特許権侵害に係る賠償額の認定
2019-05-21 2018年
■ 判決分類:専利権
I 特許権侵害に係る賠償額の認定
■ ハイライト
原告Aは特許「自走式電子装置の自動充電システム及びその方法」(以下「係争特許」)の特許権者であり、被告B社が多機能自動充電掃除ロボット (以下、「係争製品1」)及びインテリジェント型吸塵、掃き掃除、拭き掃除、自動充電清掃ロボット(以下、「係争製品2」)を通販サイトで販売して係争特許を侵害したと主張し、損害賠償を請求する訴訟を提起した。
B社はAの請求に対して、B社が従業員数十名の家電販売代理店であり、産業の川上に位置するため、係争製品1、2の詳細な特徴、製造方法及び工程が係争特許を侵害する可能性を検索、確認しておらず、権利侵害に係る故意又は過失はないと抗弁するほか、たとえ損害賠償責任を負うべきだと認めたとしても、得た利益は輸入コスト、賃料、人件費等のコストと商品を各サイトで販売するために発生した経費を控除したものであるべきであり、また係争特許の「自動充電システム」は係争製品1、2の重要な部品ではなく、その特許の貢献度は充電器掃除機付属品(即ち、充電装置)の輸入原価(0.85米ドル)と係争製品1及び係争製品2の原価(39米ドル)を以って算定すべきである(貢献度は約3%。計算式は0.85÷39×100%=3%)
知的財産裁判所は、B社が原告Aに対し支払うべき損害賠償金は271万9926新台湾ドルとする判決を下した。裁判所の見解は次のとおりである。
一、B社に権利侵害に係る過失あり
B社は掃除ロボット業界における専門販売業者であり、係争製品1及び係争製品2に対して一定の熟知度を有しているにもかかわらず、権利侵害を回避するために、他の業者が販売する同類機種の製品について性能、価格等の関連情報を適切にチェックしておらず、これは注意すべきであって、注意することができていたいにもかかわらず注意せず、過失があった状況に該当する。
二、損害賠償金の算定
(一)特許侵害行為者が得た利益を算定する時、所得から控除するコストと必要経費については、会計学上の直接費に限定し、間接費を含むべきではない。輸入に係るコストは係争製品1、2のコストに直接帰属するものであり、また通販サイトがB社から徴収した基本運営費及び販促活動費は係争製品1、2の販売にともなって生じる必要経費であり、特定の対象を直接的に識別又は直接的に帰属できるコスト、つまり直接費であるため、いずれも控除できる。賃料と人件費は特定の方法でコストの分担を行わなければならず、特許侵害行為者が得た利益を算定する時、それは直接費ではなく、控除してはならない。
(二)係争特許の技術は、掃除ロボットが元来有する清掃機能以外に追加された自動充電機能であり、たとえ自動充電機能がなかったとしても掃除ロボットの清掃機能を損なうものではないため、係争特許が受けた侵害に係る損害賠償については、係争製品1及び係争製品2における係争特許技術の実施によって、製品の機能と使用上の利便性が向上して高められた価値を考慮すべきである。
Yahoo奇摩購物中心(訳註:ヤフー台湾のショッピングサイト)における「TECHKO MAID」製品の比較表によると、製品甲は自動充電機能がない事を除き、その他の機能が係争製品1及び係争製品2と同じであり、製品甲、係争製品1及び係争製品2の販売価格はそれぞれ5980新台湾ドル、7680新台湾ドル及び7980新台湾ドルである。係争製品1、係争製品2と製品甲との価格差から算定すると、係争特許の係争製品1に対する貢献度は22%((7,680-5,980)÷7,680×100%=22%)、係争製品2に対する貢献度は25%((7,980-5,980)÷7,980×100%=25%)となる。
(三)係争製品1の売上総額は1547万2815新台湾ドル、その輸入コストと通販サイト使用料がそれぞれ466万9098新台湾ドル及び207万2314新台湾ドルであり、B社が係争製品1の販売で得た利益は873万1403新台湾ドル(15,472,815-4,669,098-2,072,314=8,731,403)であり、係争特許の貢献度22%から算出すると、原告が支払うべき損害賠償額は192万0909新台湾ドル(8,731,403×22%=1,920,909)となる。
係争製品2の売上総額は526万3381新台湾ドル、その輸入コストと通販サイト使用料がそれぞれ154万5842新台湾ドル及び52万1472新台湾ドルであり、B社が係争製品2の販売で得た利益は319万6067新台湾ドル(5,263,381-1,545,842-521,472=3,196,067)であり、係争特許の貢献度25%から算出すると、原告が支払うべき損害賠償額は79万9017新台湾ドル(3,196,067×25%=799,017)となる。係争製品1及び係争製品2の合計損害賠償額は271万9926新台湾ドル(1,920,909+799,017=2,719,926)となる。(TIPO「智慧財産權」電子報第148期)
II 判決内容の要約
知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】104年度民專訴字第80号
【裁判期日】2018年8月3日
【裁判事由】特許権侵害に係る財産権の紛争等
原告 燕成祥
被告 新加坡商優達斯國際有限公司台灣分公司(UITOX INTERNATIONAL PTE. LTD. TAIWAN BRANCH (SINGAPORE))
被告 台擘股份有限公司(TAIBOT CO., LTD.)
