物の発明について請求項が性質で発明を特定する場合、その性質が新規パラメーターを使用する必要があるならば、その測定方法を発明の説明に記載すべき

2018-06-25 2017年
■ 判決分類:専利権

I 物の発明について請求項が性質で発明を特定する場合、その性質が新規パラメーターを使用する必要があるならば、その測定方法を発明の説明に記載すべき

■ ハイライト
係争特許請求項1の「生物活性物質を含有するウサギ皮膚」は「製造方法」、「0.5iu/gより高い又はそれに等しいSART活性」及び限制条件である「活性物質にはケイ素を含まない」で特定されている。係争特許の発明の説明*には、SART活性の示す意味、SART活性値の測定方法、SART活性の単位であるiu/gの意味、ウサギ皮膚とiu/gとの関係、ウサギ皮膚内に含有される生物活性物質とSART活性との関係、ウサギ皮膚1gあたりに含有される生物活性物質とSART活性単位iu/gとの関係、並びにいかに変換、量化されるのかが十分に開示されておらず、発明の説明にはウサギ皮膚又はウサギ皮膚から得られた生物活性物質について、自然界において動物体の皮膚内に常在する「ケイ素」を含まないようにするためにいかなる方法で処理するのかも具体的に記載されておらず、係争特許の発明の説明は十分に明確ではない。かつ発明の説明が公知ではないSART活性に対して具体的にパラメーター測定方法を開示していないことで、特許請求の範囲は不明確となっている。よって係争特許許可時の専利法第26条第3項規定に違反している。
【*訳注:2010年9月12日施行の専利法第26条第1項には、「前条の明細書には、発明の名称、発明の説明、要約及び特許請求の範囲を明確に記載しなければならない」、同条第2項には「発明の説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその内容を理解し、それに基づいて実施をすることができるように明確かつ十分に示されなければならない」、同条第3項には「特許請求の範囲は特許を受けようとする発明を明確に記載し、請求項ごとに簡潔な方式で記載し、かつ発明の説明及び図面によって裏付けられなければならない」と規定されていた。】

II 判決内容の要約

知的財産裁判所行政判決
【裁判番号】105年度行專訴字第80号
【裁判期日】2017年4月27日
【裁判事由】特許無効審判

原 告 中国威世薬業(如皋)有限公司(VANWORLD PHARMACEUTICAL CO, LTD.)
被 告 経済部知的財産局
参加人 日本臓器製薬株式会社(NIPPON ZOKI PHARMACEUTICAL CO.,LTD.)

上記当事者間における特許無効審判事件について、原告は経済部2016年9月7日付経訴字第10506309030号訴願決定を不服として行政訴訟を提起した。当裁判所は参加人に独立して本件被告の訴訟に参加するよう命じた。当裁判所は次のとおり判決する。

主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

一 事実概要
原告は2003年10月24日に「生物活性物質を含有するウサギ皮膚及びその用途(原文名:含生物活性物質的兔皮和其用途)」を以って被告に特許出願を行った。被告は第92129774号として審査を行い許可査定し、第I341203号特許証書(以下、「係争特許」)を発給した。その後、参加人である日本臓器製薬株式会社(以下「日本臓器」)は係争特許が許可時の専利法(訳注:特許法、実用新案法、意匠法に相当)第22条第4項、第26条第2項及び第3項規定に違反しており、特許要件を満たしていないとして、これに対する無効審判を請求した。被告は審理した結果、係争特許が許可時専利法第26条第2項及び第3項規定に違反していると認め、2016年3月22日付(105)智専三(四)01027字第10520338290号無効審判審決書を以って「請求項1乃至13について無効審判請求は成立し、特許権を取り消す」との処分を下した。原告はこれを不服として行政訴願を提起し、その後経済部は2016年9月7日付経訴字第10506309030号訴願決定を以って訴願棄却を決定した。原告はこの訴願決定を不服とし、当裁判所に行政訴訟を提起した。当裁判所は判決の結果により、原処分及び訴願決定が取り消されたならば、参加人の権利又は法益に影響があると認め、職権により参加人に独立して被告の訴訟に参加するよう命じた。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告の請求:
原処分及び訴願決定をいずれも取り消す。
(二)被告の請求:
原告の請求を棄却する。

