特許請求の範囲の解釈には、内部証拠と外部証拠を参酌でき、内部証拠の提供を優先する

2023-02-15 2022年

■ 判決分類:専利権

I 特許請求の範囲の解釈には、内部証拠と外部証拠を参酌でき、内部証拠の提供を優先する

■ ハイライト
上訴人は2010年4月21日に「タッチスクリーン型モバイル機器向け株式相場アプリの統計価格マークを表示する装置と方法(原文:觸控式行動設備金融看盤軟體之價量統計價位標記顯示之裝置與方法)」について特許を出願し、被上訴人(知的財産局)の審査を経て特許が付与された(以下「係争特許」、添付図の通り)。その後参加人(無効審判請求人)は係争特許が特許付与時の専利法第22条第2項に該当し、特許を受けることができないとして、無効審判を請求した。本件は被上訴人により審理され、「請求項1乃至10については請求が成立し、取り消す」との処分が下された。上訴人はこれを不服として、段階を踏んで行政訴訟を提起した。本件は知的財産裁判所(2021年7月1日に知的財産及び商事裁判所と改名。以下「原審」)で審理された後、その訴えは棄却された。上訴人はこれを不服として、その後本件上訴を提起した。

上訴人は、原判決は係争特許の請求項における「任意の組合せ」の意味を誤解しており、特許請求の範囲を解釈する原則の適用に関する誤りという違法がある、と主張した。

上述の問題について、最高行政裁判所は次のように指摘した:

一、特許権の範囲は、特許請求の範囲を基準とし、特許請求の範囲を解釈するときは、発明の説明と図面を参酌することができる。…特許請求の範囲を解釈するとき、発明の説明と図面は従属的地位にある…ただし、明細書に記載されている特許請求の範囲は通常、保護を請求する範囲についての必要な記述にすぎず、明確ではない箇所があるかもしれず、特許請求の範囲における文言の意味に限定するべきではなく、明細書と図面を参酌してその目的、技術内容、特徴及び効果を理解し、それを根拠として実質的内容を特定すべきである。

二、また、特許請求の範囲の解釈には、内部証拠と外部証拠を参酌でき、前者は請求項の文言、発明の説明、図面及び包袋であり、後者は内部証拠を除くその他の証拠である。

三、調べたところ、本件の係争特許の請求項1、6に「……前記統計情報から『少なくとも1つ』のマーク表示価格帯を選び、前記マーク表示価格帯には1つの現在値価格帯、1つの最高値価格帯、1つの最安値価格帯、1つの始値価格帯、1つの昨日終値価格帯の『任意の組合せ』が含まれ、価格マークを前記マーク表示価格帯に表示する……」等と記載され、明細書第10頁には…係争特許の1つの実施例として、価格帯別出来高統計画面に5種類の価格マークがそれぞれ5つの異なるマーク表示価格帯に表示されるものが開示され、明細書第12頁には…もう1つの実施例として、価格帯別出来高統計画面において、異なるマーク表示価格帯の値が同じであるとき、複数のマークを同じ価格帯に表示できるもの等が開示されており、それらは原審が法に基づいて確認したものである。

四、以上のことから、「少なくとも1つ」のマーク表示価格帯を選ぶとは、単一又は複数のマーク表示価格帯を選ぶことであり、そして「任意の組合せ」とは現在値価格帯、最高値価格帯、最安値価格帯、始値価格帯、昨日終値価格帯のうち1つ以上の価格帯に少なくとも該当するものをいう。証拠2には2つ(19.20及び18.75)のマーク表示価格帯を選び、その1つが現在値価格帯、もう1つが昨日終値であると記載されている。前述の2つの実施例から係争特許請求項1、6でいう「任意の組合せ」とは1つ以上を含むことであることが分かり、すでに原審の論明は法に合わないところはない。

五、係争特許の明細書全体の記載内容により、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が明細書を読んだ後、係争特許請求項1、6の「任意の組合せ」とは1つ以上を含むことであることを認知できるはずであり、さらに外部証拠を参酌する必要はないこと等の事情に、誤りはない。

