当業者が複数の引用文献の技術内容を組み合わせる動機付けの有無を判断する時は、原則的に「技術分野の関連性」、「解決しようとする課題の共通性」、「機能及び作用の共通性」、及び「教示又は示唆」等の事項を総合的に考慮する

2023-12-25 2023年

■ 判決分類:専利権

I 当業者が複数の引用文献の技術内容を組み合わせる動機付けの有無を判断する時は、原則的に「技術分野の関連性」、「解決しようとする課題の共通性」、「機能及び作用の共通性」、及び「教示又は示唆」等の事項を総合的に考慮する

■ ハイライト
原告は2018年9月14日に実用新案「活性化装置を有する靴踵部成形機(原文:具有活化裝置的後踵定型機、英文:Shoe backpart shaping machine with activating device)」の登録を出願し、被告(知的財産局)は審査の結果、設定登録の許可を行った(以下「係争実用新案」、添付図1)。その後参加人(無効審判請求人)は係争実用新案の許可時の専利法第120条の第22条第2項準用規定を以て、これに対する無効審判を請求した。原告は訂正請求を行い、被告が審理した結果、訂正は規定に適合するとしてこれを認め、その訂正本(訂正版)に基づいて審理を行い、「請求項1、5乃至6、8、10については請求が成立し、無効とすべきである」、「請求項7については請求が成立しない」、「請求項2乃至4、9については無効審判請求を却下する」という処分を下した。原告は請求成立部分の処分を不服として行政訴願を提起したが、経済部に棄却され、さらにこれを不服として、知的財産裁判所に行政訴訟を提起した。原審により請求が棄却され、原告はこれを不服として本件上訴を提起した。(最高行政)裁判所は審理の結果、なお上訴を棄却した。

上訴人の主張:原判決は証拠2(添付図2)、証拠3(添付図3)、証拠5(添付図4)を容易に組み合わせる動機付けがあることを説明しておらず、判決に法令違背がある。

上記の問題について、最高行政裁判所は判決で次のように指摘している:
一、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」)が複数の引用文献の技術内容を組み合わせる動機付けの有無を判断する時は、原則的に「技術分野の関連性」、 「解決しようとする課題の共通性」、「機能又は作用の共通性」、及び「教示又は示唆」等の事項を総合的に考慮できる。通常、前述の事項が多いほど、当業者が複数の引用文献の技術内容を組み合わせる動機付けが強くなる。

二、調べたところ、証拠2は靴型自動交換機能付の靴面成型機(原文:具有自動替換楦頭功能的鞋面定型機、英文:Vamp moulding machine with function of automatically replacing shoe last)、証拠3は靴面活性化機(原文:鞋面活化機、英文:Vamp activating machine)、証拠5は靴つま先部形成機の改良構造(原文:鞋頭定型機結構改良、英文:Improved structure for forming machine of shoes-head)であり…原審は証拠2、3、5の技術内容を斟酌した結果、証拠2、3、5はいずれも鞋面成形に関する技術であり、技術分野の関連性を有すると認めた。

証拠3に開示されている「靴面活性化機」は一台の機械であるが、その重点は靴面を予め加熱して活性化する技術にあり、当業者であれば、証拠2又は証拠5のいかなる位置にも応用することができ、単に型にはまった方法で機械全体を証拠2又は証拠5の機体に組み入れて使用するなどというものではない等は、いずれも心証を得た理由をすでに明確に述べるものであり、判決理由の不備、又は進歩性審査原則に違反する誤りはない。

以上をまとめると、原判決には上訴人が主張するような法令違背の状況はなく、上訴の趣旨における原判決には法令違背があり、破棄すべきであるという主張には理由がなく、棄却すべきである。