三 本件の争点
当事者の主な争点は次のとおりである。:1.係争特許明細書の「発明の説明」の記載には、專利法第26条第2項規定違反があるのか。2.係争特許の請求項1乃至10には、専利法第26条第3項規定違反があるのか。3.係争特許の請求項11には、専利法第26条第3項規定違反があるのか。4. 係争特許の請求項12には、専利法第26条第3項規定違反があるのか。5. 係争特許の請求項13には、専利法第26条第3項規定違反があるのか。

四 判決理由の要約
(一)係争特許の十分な開示要件を判断するための準拠法:
係争特許は現行専利法2011年11月29日改正条文が施行された後も、まだ審決されていない無効審判案件であり、原処分が特許権取消をすべきか否かの事情は前記規定からみて、許可査定時に適用されていた2010年9月12日施行の専利法規定によるべきである。
(二)係争特許技術の分析:
1.係争特許の技術内容:
以前、ポックスウイルスに感染したカイウサギ皮膚から得られた抽出物がアレルギー性疾患に対して治療効果を有し、鎮痛作用をそなえると報道されたことがあるが、これまで活性が高く、収率が高い活性物質を有するウサギ皮膚の製造方法はなかった(係争特許明細書5頁にある「先行技術」を参照)。本発明は生物活性を含有するウサギ皮膚に関する発明であり、ワクチニアウイルスをカイウサギに接種し、接種済みのカイウサギを飼育して、皮膚組織の発疹が良好な時点で屠殺し、皮膚を採取して本発明のウサギ皮膚とする。本発明のウサギ皮膚は医薬品と健康食品の製造に用いることができる(係争特許明細書3頁にある中国語の発明の「要約」を参照)。
2.係争特許の特許請求の範囲の分析:
係争特許の特許請求の範囲は計13項あり、そのうち請求項1、12、13が独立項、請求項2乃至11が請求項1に直接に従属する従属項である。
(1)係争特許の請求項1の内容:
請求項1は生物活性物質を含有するウサギ皮膚であって、ワクチニアウイルスをカイウサギに接種し、接種済みのカイウサギを飼育して、皮膚組織の発痘が良好となった時点で屠殺して皮膚を採取するという方法で製造すること、その接種は皮下接種であり、1.5~3kgのカイウサギ1羽あたり100乃至250箇所に注射し、1箇所あたり106~109個/mlのウイルスを含む溶液0.1~0.4mlを注射し、且つウサギ皮膚は0.5iu/gより高い又はそれに等しいSART活性を有するようにすること、さらにウサギ皮膚が有する活性物質にはケイ素を含まないことをその制限条件とすること、を特徴とする生物活性物質を含有するウサギ皮膚である。
(2)係争特許の請求項2乃至11の内容:
係争特許の請求項2乃至11は請求項1の従属項である。説明すると、(1)請求項2は、ワクチニアウイルスがLister株である請求項1のウサギ皮膚。(2)請求項3は、ワクチニアウイルスがIkeda株である請求項1のウサギ皮膚。(3)請求項4は、ワクチニアウイルスがDairen株である請求項1のウサギ皮膚。(4)請求項5は、ワクチニアウイルスがEM-63株である請求項1のウサギ皮膚。(5)請求項6は、カイウサギが日本白色ウサギである請求項1のウサギ皮膚。(6)請求項7は、カイウサギがニュージーランドホワイトである請求項1のウサギ皮膚。(7)請求項8は、カイウサギがチャイニーズホワイトである請求項1のウサギ皮膚。(8)請求項9は、カイウサギがチンチラウサギである請求項1のウサギ皮膚。(9)請求項10は、皮膚組織の発痘が良好であることが皮膚組織に明らかに発痘し、色が淡紅色から赤紫へ変わり、皮膚が厚みを増し、皮下及び臀部が浮腫んでいることを指す請求項1のウサギ皮膚。(10)請求項11は、カリクレイン産生抑制活性を有する請求項1乃至10のいずれか一つのウサギ皮膚。
(3)係争特許の請求項12及び13の内容:
請求項12は、前記ウサギ皮膚を医薬品の製造に用いることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一つのウサギ皮膚の用途。請求項13は、前記ウサギ皮膚を健康食品の製造に用いることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一つのウサギ皮膚の用途。
