ネガティブな表現形式(disclaimer)の訂正は、新規性欠如、新規性の擬制喪失(拡大先願)、又は先願主義原則の違反に係る引用文献を回避する場合に限る

2026-09-21 2025年

■ 判決分類:特許実案意匠

I ネガティブな表現形式(disclaimer)の訂正は、新規性欠如、新規性の擬制喪失(拡大先願)、又は先願主義原則の違反に係る引用文献を回避する場合に限る

■ ハイライト
上訴人は台湾第M510203号「中空回転油圧シリンダ」実用新案(以下「係争実用新案」)の実用新案権者であり、被上訴人である会社が同意又は許諾を得ずに、係争製品を製造、生産、販売の申し出、販売を行い、係争実用新案を侵害したと主張し、知的財産及び商事裁判所に訴訟を提起した。原審(113年度民専訴字第43号)では、係争実用新案の請求項1、2が新規性、進歩性を有しないことを理由に、上訴人の請求を棄却した。上訴人は上訴を提起した後、二審の口頭弁論終結前に、知的財産局に対して係争実用新案登録請求の範囲を訂正し、即ち係争実用新案請求項1の「各オイルシールの外径と内径の比は1.7以下である」の後ろに、「但し、1.357~1.7を含まない」という技術的特徴を追加し、係争実用新案登録請求の範囲を減縮して、裁判所に訂正後の係争実用新案登録請求の範囲で審理するよう請求した。

知的財産及び商事裁判所の判決趣旨:
一般的に、請求項から先行技術と重複する部分を除き、それらの除く内容が出願時の明細書、特許請求の範囲(実用新案登録請求の範囲)、図面から直接的かつ一義的に導き出せるものではない場合は、新規事項の導入となる。但し、その重複する部分を除くことにより、請求項のその他の対象をポジティブな表現形式で明確かつ簡潔に限定できない場合は、先行技術と重複する部分をネガティブな表現形式(disclaimer)で除くことができる。この状況において、訂正後の請求項に出願時の明細書に開示されていない技術的特徴が追加されても、例外的に新規事項の導入とは見なさない。但し、このようなネガティブな表現形式の訂正は、新規性欠如、新規性の擬制喪失(拡大先願による新規性喪失)、又は先願主義原則の違反に係る引用文献を回避する場合に限られる。
上訴人が請求した実用新案登録請求の範囲の訂正は、係争実用新案の請求項1「各オイルシールの外径と内径の比は1.7以下である」に「但し、1.357~1.7を含まない」を追加したものであるが、「各オイルシールの外径と内径の比は1.7以下であり、但し、1.357~1.7を含まない」という訂正は、係争実用新案登録請求の範囲である「各オイルシールの外径と内径の比は1.7以下である」より小さく、実用新案登録請求の範囲の減縮に該当する。しかしながら、「但し、1.357~1.7を含まない」という技術的特徴は、係争実用新案の出願時における明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面には記載されておらず、またその技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が出願時における明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面から直接的かつ一義的に導き出せるものではなく、係争実用新案の請求項1の「但し、1.357~1.7を含まない」に係る訂正は、新規性欠如、新規性の擬制喪失(拡大先願による新規性喪失)、又は先願主義原則の違反に係る引用文献を回避するものではない。上記の説明により、新規事項の導入であり、出願時の明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面に開示される範囲を超えており、係争実用新案の公告時における実用新案登録請求の範囲を実質上変更するもので、訂正を許可してはならない。よって上訴人が請求した訂正は合法ではなく、訂正前の係争実用新案の権利の範囲を根拠としなければならない。

II 判決内容の要約

知的財産及び商事裁判所民事判決
【裁判番号】114年度民専上字第7号
【裁判期日】2025年10月2日
【裁判事由】財産権関連の専利権侵害争議等

上訴人 億川鐵工所股份有限公司(DI CHUN IRON WORK CO., LTD.)
被上訴人 佳賀精機股份有限公司(AUTOGRIP MACHINERY CO., LTD.)

上記当事者間の財産権関連の専利権侵害争議等事件について、上訴人は2025年1月16日本裁判所113年度民専訴字第43号第一審判決を不服とし上訴を提起し、上訴の趣旨を減縮した。本裁判所は2025 114年9月11日に口頭弁論を終結し、次の通り判決する。

