意匠無効審判の証拠能力認定 - 入札文書は「公然実施」を構成

2024-11-21 2024年

■ 判決分類:特許実案意匠

I 意匠無効審判の証拠能力認定 - 入札文書は「公然実施」を構成

■ ハイライト
参加人は2020年10月13日を「シャッタースラットの耐風フック(原文:捲門片之防風鉤)」を以って被告(経済部知的財産局)に意匠登録を出願し、被告は意匠(以下「係争意匠」)の登録査定を下した。その後原告(無効審判請求人)は係争意匠が登録査定時の専利法第122条(意匠要件規定)に違反しているとして無効審判を請求した。被告が審理した結果、「無効審判請求の不成立」の審決を下した。原告はこれを不服として、行政訴願を提起したが棄却され、手順を踏んで行政訴訟を提起した。知的財産及び商事裁判所は、原処分と訴願決定をいずれも取り消し、被告に係争意匠に対して無効審判請求成立の審決を行うよう命じる判決を下した。

知的財産及び商事裁判所の裁判要旨は次の通り:
原告が提出した証拠2(原告が台湾検験科技股份有限公司(SGS Taiwan Ltd.)に委託して行った「シャッター用耐風フック」引張強度試験報告書)又は証拠3(原告が台湾検験科技股份有限公司に委託して行った「二層台風対応シャッター」引張強度試験報告書)はいずれも政府公開入札案件の公開入札文書であり、政府電子調達サイト(原文:政府電子採購網)からダウンロードして入手することができる。また上記公開入札文書における工程説明図には、耐風フックが開示されている斜視図、右側面図、上面図(平面図)がいずれもある。かつ上記公開入札文書における「耐風フック」の図面の公開日及び該公開入札の工程説明図における「耐風フック」図面により製作及び使用された実物サンプルの公然実施日は、いずれも係争意匠の出願日よりも早く、係争意匠にとっての先行技芸(先行意匠)であるため、証拠2又は証拠3はいずれも証拠能力を有する。さらに、証拠2又は証拠3はいずれも係争意匠と類似の外観を有し、同じ物品に応用され、類似の意匠に該当し、係争意匠の新規性欠如を証明するに十分である。よって、上記裁判所は原告が(1)原処分及び訴願決定を取り消す、(2)被告は係争意匠に対して無効審判請求成立の審決を行うように請求することには理由があり、許可すべきであると認めた。

II 判決内容の要約

知的財産及び商事裁判所行政判決
【裁判番号】112年度行専訴字第20号
【裁判期日】2024年1月18日
【裁判事由】意匠登録無効審判

原告 鑄浤工程有限公司(CH TECH ENGINEERING CO., LTD.)
被告  経済部知的財産局
参加人 光超建材工業有限公司(GUANG CHAO IND CO., LTD.)

上記当事者間の意匠登録無効審判事件について、原告は経済部2023年3月23日付経訴字第11217300640号訴願決定を不服とし、行政訴訟を提起し、本裁判所は参加人に訴訟への参加を命じた。本裁判所は次の通り判決する。

主文
一、訴願決定及び原処分を取り消す。
二、被告は意匠第D213677号「シャッタースラットの耐風フック(原文:捲門片之防風鉤)」無効審判事件(審判番号:109305671N01)について、「無効審判の請求は成り立ち、登録を取り消す」と審決せよ。
三、訴訟費用は原告の負担とする。

一 事実要約
参加人は2020年10月13日に「シャッタースラットの耐風フック(原文:捲門片之防風鉤)」を以って被告に意匠登録を出願し、第109305671号出願として審査が行われ、登録査定が下され、第D213677号意匠登録証(以下、「係争意匠」)が交付された。その後原告は係争意匠が登録査定時の専利法第122条第1項及び第2項に該当し、意匠登録要件に違反しているとして無効審判を請求した。被告が審理した結果、2022年11月22日付(111)智專三(一)03038字第11121152580号無効審判審決書を以って「無効審判請求の不成立」の審決を下した。原告はこれを不服として、行政訴願を提起したが、経済部は2023年3月23日付経訴字第11217300640号訴願決定書(以下、訴願決定)を以って棄却したため、原告は不服として本訴訟を提起した。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告の請求:(1)原処分及び訴願決定を取り消す。(2)被告は係争意匠について、「無効審判の請求は成り立ち、登録を取り消す」の処分をせよ。
(二)被告の答弁:原告の請求を棄却する。