(三)証拠の技術的分析:
1.証拠3の内容:
証拠3は、係争特許の「発明の説明」第7頁第22乃至23行に記載の「SART活性の試験方法は当分野において公知のものである」に関するもので、それは喜多富太郎等、日薬理誌(Folia pharmacol.japon.) 71:000-000(0000)に見られ、1975年に公開され、係争特許の出願日である2003年10月24日より早く、かつ係争特許と同じくバイオ医薬品の分野に属し、適格な証拠となる。証拠3の内容は、ノイロトロピン等の薬物をSART(specific alternation of rhythm in temperature) ストレス負荷状態のマウスやラットに投与し、その体重減少、十二指腸のAch感受性、呼吸数、心拍数、心電図QRS及び皮膚電気反射等の生理現象の変化を観察し、薬物のSARTストレス動物の生理反応に対する影響を研究したものである。
2.証拠9の内容:
証拠9は1998年に公開され、係争特許の出願日である2003年10月24日より早く、かつ係争特許と同じくバイオ医薬品の分野に属し、適格な証拠となる。証拠9の449頁左欄の最終段落には、ケイ素は動物の全組織、とくにケイ酸塩で形成される毛、羽毛、骨格、皮膚等に存在すると記載されている。
3.参考人証拠3の内容:
参考人証拠3は国際単位の定義に関するものであり、その内容は国際単位「iu」が国際間で話し合って定められた標準単位であり、バイオアッセイにより一定の生物学的効果を有する最小力価が単位「u」であるというものである。
(四)争点の技術的分析:
1.係争特許請求項の対応する「発明の説明」が専利法第26条第2項に違反している:
(1)係争特許請求項を周知技術と区別できる主な特徴:
係争特許請求項の請求対象は「ウサギ皮膚」及び「ウサギ皮膚の用途」であり、「生物活性物質を含有するウサギ皮膚」に対して「製造方法」、「0.5iu/gより高い又はそれに等しいSART活性」及び制限条件である「活性物質にはケイ素を含まない」という要件で特定されている。製造方法はワクチニアウイルスをカイウサギに接種し、飼育して、皮膚組織の発痘が良好となった時点で屠殺し、皮膚を採取し、その接種は皮下接種であり、1.5~3kgのカイウサギ1羽あたり100乃至250箇所に注射し、1箇所あたり106~109個/mlのウイルスを含む溶液0.1~0.4mlを注射するものである。それはその技術の分野において通常の知識を有する者にとっては周知の製造方法であり、多くの先行技術において開示されている。よってその「物」及び「物の用途」である請求項と周知の技術を区別する主な特徴は、請求項で特定されている「0.5iu/gより高い又はそれに等しいSART活性」及び「活性物質にはケイ素を含まない」という要件である
(2)活性物質はケイ素を含まないという制限条件の特定には依拠となる基礎がない:
「0.5iu/gより高い又はそれに等しいSART活性」に対応する「発明の説明」にはiu/g SART活性がいかに得られるのか、そしてそれに関連する定義、それが意味するものが特定されていない。「活性物質にはケイ素を含まない」という制限条件については、証拠9に、ケイ素は動物体の全組織、とくにケイ酸塩で形成される毛、羽毛、骨格、皮膚等に存在すると開示されている。よってウサギ皮膚も原則的にケイ素成分を含有しているはずであると推論でき、ウサギ皮膚又はそれから得られた活性物質がケイ素をいかに含まないようにするのかについて、発明の説明ではケイ素除去の処理方法と工程が開示されておらず、制限条件に関する説明又は理由も開示されていないのに、請求項において「活性物質にはケイ素を含まない」という制限条件を加えて特定することは、依拠となる基礎が全くないといえる。まさに係争特許請求項に対応する発明の説明は十分に明確ではなく、かつ十分に開示されていないため、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であってもその内容を理解できず、それに基づいて実施することができず、それは専利法第26条第2項規定に違反している。