主文
一、上訴を棄却する。
二、第二審訴訟費用(減縮部分を除く)は上訴人の負担とする。

一 事実要約
上訴人は台湾第M510203号「中空回転油圧シリンダ」実用新案(以下「係争実用新案」)の実用新案権者であり、存続期間は2015年10月11日から2025年5月14日までである。被上訴人である会社は同意又は許諾を得ずに、係争製品を製造、生産、販売の申し出、販売を行った。上訴人は係争製品と係争実用新案について権利侵害の対比を行ったところ、係争製品が文言上、係争実用新案請求項1、2の範囲に入っていることを発見したため、2024年1月10日に被上訴人会社に通知し、会社の公式サイトから係争製品の紹介を削除し、係争製品を販売陳列棚から卸して回収するよう請求した。しかし係争実用新案の新規性及び進歩性の欠如を理由として拒絶されたため、上訴人は本件実用新案侵害訴訟を提起した。原審は、係争実用新案請求項1、2の新規性及び進歩性の欠如を理由として上訴人に訴えを棄却した。上訴人は上訴を提起した後、二審の口頭弁論終結前に、知的財産局に対して係争実用新案登録請求の範囲の訂正を請求した。即ち係争実用新案請求項1の「各オイルシールの外径と内径の比は1.7以下である」の後ろに、「但し、1.357~1.7を含まない」という技術的特徴を追加し、実用新案登録請求の範囲を減縮した。よって裁判所は上訴人が請求した係争実用新案の訂正が合法か否か、及び係争実用新案の請求項1、2に無効とすべき原因が有るか否かについて審理を行った。
係争実用新案の主な図面は、以下の通りである:

  

二 両方当事者の請求内容
(一)上訴人の上訴の趣旨:(1)原判決は減縮部分を除いて取り消す。(2)上記取消部分について、被上訴人は連帯して上訴人に金198万新台湾ドル及び起訴状副本送達の翌日から支払い済みまで、年5分の割合による金員を支払え。(3)上訴人は担保を条件とする仮執行宣言を求める。
(二)被上訴人の答弁の趣旨:(1)上訴を棄却する。(2)不利な判決を受けたときは、担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求める。

三 本件の争点
1. 上訴人による係争実用新案の訂正は合法か否か。
2. 係争実用新案の請求項1、2を無効とすべき原因が有るか否か。

四 判決理由の要約
(一)本件上訴人が、係争製品が文言上、係争実用新案請求項1、2の範囲に入っていると主張している点について、これは双方が争うところではない。しかし被上訴人は、係争実用新案請求項1、2には無効とすべき原因があると抗弁し、上訴人、即ち実用新案権者が、二審の口頭弁論終結前に、知的財産局に対して係争実用新案登録請求の範囲の訂正を請求したため、本裁判所は上訴人が請求した係争実用新案登録請求の範囲の訂正が合法であるか否か、及び被上訴人が主張する実用新案が無効であるとする抗弁に理由があるか否かについて、判断することができる。

(二)上訴人による係争実用新案の訂正は合法ではない:
1.実用新案権者が実用新案の明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面の訂正を請求するときは、実用新案登録請求の範囲の減縮のみに限られる;訂正は、誤訳の訂正を除き、出願時の明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面の開示範囲を超えることはできない;また訂正は、公告時の特許請求の範囲を実質上拡大、又は変更してならないと、専利法第120条が準用する同法第67条第1項第2号、第2項、第4項に規定されている。次に、実用新案権の訂正に係る審査は実体審査の形式で行わなければならず、第二篇第九章「訂正」(審査基準第四篇第二章「訂正」の序言を参照)を参照する。一般的に、請求項から先行技術と重複する部分を除き、それらの除く内容が出願時の明細書、特許請求の範囲、図面から直接的かつ一義的に導き出せるものではない場合は、新規事項の導入となる。但し、その重複する部分を除くことにより、請求項のその他の対象をポジティブな表現形式で明確かつ簡潔に限定できない場合は、先行技術と重複する部分をネガティブな表現形式(disclaimer)で除くことができる。この状況において、訂正後の請求項に出願時の明細書に開示されていない技術的特徴が追加されても、例外的に新規事項の導入とは見なさない。但し、このようなネガティブな表現形式の訂正は、(特許出願に係る発明が)新規性欠如、新規性の擬制喪失(拡大先願による新規性喪失)、又は先願主義原則の違反となる引用文献を回避する場合に限られる。(審査基準第二篇第九章訂正「6.審理の留意事項」⑽の内容を参照)。
2.調べたところ、上訴人が請求した実用新案登録請求の範囲の訂正は、係争実用新案の請求項1「各オイルシールの外径と内径の比は1.7以下である」に「但し、1.357~1.7を含まない」を追加したものであるが、「各オイルシールの外径と内径の比は1.7以下であり、但し、1.357~1.7を含まない」という訂正は、係争実用新案登録請求の範囲である「各オイルシールの外径と内径の比は1.7以下である」より小さく、実用新案登録請求の範囲の減縮に該当する。しかしながら、「但し、1.357~1.7を含まない」という技術的特徴は、係争実用新案の出願時における明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面には記載されておらず、またその技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が出願時における明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面から直接的かつ一義的に導き出せるものではなく、係争実用新案の請求項1の「但し、1.357~1.7を含まない」に係る訂正は、新規性欠如、新規性の擬制喪失(拡大先願による新規性喪失)、又は先願主義原則の違反に係る引用文献を回避するものではない。上記の説明により、新規事項の導入であり、出願時の明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面に開示される範囲を超えており、係争実用新案の公告時における実用新案登録請求の範囲を実質上変更するもので、訂正を許可してはならない。よって上訴人が請求した訂正は合法ではなく、訂正前の係争実用新案の権利の範囲を根拠としなければならない。

