商標権者死亡後の商標使用認定に係る問題

2023-08-11 2022年

■ 判決分類:商標権

I 商標権者死亡後の商標使用認定に係る問題

■ ハイライト
本件原告(即ち無効審判請求者)の前代表者である郭○忠は2004年8月26日に「興及び図XING JI FOOD」商標を以て、第30類の水餃子等商品での使用を指定して、被告(知的財産局)に商標登録を出願し、2005年5月16日に第01154575号商標登録(以下「係争商標」)を許可され、さらに2025年5月15日までの存続期間延長も許可されている。その後商標権者である郭○忠が2017年2月12日に死亡し、2021年10月21日に台北地方裁判所から、郭○忠の遺産に関して係争商標を郭○忠の配偶者、即ち参加人に分配するという107年度重家財訴字第9号民事判決が下された。一方、上記判決により郭○忠の遺産が分割される以前に、相続人は郭○忠の株主としての権利を行使する協議で合意に達することができず、原告を代表する取締役を選任できなかったため、裁判所は2020年7月6日に許○華弁護士を原告の臨時管理人(訳注:一時代表取締役に相当)として選任した。原告は間もなく2020年10月8日に係争商標について、2017年2月12日から使用の停止が継続して3年経過しているため商標法第63条第1項第2号規定に違反しているとして、被告にその登録を取り消すよう請求した。被告は2021年6月28日に中台廢字第L01090632号商標取消処分書を以て、「第01154575号『興及び図XING JI FOOD』商標に係る指定商品『麺類、平打ち麺、ラーメン、油そば、卵麺、うどん、野菜麺、そば、麺、トウモロコシ麺、細麺、スパゲッティ、餃子の皮、生地』の登録を取り消す。本件商標のその他の指定商品の登録については取消請求が成立しない。」という処分(以下「原処分」)を下した。原告はこれを不服として行政訴願を提起したが、経済部も棄却したため、原告はなお不服として行政訴訟を提起した。

知的財産及び商事裁判所の判決趣旨の概要は以下の通り:

郭○忠が係争商標の登録を出願したのは、原告の事業経営において使用するためのものであり、かつ郭○忠は元来原告の代表者であり、原告は郭○忠が生前に原告名義で係争商標を販売する水餃子、冷凍水餃子の商品に使用しており、郭○忠が生前に原告に対して係争商標の使用を原告に許諾していたと認めることができる。郭○忠が2017年2月12日に死亡した後、係争商標及び原告に対する出資は遺産に該当し、共有の権利となり、遺産を分与するまでは、相続人が共有するものとなる。原告は2018年1月乃至5月に係争商標を使用し続け、2018年10月まで原告は元来の店舗において従来の方法で販売と営業を続け、いかなる相続人も原告の商標使用に対して反対した、又は異議を唱えた事実はなく、相続人全体が原告の2018年10月までの係争商標の継続使用に対して黙認する同意があったと推認でき、相続人全体が係争商標を分配しようとする遺産として保護し続ける本意に反していない。商標の使用許諾は、商標権者がその登録商標の指定商品又は指定役務の全て又は一部の占用権を他人の使用に付与するものであり、財産権の処分は、一方が他方の事務処理を行うことを内容とする労務提供の委任契約とは異なり、商標の使用許諾は、単に信任関係に基づくものではなく、継続性を有するため、使用許諾関係は郭○忠の死亡によって消滅するものではなく、相続人全体が商標使用許諾契約の権利と義務を相続することになる。

信義誠実の原則は一般的な法律の原則であり、公法の分野で適用される。原告は2020年10月8日に係争商標の登録取消を請求する前の3年以内の期間において係争商標の被許諾者であった。前商標権者である郭○忠が原告を設立した後、係争商標は原告の事業を経営するのに使用され、それが原告に係争商標の使用を許諾したことは、即ち原告が商習慣により係争商標を使用し続けると信頼したものであったことが分かり、原告が使用を停止してすでに3年経っていることを理由に係争商標の登録取消を請求することは権利の濫用であり、信義誠実の原則に反するものである。

II 判決内容の要約

知的財産及び商業裁判所行政判決
【裁判番号】110年度行商訴字第91号
【裁判期日】2022年7月27日
【裁判事由】商標登録取消

原告  興記有限公司
被告  経済部知的財産局
参加人  郭林〇旭

上記当事者間の商標登録取消事件について、原告は経済部2021年10月19日付経訴字第11006308420号訴願決定を不服として行政訴訟を提起した。当裁判所は参加人に対して本件被告の訴訟に独立参加するよう命じた。当裁判所は次の通りに判決する。