三 本件の争点
原告が提出した証拠2、3、又は5は証拠能力を有し、係争意匠の新規性が欠如し、専利用法第122条規定に違反することを証明するに十分であるか否か。
(一)原告の請求の原因:省略;判決理由の説明を参照。
(二)被告の主張の理由:省略;判決理由の説明を参照。

四 判決理由の要約
(一)専利法第141条第3項本文には「意匠権について無効審判を請求できる事情は、その登録査定時の規定による」と規定されている。係争意匠は2021年5月10日に登録査定が下されており、取消原因の有無は、登録査定時に有効であった2019年5月1日に改正が公告され、同年11月1日に施行された専利法(以下「登録査定時の専利法」)を以って判断すべきである。登録査定時の専利法第122条第1、2項には:「(第1項)産業上利用できる意匠は、次のに掲げる事情の一に該当しなければ、本法により出願し、意匠登録を受けることができる:出願前に同一の又は類似の意匠が刊行物に記載された場合。出願前に同一の又は類似の意匠が、公然実施された場合。出願前に公然知られた場合。(第2項)意匠に前項各号の事情がない場合であっても、その意匠の属する技芸分野における通常の知識を有する者が出願前に先行技芸に基づいて容易に想到し得るとき、意匠登録を受けることができない」と規定されている。

(二)係争意匠の技術分析:
1.意匠の内容(主な図面は添付資料1に示す通り):係争意匠は図に示されるような「シャッタースラットの耐風フック」であり、斜視図及び正面図、背面図からみると、それは凸形に曲折したアーチ形状の外観を呈し、本体上面に3個の丸孔を有し、本体両側面にはウイング部が設けられ、このように全体の意匠が構成されている。
2.意匠権の範囲:意匠権の範囲は「物品」及び「外観」で構成される。係争意匠の登録公告の図面により、明細書の「意匠の名称」、「物品の用途」及び「意匠の説明」を参酌すると、係争意匠が応用される物品はシャッタースラットの耐風フックであり、外観は各図から構成される意匠全体の形状である。

(三)主な無効審判の証拠:(主な図面は添付資料2の通り)
1.証拠2
証拠2は原告が台湾検験科技股份有限公司(SGS Taiwan Ltd.)に委託して行った「シャッター用耐風フック」引張強度試験報告書である。原告は、証拠2は政府の公開入札案件で必要とされるサンプル試験報告書であり、前記試験報告書に表示されている工事名「『陣地工事』32-3營區建設工事」の公開入札文書であり、政府電子調達サイトからダウンロードして入手することができ、前記公開入札文書には工程説明図があり、その図面名称が「二層亜鉛メッキ鋼シャッター標準詳細図」であり、耐風フックが開示されている斜視図、右側面図及び上面図(平面図)がいずれもあると主張している。
証拠2の試験報告書で測定されているサンプル「シャッター用耐風フック」は確かに前記「『陣地工程』32-3營區新建工程」の工程説明図における「耐風フック」図面により製作及び使用された実物サンプルであり、前記公開入札文書の工程説明図における「耐風フック」図面は2014年9月12日に公開され、かつ前記公開入札の工程説明図における「耐風フック」図面により製作及び使用された実物サンプルは2017年3月31日前に公然実施され、係争意匠の出願日(2020年10月13日)よりも早く、係争意匠にとっての先行技芸であるため、証拠2は証拠能力を有する。