(三)係争実用新案の請求項1、2には無効とすべき原因がある:
本件について、乙第1号証及び乙第3号証は係争実用新案の請求項1、2の進歩性欠如を証明するに足るため、係争実用新案には無効とすべき事由がある。

1.乙第1号証及び乙第3号証の公告日又は公開日はいずれも係争実用新案の出願日(2015年5月15日)よりも早く、いずれも係争実用新案の先行技術とすることができる。

2.乙第1号証は中空回転油圧シリンダの構造である(下図の通り)

 

乙第1号証の中空回転油圧シリンダ70、回転シリンダ72、ロータリーバルブ71、エンクロージャ77、ベアリング75、オイルシール76は、係争実用新案請求項1の中空回転油圧シリンダ、回転シリンダ、ロータリーバルブ、外殼、ベアリング、オイルシールに相当するため、係争実用新案請求項1の技術的特徴はすでに開示されている。また乙第1号証の図4には左側のオイルシール76の外径と内径の比が1.385、右側のオイルシールの外径と内径の比が1.318であることが開示されているため、乙第1号証には係争実用新案請求項1の「各オイルシールの外径と内径の比は1.7以下である」が開示されている。これにより、乙第1号証には係争実用新案請求項1の全ての技術的特徴が開示されているため、乙第1号証は係争実用新案請求項1の進歩性欠如を証明するに足る。
3.乙第3号証はC1FB 形回転油圧シリンダであり、シリンダA、ピストンC、ディストリビュータEより構成されている。ディストリビュータから供給された圧油によってシリンダ内をピストンが軸方向に往復運動をする。その中には、ディストリビュータシャフトBと、ベアリング14と、オイルシール13とが含まれており、下図の通りである。

乙第3号証のシリンダA、ディストリビュータシャフトB、ディストリビュータE、ベアリング75、オイルシール76は、係争実用新案請求項1の回転シリンダ、ロータリーバルブ、外殼、ベアリング、オイルシールに相当するため、係争実用新案請求項1の技術的特徴はすでに開示されている。また乙第3号証のC1FB形回転油圧シリンダは、係争実用新案の中空回転油圧シリンダではないが、係争実用新案請求項1の回転できる回転シリンダ、回転シリンダに固定されているロータリーバルブ、前記ロータリーバルブの外部に取り付けられて回転できない外殻、及び前記ロータリーバルブと前記外殻の間に設けられた少なくとも一つのベアリングを有し、さらに2つのオイルシールが前記ロータリーバルブの外側に設けられており、かつ前記ベアリングの両側に位置するという技術的特徴を有する。このため、乙第3号証は係争実用新案請求項1の進歩性欠如を証明するに足る。
4.係争実用新案請求項2は係争実用新案請求項1に従属しており、請求項1のすべての技術的特徴を含み、さらに「各オイルシールは軸方向に幅を有し、前記幅と前記オイルシートの内径との比が0.24以下である」という技術的特徴が限定されている。乙第1号証、乙第3号証はそれぞれ係争実用新案の請求項1の進歩性欠如を証明するに足ることは、前述した通りである。乙第1号証の図4によると、左側のオイルシート76の幅と内径との比が0.207であるため、乙第1号証には係争実用新案請求項2の限定された技術的特徴が開示されている。また乙第3-1号証にはNOK株式会社のSC型、SB型オイルシールのうち、AC3527A1のオイルシール規格:軸径(内径)70、外径95、幅13が開示されており、これから幅と内径との比を算出すると0.186となるため、乙第1号証、乙第3号証は係争実用新案請求項2の進歩性欠如を証明するに足る。

(四)本件は乙第1号証又は乙第3号証が係争実用新案請求項1、2の進歩性欠如を証明するに足るため、係争実用新案には無効にすべき事由があり、知的財産事件審理法第41条第2項規定により、上訴人は被上訴人に対して権利を主張してはならない。したがって、原審で上訴人の請求と仮執行宣言申立てを棄却したことには、法に合わないところがなく、上訴の趣旨で原判決が不当であると指摘し、破棄自判を請求することに理由はなく、上訴を棄却すべきであり、主文の通り判決する。

2025年10月2日
知的財産第一法廷
裁判長 汪漢卿
裁判官 曾啓謀
裁判官 呉俊龍

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