(3)0.5iu/gのSART活性という技術的特徴が明確に開示されていない:
A.新たに創造し、自分で定めた技術用語「iu/g」SART活性について、明細書における発明の説明は明確な定義を全く行っていない。原告は「SART活性」テストが係争特許の発明の説明第7頁第22乃至23行に記載されている「SART活性の試験方法」の文献、即ち証拠3である多富太郎等、日薬理誌(Folia pharmacol.japon.) 71:000-000(0000)に示されるとおりであると主張している。ただし、その定期刊行物(の文献)はSARTストレスラットを用いて鎮痛活性を測定したことを開示しているにすぎず、その方法は神経鎮静剤ノイロトロピン(NSP)の鎮痛効果とSARTストレスラットにおける鎮痛作用の測定に対するものであり、文章において記載されているのは、NSP測定方法、鎮痛作用効力検定方法、ラット疼痛反応の定義である。かつ検定試験で鎮痛係数を得て、その鎮痛係数からSARTストレスラットに対する薬物鎮痛作用は正常のラットよりも顕著であり、とくにNSPはこの方面における傾向がさらに顕著であるという結論を得ている。発明の説明に記載されている文献にはその他の活性物質を鎮痛作用の薬理テストに使用したことが開示されておらず、またその他の効力検定方法において、対照となる標準品には何を採用すべきか、いかに標準品と比較して特定の鎮痛係数を得るのか、いかに鎮痛係数から有効に(活性を)導くのか、物質の生理活性及びその有効な薬理作用に転換される薬用力価とは何なのかについても開示されていない。
B.原告は、発明の説明に示された定期刊行物の文献及び原告証拠1乃至6には、ラットには体内にNSPがあり、SARTストレスラットの鎮痛作用に用いること、ワクチニアウイルスを接種したカイウサギの炎症皮膚からの抽出物(NSP)の鎮痛作用とその他薬物との比較、NSPのSARTストレスラットに対する薬理作用機序及びSARTストレスラットの疼痛値低下の研究が記載されており、いずれもNSPのSARTストレスラット痛覚に対する薬理作用、痛覚症状及びそのテスト方法を提示するものであり、SARTストレスラットを特殊な環境で処理することにより、疼痛感覚が正常ラットよりも敏感にさせている云々と主張している。しかしながら、その文献及び原告証拠1乃至6は「SART活性」とは何か、いかにしてSART活性を得るのか、いかにしてSART活性を「iu/g」で量化して表示するのか、「0.5 iu/gのSART活性」が意味するものは何なのかについて全く開示も言及もしていない。
C.原告は2017年2月23日付けの行政訴訟補充理由狀(理由補充書)において、8乃至9頁に補充された表1、図1及び分析結果の方程式でSART活性値の獲得についてすでに説明している云々と主張している。しかしながら該表、図又は方程式はいずれも係争特許出願時又は公告時における発明の説明、請求項又は図面に開示されていない。さらに理由補充書の表1に記載された係争特許実施例№1乃至10において、使用されるウサギの種類、ウイルス株の種類、ウイルス株の濃度、注射箇所、注射量など薬理実験のパラメーターがいずれも異なり、複数の異なるパラメーターの実施例からいかに統計学的な線形回帰を利用してウサギ皮膚の総SART活性値を算出する特定の方程式を得たのか、いかにパラメーターが異なる実施例から統計学的な線形回帰を利用してウサギ皮膚の総SART活性値を算出するいわゆるウサギ皮膚1枚あたり「総SART活性(iu)=28.3x log(ウサギ皮膚に接種したウイルス総数)-65.9」という方程式を得たのかを理解できず、原告は発明の説明で具体的な記載、限定又は開示を行っていない。さらに係争特許の発明の説明において、使用される標準品が何なのか、疼痛の定義は何か、鎮痛係数は何かを明確に特定していない。以上のいずれか一つのパラメーターの変動(例えば標準品の置換、定義の変更、係数等の変動)により、SART活性値が変わり、そして請求項で特定される活性値「iu/g」が変わってしまい、さらには請求項で請求される「範囲」が異なるものとなる。
