「Dedicationの法理」は均等論適用の制限条件

2025-02-20 2024年

■ 判決分類:特許実案意匠

I 「Dedicationの法理」は均等論適用の制限条件

■ ハイライト
「Dedicationの法理(Rule of Dedication)」とは、係争特許の明細書又は図面において開示されているが、請求項に記載されていない技術的手段であり、公衆に貢献するものと見なされ、特許権者は均等論を以って、元来係争特許の請求項に出願できたが、出願しなかった技術的手段であると主張することはできない。このため、「Dedicationの法理」は均等論の制限項目の一つである。「Dedicationの法理」の適用可否の判断は、係争特許の請求項が侵害被疑対象の対応する技術的特徴と均等であるかを判断する時に併せて考量すべきである。

II 判決内容の要約

知的財産及び商事裁判所民事判決
【裁判番号】112年度民専訴字第60号
【裁判期日】2024年5月6日
【裁判事由】特許権侵害差止請求等

原告 彰化基督教医療財団法人彰化基督教医院
(Changhua Christian Med Foundation Changhua Christian Hospital)
被告 貝斯美德股份有限公司(Besmed Health Business Corp.)

上記当事者間における特許権侵害差止請求等事件について、本裁判所は2024年4月16日に口頭弁論を終結し、次のとおり判決する。

主文
原告の請求と仮執行宣言申立てを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

一 事実要約
原告の主張によると、原告は係争特許1(訳注:台湾第I438014号特許「兩截式鼻胃管(Two-sectioned nose gastric tube)」)の特許権者であり、特許権の存続期間は2014年5月21日から2028年9月9日までである。被告公司は原告の同意又は許諾を得ずに、2021年2月から係争製品(訳注:衛署醫器製字第001717号"貝斯美德"矽質胃管("Besmed" Silicone Stomach Tubing))を製造、販売し、大手薬局にて営利目的で販売した。原告が事務所に委託して特許権侵害の分析対比を行ったところ、鑑定結果では、係争製品が係争特許1請求項1乃至4の均等の範囲にあると認められた。原告は2021年8月12日に内容証明郵便を被告公司に送り、権利侵害行為を停止することを請求した。被告公司は2023年2月14日までの交渉期間に、いずれも権利侵害を否認し、現在もなお薬局、医療器材販売店にて係争製品を販売しており、原告の特許権を故意に侵害するものであり、原告は損害を受けているため、専利法第96条第1項、第3項、第120条の第96条第1項、第3項準用規定により、被告公司に侵害の停止と予防を請求した。さらに、専利法第96条第2項、第120条の第96条第2項準用規定により、被告公司に1000万新台湾ドルの損害賠償金の支払いを請求した。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告の請求:
1.被告は、原告に対して金1000万新台湾ドル及び起訴状副本送達の翌日から支払い済みまで、年5分の割合による金員を支払え。
2.被告公司は係争製品又は係争特許1を侵害する物品を、自らが製造、販売、販売の申し出、使用する、又は他人に製造、販売、販売の申し出、使用させてはならない。
3.被告公司は係争製品、又はその他の係争特許1を侵害する物品及び侵害行為に供した原料又は器具を滅却せよ。
4.訴訟費用は被告の負担とする。
5.第一項の請求について、原告は現金又は同額の譲渡性預金を以って担保を条件とする仮執行宣言を求める。

(二)被告の請求:
1.原告の訴えを棄却する。
2.訴訟費用は原告の負担とする。

三 本件の争点
係争製品は系統特許1請求項1乃至4の均等の範囲にあるのか。

四 判決理由の要約
(一)原告が主張する係争特許1の技術内容:(係争特許1の主な図面は文末の添付図に示す通り)
 係争特許1は二段式経鼻胃チューブ(原文:兩截式鼻胃管)の構造であり、特許請求の範囲は合計4つの請求項があり、そのうち請求項1は独立項、その他は従属項である。本件原告は、侵害を受けたのは係争特許1の請求項1乃至4であると主張している。よってそれらの請求項の内容について、それぞれ次の通り述べる:
(1)請求項1:
一つの第一チューブと一つの第二チューブを含む二段式経鼻胃チューブであって、前記第一チューブの一端には固定部を設け、前記固定部の一つの側面に一つの接合端を設け、前記第二チューブの一端には一つの連結部を設け、前記連結部の一端には一つの連結端を設け、前記連結端は前記第一チューブの接合端に連結でき、固定部にはさらに一つの通気孔を設け、かつ前記固定部の設計は鼻前庭内部の形状に応じて、鼻前庭内に設置して鼻前庭内壁に密着させ、かつその面積が鼻腔の鼻限及びその気管より大きくして、前記固定部の接合端と前記連結部の連結端の二つの接合部位には、互いに連結させるスナップオン設計を施し、嵌合させるのに供する、二段式経鼻胃チューブ。
(2)請求項2:
前記固定部が人体との密着度の高い熱可塑性プラスチック材料からなり、滑らかな平面を有する装置を製作する、請求項1に記載の二段式経鼻胃チューブ。
(3)請求項3:
前記第一チューブと前記固定部が、超音波で融接される、又は接着される、請求項1に記載の二段式経鼻胃チューブ。
(4)請求項4:
前記固定部には一つのフックがあり、鼻前庭から外側に向かって鼻孔外部に掛合するのに供する、請求項1に記載の二段式経鼻胃チューブ。