上記当事者間における特許権侵害に係る財産権の紛争等事件について、当裁判所は2018年6月25日に口頭弁論を終結し、次のとおり終局判決をなす。
主文
被告台擘股份有限公司、新加坡商優達斯國際有限公司台灣分公司は商品「米国TechkoMaidスマートメイドRV337多機能自動充電掃除機ロボット(原文:美國TechkoMaid聰明管家RV337 多功能回充吸塵器機器人)」、「KOBOT RV337インテリジェント型吸塵、掃き掃除、拭き掃除、自動充電清掃ロボット(原文:KOBOT RV337 智慧型吸塵、掃地、拖地、自動充電清潔機器人)」並びにその他原告の中華民国特許証第I258259号「自走式電子装置の自動充電システム及びその方法(原文:自走式電子裝置自動充電系統及其方法)」を侵害する物品を販売の申し出、販売、使用すること、又はこれらを目的として輸入することをしてはならない。被告台擘股份有限公司はすでに輸入しているがまだ販売していない商品「米国TechkoMaidスマートメイドRV337多機能自動充電掃除機ロボット」、「KOBOT RV337インテリジェント型吸塵、掃き掃除、拭き掃除、自動充電清掃ロボット」並びにその他原告の中華民国特許証第I258259号「自走式電子装置の自動充電システム及びその方法」を侵害する物品を廃棄しなければならない。
新加坡商優達斯國際有限公司台灣分公司は商品「米国TechkoMaidスマートメイドRV337多機能自動充電掃除機ロボット」、「KOBOT RV337インテリジェント型吸塵、掃き掃除、拭き掃除、自動充電清掃ロボット」並びにその他原告の中華民国特許証第I258259号「自走式電子装置の自動充電システム及びその方法」を侵害する物品を販売の申し出、販売することをしてはならない。
被告台擘股份有限公司は原告に対し271万9926新台湾ドル及び2015年10月30日から支払い済みまで年5部の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
一 事実の要約
原告は提訴して、それが中華民国第I258259号特許「自走式電子装置の自動充電システム及びその方法(原文:自走式電子裝置自動充電系統及其方法)」(以下「係争259号特許」)、第I262777号特許「エッジ移動のフロアクリーナー(原文:具延邊緣移動的地面清潔裝置)」(以下「係争777号特許」)、第I462716号特許「簡易取外し型クリーナー(原文:快拆式清潔裝置)」(以下「係争716号特許」)の特許権者であり、上記特許権がいずれも存続期間内にあり、被告台擘股份有限公司(以下「台擘公司」)から被告新加坡商優達斯國際有限公司台灣分公司(以下「優達斯公司」)に提供され、(優達斯公司が運営する)ASAP閃電購物網で販売されている「米国TechkoMaidスマートメイドRV337多機能自動充電掃除機ロボット(原文:美國TechkoMaid聰明管家RV337 多功能回充吸塵器機器人)」(以下「係争製品1」)、「KOBOT RV337インテリジェント型吸塵、掃き掃除、拭き掃除、自動充電清掃ロボット(原文:KOBOT RV337 智慧型吸塵、掃地、拖地、自動充電清潔機器人)」(以下「係争製品2」)が上記係争特許権を侵害していると主張した。当裁判所は2017年9月15日に中間判決を下した。(1)係争製品1は係争259号特許請求項1、10、15、21の特許権の範囲に入る。係争製品2は係争259号特許請求項1、4、6乃至15、19、21、23の特許権の範囲に入る。係争製品1、2はいずれも係争777、716号特許の特許権の範囲に入っていない。(2)係争259号特許の明細書は2003年2月6日公布、2004年7月1日施行の専利法第26条第2項の規定に違反していない。被告証拠5、又は被告証拠4、5の組合せ、又は被告証拠5、16の組合せ、又は被告証拠5、16、17の組合せはいずれも係争259号特許請求項1、4、6乃至15、19、21、23が進歩性を有しないことを証明できない。その後損害賠償及び侵害排除等の部分について審理を継続し、本件の終局判決を下すものである。
二 両方当事者の請求内容
(一)原告の請求:
「被告は係争製品1、2又はその他原告の係争259号特許を侵害する物品を製造、販売の申し出、販売、使用すること、又はこれらを目的として輸入することをしてはならない」
「被告は係争製品1、2又はその他原告の係争777号特許を侵害する物品を製造、販売の申し出、販売、使用すること、又はこれらを目的として輸入することをしてはならない」
「被告は係争製品1、2又はその他原告の係争716号特許を侵害する物品を製造、販売の申し出、販売、使用すること、又はこれらを目的として輸入することをしてはならない」
「被告はすでに製造、販売及び輸入されている係争製品1、2又はその他係争259号、777号及び716号特許を侵害する物品及び金型を廃棄しなければならない」
「被告優達斯公司は原告に対し、1410新台湾ドル及び起訴状副本送達翌日から支払い済みまで年5部の割合による金員を支払え」
「被告台擘公司は原告に対し、1413万2586新台湾ドル、並びにそのうち500万新台湾ドルに係る起訴状副本送達翌日から支払い済みまで年5部の割合による金員、及びそのうち913万2586新台湾ドルに係る訴えの変更申立書(二)及び弁論趣意書副本送達の翌日送達から支払い済みまで年5部の割合による金員を支払え」
「被告優達斯公司と被告台擘公司は連帯で原告に対し、2万7006新台湾ドル及び訴えの変更申立書(二)及び弁論趣意書副本送達の翌日送達から支払い済みまで年5部の割合による金員を支払え」
「原告は担保として供託するので、仮執行宣言を申し立てる。訴訟費用は被告の負担とする」
(二)被告の請求:
「原告の請求を棄却し、仮執行宣言の申立てを却下する」
「不利な判決を受けたとき、被告は担保を供託するので、仮執行免脱宣言を申し立てる」
三 本件の争点
1.被告台擘公司による係争259号特許侵害行為について故意又は過失があったのか。
2.被告優達斯公司による係争259号特許侵害行為について故意又は過失があったのか。
3.原告が被告台擘公司、優達斯公司に対し、係争259号特許を侵害する物品を製造、販売の申し出、販売、使用すること、又はこれらを目的として輸入することをしてはならず、さらには現在ある在庫すべてを廃棄しなければならないと請求することに、理があるのか。
4.原告が被告台擘公司、優達斯公司に対し、連帯で損害賠償責任を負うよう請求することに、理があるのか。原告が請求できる損害賠償額はいかほどか。
四 判決理由の要約
1.被告台擘公司による係争259号特許侵害行為について故意又は過失があったのか。
侵害行為に係る損害賠償の債務は、権利者が侵害行為によって被った財産上又は非財産上の損害を補填するものであり、個人の自由と社会安全の調和という基本的価値において、過失責任主義を原則として採用しており、即ち加害者に故意又は過失によって他人の権利を不法に侵害した事情があることをその成立要件としている。その行為に故意又は過失がないならば、無賠償といえる。いわゆる過失とは、損害の発生が予見できた又は回避できていたが、注意を怠り、損害が発生したことをいう。予見又は回避できた程度、即ち行為者の注意義務は、具体的な事件によって異なり、通常は善良な管理者の注意程度を斟酌の基準とする。専利権侵害事件(訳注:「専利」には特許、実用新案、意匠が含まれる)においては、法律に明文化された規定がないが、メーカー又は競合の同業者と単純な小売業者、偶然の販売者等とは、損害の発生を予見できる又は回避できる注意程度が同じではなく、個別の事実において、個別の営業項目、営業規模(資本金額の多寡と売上げ状況を含む)、営業組織(研究開発部門の有無)、侵害行為の実質的内容等の状況をみて、行為者による注意義務の違反の有無を判断すべきである。