添付図:係争特許の主要な図面

II 判決内容の要約

最高行政裁判所判決
【裁判番号】109年度上字第762号
【裁判期日】2022年4月28日
【裁判事由】特許無効審判

上訴人 三竹資訊股份有限公司
被上訴人 経済部知的財産局

上記当事者間の特許無効審判事件について、上訴人が2020年4月30日付けの知的財産裁判所108年度行専訴字第90号行政判決に対して上訴を提起し、本裁判所は次のとおり判決する。

主文
上訴を棄却する。
上訴審の訴訟費用は上訴人の負担とする。

一 事実要約
上訴人は2010年4月21日に以「タッチスクリーン型モバイル機器向け株式相場アプリの統計価格マークを表示する装置と方法(原文:觸控式行動設備金融看盤軟體之價量統計價位標記顯示之裝置與方法)」について被上訴人に特許を出願し、特許請求の範囲(請求項)は合計12項(後に請求して10項)であった。被上訴人は出願番号第000000000号として審査した後に、特許を付与して、第I417802号特許証(以下「係争特許」という)を発行した。その後参加人が係争特許には特許付与時の専利法第22条第2項規定(訳注:進歩性要件規定)に違反があるとして、これに対して無効審判を請求した。被上訴人は審理した結果、2019年5月23日に(108)智專三(二)04192字第10820486570号無効審判審決書を以って「請求項1乃至10については無効審判の請求が成立し、取り消す」との処分(以下「原処分」という)を下した。上訴人はこれを不服として、段階を踏んで行政訴訟を提起し、原処分と訴願決定の取消を請求した。知的財産裁判所(2021年7月1日に知的財産及び商事裁判所と改名。以下「原審」という)が108年度行專訴字第90号行政判決(以下「原判決」という)を以って請求を棄却した後、本件上訴が提起された。

二 両方当事者の請求内容
上訴人:原判決を破棄する。
被上訴人:上訴を棄却する。

三 本件の争点
1.係争特許の請求項1乃至10は進歩性を有するのか。
2.原判決は係争特許の請求項における「任意の組合せ」の意味を誤解しており、特許請求の範囲を解釈する原則の適用に関する誤りという違法があるのか。

四 判決理由の要約
本件原審は全ての弁論趣旨を斟酌し、証拠を調査した結果:
(一)証拠2は2007年6月に公開された「XQ全球贏家華人投資決策系統」使用マニュアルの正本であり、証拠2の最終ページには初版第一版の期日が2007年6月と記載されており、遅くても2007年6月30日には公開されたと推定され、これは係争特許の出願日(2010年4月21日)よりも早く、係争特許の先行技術であるといえる。証拠3は証拠2の一部をコピーした画面であり、調べたところその内容は証拠2と同じであり、証拠能力を有する。証拠1、2及び3はいずれも金融情報アプリであり、技術分野に関連性を有し、またその目的はいずれもユーザーが手元にある端末でリアルタイムに相場を見ることができるというもので、解決しようとする課題において共通性を有し、しかも三者はすべて、ユーザーの分析と参考のために価格帯別出来高の情報を提供しており、機能又は作用の共通性を有する。また証拠2又は証拠3は色で価格帯を表示して、ユーザーが統計情報と価格帯の関係をより容易に識別できるようにすることを教示しており、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者には、証拠1、2及び3の技術内容を組み合わせる動機付けがあり、係争特許請求項1の発明を容易になし得る。よって証拠1、2及び3の組合せは係争特許請求項1の進歩性欠如を証明するに足る。;

