最高行政裁判所の判決要旨:当業者が参酌できる知識は、わが国の法規に限らず、国際基準も含まれる。

2024-02-21 2023年

I 最高行政裁判所の判決要旨:当業者が参酌できる知識は、わが国の法規に限らず、国際基準も含まれる。

■ ハイライト
 李勝男(訳注:特許取得後に原告に特許権を譲渡)は「強化杭及びその接続方法及び杭上端部処理方法(原文:預力基樁及其接樁方法與樁頭處理方法)」を以て特許出願を提出し、被告(知的財産局)による審査の結果、2016年7月27日に特許査定を受けた(以下「係争特許」)。係争特許は同年11月 21日原告への特許権譲渡登記が許可されている。その後参加人(無効審判請求人)は係争特許の特許査定時の専利法第22条第2項及び第26条第2項規定を以て無効審判を請求した。原告は訂正請求を行い、被告は審理した結果、「訂正を許可する」、「請求項1乃至4、6については請求が成立し、無効とすべきである」、「請求項5については請求が成立しない」との処分を下した。原告は原処分の請求成立の部分を不服として、行政訴願を提起したが棄却されたため、行政訴訟を提起した。原審により請求が棄却されたため、原告はこれを不服として本件上訴を提起したが、最高行政裁判所は審理の結果、なお上訴を棄却した。

 最高行政裁判所の判決要旨では次のように認めている:

 発明が、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」)が出願前の先行技術に基づいて容易になし得るものであるときは、本法により特許を受けることができないと、特許査定時の専利法第22条第2項定に規定されている。当業者が参酌できる知識は、わが国の法規に限らず、国際基準も含まれる。もしわが国の法規のみを参酌できると限定されるならば、通常の知識の範囲が限定されてしまうことに疑いの余地はない。

 証拠2は韓国語で記載され、特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)に基づき国際出願されたもので、わが国のコンクリート構造設計基準(原文:混凝土結構設計規範)の規制を受けない。さらには当業者は国際基準も参酌することができ、当業者が証拠2から構造強度不足の問題を解決するとき、わが国のコンクリート構造設計基準からしか解決の技術的手段を探しだせないというものではなく、その他の面を総合的に考慮して、国際基準等を参酌して課題解決の技術的手段である解決策を提出することもでき…、よってわが国の法規が当業者の通常の知識であり、原告証拠6である鑑定報告は専門知識を有する土木技師が合法的に作成したものであり、原判決は係争特許の進歩性を判断するための鑑定報告書の結論を斟酌せず、違法である云々と上訴人は主張しているが、採用できない。

II 判決内容の要約

最高行政裁判所判決
【裁判番号】110年度上字第543号
【裁判期日】2023年4月20日
【裁判事由】特許無効審判

上訴人  德翰智慧科技有限公司(DEHAN INTELLECTUAL TECHNOLOGY CO.,LTD.)
被上訴人  経済部知的財産局
参加人  鴻碩太陽能科技股份有限公司(HOTSUNN SOLAR CO., LTD.)

上記当事者間の特許無効審判事件について、上訴人は2021年5月25日知的財産裁判所(2021年7月1日に知的財産及び商事裁判所に改名)109年度行專訴字第51号行政判決に対して上訴を提起し、本裁判所は次の通り判決する:

主文
上訴を棄却する。
上訴審訴訟費用は上訴人の負担とする。

一 事実の要約
 李勝男(訳注:特許取得後に上訴人に特許権を譲渡)は「強化杭及びその接続方法及び杭上端部処理方法(原文:預力基樁及其接樁方法與樁頭處理方法)」を以て被上訴人に特許出願を提出し、2016年7月27日に第I553202号特許(以下「係争特許」)として特許査定を受けた。係争特許は同年11月 21日上訴人への特許権譲渡登記が許可されている。その後2019年4月11日に参加人が係争特許には特許査定時の専利法第22条第2項及び第26条第2項規定違反があるとして無効審判を請求した。上訴人は同年9月25日に訂正請求を行い、被上訴人は訂正を許可するとともに、係争特許請求項1乃至4、6には前記専利法第22条第2項規定違反があると認め、2020年6月11日に(109)智專三(三)05123字第10920554670号特許無効審判審決書を以て、「108年9月25日付の訂正事項について、訂正を許可する」、「請求項1乃至4、6については請求が成立し、無効とすべきである」、「請求項5については請求が成立しない」との処分(以下「原処分」)を下した。
 上訴人は原処分の請求成立の部分を不服として、行政訴願を提起したが棄却されたため、上訴人は不服として行政訴訟を提起し、原処分の原処分の請求成立の部分及び訴願決定をいずれも取り消すよう請求した。原審は職権により参加人に本件訴訟に独立して参加するよう命じるとともに、109年度行專訴字第51号行政判決(以下、「原判決」)により請求を棄却した。上訴人はこれを不服として本件上訴を提起した。