主文
原告の訴えを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

一 事実要約
原告の前代表者である郭○忠は2004年8月26日に「興及び図XING JI FOOD」商標を以て、当時の専利法施行細則第13条に定める商品及び役務区分表第30類の「水餃子、ワンタン、麺類、平打ち麺、ラーメン、油そば、冷凍水餃子、冷凍ワンタン、卵麺、蒸し餃子、うどん、野菜麺、そば、麺、トウモロコシ麺、細麺、スパゲッティ、餃子の皮、生地」商品での使用を指定して、被告(知的財産局)に商標登録を出願し、被告の審査を経て2005年5月16日に第01154575号商標登録(以下「係争商標」、添付図の通り)を許可され、その存続期間は2005年5月16日から始まり、延長手続きにより2025年5月15日までの延長が許可されている。その後商標権者である郭○忠が2017年2月12日に死亡し、2021年10月21日に台北地方裁判所から、郭○忠の遺産に関して係争商標を郭○忠の配偶者、即ち参加人に分配するという107年度重家財訴字第9号民事判決が下された(上記判決は2021年12月2日に確定されている)。一方、上記判決により郭○忠の遺産が分割される以前に、相続人は郭○忠の株主としての権利を行使する協議で合意に達することができず、取締役の代表として原告を選任できなかったため、裁判所は2020年7月6日に許〇華弁護士を原告の臨時管理人(訳注:一時代表取締役に相当)として選任した。原告は間もなく2020年10月8日に係争商標について2017年2月12日から使用の停止が継続して3年経過しているため商標法第63条第1項第2号規定に違反しているとして、被告にその登録を取り消すよう請求した。被告が審理した結果、被告は2021年6月28日に中台廢字第L01090632号商標取消処分書を以て、「第01154575号『興及び図XING JI FOOD』商標に係る指定商品『麺類、平打ち麺、ラーメン、油そば、卵麺、うどん、野菜麺、そば、麺、トウモロコシ麺、細麺、スパゲッティ、餃子の皮、生地』の登録を取り消す。本件商標のその他の指定商品の登録については取消請求が成立しない。」という処分(以下「原処分」)を下した。原告はこれを不服として行政訴願を提起したが、経済部も棄却したため、原告はなお不服として行政訴訟を提起した。当裁判所は、本件判決において原処分及び訴願決定を取り消したならば、前商標権者である郭○忠の相続人全体の権利又は法律上の利益に影響が生じると認め、職権により参加人に本件被告の訴訟に独立参加するよう命じた。

二 原告の主張
 1.原処分の登録第01154575号「興及び図XING JI FOOD」商標が使用を指定する「水餃子、ワンタン、冷凍水餃子、冷凍ワンタン、蒸し餃子」商品の取消請求不成立部分及び訴願決定をいずれも取り消す。
 2.被告は登録第01154575号「興及び図XING JI FOOD」商標が使用を指定する「水餃子、ワンタン、冷凍水餃子、冷凍ワンタン、蒸し餃子」商品の登録について、取消請求成立の処分を下さなければならない。
 3.訴訟費用は被告の負担とする。

