職務発明の認定

2019-07-25 2018年
■ 判決分類:特許権

I 職務発明の認定

■ ハイライト
控訴人即ち被控訴人である洪○宏(以下洪○宏という)は、被控訴人即ち控訴人である顔○仁(以下顔○仁という)とともに捷力得科技有限公司(以下捷力得公司という)の株主であったが、顔○仁が捷力得公司の代表者在任期間において、株主会議の議決を経ずに、会社が研究開発した係争特許を自分の名義で出願したと主張した。洪○宏は訴えを提起し、顔○仁が会社の代表者在任期間において出願した係争特許は会社が有しているのにもかかわらず、顔○仁が株主会議の議決を経ずに、係争特許をその名義で出願したことは、洪○宏の株主権に損害を与えたので、専利法第7条の規定により、係争特許の特許権者が捷力得公司であることを確認するよう請求した。原審における一部勝訴、一部敗訴の判決に対し、両方当事者がそれぞれ自分にとって不利な部分に対する控訴を提起した。

洪○宏が控訴を提起し、捷力得公司が係争特許を有していると主張したことについて、知的財産裁判所は、洪○宏の控訴を棄却する旨の判決を言い渡し、次の通り認定した。
一、本件には確認の利益がある。
洪○宏と顔○仁は、係争特許について、いったい捷力得公司又は顔○仁のどちらがそれを有しているかを争っている。洪○宏は捷力得公司の株主で、その法的地位に不安な状態が存在した。捷力得公司の財産得喪はその株主権利の価値の多寡に関わるものである。このような不安な状態が判決の確認により解消できるので、洪○宏による本件確認の訴えには、確認の利益がある。
 
二、係争特許は顔憲仁により創作されたものである。
数名の証人の証言によれば、係争特許は顔○仁が構想、出願したものであり、捷力得公司による機器の販売促進に役立てることを目的として、無償で捷力得公司に使用を許諾したので、会社の株主も係争特許が顔○仁に帰属することに対し何の意見もなく、係争特許は顔○仁により創作されたものであると認めていた。
 
三、顔○仁は捷力得公司の被用者ではない。
顔○仁が捷力得公司より受取った所得は董事の報酬であり、捷力得公司が顔○仁のために、労働保険に加入したことはなく、顔○仁も捷力得公司の代表者として、会社の命令に従うのではなく、その自由裁量の権限により、会社の業務を処理していた。また、顔○仁には捷力得公司に対し人格的、経済的又は組織的な従属性質がないので、顔○仁が捷力得公司に雇用されていなかったことは十分証明できる。

四、以上により、顔○仁は捷力得公司の被用者ではないばかりか、顔○仁が係争特許の創作者でないと示すほかの資料もないので、顔○仁が出願した係争特許の特許権について、顔○仁がそれを有していると言えるはずである。

II 判決内容の要約

知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】107年度民専上第2号
【裁判期日】2018年10月11日
【裁判事由】特許権の確認等

控訴人即ち被控訴人 洪○宏 
被控訴人即ち控訴人 顔○仁

上記当事者間の特許権侵害に関する財産権紛争等事件につき、両方当事者は、本裁判所による105年度民専訴字第78号中華民国106年11月24日第一審判決に対し、それぞれ控訴を提起した。本裁判所は、2018年9月20日に口頭弁論を終結したので、次の通り判決する。
    
主文
両方当事者の控訴はともに棄却する。
二審訴訟費用は両方当事者がそれぞれ負担する。
    
一 事実要約
控訴人即ち被控訴人である洪○宏(以下洪○宏という)と被控訴人即ち控訴人である顔○仁(以下顔○仁という)はともに捷力得科技有限公司(以下捷力得公司という)の株主であった。それと同時に、顔○仁が捷力得公司の業務遂行株主と代表者であった。洪○宏は、顔○仁が捷力得公司の代表者在任期間において出願した係争特許が捷力得公司に帰属するものであったのにもかかわらず、顔○仁が株主会議の議決を経ずに、係争特許をその名義で出願した行為について、洪○宏の株主権に損害を与えたと主張し、専利法第7条の規定により、係争特許の特許権者が捷力得公司であるとの確認を請求する訴えを提起した。原審で一部勝訴、一部敗訴の判決が下ったので、両方当事者がそれぞれ自分にとって不利な部分に対する控訴を提起した。

二 両方当事者の請求内容
洪○宏の控訴の趣旨:(一)原判決で控訴人にとって不利な部分を取り消す。(二)前項取消部分について、係争特許の特許権者は捷力得公司であるとの確認を請求する。(三)第一項取消部分及び控訴費用は顔○仁の負担とする。
顔○仁による答弁:(一)洪○宏の控訴を棄却する。(二)各審の訴訟費用は洪○宏の負担とする。

顔○仁の控訴の趣旨:(一)原判決で顔憲仁にとって不利な部分を取り消す。(二)前記取消部分について、洪○宏が一審における訴えを棄却する。(三)各審の訴訟費用は洪○宏の負担する。
洪○宏による答弁:(一)顔○仁の控訴を棄却する。(二)一、二審の訴訟費用は顔○仁の負担とする。

三 本件の争点(係争特許権の帰属に関わる)
洪○宏による専利法第7条の規定に基づく訴えの第2項請求には理由があるか?