二 判決理由の要約
 上訴人の上訴提起における主張及び被上訴人の原審における答弁には、いずれも原判決で記載されたものが引用されている。参加人は原審の口頭弁論には参加しておらず、声明又は陳述のためのいかなる書状も提出していない。原判決では上訴人の訴えが棄却された。その判決理由は主に次の通りである:(一)証拠2は係争特許の請求項1、3、4、6の進歩性欠如を証明できる、(二)証拠2、4の組合せは係争特許の請求項2の進歩性欠如を証明できる。本裁判所は以下のように認める。

(一)    係争特許の訂正後請求項1(以下「係争特許請求項1」)は「一つの杭体と複数の強化ユニットを含み、該杭体は中心軸に沿ってそれを囲むような内部空間を有し、該強化ユニットは、それぞれ該中心軸と直交するように該内部空間に設置された一つの第一金属棒と一つの第二金属棒を有し、該第一金属棒と第二金属棒の両端はいずれも湾曲することなく該杭体に固定され、且つ該第一金属棒と該第二金属棒は上下に重なって概ね十字を呈するように設置され、且つ該強化ユニットの該金属棒と第二金属棒の方向は(他の強化ユニットと)同じで、上下対応して重なり、全体として概ね十字を呈することを特徴とする強化杭。」であり、そして証拠2は韓国語で特許協力条約(PCT)に基づき公開された国際出願で、その発明の名称は「合成PHCパイル、合成PHCパイルの製造方法及び合成PHCパイルの施工方法」である。

 証拠2と係争特許請求項1を対比した結果、両者の相違点は、証拠2に単一の実施態様において具体的に係争特許請求項1の「第一金属棒と第二金属棒の両端はいずれも湾曲することなく該杭体に固定される」及び「第一金属棒と該第二金属棒は上下に重なって概ね十字を呈するように設置される」という技術的特徴が開示されていないことである。ただし、原判決ではすでに、係争特許請求項1の「第一金属棒と第二金属棒の両端は『いずれも湾曲することなく』該杭体に固定される」という技術的特徴は、証拠2のせん断コネクタ技術の簡単な変更であり、かつ前述の説明に基づいて係争特許請求項1は『いずれも湾曲することない』という技術的特徴により証拠2に比べて明らかに有利な効果があるものではないことを明確に論じている。

 さらに、証拠2の実施態様も、係争特許請求項1の「第一金属棒と第二金属棒の両端は『いずれも湾曲することなく』該杭体に固定される」という技術的特徴が証拠2のせん断コネクタの簡単な変更であることを加えて証明している。即ち、証拠2はすでに十分な示唆と教示を与えており、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」)が証拠2に開示される各種実施態様を簡単に変更する又は組み合わせる十分な動機付けを持たせるもので、係争特許請求項1の「該第一金属棒と第二金属棒の両端はいずれも湾曲することなく該杭体に固定され、且つ該第一金属棒と該第二金属棒は上下に重なって概ね十字を呈するように設置される」という技術的特徴に容易に到達することができる。

 以上に基づき、係争特許請求項1の技術内容は、証拠2の各実施例の簡単な変更又は異なる実施例の簡単な組合せにすぎず、当業者が証拠2に開示された技術に基づいて、証拠2の開示内容により容易になし得るものであり、且つ証拠2と比べて有利な効果がない。よって証拠2は係争特許1の進歩性欠如を証明できる。

(二)    上訴人は原審において、自ら○○市土木技師公會(土木技師同業組合)に鑑定を委託し、原告証拠6の鑑定報告を提出して、鑑定結果により、証拠2はすでにはんだ付けで成形された強化杭の鉄筋籠に取り付けることはできないこと、証拠2の2種類のせん断コネクタはフープ筋又は帯筋に相当し、その末端の湾曲鈎又は湾曲角はフープ筋又は帯筋が法に定められる力学的機能を発揮するよう確保するための必要な部品であり、取り除くことはできないことを主張しており、上訴人は原告証拠6の鑑定は合法に作成されたものであり、原判決は職権により証拠の調査を行わず、理由不備、理由矛盾、証拠に基づかない事実認定等の違法がある云々と主張した。ただし、以下の通りである。

