両商標の類似度は低く、係争商標は誤認混同のおそれを構成する2つの必須要素の中の1つが欠けている
2022-03-23 2021年
■ 判決分類:商標権
I 両商標の類似度は低く、係争商標は誤認混同のおそれを構成する2つの必須要素の中の1つが欠けている
■ ハイライト
原告(聖旺商旅股份有限公司)は2018年6月20日に「聖旺商旅San Juan Easy Stay Inn Tainan」商標を以って第43類の「旅館」等役務での使用を指定し、知的財産局に登録を出願し、登録第1982751号商標として登録された。その後参加人(蔡合旺事業股份有限公司)は係争商標が商標法第30条第1項第10号、第11号及び第12号の規定に違反するとして登録異議を申し立てた。審理した結果、係争商標の登録に商標法第30条第1項第10号規定が適用されるとして、取消処分を下した。原告はこれを不服として行政訴願を提起したが棄却されたため、行政訴訟を提起した。
知的財産裁判所は訴願決定及び原処分を取り消す判決を下し、判決の趣旨は以下の通りである。
本件に存在する誤認混同に関連する要素:
一、商標の類否及びその類似の程度:「聖旺商旅」と「神旺大飯店」はいずれも「旺」という文字を有するが、「旺」を目立たせるためにわざと拡大しておらず、しかも係争商標の頭文字は「聖」、語尾は「商旅」であり、異議申立の根拠商標は頭文字が「神」、語尾が「大飯店」であり、明らかに異なり、両商標の類似の程度は極めて低い。
二、役務の類否及びその類似の程度:両商標はいずれもホテル、レストラン等の役務での使用が指定されており、同一の又は高度に類似する役務に属する。
三、関連する消費者の各商標に対する熟知度及び実際の誤認混同の状況:異議申立の根拠商標は飲食及び宿泊関連役務における信用・名声を表し、関連する事業者又は消費者に熟知されていると認めることができる。ただし、原告が、係争商標は登録される前から市場で長い間販売を目的として使用されてきたと主張することは、信用できるものである。さらに、係争商標が提供する宿泊業の役務は台南市を中心とし、市内に位置する便利なビジネスホテルであると標榜しており、異議申立の根拠商標が提供する宿泊役務はスタークラスの大型ホテルで台北市に位置しているのとは、明らかに異なり、しかも使用に関する事実証拠によると、明らかに「聖旺商旅」と「神旺大飯店」を誤認する状況はない。
以上のことから、両商標の類似度は低く、係争商標は誤認混同のおそれを構成する2つの必須要素の中の1つが欠けている。もう一つの要素である両商標の指定役務は同一の又は高度の類似を構成しているが、原告が提出した証拠は、飲食及び宿泊業に関連する消費者が係争商標と異議申立の根拠商標とが併存する事実を認識していると認定でき、両商標の役務の形態も異なり、しかもすでに関連する消費者が実際に誤認混同したという状況を証明する証拠もないため、係争商標の登録は関連する消費者に誤認混同を生じさせるおそれはない。
II 判決内容の要約
知的財産裁判所行政判決
【裁判番号】109年行商訴字第76号
【裁判期日】2021年3月25日
【裁判事由】商標登録異議
原 告 聖旺商旅股份有限公司
代 表 人 黃國書(董事長)
被 告 経済部知的財産局
代 表 人 洪淑敏(局長)住所同上
参 加 人 蔡合旺事業股份有限公司(TSAI HO WANT ENTERPRISES CO., LTD.)