D.実施例の測定試験では異なるパラメーターを使用しており、原告によって補充された明細書でいうところの統計学的な線形回帰で得られた方程式は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が(その内容を)理解でき、かつ大量の試験や複雑な実験をしなくても発明を実施する方法を発見できる」というものではなく、係争特許の請求項に対応する発明の説明は十分に明確ではなく、かつ十分に開示されていないため、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であってもその内容を理解し、それに基づいて実施することはできない。原告は係争特許の各実施例において、異なる種類のウサギは同一の種(species)に属し、かつ異なるウイルスはいずれもワクチニアウイルスであり、それが惹起する炎症反応はおおむね一致しており、ウサギの種類とウイルス株の種類によって影響はない云々と主張している。ただし、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者ならば異なるウサギの種類(subspecies)によってワクチニアウイルスによりもたらされる発痘反応が異なることを理解している。ウイルス株については、その特異性がさらに重要であり、異なるウイルス株の特異性ともたらされる効果はそれぞれ異なる。各パラメーターはなお最後に得られる活性値に影響をもたらし、原告の主張が証拠として不十分であると認めるに足る。
E.原告は請求項1の「活性物質にはケイ素を含まない」という限制条件に対して、審査過程において先行技術EP0000000の技術と重複している箇所を削除しており、「削除する方法」で請求項に追加するとともに、地球上にはケイ素基の生命体はなく、地球の生命体は炭素基の生命体であると主張している。ウサギ皮膚の製造と活性物質の抽出の方法はいずれもケイ素イオン又はケイ素原子を有する物質を加えておらず、かつウサギ又はウイルス自身がケイ素イオン又はケイ素元素を有する物質を生産することはなく、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、ウサギ皮膚にある活性物資がケイ素を含まないという技術的特徴を知りえる云々と主張している。また無効審判の答弁過程において、ウサギ皮膚にある活性物質がケイ素を含まないという検査試験報告を提出している。しかし証拠9にはケイ素が動物体の全組織に、特にケイ素酸塩で形成される毛、骨格、皮膚等に存在していることが開示されている。原告の主張は推測に過ぎず、学術的根拠はなく、証拠9の開示からウサギ皮膚は原則的にケイ素成分を含むと推論でき、係争特許の発明の説明において、ウサギ皮膚又はその活性物質がケイ素を含まないようにする処理方法の技術内容が全く記載されていない。そして提出された検査試験報告は係争特許出願後に提出されたもので、公正な第三者によって正式に公証された試験報告ではなく、試験結果は採用するに足りない。かつ試験報告は試験で使用されたものが、係争特許の実施例により製造されたウサギ皮膚であると証明することもできず、原告の主張には理由がないと認められる。
F.以上をまとめると、請求項で請求されている「ウサギ皮膚」と「ウサギ皮膚の用途」においてウサギ皮膚を特定している「0.5iu/gより高い又はそれに等しいSART活性」及び「活性物質にはケイ素を含まない」は(請求項に)対応する発明の説明においてその技術的特徴が明確に開示されておらず、具体的に活性の意味、SART活性を取得する方法と工程が具体的に特定されておらず、ケイ素を除去する技術内容が開示されていない。よって、係争特許の請求項に対応する「発明の説明」が不明確であり、かつ十分に開示されていないため、専利法第26条第2項規定に違反している。
2.係争特許請求項1乃至10は専利法第26条第3項規定に違反している:
(1)係争特許請求項1は専利法第26条第3項規定に違反している:
係争特許請求項1の「生物活性物質を含有するウサギ皮膚」は「製造方法」、「0.5iu/gより高い又はそれに等しいSART活性」及び限制條件である「活性物質にはケイ素を含まない」という要件で特定されている。係争特許の発明の説明には、SART活性の示す意味、SART活性値の測定方法、SART活性の単位であるiu/gの意味、ウサギ皮膚とiu/gとの関係、ウサギ皮膚内に含有される生物活性物質とSART活性との関係、ウサギ皮膚1gあたりに含有される生物活性物質とSART活性単位iu/gとの関係、並びにいかに変換、量化されるのかが十分に開示されておらず、また発明の説明にはウサギ皮膚又はウサギ皮膚から得られた生物活性物質について、自然界において動物体の皮膚内に常在する「ケイ素」を含まないようにいかなる方法で処理するのかについても具体的に記載されていない。係争特許の発明の説明は十分に明確ではなく、かつ十分に開示されておらず、専利法第26条第2項規定に違反している。かつ発明の説明が不明確で十分に開示されていないため、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が出願時の通常の知識を参酌しても、請求項を特定するのに必要な技術的特徴であるSART活性値に対して疑義が生じてしまい、発明の説明が公知ではないSART活性に対して具体的にパラメーター測定方法を開示していないことで、特許請求の範囲は不明確となっており、特許許可時の専利法第26条第3項規定に違反している。かつ明細書における発明の説明がSART活性の測定方法及びケイ素の除去方法を具体的に開示しておらず、請求項も発明の説明に裏付けられていないため、専利法第26条第3項規定に違反している。
(2)係争特許請求項2乃至10は専利法第26条第3項規定に違反している:
係争特許請求項2乃至10は請求項1の直接従属項であり、その請求の範囲は請求項1の全部の技術的特徴が含まれる以外に、さらに請求項1の範囲が縮減されている。請求項2乃至5は、Lister、Ikeda 、Dairen、EM-63という異なるワクチニアウイルスをカイウサギに接種することで特定している。請求項6乃至9は為界定使用日本白色ウサギ、ニュージーランドホワイト、チャイニーズホワイト、チンチラウサギという異なる種類のカイウサギにワクチニアウイルスを接種することで特定している。請求項10は請求項1に記載の「皮膚組織の発痘が良好である」が皮膚組織に明らかに発痘し、色が淡紅色から赤紫へ変わり、皮膚が厚みを増し、皮下及び臀部が浮腫んでいることを指すとさらに特定している。請求項1の請求の範囲が不明確であり、発明の説明にも裏付けられないため、それに従属する請求項2乃至10の請求の範囲も不明確で、発明の説明及び図面で裏付けられない。これにより、請求項1乃至10は特許を受けようとする発明を明確に記載しておらず、請求の範囲が不明確であり、かつ発明の説明及び図面で裏付けられないため、専利法第26条第3項規定に違反している。
3.係争特許請求項11は専利法第26条第3項規定に違反している:
係争特許請求項11は請求項1乃至10の従属項であり、その請求の範囲は請求項1乃至10の全部の技術的特徴が含まれる以外に、さらに請求項1乃至10のウサギ皮膚がカリクレイン産生抑制活性を有することでさらに特定されている。係争特許の発明の説明における記載によると、カリクレイン産生抑制活性の測定とは、生物活性物質を含有する溶液を処理してそのSART活性を1.2iu/mlに調節し、さらに脱塩、減圧乾燥した後、0.25Mの塩化ナトリウム溶液を加えて試験溶液とし、その吸光度を測定するものである。係争特許の発明の説明には、SART活性の示す意味、SART活性値の測定方法、SART活性の単位であるiu/gの意味、ウサギ皮膚とiu/gとの関係が十分に開示されておらず、発明の説明には自然界において動物体の皮膚内に常在する「ケイ素」を含まないようにいかなる方法で処理するのかについても具体的に記載されていないため、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の説明及び図面を基にしても、明細書第8頁に示される「SART活性が1.2 iu/mlである生物活性物質を含有する溶液」をいかに調製し、そしていかにカリクレイン産生抑制活性試験溶液を調製するのかを理解できない。