1.    事実認定は事実審裁判所の職権に基づき、もしその事実の認定が証拠資料に関する倫理法則に適合すれば、たとえその証拠の取捨が当事者の望むものと異なり、その事実認定も当事者の主張と異なったとしても、判決に法令違背があったとは言えない。前述鑑定報告の冒頭で、「わが国の法規に適合するという前提の下」で行うと限定したことが明らかに説明されており、この種の鑑定方法は先ずわが国の法規における関連の制限条件を係争特許請求項に適用し、次にこの減縮された範囲の請求項と証拠2を対比するというもので、これには対比の基礎が歪曲されてしまったという誤りがあることが、原判決ではすでに説明されている。

2.    また専利法全体をみても、特許出願に係る発明は各種技術に関連する法規を満たさなければならないとは要求されておらず、上訴人が「わが国の法規に適合するという前提の下」を主張することは理に合わない。さらに係争特許請求項1は関連の構造の大小、縦横、太さ等又は数値の限定がなく、鑑定報告は上訴人が提供する資料の関連の数値又は大小、縦横、太さ等の内容を以て鑑定したもので、鑑定はすでに焦点を失ってしまった嫌疑があるため、原告証拠6の鑑定報告資料は採用するに足りない。

3.    発明が、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(当業者)が出願前の先行技術に基づいて容易になし得るものであるときは、本法により特許を受けることができないと、特許査定時の専利法第22条第2項定に規定されている。当業者が参酌できる知識は、わが国の法規に限らず、国際基準も含まれる。もしわが国の法規のみを参酌できると限定されるならば、通常の知識の範囲が限定されてしまうことに疑いの余地はない。

4.    証拠2は韓国語で記載され、特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)に基づき国際出願されたもので、わが国のコンクリート構造設計基準の規制を受けない。さらには、当業者は国際基準も参酌することができ、当業者が証拠2から構造強度不足の問題を解決するとき、わが国のコンクリート構造設計基準からしか解決の技術的手段を探しだせないというものではなく、その他の面を総合的に考慮して、国際基準等を参酌して課題解決の技術的手段である解決策を提出することもできる。もし当業者がわが国のコンクリート構造設計基準だけで課題を解決できると限定したならば、当業者の考えや技術的手段の態様を狭めてしまうことは免れない。

5.    よって、わが国のコンクリート構造設計基準が当業者にとっての通常の知識であり、原告証拠6である鑑定報告は専門知識を有する土木技師が合法的に作成したものであり、原判決は係争特許の進歩性を判断するための鑑定報告書の結論を斟酌せず、違法である云々と上訴人が主張しているが、採用できない。

(三)    いわゆる「その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者」(person who has the ordinary skill in the art,PHOSITA)とは仮想の人であり、具体的に存在するものではなく、その技術力がいかなるものか、主観的創作力はいかなるものかについて、外部の証拠資料によりその能力を具体化する必要があり、専利訴訟の実務においては、係争専利が属する技術分類、及びその分類の技術が係争専利の出願時において有する技術水準は、いずれもその仮想の人の能力を具体化するのに十分な参考資料であり、この仮想の人の技術力が双方の攻撃防御過程において徐々に浮き上がる時、係争専利の創作がすでに存在する技術と明らかに異なるのか否か、既存又は既知の技術と比べて明らかな効果が奏されるのか否かは、経験法則と論理法則を通じて、自然法則に反しないという前提の下に客観的に調べる必要があり、争議の当事者が主観的な意見を以て恣意的に左右できるものではない。裁判所は専利の進歩性を論証する過程において、ある程度当業者の技術力を具体化し、もしその論証内容が経験法則、論理法則又は自然法則に反しないならば、裁判所が当業者の知識水準について説明していないとは言いがたい(当裁判所106年度裁字第597号決定を参照)。

原審は訴訟過程において、すでに当事者が提出した証拠2、4に開示される技術内容を通じて、「当業者」の技術水準を形成し、さらにそれを根拠として係争特許請求項1乃至4、6の進歩性技術を認定しており、その認定は経験法則又は論理法則に反しておらず、すでに前述した通り、原審はすでに訴訟過程において「当業者」及びその技術水準を特定しており、判決に理由不備の状況があったとはなお認めがたい。

(四)    以上をまとめると、原判決には上訴人が主張するような法令違背の状況はなく、上訴の趣旨で原判決には法令違背があり、破棄すべきであるという主張には理由がなく、棄却すべきである。

 以上の次第で、本件原告の訴えには理由がなく、知的財産事件審理法第1条、行政訴訟法第255条第1項、第98条第1項前段により、主文の通り判決する。

2023年4月20日
最高行政裁判所第二法廷
裁判長  帥嘉寶
裁判官 林玫君
裁判官 李玉卿
裁判官 鍾啓煒
裁判官 洪慕芳

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