調べたところ、被告台擘公司が登記している営業項目(訳註:事業目的に相当)には電器卸売業及び電器小売業等が含まれ、その払込資本金は1000万新台湾ドルであり、さらに被告台擘公司は2015年1月6日から2017年11月3日までに型番「RV337」の掃除ロボット及びその付属品を輸入し、しかも被告台擘公司のサイトでは係争製品1、2以外にその他の型番の掃除ロボットも販売しており、被告台擘公司は明らかに掃除機ロボットの専門販売業者である。そして原告が許諾している訴外人松騰公司が製造する製品TRV-10及びRV-13には係争259号特許の特許証番号が表示されていることは、被告等が争うものではなく、しかもRV-13は2010年6月13日にはPChome網路商店(訳註:インターネット通販サイト)にて販売されていた。被告台擘公司は関連の専門分野における販売業者であり、それが販売する係争製品1、2に対しては相当な熟知度があり、市場における他の業者が販売する同類の製品の性能、価格等の関連情報に対しても当然ながら研究、理解しており、被告台擘公司が適切な注意とチェックを行っていたならば、明らかにその専門知識から係争製品1、2には係争259号特許を侵害するおそれがあること、かつ係争製品1、2が係争259号特許の技術内容を有することを予見できたはずである。被告台擘公司が善良の管理者の注意義務で適切なチェックを行っていれば、権利侵害行為の発生を回避できたはずであり、被告台擘公司がそれを行わなかったことは、「注意すべきであって、注意することができていたいにもかかわらず注意しなかったとき」に該当し、過失があった。
2.被告優達斯公司による係争259号特許侵害行為について故意又は過失があったのか。
被告優達斯公司が経営する「ASAP閃電購物網」は大型電子商取引サイトであり、サイト上のすべての商品は、各商品のメーカーが提供するものであり、各メーカーがネットシステムを通じて自ら商品の概要と販売情報等をサイトにアップロードし、消費者はネットで関連の商品情報を閲覧した後に関連の商品をすぐに購入でき、販売される様々な商品とサービスは種類が極めて多い。上記の取引の流れから分かるように、被告優達斯公司はソフトウェアとハードウェアの構築、ネット取引サイトの提供を行っているだけで、ネット取引の過程において、事前に商品をチェックする義務はなく、「ASAP閃電購物網」が販売する商品は数十万点に上り、被告優達斯公司が客観的に逐一、各商品が他人の権利を侵害しているかを審査する可能性はない。さらに被告優達斯公司は権利侵害の通知を受けた時に争議のある商品をすぐにサイトから削除しており、取引上必要な注意義務は尽くしており、過失はない。以上をまとめると、当裁判所は原告が提出した証拠は被告優達斯公司が本件の特許権侵害行為について、故意又は過失があったと証明できないと認める。
3.原告が被告台擘公司、優達斯公司に対し、係争259号特許を侵害する物品を製造、販売の申し出、販売、使用すること、又はこれらを目的として輸入することをしてはならず、さらには現在ある在庫すべてを廃棄しなければならないと請求することに、理があるのか。
専利法第96条第1項に「特許権者はその特許権を侵害した者に対し、その侵害の排除を請求することができる。侵害のおそれがあるときは、その防止を請求することができる」、同条第3項に「特許権者は第1項の規定により請求をするときは、特許権の侵害に係る物又は侵害行為に係る原料若しくは器具について、廃棄又はその他必要な処置を請求することができる。」と規定されている。
調べたところ、被告台擘公司が輸入、販売する係争製品1、2には係争259号特許権の侵害がみられ、さらに原告による侵害排除請求権の行使は、被告台擘公司に故意又は過失があることを要件とはしていないため、原告が被告台擘公司に対し、係争259号特許を侵害する物品を販売の申し出、販売、使用すること、又はこれらを目的として輸入することをしてはならず、さらには現在ある在庫すべてを廃棄しなければならないと請求することは、正当なものである。原告が被告台擘公司に対し、すでに販売した係争製品1、2を廃棄するよう請求する部分については、原告がこの部分において損害賠償を別途請求しており、かつすでに販売した係争製品1、2の所有権は被告台擘公司にないため、それには処分権がなく、原告が被告台擘公司に対し、すでに販売した係争製品1、2を廃棄するよう請求することは根拠があるものではなく、棄却すべきである。
被告優達斯公司が電子商取引サイトを被告台擘公司が係争製品1、2を販売するのに提供したことは確かに係争259号特許権を侵害がみられ、さらに原告による侵害排除請求権の行使は、被告優達斯公司に故意又は過失があることを要件とはしていないため、原告が被告優達斯公司に対し、係争259号特許を侵害する物品を販売の申し出、販売してはならないと請求することは、正当なものである。ただし被告優達斯公司はネット取引サイトを提供したにすぎず、係争製品1、2を所持、使用又は輸入しておらず、原告が被告優達斯公司に対し、係争製品1、2を使用又は輸入してはならず、現在ある在庫すべてを廃棄すべきである云々と請求することには理がなく、棄却すべきである。