ゆえに請求項11の請求の範囲は不明確で、発明の説明及び図面で裏付けられない。これにより、請求項11は特許を受けようとする発明を明確に記載しておらず、請求の範囲が不明確であり、かつ発明の説明及び図面で裏付けられないため、専利法第26条第3項規定に違反している。
4. 係争特許請求項12は専利法第26条第3項規定に違反している:
請求項12の請求の範囲は請求項1乃至10のいずれか一つのウサギ皮膚の用途であり、その特徴は請求項1乃至10の請求対象であるウサギ皮膚を医薬品の製造に使用する用途である。係争特許の発明の説明には十分にSART活性の示す意味、SART活性値の測定方法、SART活性の単位であるiu/gの意味、ウサギ皮膚とiu/gとの関係が十分に開示されていない。また発明の説明には自然界において動物体の皮膚内に常在する「ケイ素」を含まないようにいかなる方法で処理するのかについても具体的に記載されていないため、係争特許請求項1乃至10は専利法第26条第3項規定に違反しており、それにより、請求項1乃至10の請求対象であるウサギ皮膚で医薬品の製造に使用する用途を技術的特徴とする請求項12の範囲も不明確となり、明細書の発明の説明で裏付けられない。これにより、請求項12には特許を受けようとする発明が明確に記載されておらず、請求の範囲が不明確であり、かつ発明の説明及び図面に裏付けられていないため、専利法第26条第3項規定に違反している。
5.係争特許請求項13は専利法第26条第3項規定に違反している:
請求項13の請求の範囲は請求項1乃至10のいずれか一つのウサギ皮膚の用途であり、その特徴は請求項1乃至10の請求対象であるウサギ皮膚を健康食品の製造に使用する用途である。係争特許の発明の説明には十分にSART活性の示す意味、SART活性値の測定方法、SART活性の単位であるiu/gの意味、ウサギ皮膚とiu/gとの関係が十分に開示されておらず、また発明の説明には自然界において動物体の皮膚内に常在する「ケイ素」を含まないようにいかなる方法で処理するのかについても具体的に記載されていないため、係争特許請求項1乃至10は専利法第26条第3項規定に違反しており、それにより、請求項1乃至10の請求対象であるウサギ皮膚で健康食品の製造に使用する用途を技術的特徴とする請求項13の範囲も不明確となり、明細書の発明の説明で裏付けられない。これにより、請求項13には特許を受けようとする発明が明確に記載されておらず、請求の範囲が不明確であり、かつ発明の説明及び図面に裏付けられていないため、専利法第26条第3項規定に違反している。

五 本判決の結論
以上をまとめると、係争特許の請求項1乃至13に対応する発明の説明は許可時の専利法第26条第2項規定に違反し、並びに係争特許請求項1乃至13は専利法第26条第3項規定に違反している。原告は原処分及び訴願決定を取り消すよう請求しているが、いずれも根拠がなく、棄却すべきである。これにより原処分が係争特許許可時の専利法第26条第2項及び第3項規定違反により「請求項1乃至13について無効審判請求は成立し、特許権を取り消す」とする行政処分を行ったことに法に合わないところはない。訴願機関がこれを維持したことも妥当である。原告がこれをもって指摘することには理由がない。よって原告が訴願決定及び原処分の取消を請求することには理由がなく、棄却すべきである。

以上の次第で、本件原告の請求に理由はなく、知的財産案件審理法第1条、行政訴訟法第98条第1項前段により、主文のとおり判決する。

2017年4月27日
知的財産裁判所第一法廷
裁判長 陳忠行
裁判官 曾啟謀
裁判官 林洲富

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