(二)係争製品の技術内容:(係争製品の写真は文末の添付図に示す通り)
係争製品の係争特許1に対応する技術内容は、一つの第一チューブと一つの第二チューブを含む二段式経鼻胃チューブであって、前記第一チューブの一端には固定部を設け、前記固定部の一つの側面に一つの接合端を設け、前記第二チューブの一端には一つの連結部を設け、前記連結部の一端には一つの連結端を設け、前記連結端は前記第一チューブの接合端に連結でき、固定部にはさらに一つの凸状構造を設け、かつその面積が鼻腔の鼻限及びその気管より大きく、前記固定部の接合端と前記連結部の連結端にはそれぞれ連結させるネジ溝を施し、螺合させるのに供する、二段式経鼻胃チューブ、である。

(三)「Dedicationの法理」とは、係争特許の明細書又は図面において開示されているが、請求項に記載されていない技術的手段であり、公衆に貢献するものと見なされ、特許権者は均等論を以って元来、係争特許の請求項に出願できたが、出願しなかった技術的手段であると主張することはできない。このため、「Dedicationの法理」は均等論の制限項目の一つである。また「Dedicationの法理」の適用可否の判断は、係争特許の請求項が侵害被疑対象の対応する技術的特徴と均等であるかを判断する時に併せて考量すべきである。
本件は原告が係争特許1の明細書で提示している前述係争特許1の主な図面(2)、(3)、(4)、(5)から、原告が特許を出願した時点で、経鼻胃チューブの接合端が主な図面 (2)、(3)のネジ設計又は主な図面(4)、(5)に示されるスナップオン(嵌合)設計であって良いことが開示されており、この2つの実施例の内容は異なる技術手段である。さらに係争特許1の請求項1の要件番号1Eに記載されている「前記固定部の接合端と前記連結部の連結端の二つの接合部位には、互いに連結させるスナップオン設計を施し、嵌合するのに供する」という技術的特徴は、係争特許1に明確に開示されている互いに連結させるスナップオン設計というその技術の方法であり、この技術の方法のみが係争特許1の特許請求の範囲とされている。さらに係争特許1の明細書【実施方法】に記載されている「このもう一つの実施例の固定部と連結部のスナップオン設計は、主に経鼻胃チューブを挿入した患者が、不随意運動でチューブが抜けてしまう、又は活動能力の不足で経鼻胃チューブがよく引っかかってしまうという状況のために提供される設計であり、エッジと嵌合端が接合した後、一定の維持力を有するにすぎず、所定の維持力を越える瞬間力で離脱するため、挿入してある第一チューブは体内に残っており、再び改めて挿入する必要がなく、また第一チューブを取り出したいときは、鼻孔中の第一チューブを取り出すことができる」等の文言から(本裁判所ファイル一第46ページを参照)、係争特許1に採用されるスナップオン設計は、エッジと嵌合端が接合した後、一定の維持力を有するにすぎず、所定の維持力を越える瞬間力で離脱するため、原告は係争特許1の出願時に、それが採用するスナップオン設計の技術方法は、螺接設計が有さない作用と効果を達成できると考えたことが分かる。

(四)原告は、係争製品における「互いに連結させるネジ溝」と係争特許1に開示される「互いに連結させるスナップオン設計」は均等を構成している等云々と主張しているが、均等論の三要素テスト(FWRテスト)によると、係争製品が互いに連結させるネジ溝を有し、係争特許1請求項1に開示される互いに連結させるスナップオン設計とは異なる技術的手段であり、かつ両者が達成する機能も同じではなく、係争製品は係争特許1請求項1の要件番号1Eと均等に読み取れるものではなく、係争特許1請求項1の均等範囲にはない。

(五)これにより、原告はすでに係争特許1の出願時に、明細書と図面において、前述の螺接設計とスナップオン設計という二種類の異なる技術方法を開示しており、係争特許1請求項1には「互いに連結させるスナップオン設計」という技術的特徴しか開示していない。前述の説明により、原告は均等論を強調して、係争特許1の請求項において出願したが、請求していない「互いに連結させるネジ溝」という技術的手段を主張することはできず、原告のこの部分の主張は採用できない。

係争製品は係争特許1請求項1の均等範囲にないということはすでに前述した通りであるため、係争製品は係争特許1請求項2、3、4の均等範囲にない。したがって原告が専利法第96条第1項乃至第3項、同法第120条の第96条第1項乃至第3項準用規定、公司法(会社法) 第23条第2項規定により、被告公司に対する侵害の停止と予防、及び被告2名(訳注:被告公司及びその法定代理人)に対する損害賠償金の元金と利息の連帯支払いを請求することには、いずれも理由がなく、棄却すべきである。

本件原告の訴えには理由がなく、改正前の知的財産事件審理法第1条、民事訴訟法第78条により、主文の通り判決する。

2024年5月6日
知的財産第三法廷
裁判官 潘曉玫

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