被告台擘公司と優達斯公司はいずれも係争製品1、2のメーカーではなく、販売業者と電子商取引サイト業者にすぎないため、原告被告台擘公司と優達斯公司に対し、係争製品を製造してはならず、さらに係争製品の金型を廃棄するよう請求する部分については根拠がなく、棄却すべきである。
4.原告が被告台擘公司、優達斯公司に対し、連帯で損害賠償責任を負うよう請求することに、理があるのか。原告が請求できる損害賠償額はいかほどか。
専利法第96条第2項には「特許権者は故意又は過失によってその特許権を侵害した者に対し、損害賠償を請求することができる。」、第97条條第1項第2号には「前条規定により、損害賠償を請求するときは、次の各号のいずれを選んでその損害を算定することができる。二、侵害者が侵害行為によって得た利益による。」と規定されている。被告台擘公司の係争製品1、2は係争259号特許を侵害しており、原告が上記規定により被告台擘公司に損害賠償責任を負うよう請求することは正当である。被告優達斯公司については、故意又は過失がなく、前述のとおり、原告が優達斯公司に連帯で損害賠償責任を負うよう請求することには理がない。
被告台擘公司は2015年1月6日から係争製品1、2の輸入を開始し、その売上総額はそれぞれ1547万2815新台湾ドル及び526万3381新台湾ドルであり、詳しくは付表一、二に記載される販売資料のとおりである。
被告台擘公司は、損害賠償の算定においては前述の売上総額からその輸入のコストや経費等を控除すべきであると答弁している。専利法はコストと必要経費が何を指すのか具体的に限定されておらず、会計学上の直接費と間接費の定義を参酌すると、いわゆる直接費とは、遡及可能なコストで、つまりコスト対象(部門又は製品)を直接的に識別又は直接的に帰属できるコストである。間接費は特定のコスト対象を直接的に識別又は直接的に帰属できず、特定の方法によってコストの分担を行わなければならず、特許侵害行為者が得た利益を算出する時、所得から控除するコストと必要経費については、会計学上の直接費に限定し、間接費を含むべきではない。これにより、被告台擘公司が輸入した係争製品1、2は付表一、二に示される通販サイトで販売され、それが輸入した係争製品1、2のコストは特定の対象、即ち係争製品1、2のコストに直接的に帰属するもので、直接費であるため、被告台擘公司が得た利益を算出する時に控除できる。以上により、係争製品1、2の輸入コストの詳細は付表一、二に記載される通りであり、それぞれ合計は466万9098新台湾ドルと154万5842新台湾ドルである。
被告台擘公司は、係争製品1、2を各サイトで販売するときの手数料を所得から控除すべきである等と主張している。通販サイトは被告台擘公司から基本運営費及び販促活動費を徴収しており、これらの費用は係争製品1、2の販売にともなって生じる必要経費であり、特定の対象を直接的に識別又は直接的に帰属できるコスト、つまり直接費であるため、被告台擘公司が得た利益を算出する時に控除できる。調べたところ、係争製品1、2は1台当たりのコミッションは389新台湾ドルと479新台湾ドルであり、また上記契約期間に係争製品1、2はそれぞれ89台と82台が販売されているため、被告台擘公司のこの部分の支出は7万3899新台湾ドル(389新台湾ドル×89=34,621新台湾ドル;479新台湾ドル×82=39,278新台湾ドル;34,621新台湾ドル+39,278新台湾ドル=73,899新台湾ドル)となる。さらに状況からみてサイト使用料があるはずであり、被告台擘公司は販売額の14%、36%をサイト使用料として支払ったと主張している。当裁判所はサイト使用料が販売額に占める比率の平均値を以って係争製品1、2を販売したサイトの使用料を算出することは妥当であると認める。以上によって、係争製品1、2のサイト使用料はそれぞれ207万2314新台湾ドルと52万1472新台湾ドルである。