(二)証拠2の第161頁【画面の説明】には、青で表示された19.20が現在値を示し、黒で表示された18.75が昨日終値を示すことが開示されており、これは「前記金融商品の現在値を示すために、前記現在値価格帯に示される前記価格マークを現在値マークとし、前記金融商品の昨日終値を示すために、前記終値価格帯に示される前記価格マークを昨日終値マークとする」ことに対応し、その他のマーク表示価格帯の定義は人為的な取決めであり、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が証拠2に開示されている技術を単に変更することで容易になし得る。よって証拠1、2及び3の組合せは係争特許請求項2の進歩性欠如を証明するに足る。証拠2の第161頁には異なる色でマークを表示することがすでに開示されており、マークの表示方法は一般知識(技術常識)に属し、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が証拠2に開示されている技術を単に変更することで、異なる表示方法で価格マークを示すことができる。よって証拠1、2及び3の組合せは係争特許請求項3の進歩性欠如を証明するに足る。その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が証拠2に開示されている技術を単に変更することで、漢字、図形、又は記号で価格マークを表示することができる。よって証拠1、2及び3の組合せは係争特許請求項4の進歩性欠如を証明するに足る。;

(三)昇順又は降順等の配列方法は一般知識(技術常識)であり、証拠1は自らが認める先行技術(第5頁第1段落)であって、価格帯別出来高の統計情報は通常、価格順と出来高順に配列され、配列方法はさらに昇順配列法又は降順配列法に分かれていることが開示されている。そして証拠2の第161頁には取引価格が高いものから低いものへ配列される、即ち降順配列法で排列されるものが開示されており、係争特許請求項5の技術的特徴はその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が証拠1、2及び3を単に変更することで容易になし得る。よって証拠1、2及び3の組合せは係争特許請求項5の進歩性欠如を証明するに足る。その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者は証拠1、2及び3の技術内容を組み合わせる動機付けがあり、係争特許請求項6の発明を容易になし得る。よって証拠1、2及び3の組合せは係争特許請求項6の進歩性欠如を証明するに足る。;

(四)証拠2の第161頁【画面の説明】には、青で表示された19.20が現在値を示し、黒で表示された18.75が昨日終値を示すことが開示されており、これは「前記金融商品の現在値を示すために、前記現在値価格帯に示される前記価格マークを現在値マークとし、前記金融商品の昨日終値を示すために、前記終値価格帯に示される前記価格マークを昨日終値マークとする」ことに対応し、その他のマーク表示価格帯の定義は人為的な取決めであり、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が証拠2に開示されている技術を単に変更することで容易になし得る。よって証拠1、2及び3の組合せは係争特許請求項7の進歩性欠如を証明するに足る。証拠2の第161頁には異なる色でマークを表示することがすでに開示されており、マークの表示方法は一般知識(技術常識)に属し、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が証拠2に開示されている技術を単に変更することで、異なる表示方法で価格マークを示すことができる。よって証拠1、2及び3の組合せは係争特許請求項8の進歩性欠如を証明するに足る。その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が証拠2に開示されている技術を単に変更することで、漢字、図形、又は記号で価格マークを表示することができる。よって証拠1、2及び3の組合せは係争特許請求項9の進歩性欠如を証明するに足る。;

(五)昇順又は降順等の配列方法は一般知識(技術常識)であり、証拠1は自らが認める先行技術(第5頁第1段落)であって、価格帯別出来高の統計情報は通常、価格順と出来高順に配列され、配列方法はさらに昇順配列法又は降順配列法に分かれていることが開示されている。係争特許請求項10の技術的特徴はその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が証拠1、2及び3を単に変更することで容易になし得る。よって証拠1、2及び3の組合せは係争特許請求項10の進歩性欠如を証明するに足る。;

証拠2、3及び4はいずれも金融情報アプリであり、技術分野に関連性を有し、またその目的はいずれもユーザーが手元にある端末でインターネットを通じてリアルタイムに相場を見ることができるというもので、解決しようとする課題において共通性を有し、しかも三者はすべて、ユーザーの分析と参考のために株式市場の情報を提供するもので、機能又は作用の共通性を有する。また証拠2又は証拠3は色で価格帯を表示して、ユーザーが統計情報と価格帯の関係をより容易に識別できるようにすることを教示しており、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者には、証拠2、3及び4の技術内容を組み合わせる動機付けがあり、係争特許請求項1の発明を容易になし得る。よって証拠2、3及び4の組合せは係争特許請求項1の進歩性欠如を証明するに足る。証拠2、3及び4の組合せは係争特許請求項2乃至10の進歩性欠如を証明するに足るということ等を以って、(原審は)上訴人の原審における訴えを棄却する判決を下した。当裁判所は原判決に誤りはないと認める。

