERVICE CO., LTD.、以下「數位天空公司」)と2016年度のチャンネルライセンス契約について交渉した際に、原告は2015年度の取引条件を維持するよう主張した。被告は原告がチャンネルライセンスに係る金額計算の世帯数に関する交渉が、ケーブルテレビ放送施設者の競争参入を妨害し、公平交易法(以下「公平法」)の規定に違反する事情があったのかを明らかにするため立件して調査した。
被告は調査した結果、原告が新規参入業者に対して放送地区の内政部公告に基づく総世帯数の15%を金額計算の世帯数の基礎(最低保証世帯数Minimum Guarantee、以下「MG」といい、MGの後ろに%を明記する)とし、その他の既存のケーブルテレビ放送施設者に対しては前記の方式で金額を計算しておらず、原告はそれが代理するチャンネルの2016年度ライセンス契約交渉において、補助参加人、大豐公司、新高雄公司、數位天空公司のそれぞれに対して、それらの競合者と異なる取引条件を示しており、それは正当な理由がない差別的待遇であり、しかも競争制限のおそれがあるため、公平法第20条第2項規定に違反していると認め、2016年11月2日公処字第105120号処分書(以下「前処分」)を以って、原告に4100万新台湾ドルの過料を科すとともに、原処分送達の翌日から1ヵ月以内に前項違法行為を改善するよう命じた(原告は前処分に対して行政訴訟を提起し、当裁判所は2018年6月28日に105年度訴字第1929号判決を以って原告の訴えを棄却し、最高行政裁判所は2019年10月17日に108年度判字第481号判決を以って原判決を破棄し、前処分を取り消して、判決が確定した。以下「前別件判決」という)。 
その後、被告は原告が前処分により違法行為を改善したか否かの調査を続行し、原告は2016年12月16日から2017年8月28日までの期間に、それぞれ改善案を被告に提出して被告に行政指導を請求するとともに、改善案に対する被告の意見について補足説明を行ったが、被告は依然として、原告が最終的に最低保証世帯数を10%に引き下げたこと、MGを超えた世帯数に対して優待割引を与えていること、數位天空公司には埋合せ措置の取引条件を与えていること(以下「係争改善案」)から、一部は改善されているものの、差別的待遇は完全に解消されておらず、原告は前処分の趣旨に基づいて違法行為を改善していないと認定し、公平法第40条第1項後段の規定により、2017年9月22日に公処字第106081号処分書(以下「原処分」)を以って原告に1200万新台湾ドルの過料を科すとともに、原処分送達の翌日から2ヵ月以内に前項違法行為を改善し、さらに原処分の主文に基づいて行った違法行為改善の証拠を被告に書面で報告するよう命じた。原告はこれを不服として、本件訴訟を提起した。

二 両方当事者の請求内容
(一) 原告の請求:原処分を取り消す。
(二) 被告の請求:原告の訴えを棄却する。

三 本件の争点
(一) 前別件判決ですでに前処分の取消しが確定していることは、本件原処分の合法性に影響するのか。原告が公平法第40条第1項後段による期限付き改善をいかに認知し実行するかに影響するのか。
(二) 原告が提出した係争改善案には、なお公平法第20条第2号規定に違反するおそれがあり、期限までに改善されず、公平法第40条第1項後段の規定に違反している状況があるのか。
(三) 原処分の過料に関する部分について、原告に故意又は過失があるのか。
(四) 原処分を下したことは、被告の業務権限の範囲に入るのか。