被告台擘公司はさらに賃料や人件費を控除するよう主張したが、これらの費用は特定の方法でコストの分担を行わなければならず、特許侵害行為者が得た利益を算出する時、直接費でないものは控除してはならない。
以上のことから、係争製品1の販売総額は1547万2815新台湾ドルであり、その輸入コスト466万9098新台湾ドルを控除し、それが販売サイトに支払った費用207万2314新台湾ドルをさらに控除すると、被告台擘公司が係争製品1の販売から得た利益は873万1403新台湾ドルとなる。係争製品2の販売総額は526万3381新台湾ドルであり、その輸入コスト154万5842新台湾ドルを控除し、さらにそれが販売サイトに支払った費用52万1472新台湾ドルを控除すると、台擘公司が係争製品2の販売から得た利益は319万6067新台湾ドルとなる。
係争259号特許の貢献度:
係争259 号特許の技術は、自走式電子装置の自動充電システムであり、掃除ロボットに応用されている。よって、当裁判所は係争259号特許が侵害によって受けた損害の賠償は、係争製品1、2における係争259号特許技術の実施によって、製品の機能と使用上の利便性の向上で高まった価値を考慮すべきであり、特許権者がその特許権の貢献を超える不当利益を得ることがないように、係争製品1、2の販売価格をすべて損害賠償金に算入することはしない。
調べたところ、自動充電機能がない型番RV317製品の販売価格は5980新台湾ドル、係争製品1の販売価格は7680新台湾ドルであり、両者の価格差である1700新台湾ドルは係争製品1における係争259号特許技術の実施で高められた価値であり、これを以って算出した係争259号特許の係争製品1に対する貢献度は22%(1,700新台湾ドル÷7,680新台湾ドル×100%=22%)となる。係争製品2の販売価格は7980新台湾ドルであり、両者の価格差である2000新台湾ドルは係争製品2における係争259号特許技術の実施で高められた価値であり、これを以って算出した係争259号特許の係争製品2に対する貢献度は25%(2,000新台湾ドル÷7,980新台湾ドル×100%=25%)となる。
被告台擘公司が係争製品1の販売で得た利益は873万1403新台湾ドルであり、係争259号特許の貢献度22%から算出すると、被告台擘公司が係争製品1について原告に支払うべき損害賠償額は192万0909新台湾ドルとなる。また、被告台擘公司が係争製品2の販売で得た利益は319万6067新台湾ドルであり、係争259号特許の貢献度25%から算出すると、被告台擘公司が係争製品2について原告に支払うべき損害賠償額は79万9017新台湾ドルとなる。合計すると、被告台擘公司が原告に対して支払うべき損害賠償額は271万9926新台湾ドルとなる。
原告は、被告台擘公司は故意に係争259号特許を侵害したため、3倍の損害賠償を請求できる云々と主張している。ただし、被告台擘公司は掃除ロボット製品を代理販売しているにすぎず、それ自身はメーカーではない。原告は本件訴訟前に被告台擘公司に権利侵害があることを通知しておらず、被告台擘公司が故意に本件侵害行為をなしたと証明できる証拠もなく、原告が3倍の賠償金を請求することは、根拠がない。
以上をまとめると、原告が、被告台擘公司は係争製品1、2又はその他原告の係争259号特許を侵害する物品を販売の申し出、販売、使用すること、又はこれらを目的として輸入することをしてはならず、すでに輸入しているがまだ販売していない係争製品1、2又はその他原告の係争259号特許を侵害する物品を廃棄しなければならない;被告優達斯公司は係争製品1、2又はその他原告の係争259号特許を侵害する物品を販売の申し出、販売してはならない;被告台擘公司は原告に対し271万9926新台湾ドル及び起訴状副本送達翌日、即ち2015年10月30日から支払い済みまで年5部の割合による金員を支払えと請求することには理由がある。これを越える請求には理由がなく、棄却すべきである。
以上の次第で、原告の請求は一部に理由があり、一部に理由がなく、知的財産案件審理法第1条、民事訴訟法第79条、第390条第2項、第392条第2項により、主文のとおり判決する。
2018年8月3日
知的財産裁判所第三法廷
裁判官 杜惠錦