四 判決理由の要約
(一)洪○宏には、訴えを提起し、係争特許権者が捷力得公司であるとの確認を請求する確認の利益がある。
調べたところ、洪○宏が本件の訴えを提起し、係争特許の特許権が捷力得公司に帰属すべきであるが、顔○仁が無断で係争特許を出願したことなどを主張したことについて、顔○仁はこれを否認した。よって、両方当事者はいったい誰が係争特許権を有するのかを争っているので、捷力得公司の株主である洪○宏にとって、その法的地位に不安な状態が存在している。なぜなら、捷力得公司の財産得喪はその株主権利の価値多寡に関わっており、且つこの不安な状態が確認判決により解消できるので、洪○宏が提起した本件の確認の訴えには確認の利益がある。

(二)顔○仁が捷力得公司の被用者ではない。
1.専利出願権者は、本法に別段の定めがある場合、又は契約で別途約定をした場合を除き、発明者、実用新案創作者、設計者又はその譲受人、相続人をいう、と専利法第5条第2項に明文で規定されている。また、被用者が職務により完成させた発明、実用新案、又は意匠について、その専利出願権及び専利権は使用者に属し、使用者は被用者に妥当な報酬を支払わなければならない。但し、契約に別段の約定がある場合はその約定に従う。前項でいう職務上の発明、実用新案、又は意匠とは、被用者が雇用関係中の職務の遂行において完成させた発明、実用新案、又は意匠をいう、と専利法第7条第1項、第2項にも明文で規定されている。それ故、被用者と使用者に職務により完成させた実用新案の出願権及び実用新案権の帰属について約定があるときは、優先してその約定によらなければならず、約定がなければ、前記条項を適用し、その帰属を決める。
2.洪○宏は、顔○仁は捷力得公司の被用者であると主張したが、民法第188条第1項の被用者とは、雇用契約でいう被用者だけではなく、およそ客観的に他人のために、労務に服し、その監督を受ける者が被用者に該当することが、これまでの最高裁判所の見解である。これは、第三者の権利保護という趣旨に沿うものなので、被害を受けた第三者が、外観から企業主又は雇用主が行為者の使用者であると十分認識できる場合だけ、始めて当該企業主又は雇用主が被用者の責任を負うことから(最高裁判所による101年度台上字第1789号民事判決趣旨参照)、顔○仁と捷力得公司との労務給付契約が、いったい雇用、委任関係又は他の関係に属するかについては、契約の内容によらなければならないほか、顔○仁に人格的、経済的及び組織的従属性があり、労務に服しているか等を総合的に判断しなければならず、軽率に役職又は労働保険に加入したかにより直ちに推論してはならない(最高裁判所による100年度台上字第2224号民事決定趣旨参照)。
3.実は、顔○仁は捷力得公司の代表者であり、捷力得公司に対し人格的、経済的又は組織的な従属性がない。それ故、顔○仁が捷力得公司より受けた所得は、性質的に董事の報酬であり、賃金ではない。
捷力得公司には、顔○仁に対し業務の指揮又は監督の権限を有する者が一切いない。それ故、顔○仁が捷力得公司の代表者として、捷力得公司の業務を処理するのは、その自由裁量に基づく権限であり、会社の命令に従うのではないほか、顔○仁に、捷力得公司に対しての人格的、経済的又は組織的な従属性がないので、顔○仁が捷力得公司に雇用されていないことは十分証明できる。

(三)捷力得公司はすでに解散し、且つ清算が終結したので、形式的に法人格が消滅している。
調べた結果、捷力得公司は2016年1月31日にすべての株主の同意を得て解散し、且つ裁判所で2017年5月2日に新院千民宝106司司3字第10593号書簡をもって清算終結の予備審査を許可したので、形式的に捷力得公司は2017年5月2日に清算が終結したと十分認定できる。前記の規定及び説明を踏まえ、捷力得公司の法人格が消滅したことは明らかである。

(四)前記を踏まえて、顔○仁は捷力得公司の被用者ではないばかりか、顔○仁が係争特許の創作者でないと証明できる証拠もないため、顔○仁が出願した係争特許の特許権が顔○仁に属することも当然である。又、捷力得公司は清算終結し、その法人格がすでに消滅しているため、洪○宏が専利法第7条の規定により係争特許が捷力得公司に属しているとの確認を請求したことは法に合致しないので、理由がない。

以上を総じて、本件の両方当事者による控訴はともに理由がないので、智慧財産案件審理法第1条、民事訴訟法第449条第1項、第78条により、主文の通り判決する。

中華民国107年10月11日
知的財産裁判所第二法廷
審判長裁判官 汪漢卿
裁判官       熊誦梅
裁判官       曾啓謀
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