四 判決理由の要約
(一) 公平法第20条第2号に「以下のいずれかに該当し、競争制限のおそれがあるとき、事業者はその行為を為してはならない。……二.正当な理由なく、他の事業者に差別的待遇を与える行為。」と規定され、第40条第1項には「主務官庁は、第9条、第15条、第19条及び第 20 条の規定に違反する事業者に対し、期限を定めてその行為を停止・改善する又は必要な是正措置を講ずるよう命じ、並びに10万新台湾ドル以上 5000万新台湾ドル以下の過料に処すことができる。期限までにその行為が停止・改善されない、又は必要な是正措置が講じられないときは、期限を定めてその行為を停止・改善する又は必要な是正措置を講ずるよう命じ続けると共に、その行為が停止・改善される又は必要な是正措置を講じられるまで、毎回20万新台湾ドル以上 1 億新台湾ドル以下の過料に処すことができる。」と規定されている。
(二) 行政訴訟法第213条には「訴訟物が確定した終局判決において裁判されたものには、確定力を有する。」と訴訟物の法律関係が規定されており、確定した終局判決において裁判されたものは、その法律関係について既判力があり、当事者はその確定判決が終結する前に提出した、又は提出できたが提出しなかったその他の攻撃防御方法を以って、新たな訴訟においてその確定判決の趣旨と相反する主張を行ってはならず、裁判所もその確定判決の趣旨に反する裁判を行ってはならない。よって、前行政処分に対して提起された取消し訴訟は、その処分の合法性を以って訴訟物の内容としており、その取消し訴訟が裁判所の実体判決によって行政処分が違法であり行政処分を取り消すことが確定されているときは、その行政処分が違法であることは実質的な確定力(既判力)を有し、その取消し訴訟の当事者はいずれもその拘束を受けるべきであり、前行政処分を基礎として行われた後(原)処分に対して提起された後訴訟について、裁判所も確定判決を基礎として判決すべきであり、確定判決の内容と相反する判断をしてはならない。
(三) 本件被告が行った原処分は、前処分を基礎としており、前処分が違法であることは前別件判決で確定されており既判力を有し、双方はいずれも拘束を受け、原処分は基礎が存在しないため、即ち違法であり、前処分を下した後の状況も原告が故意又は過失により前処分に基づいて改善しなかったとは認めがたい。
1. 公平法第40条第1項後段における同法第 20 条の規定に違反する事業者に対して(その行為が停止・改善される又は必要な是正措置を講じられるまで)毎回行政罰に処してもよいという規定をみると、「期限付き改善命令」という行政処分を前提としており、しかも期限付き改善命令という行政処分で設定される行政法上の義務が存在し、且つ違反している場合にはじめて同法第40条第1項後段により行政罰に処すことができる。即ち本件前処分は前別件判決を経て違法性があることを認められ取消しが決定されており、双方は前別件判決の当事者であり、既判力の拘束を受けるべきであり、当裁判所は原処分が前提とする前処分の違法性を審理するときも、相反する判断を行ってはならない。言い換えると、原処分の基礎は即ち前処分が設定した「期限付き改善」という行政法上の義務であり、すでに前別件判決で除去されており、原告はいうまでもなく前処分に従って改善する理由はなく、また同法第40条第1項後段の違反を構成しない。
2. 次に被告及び補助参加人は被告がすでに前別件判決に対して再審請求を行っているが、前別件判決が確定によって既判力を有し、双方及び当裁判所がいずれも拘束を受けるという認定において妨げとはならない。また被告が前処分から原処分までの間に提出した具体的な改善基準について、原告は完全に遵守していないが、なお故意又は過失により期限までに改善せず規定に違反したと認めるには十分ではない。
(1) 被告は前処分を下した後に、原告にいかに具体的に改善すべきであり、それによってはじめて公平法第20条第2号に反しないものとなるかを説明する過程において、被告は原告がMG制を採用することを禁じることなく、多元的な改善措置を選択できると説明しており、被告は本件の審理中に原告が改善するMG制の制限ラインが「多数の新規参入又は広域的経営の業者が1年目に達成できる制限ラインにおいてMGを設定する」基準に適合できるのであれば、交易法第20条第2号の差別的待遇の問題を解消できると認められると述べているが、なぜ新規参入の施設者の1年目に達成できる放送地域における実際の視聴世帯数をMG制の最低保証世帯数とするのかについて、被告はいかなる根拠又は資料等を提出しておらず、このような産業はその特殊性から前記の1年目の計算基準を適用する必要があることを認めることができ、さもないと新規参入の施設者が市場競争に参入し続けることが難しくなるという懸念があり、被告が前記基準を示した考慮と根拠が何なのかは不明である。
(2) 既存の施設者は現在の経営業績がMG(最低保証世帯数)を超えているという事実状況は、新規参入の施設者も1年目に既存業者と同じ取引条件を当然ながら得ることを合理化するには不十分である。しかも被告が前処分を下した後に確実に知り得た資料を、原告が具体的に改善すべき基準としたことは、なお前処分で命じた改善の範囲内にあるかは疑うに値するもので、また、いかにしてこれによって原告が遵守していない、即ち前処分により期限付き改善の規定違反を構成するといえるのか。
(3) 以上をまとめると、被告は前処分後かつ原処分前に、原告に対して前出の具体的改善基準を示しているが、前述のとおり理由が不明であり、また前処分で命じた改善命令の範囲内にあると認定し難い等の疑義があることから、原告は完全に被告の前出基準に基づいて履行しなかったことが即ち故意又は過失により公平法第40条第1項後段の期限内に改善しなかったという違反を構成するとは認め難い。無論、前別件判決が前処分を取り消した既判力が再審の訴えにより変動するかは、原処分の合法性には前出の疑義がすでに存在しており、補助参加人が請求している前別件判決の再審請求が確定するまで本件訴訟を停止する必要はないことを示しておく。
(四) 原告は、衛星廣播電視法(衛星ラジオ及びテレビ法)第25条第2項:「衛星チャンネル及び番組供給事業者並びに衛星放送チャンネル供給事業を経営する海外衛星放送チャンネル及び番組供給事業者の支社又は代理店が、正当な理由なくケーブルラジオ及びテレビ施設経営者(ケーブルテレビ番組放送施設を含む)、直接衛星放送サービス事業者、又はその他の公衆の視聴に供する放送プラットフォーム事業者に対して差別的待遇を与えてはならない。」という規定を根拠として、被告には原処分を下す権限はなく、国家通信伝播委員会による処理を優先すべきであると主張している。ただしこの規定の規制対象は「衛星チャンネル及び番組供給事業者」であり、本件被告が行った原処分は原告が衛星チャンネル及び番組供給事業者の「代理店」という地位に基づくもので、前出規定の規制対象とは異なる。原告に対して直接に衛星廣播電視法第25条第2項規定を適用してもよいかについては疑問がある。まして前出規定は一律に差別的待遇を禁止しており、公平法第20条第2号のように「競争制限のおそれがある」という要件にはかかわらず、かつ公平法第40条第1項前段の規定では法定最高過料の金額がより大きく、被告が競争制限のおそれがあるかという考慮に基づき、公平法第46条前段規定:「事業者の競争に関する行為について、本法の規定を優先して適用する。」に基づいて,本件の争議は公平法を優先して適用し被告が原処分を下すべきであり、原告のこの部分の主張には理由がない。
(五) 原処分にはすでに前出の誤りがあり、原告の取消し請求には理由があり、許可すべきである。