代 表 人 彭玉滿(董事長)
上記当事者間の商標登録異議事件について、原告は経済部の2020年5月27日付経訴字第10906304780号訴願決定を不服とし、行政訴訟を提起した。本裁判所は次の通り判決する。
主文
原処分及び訴願決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
一 事実要約
原告は2018年6月20日に「聖旺商旅San Juan Easy Stay Inn Tainan」商標を以って、商標法施行細則第19条規定に公告されている商品及び服務分類の第43類「ホステル、モーテル、食事付ホテル、ホテル代理予約取次ぎ、ホテル予約取次ぎ、一時宿泊施設の提供、民宿における宿泊施設、ホテル、一時宿泊施設の予約取次ぎ、民宿、下宿屋における宿泊施設の提供、イン、アパートメントホテル、ホテル管理方式アパートメント、喫茶店、セルフサービス式レストラン、ホテル、ケータリング、宴会の準備開催、カクテルパーティの準備開催」役務での使用を指定し、被告に登録を出願した。被告の審査を経て、登録第1982751号商標(以下「係争商標」、添付図1の通り)として登録された。その後参加人は係争商標が登録第186675号商標(以下「異議申立の根拠商標」、添付図2の通り)により、商標法第30条第1項第10号、第11号及び第12号規定に違反するとして、これに対する登録異議を申し立てた。被告が審理した結果、係争商標の登録は商標法第30条第1項第10号規定が適用されると認め(同条項第11、12号規定については審理されていない)、2020年2月10日付中台異字第1080357号商標登録異議審決書を以って係争商標に登録取消処分を下した。原告はこれを不服として行政訴願を提起したが、経済部の2020年5月27日付経訴字第10906304780号決定を以って棄却されたため、原告は本裁判所に行政訴訟を提起した。
二 両方当事者の請求内容
(一)原告の請求:訴願決定及び原処分を取り消す。
(二)被告の請求:原告の訴えを棄却する。
三 本件の争点
本件の争点:係争商標の登録は、商標法第30条第1項第10号規定に違反するか。
四 判決理由の要約
(一)「商標が次に掲げる状況の一に該当するときは、登録を受けることができない。:……十、同一又は類似の商品又は役務において他人の登録商標又は先に出願された商標と同一又は類似のもので、関連する消費者に誤認混同を生じさせるおそれがあるもの。…」と現行商標法第30条第1項第10号に規定されている。条文の構成からみると、「商標の類似」、「商品/役務の類似」が「関連する消費者に誤認混同を生じさせるおそれがある」を構成する2つの必須要素であるため、「誤認混同のおそれ」の成立には必ずこの2つの要件を備えなければならない。その中の1つの要件が欠ける場合、実際に誤認混同の事例が発生したならば、なお誤認混同のおそれを構成すると認定できる。よってその他の関連要素が存在するならば、できる限り参酌し考慮しなければならず、そうすることで正確に誤認混同のおそれの有無を掌握できる認定となる。以下に、商標の類似、商品/役務の類似及び本件に存在する関連の要素をそれぞれ述べる。
1.商標の類否及びその類似の程度:
「聖旺商旅」と「神旺大飯店」はいずれも「旺」という文字を有するが、「旺」を目立たせるためにわざと拡大しておらず、しかも係争商標の頭文字は「聖」、語尾は「商旅」であり、異議申立の根拠商標は頭文字が「神」、語尾が「大飯店」であり、明らかに異なる。さらに両商標は飲食及び宿泊に関連する業種に使用することが指定されており、日常的に消費する用品ではなく、実際に役務を消費している消費者か、役務を今後消費する可能性がある潜在的な消費者かを問わず、ある程度の注意を施せば両商標を容易に区別でき、両商標が同一または関連の出所からのものであると誤認を生じさせるに到らないため両商標の類似の程度は極めて低い。
2. 商品/役務の類否及びその類似の程度:
