帝宝、ベンツとの意匠権訴訟で逆転判決 一、二審で帝宝が連敗した後、最高裁判所は二審判決に誤りがあると認めて破棄して差し戻し
2024-07-23 2023年
■ 判決分類:特許実案意匠
I 帝宝、ベンツとの意匠権訴訟で逆転判決
一、二審で帝宝が連敗した後、最高裁判所は二審判決に誤りがあると認めて破棄して差し戻し
■ ハイライト
6年近くに及ぶ帝宝工業と独メルセデス・ベンツAGとの意匠権侵害訴訟において、帝宝は一審、二審とも連敗したが、24日に最高裁判所から、二審判決にはたしかに誤りがあると認められ、二審判決を破棄して、知的財産及び商事裁判所(以下「知財商事裁判所」)に審理を差し戻す旨の判決書を受け取った。これは帝宝に「逆転勝訴」の契機をもたらすものとなる。
帝宝の許叙銘総裁は次のように述べている。係争製品にはカバーとハウジングの構造についてすでに迂回設計が行われている。また高等裁判所は帝宝の製品外観に対する検証を行っているとしているが、最高裁判所は、実際には関連の手続きが行われておらず、帝宝に弁論の機会が与えられていないため、手続き上の瑕疵や誤りがあるおそれがあることを認めた。
また許総裁によると、二審判決における製品を対比して「雙瞳(二つの瞳)」(という視覚的な印象)を呈するか否かの理由に関して、この部分は帝宝が提出した「雙瞳」の事実証拠と対応することができ、改めて調査すべきであり、これにより三審判決では二審判決が破棄され、知財商事裁判所に差し戻されたという。
帝宝では、今後も該意匠が無効であり、製品に権利侵害の事実と公平交易法(訳注:日本の独占禁止法及び不正競争防止法に相当)違反がないことを証明する事実証拠を提出して、帝宝の権益を守るのと同時に、台湾AM(アフターマーケット)自動車部品業界のために声を上げて、当局がこの年間生産額2200億新台湾ドル規模の産業を重視するよう喚起し続けていくとしている。
さらに許総裁によると、近年各国では製品の使用サイクルを延ばすため、消費者に修理のサービスや部品を取得できるようにさせる「修理する権利」(Right to Repair)が注目されているという。AM市場について、世界の流れが消費者の権益を重視する方へ向かい始めており、米国を例に挙げると、バイデン大統領も消費者の修理する権利を守るため行政命令に署名し、米国の二大政党も法改正を進めている。
帝宝は、外国の自動車メーカーが好きなように台湾のAM業界に打撃を与え、判決を通じて台湾における生産を禁止したならば、今後台湾の消費者は自動車を修理する際に高い純正部品又は「殺肉件」(訳注:解体車から取り出した水平リサイクル部品の意味)を買うしかなくなり、品質に優れた台湾AM部品で修理するという選択はできなくなると述べている
許総裁は、政府が台湾AM産業の持続可能な発展をさらに重視すると同時に、台湾市場の消費者の権益を考慮して、早急に「修理免責条項」の立法を推進することを希望するとしている。
ベンツは2017年に帝宝に対して民事訴訟を提起し、帝宝の製品がベンツの台湾第D128047号「車両のヘッドライト(原文:車輛之頭燈)」意匠権を侵害していると主張した。2019年の一審判決では帝宝が敗訴し、係争製品を生産する金型を廃棄するよう命じられたため、台湾自動車部品産業は騒然となった。
2022年7月14日、知財商事裁判所は二審判決において、帝宝が支払うべき賠償金を3000万新台湾ドルから1812万新台湾ドルに引き下げたが、なお権利侵害を認めたため、帝宝とベンツはそれぞれ上訴(上告)を提起した。2023年10月24日に帝宝は最高裁判所から、二審判決を破棄し、知財商事裁判所に審理を差し戻す旨の判決書を受け取った。(2023年10月25日工商時報A5面)
II 判決内容の要約
最高裁判所民事判決
【裁判番号】112年度台上字第9号
【裁判期日】2023年10月4日
【裁判事由】意匠権侵害に係る財産権争議等
上訴人 メルセデス・ベンツ・グループAG(Mercedes-Benz Group AG、原名はダイムラーAG)
上訴人 帝宝工業股份有限公司(Depo Auto Parts Ind. Co., Ltd.)