五 関連条文
(一) 公平交易法第20条第2号規定:「以下のいずれかに該当し、競争制限のおそれがあるとき、事業者はその行為を為してはならない。……二.正当な理由なく、他の事業者に差別的待遇を与える行為。」
(二) 公平交易法第40条條第1項規定:「主務官庁は、第9条、第15条、第19条及び第20条の規定に違反する事業者に対し、期限を定めてその行為を停止・改善する又は必要な是正措置を講ずるよう命じ、並びに10万新台湾ドル以上 5000万新台湾ドル以下の過料に処すことができる。期限までにその行為が停止・改善されない、又は必要な是正措置が講じられないときは、期限を定めてその行為を停止・改善する又は必要な是正措置を講ずるよう命じ続けると共に、その行為が停止・改善される又は必要な是正措置を講じられるまで、毎回20万新台湾ドル以上 1 億新台湾ドル以下の過料に処すことができる。」
(三) 衛星廣播電視法(衛星ラジオ及びテレビ法)第25条第2項:「衛星チャンネル及び番組供給事業者並びに衛星放送チャンネル供給事業を経営する海外衛星放送チャンネル及び番組供給事業者の支社又は代理店が、正当な理由なくケーブルラジオ及びテレビ施設経営者(ケーブルテレビ番組放送施設を含む)、直接衛星放送サービス事業者、又はその他の公衆の視聴に供する放送プラットフォーム事業者に対して差別的待遇を与えてはならない。」
(四) 公平交易法第46条規定:「事業者の競争に関する行為について、本法の規定を優先して適用する。但し、その他法律に別段の規定があり、且つ本法の立法趣旨に抵触しない場合は、この限りではない。」

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