II 判決内容の要約

最高行政裁判所判決
【裁判番号】111年度上字第117號
【裁判期日】2023年2月9日
【裁判事由】実用新案無効審判

上訴人 裕銘機械有限公司(NEW YU MING MACHINERY CO.)
被上訴人 経済部知的財産局

主文
上訴を棄却する。
上訴審の訴訟費用は上訴人の負担とする。

一 事実要約
上訴人は2018年9月14日に実用新案「活性化装置を有する靴踵部成形機」の登録を出願し、被上訴人(知的財産局)は基礎的要件審査の結果、設定登録の許可を行った(公告番号第0000000号、以下「係争実用新案」という)。参加人は2019年7月24日、係争実用新案の許可時の専利法第120条の第22条第2項準用規定を以て、これに対する無効審判を請求した。上訴人は2019年9月26日に係争実用新案の明細書及び実用新案登録請求の範囲の訂正本を提出し、被上訴人は審理後にその訂正が規定に適合していることから、当該訂正本に基づいて審理を行い、請求項1、5乃至6、8、10について許可時の専利法第120条の第22条第2項準用規定に該当するため、登録することができず、請求項7は上記規定に該当しないことを認め、2020年11月27日(109)智專三(一)04085字第10921161390号無効審判審決書を以て、「2019年9月26日の訂正事項については訂正を許可する」、「請求項1、5乃至6、8、10については請求が成立し、無効とすべきである」、「請求項7については請求が成立しない」、「請求項2乃至4、9については無効審判請求を却下する」という処分(以下「原処分」という)を下した。上訴人は原処分の請求成立部分を不服として、手続きを踏んで、行政訴訟を提起し、原処分の「請求項1、5乃至6、8、10は請求が成立し、無効とすべきである」という部分及び訴願決定をいずれも取り消すよう請求した。原審により原判決で上訴人の請求が棄却され、上訴人はこれを不服として本件上訴を提起した。

二 両方当事者の請求内容
(一)上訴人の上訴声明
原判決を破棄する。原処分の「請求項1、5乃至6、8、10については請求が成立し、無効とすべきである」という部分及び訴願決定をいずれも取り消す。
(二)被上訴人の答弁声明
上訴を棄却する。

三 本件の争点
証拠2~5の組合せは係争実用新案請求項1、10の進歩性欠如を証明するに足るのか。証拠2~6の組合せは係争実用新案請求項5、6の進歩性欠如を証明するに足るのか。証拠2~5、7の組合せは係争実用新案請求項8の進歩性欠如を証明するに足るのか。以上に基づいて、係争実用新案の請求項1、5乃至6、8、10の無効審判請求は成立し、無効とすべきなのか。

四 判決理由の要約
一、原審は全弁論趣旨及び調査証拠を斟酌した結果、(以下のように認定した):
(一)証拠2~5の組合せは係争実用新案請求項1、10の進歩性欠如を証明するに足る:
 証拠2、3、5は技術分野の関連性、機能及び作用の共通性を有する。また証拠3は証拠2に鞋面形成前に予め熱する目的を達成し応用させる教示の作用を有し、証拠5は証拠2に熱間プレスモジュールと冷間プレスモジュールをそれぞれ分けて設置させる技術の教示を有する。よって当業者であれば、証拠3、5の技術の教示によって、証拠2、3、5に開示される技術的特徴を簡単に変更して、係争実用新案の請求項1の考案を容易に完成する十分な動機付けがあり、しかも係争実用新案請求項1には有利な効果がないため、証拠2、3、5の組合せは係争実用新案請求項1の進歩性欠如を証明することができる。すなわち証拠2~5の組合せは当然ながら係争実用新案請求項1の進歩性欠如を証明することができる。
(二)証拠2~6の組合せは係争実用新案請求項5、6の進歩性欠如を証明するに足る:
 係争実用新案の請求項5は請求項1に従属する従属項であり、又また証拠2、6又は証拠6単独はすでに請求項1に従属する請求項5の従属項としての技術的特徴(訳注:従属先の請求項を更に限定する技術的特徴)を開示している。証拠6も鞋面成形の関連技術であり、証拠2~5とは技術分野の関連性があり、証拠2とは作用及び機能の共通性を有するため、当業者であれば、証拠6に開示される技術を証拠2~5に組み合せる合理的な動機付けがある。よって証拠2~6の組合せは係争実用新案請求項5の進歩性欠如を証明するに足る。
(三)証拠2~5、7の組合せは係争実用新案請求項8の進歩性欠如を証明するに足る:
 係争実用新案の請求項8は請求項1に従属する従属項であり、また証拠2又は証拠7はすでに請求項1に従属する請求項8の従属項としての技術的特徴を開示している。証拠7も鞋面成形の関連技術であり、証拠2~5とは技術分野の関連性があり、証拠7の型締装置と証拠2の靴型モジュールという鞋面固定装置は作用及び機能の共通性を有するため、当業者であれば、証拠7に開示される技術を証拠2~5に組み合せる合理的な動機付けがある。よって証拠2~5、7の組合せは係争実用新案請求項8の進歩性欠如を証明するに足る。