2.証拠3
証拠3は原告が台湾検験科技股份有限公司(SGS Taiwan Ltd.)に委託して行った「二層台風対応シャッター」引張強度試験報告書である。
  原告は、証拠3は政府の公開入札案件「左營基地中興營區等新建工程」の電動シャッター及び防煙スクリーン材料/設備に係る審査資料に付された「二層ステンレスシャッター(二)引張強度試験報告書」であり、政府の電子調達サイトからダウンロードして入手することができ、前記公開入札文書には工程説明図があり、その図面名称が「電動金属シャッター詳細図」であり、耐風フックを開示する斜視図、右側面図及び上面図(平面図)がいずれもある、と主張している。
前記公開入札文書の工程説明図における「耐風フック」図面は2019年9月5日に公開され、かつ前記「耐風フック」の実物サンプルは2020年5月28日前に公然実施され、係争意匠の出願日よりも早く、係争意匠にとっての先行技芸であるため、証拠3は証拠能力を有する。
3.証拠5
証拠5の電子メール送信日は2018年10月17日であり、係争意匠出願日よりも早いが、原告と参加人との私信であり、その内容は双方だけが知るところであり、外界が知り得るものではない。付されている「電動二層亜鉛メッキ鉄鋼シャッター」工程説明図について、原告はいずれの政府公開入札案件の工程説明図かを説明しておらず、それが対外的に公告されたものなのか、又は公然実施されたものなのか、又は公然知られるものなのか等を確認できず、証拠5が係争意匠出願前に公開されたものであると認定し難く、証拠5は証拠能力を有しない。

(四)争点の分析
証拠5が証拠能力を有さず、係争意匠の新規性欠如を証明するに不十分であるのを除き、証拠2又は証拠3は係争意匠の新規性欠如を証明するに十分である:
1.証拠5は係争意匠の新規性欠如を証明するに不十分である
調べたところ、証拠5が証拠能力を有しないのは前述した通りであるため、証拠5は係争意匠の新規性欠如を証明するに不十分である。
2. 証拠2は係争意匠の新規性欠如を証明するに十分である
(1)物品に関する同一又は類似の判断:係争意匠と証拠2は同一の物品である。
(2)外観に関する同一又は類似の判断:係争意匠と証拠2の対応する内容を比較すると、両者はいずれも「凸形に曲折したアーチ形状の本体」、「該本体に設けられた3個の丸穴の形状」及「該本体の両側面に設けられたウイング部とフライス加工部」等の共通の特徴があり、普通の消費者が関連の商品を選択・購入する時の観察と認知を以って、その全体の外観と証拠2の外観は明確に差異を区別できず、両者は類似の視覚的印象を有し、係争意匠と証拠2の外観は類似していると言える。
(3)以上の通り、両者の類似した外観が同じ物品に応用されており、類似の意匠に該当し、証拠2は係争意匠の新規性欠如を証明するに十分である。
3.証拠3は係争意匠の新規性欠如を証明するに十分である
(1)物品に関する同一又は類似の判断:係争意匠と証拠3は同一の物品である。
(2)外観に関する同一又は類似の判断:係争意匠と証拠3の対応する内容を比較すると、両者はいずれも「凸形に曲折したアーチ形状の本体」、「該本体に設けられた3個の丸穴の形状」及「該本体の両側面に設けられたウイング部とフライス加工部」等の共通の特徴があり、普通の消費者が関連の商品を選択・購入する時の観察と認知を以って、係争意匠の前述した共通の特徴により、その全体の外観と証拠3の外観は明確に差異を区別できず、両者は類似の視覚的印象を有し、係争意匠と証拠3の外観は類似していると言える。
(3)以上の通り、両者の類似した外観が同じ物品に応用されており、類似の意匠に該当し、証拠3は係争意匠の新規性欠如を証明するに十分である。

(五)以上の次第で、原告が提出した証拠2又は証拠3は係争意匠の新規性欠如を証明するに十分であり、原処分及び訴願決定を取り消し、被告が係争意匠について無効審判請求成立の審決を下すように原告が請求することには理由があり、許可すべきである。2021年12月8日改正公布の知的財産事件審理法第1条,行政訴訟法第104条,民事訴訟法第82条により、主文の通り判決する。

2024年1月18日
知的財産第一法廷
裁判長 蔡惠如
裁判官 呉俊龍
裁判官 陳端宜

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