上記当事者間の意匠権侵害に係る財産権争議等事件について、双方は2022年知的財産及び商事裁判所二審判決(108年度民専上字第43号)に対して上訴(上告)をそれぞれ提起した。本裁判所は次の通り判決する。
主文
原判決は仮執行の部分を除いて破棄し、知的財産及び商事裁判所に差し戻す。
一 事実要約
上訴人メルセデス・ベンツ・グループAG(以下、「ベンツ」)はベンツはドイツの企業であり、メルセデス・ベンツのEクラスW212(以下「係争自動車」)に適用されているヘッドライト(以下「係争ヘッドライト」)について2008年4月23日に経済部知的財産局(以下「知財局」)に対して意匠登録出願を行い、当該局は第97302370号出願として審査した後、台湾第D128047号意匠(以下「係争意匠」)として登録された。上訴人帝宝工業股份有限公司(以下「帝宝公司」)は係争自動車対応のDEPO型番「440-1179MLD-EM」、「440-1179MRD-EM」(非米国規格)、「340-1133L-AS」及び「340-1133R-AS」(米国規格)のヘッドライト製品(非米国規格、米国規格製品を順に「係争製品一」、「係争製品二」、合わせて「係争製品」という)を製造、販売して、係争意匠権を侵害したため、侵害停止の責任を負うべきであり、その責任者、即ち他方の上訴人である謝綉氣(以下「帝宝公司等2名」)は損害賠償責任を負わなければならない。
原審は一審を維持して、帝宝公司等2名に連帯で1812万3279新台湾ドルの元金と利息を支払い、帝宝公司による係争侵害行為の停止と防止の判決を下し、帝宝公司等2名の各当該部分に対する上訴を棄却し、第一審のベンツの上記認められた部分を超える部分についてのベンツ勝訴判決を取り消し、その部分の一審における訴えを棄却する判決を下した。
二 判決理由の要約
裁判所が裁判の基礎として採用する証拠は、該証拠及び当事者が調査した結果について当事者に口頭弁論させ、当事者がその攻撃と防御の限りを尽くせるようにすべきである。もしこの手続きを行わず、直接その証拠の調査結果を判決の基礎としたならば、その判決は法律上の瑕疵があるものである。また、担当裁判官が検証することは、証拠を調査する方法の一つであり、裁判所書記官は検証で得られた結果を証拠調査の調書に記載するべきである。必要な場合は図面又は写真を調書に添付すべきである。調書に添付された写真は調書の一部であり、調書に記載されたものと同じ効力を有する。調べたところ、原審では2020年11月4日の準備手続日に担当裁判官が帝宝公司から一審で提出された係争製品一及び原審から提出された係争製品二について検証手続きを行い、その調書には「裁判官は……法廷にて検証して写真を撮影し、今回の調書に添付するとともに、双方に写真を提供した」としか記載されておらず、今回の調書とその後ろに添付されている写真をすべて見たが、検証過程及び結果は見当たらず、また原判決がいうところの「当裁判所は法廷にて係争製品の写真で、その正面図には雙瞳(二つの瞳という視覚的な効果があるかを検証した」という記載はない。2022年5月25日の口頭弁論日にはこの証拠を調査した結果について、当事者に弁論を行うよう命じてはおらず、原審は直接これを判決しており、その判決には法律上の瑕疵がある。次に調べたところ、ヘッドライトは「雙瞳」という視覚的な印象を有するか否かについて、普通の消費者(一般の消費者)の注意を容易に引きやすく、明らかな視覚的効果を起こしやすい特徴的な部位であり、それは係争製品と係争意匠の全体の外観を対比して同一又は類似があるかを判断するポイントであり、係争意匠には視覚的に明らかな円形のランプが一つしかなく、消費者には「單瞳(一つの瞳)」という視覚的印象を与え、係争製品二の台形のライトカバーの内部には二つの電球と筒状構造があることは、原審の認定した事実である。このような状況から、帝宝公司は、係争製品はいずれも「雙瞳」という視覚的効果を呈しており、係争意匠の外観構成と同一又は類似であるという権利侵害はない等と抗弁し、係争製品の正面図が雙瞳を呈している写真を証拠として提出しており、全く採用しないかどうかは、検討の余地がないものではない。原審は該写真が真正なものであるかを調べずに当事者に立証するように命じ、上記写真については確認せずに修正、又はその他の加工があると憶測して採用せず、にわかに係争製品はいずれも「單瞳」の視覚的印象を呈していると述べ、帝宝公司に不利な判決を行い、速断であることを免れない。また帝宝公司の係争製品がベンツの係争意匠権を侵害しているかについては、事実審の調査、審理、認定が待たれ、原判決において帝宝公司等2名に対する連帯賠償、及び帝宝公司に対する係争侵害行為の停止と予防を命じた部分については未定であり、併せて破棄して差し戻すべきである。双方の上訴趣旨において、それぞれ原判決の自分に不利な部分に法令違背があるとして、破棄を主張しているが、理由がないものではない。
以上の次第で、本件双方の上訴には理由がある。民事訴訟法第477条第1項、第478条第2項により、主文の通り判決する。
2023年10月4日
最高裁判所民事第三法廷
裁判長 鄭雅萍
裁判官 王本源
裁判官 蕭胤瑮
裁判官 賴惠慈
裁判官 張競文