(六)本件原判決は全ての弁論趣旨を斟酌し、証拠を調査した結果、前記規定(訳注:専利法第22条第2項)を適用し、証拠1、2、3の組合せ及び証拠2、3、4の組合せは、いずれも係争特許請求項1乃至10の進歩性欠如を証明するに足ること等について、詳しく論断されている。

(七)さらに特許権の範囲は、特許請求の範囲を基準とし、特許請求の範囲を解釈するときは、発明の説明と図面を参酌することができると、特許付与時の専利法第58条第4項に規定されている。特許権の範囲は特許請求の範囲を基準とし、特許請求の範囲は特許権の保護範囲を特定するために発明を構成する技術を記載しなければならない。特許請求の範囲を解釈するとき、発明の説明と図面は従属的地位にあり、特許請求の範囲に記載されていない事項は、もとより保護の範囲にない。ただし、明細書に記載されている特許請求の範囲は通常、保護を請求する範囲についての必要な記述にすぎず、明確ではない箇所があるかもしれず、特許請求の範囲における文言の意味に限定するべきではなく、明細書と図面を参酌してその目的、技術内容、特徴及び効果を理解し、それを根拠として実質的内容を特定すべきである。また、特許請求の範囲の解釈には、内部証拠と外部証拠を参酌でき、前者は請求項の文言、発明の説明、図面及び包袋であり、後者は内部証拠を除くその他の証拠、例えば、創作者のその他の論文著作物とその他の特許、関連の先行技術、専門家証人の見解、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者の観点、権威のある著作物、字典、専門辞書、参考図書、教科書等であり、内部証拠の適用を優先する。調べたところ、本件の係争特許の請求項1、6に「……前記統計情報から『少なくとも1つ』のマーク表示価格帯を選び、前記マーク表示価格帯には1つの現在値価格帯、1つの最高値価格帯、1つの最安値価格帯、1つの始値価格帯、1つの昨日終値価格帯の『任意の組合せ』が含まれ、価格マークを前記マーク表示価格帯に表示する……」等と記載され、明細書第10頁には最後から5行目乃至第10頁15行目及び図5、図6には、係争特許の1つの実施例として、係価格帯別出来高統計画面に5種類の価格マークがそれぞれ5つの異なるマーク表示価格帯に表示されるものが開示され、明細書第12頁最後から2行目乃至第13頁9行目には、もう1つの実施例として、価格帯別出来高統計画面において、異なるマーク表示価格帯の値が同じであるとき、複数のマークを同じ価格帯に表示できるもの等が開示されており、それらは原審が法に基づいて確認したものである。これに基づいて、「少なくとも1つ」のマーク表示価格帯を選ぶとは、単一又は複数のマーク表示価格帯を選ぶことであり、そして「任意の組合せ」とは現在値価格帯、最高値価格帯、最安値価格帯、始値価格帯、昨日終値価格帯のうち1つ以上の価格帯に少なくとも該当するものをいう。証拠2には2つ(19.20及び18.75)のマーク表示価格帯を選び、その1つが現在値価格帯、もう1つが昨日終値であると記載されている。前述の2つの実施例から係争特許請求項1、6でいう「任意の組合せ」とは1つ以上を含むことであることが分かり、すでに原審の論明は法に合わないところはない。係争特許の明細書全体の記載内容により、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が明細書を読んだ後、係争特許請求項1、6の「任意の組合せ」とは1つ以上を含むことであることを認知できるはずであり、さらに外部証拠を参酌する必要はない。

(八)上訴趣旨はなお以前からの主張にこだわり、原判決の法令違背を指摘し、破棄を請求しているが、これには理由がなく、棄却すべきである。

2022年4月28日
最高行政裁判所第三法廷
裁判長 胡方新
裁判官 林玫君
裁判官 蕭惠芳
裁判官 曹瑞卿
裁判官 林惠瑜

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