二、当業者が複数の引用文献の技術内容を組み合わせる動機付けの有無を判断する時は、原則的に「技術分野の関連性」、 「解決しようとする課題の共通性」、「機能又は作用の共通性」、及び「教示又は示唆」等の事項を総合的に考慮できる。通常、前述の事項が多いほど、当業者が複数の引用文献の技術内容を組み合わせる動機付けが強くなる。調べたところ、証拠2は靴型自動交換機能付の靴面成型機、証拠3は靴面活性化機、証拠5は靴つま先部形成機の改良構造であり、証拠2と係争実用新案請求項との違いは第1の相異なる技術的特徴と第2の相異なる技術的特徴のみである。しかしながら、証拠3には第1の相異なる技術的特徴が開示され、証拠5には第2の相異なる技術的特徴が開示されており、原審が証拠を調査した結果に基づいて合法的に認定した事実である。原審は証拠2、3、5の技術内容を斟酌した結果、次のように認めている。証拠2、3、5はいずれも鞋面成形に関する技術であり、技術分野の関連性を有する;証拠2、3、5はいずれも加熱工程により予め靴面を軟化させて、その後の加工工程に有利になるようにするものであり、証拠2、5は靴面を予め加熱工程により軟化した後に冷間プレス工程で靴面の成形を行う内容が完全に開示されているため、証拠2、3、5には作用及び機能の共通性がある。また、証拠3には活性化装置を利用して、靴面成形前に靴面に対して予熱を行うという技術が開示されており、証拠2に靴面成形前に予熱を行うという目的を達成するために応用させる教示の作用を有している。さらに、証拠5にも熱間加工設備(熱間加工構造)と冷間加工設備(冷間加工構造)をそれぞれ主架台及び副架台に分けて設置する技術が開示されており、証拠2の熱間プレスモジュールと冷間プレスモジュールを分けて設置する技術的教示を有する。よって当業者であれば、証拠3、5の技術的教示から証拠2、3、5に開示される技術的特徴を組み合わせて簡単に変更して係争実用新案請求項1の考案を容易に完成しようとする十分な動機付けがあり、係争実用新案請求項1は先行技術に対して有利な効果を有しない。また上訴人は原審において、係争実用新案の当業者が容易に証拠2、証拠3、証拠5を組み合わせて踵部成形機とする動機付けがあるとは言い難く、さらに証拠3の靴面活性機を証拠5の靴面熱間プレス装置(熱間加工構造)が設置されている副架台に容易に統合して設置する動機付けがあると言い難いことは言うまでもない云々と主張している。しかしながら証拠3に開示されている「靴面活性化機」は一台の機械であるが、その重点は靴面を予め加熱して活性化する技術にあり、当業者であれば、証拠2又は証拠5のいかなる位置にも応用することができ、単に型にはまった方法で機械全体を証拠2又は証拠5の機体に組み入れて使用するなどというものではない。原審は心証を得た理由をすでに明確に述べており、判決理由の不備、又は進歩性審査原則に違反する誤りはない。

三、以上をまとめると、原判決には上訴人が主張するような法令違背の状況はなく、上訴の趣旨で原判決には法令違背があり、破棄すべきであるという主張には理由がなく、棄却すべきである。

以上の次第で、本件上訴には理由がない。知的財産事件審理法第1条及び行政訴訟法第255条第1項、第98条第1項前段に基づき、主文の通り判決する。

2023年2月9日
最高行政裁判所第四法廷
裁判長    陳國成
裁判官 王碧芳
裁判官 簡慧娟
裁判官 蔡紹良
裁判官 蔡如琪
 

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