係争商標に係る指定役務「ホステル、モーテル、食事付ホテル、…、宴会の準備開催、カクテルパーティの準備開催」(詳細は添付図1を参照)を異議申立の根拠商標に係る指定役務「レストラン、ドリンク店、飲食店、…、民宿における宿泊施設、ホステル」(詳細は添付図2を参照)と対比すると、いずれも消費者の飲食と宿泊に関連する役務に属し、性質、内容、提供者、販路及び消費者層等の要素には共通または関連する箇所があり、一般的社会通念及び市場での取引状況により、同一のまたは高度に類似する役務に属する。
3.関連する消費者の各商標に対する熟知度:
(1)参加者は長期にわたって飲食事業及びホテル事業を経営してきた。さまざまな宣伝ルートと公の活動への参加を通じて、異議申立の根拠商標を飲食及び宿泊の役務において広めたほか、コンビニや銀行と異業種提携を進め、幾度もメディアで紹介され、ネットユーザーも訪問の感想をシェアしており、異議申立の根拠商標は飲食及び宿泊関連役務における信用・名声を表し、関連する事業者又は消費者に熟知されていると認めることができる。
(2)原告は2019年11月22日付答弁書にて答弁証拠3号の聖旺商旅宿泊料金検索サイト資料(異議ファイル第41頁を参照)を提出しており、Hotels .com、Agoda、Expedia、Booking .comというホテル予約サイトでは「聖旺商旅」が消費者の予約注文に提供されていることが示されている。また2020年3月5日付訴願書で提出されている訴願答弁証拠9号のBooking.com、Agodaサイト(訴願ファイル第17頁を参照)では、「聖旺商旅」がBooking .com予約サイトで578件の評価を、Agoda予約サイトでは585件の評価を得ており、合計で少なくとも1 千件余りの予約資料がある。係争商標は2019年4月16日に登録が公告され、2020年3月5日に原告は上記サイト資料を提出するまでわずか1年しか経っておらず、1千件以上の宿泊予約があることは不可能であり、原告が係争商標は登録される前から市場で長い間販売を目的として使用されてきたと主張することは、信用できるものである。
さらに消費者の「聖旺商旅」に対するネットでの評価は「ロケーションが良く、地下駐車場はバイクが駐輪でき、カウンターのスタッフは親切で細かく説明してくれた。部屋は大きくないが、明るくて清潔であり…」とあり、「聖旺商旅」と「神旺大飯店」との誤認は見られない。異議申立の根拠証票の知名度は確かに係争商標よりは高いが、飲食及び宿泊業の役務市場に関連する消費者にとって、両者が異なるものであると区別できるため、両商標が市場において共存する事実は当該分野に関連する消費者に認識されており、この共存の事実を尊重すべきである。
4.実際の誤認混同の状況及びその他の誤認混同に関する要素:
本件の両商標はいずれも飲食及び宿泊業における役務での使用を指定しているが、異議申立の根拠商標は大型ホテルという形式で提供され、係争商標は安価なビジネスホテルという形式で提供されており、当該区分の役務を受ける消費者にとって、大型ホテルかビジネスホテルかは、明らかに異なる消費形態であり、これは消費者が消費するときに重視する要因のひとつであるため、実際取引している消費者か、今後取引する可能性がある潜在的消費者かを問わず、誤認混同の可能性はなく、かつ係争商標は長い間使用され、関連の消費者に誤認混同を生じさせるおそれがあるのであれば、参加人は証拠を提出して証明すべきであるが、ファイルには関連する消費者に実際に誤認混同を生じさせたという状況を証明した証拠はなく、ここから、消費者は両者の違いを区別でき、誤認混同を生じさせるおそれはないと証明できる。
5.本裁判所は、係争商標の登録によって関連する消費者に両商標の商品が同一の出所からのものである、両商標の使用者の間に関連企業、使用許諾関係、加盟関係又はその他これらに類する関係が存在すると誤認させて、誤認混同を生じさせるおそれはなく、本号規定の適用はないと認める。
(二)以上をまとめると、係争商標の登録は商標法第30条第1項第10号規定に違反しておらず、従って被告が係争商標の登録が上記規定に違反していると認めて下した「係争商標の登録を取り消す」処分には、なお法に合わないところがあり、訴願決定で(原処分を)維持したことにも誤りがあるため、原告がこれに基づき原処分及び訴願決定の取消しを求めることには理由があり、許可すべきである。
2021年3月25日
知的財産裁判所第一法廷
裁判長 李維心
裁判官 林洲富
裁判官 蔡如琪