三 被告の主張
声明:原告の訴えを棄却し、訴訟費用は原告の負担とする。

四 判決理由の要約
(一)調べたところ、係争商標は麦穂とリボンで囲まれた、デザインを施された「興」の文字と、その下方に配置される「XING JI FOOD」とで構成され、第30類:「水餃子、ワンタン、冷凍水餃子、冷凍ワンタン、蒸し餃子」商品(当裁判所ファイル㈠第203頁を参照)での使用を指定している。原告は係争商標が正当な理由なくして未使用又は使用の停止が継続して3年経過したものであると主張しており、参加人はこれを否認し、被許諾者が原告であること、参加人が3年内にいずれも係争商標を使用していることを示す証拠を提出した。これは本件の争点である、原告が登録取消を請求した日、即ち2020年10月8日前の3年以内の期間において係争商標が指定商品である「水餃子、ワンタン、冷凍水餃子、冷凍ワンタン、蒸し餃子」に使用されていた否かに係る事実を示すものである(当裁判所ファイル㈠第184頁の準備手続調書を参照)。ここで取消請求、訴願及び本件訴訟手続きにおいて参加人が提出した使用に係る証拠資料並びに当裁判所が職権で調査したサイト資料を斟酌し、以下のように分析する。
 1.参加人が提出した答弁証拠7、8は貝比的部落格(ベイビーのブログ)が2018年1月4日に投稿した文章と写真、珍妮特的精彩人生部落格(ジャネットの素晴らしい人生ブログ)が2018年5月2日に投稿した文章と写真である。これらの2つのブログではいずれも係争商標の冷凍餃子の外包装袋と水餃子の商品、店の看板又は店で販売されている様子、包装裏側等の写真(乙証1ファイル第105~120頁を参照)が見られ、とくに珍妮特的精彩人生部落に貼られた商品の写真には製造者名「興記有限公司」、住所「台北市○○○路○段000號」が表示されており、いずれも原告の社名及び登録住所と同じである。原告の会社設立登記表、変更登記表がファイルされているので調べることができる(当裁判所ファイル㈠第333-360頁を参照)。原告は2018年1月から5月までの間に係争商標を「水餃子、冷凍水餃子」商品の包装に表示し、陳列、販売を行っていたと認めることができ、販売という商取引の過程において係争商標を使用したものであり、通常の商習慣に合うもので、関連の消費者にそれを商標であると認識させるのに十分である。
 2.郭○忠は元来原告の代表者であり、原告は郭○忠が生前に原告名義で係争商標を販売する水餃子、冷凍水餃子の商品に使用しており、2012年3月15日、2016年4月9日のサイト資料(当裁判所ファイル㈡第7-10頁を参照)から、郭○忠が生前に原告に対して係争商標の使用を原告に許諾していたと認めることができる。原告はすでに使用を許諾され、2018年に係争商標を「水餃子、冷凍水餃子」商品に使用しており、商標法第63条第1項第2号但書の規定により、係争商標は本件取消請求日(即ち2020年10月8日)以前、正当な理由なくして使用の停止が継続して3年経過したとは認めがたい。
 3.原告の主張によると、前商標権者である郭○忠が生前原告に係争商標の使用を許諾しておらず、たとえ口頭で許諾していたとしても、許諾契約は無名契約であり、「目的譲渡論」に基づいて民法第550条の委任関係を類推すべきであり、当事者の一方が死亡したことで当該使用許諾契約が消滅するため、郭○忠が死亡した後、形式上、たとえ使用外観にあったとしても、原告が合法的に商標権を実施したものではない;また郭○忠の相続人が株主としての権利を共同で行使する協議で合意に達することができず、原告の取締役を補選して会社業務を続行できず、原告が事実上経営できない状況に至り、原告が組織を代表する期間はなく、販売を目的として係争商標を使用した状況はなかったとしている。調べたところ、郭○忠は2017年2月12日に死亡した後、係争商標及び原告に対する出資は遺産に該当し、共有の権利となり、遺産を分与するまでは、相続人が共有するものとなる。原告が2018年1月乃至5月に係争商標を「水餃子、冷凍水餃子」商品に使用し続けたことは前述した通りである。かつ2018年10月まで原告は元来の店舗において従来の方法で販売と営業を続け、いかなる相続人も原告の商標使用に対して反対した、又は異議を唱えた事実はないことも、原告が争うものではない(当裁判所ファイル㈠第183頁を参照)。これに基づき、相続人全体が原告の2018年10月までの係争商標の継続使用に対して黙認する同意があったと推認でき、相続人全体が係争商標を分配しようとする遺産として保護し続ける本意に反していない。
 4.商標法第5条でいう「販売を目的として」とは、市場の取引過程において自らの商品又は役務を販売することをいい、その販売市場の地域の範囲には国内市場における販売と国内からの輸出が含まれる。「輸出」とは、わが国の領域から商品を海外に販売することをいい、その後に続く商取引行為は海外市場で行われるが、商標法第5条第1項第2号には、輸出商品上における登録商標の表示は、その登録商標の使用であると認めると規定されている。また商取引の過程において、商標権者がわが国で商標を使用する行為があることを示す証拠があるとき、例えば関連する注文票に登録商標が表示され、かつ関連の購買交渉がわが国で行われ、取引相手にわが国で取引行為を完了したと認知させるに十分であるときは、わが国での使用に該当する。前商標権者である郭○忠が原告に係争商標の使用を許諾したほかに、2013年11月18日に参加人に係争商標を使用してもよいと許諾しており、参加人は同日、新村公司と香港における興記水餃子の代理販売に関する契約を締結しており、今まで台湾で製造し香港に出荷してきた冷凍水餃子の包装袋には係争商標等が使用されていると、代理人は主張しており、すでに参証1、即ち参加人と新村公司が締結した全権代理契約書、参加人と新村公司が郭○忠と署名した商標使用許諾契約書、参加人が他に経営する東門興記有限公司が発行した統一発票(領収書)等を証拠として提出している。したがって、係争商標は本件取消請求日(即ち2020年10月8日)以前、正当な理由なくして使用の停止が継続して3年経過したという状況はない。

(二)個別の事件において、商標が実際に使用されていると認められる商品又は役務が登録されている指定商品又は役務の範囲に適合するとき、商標権者が逐一挙証する負担を免除するため、登録されている指定範囲と実際に使用されている商品又は役務の「性質が相当する」又は「同じ性質である」商品又は役務について、合理的な範囲内で使用していると認定できる。その判断基準は、商標が実際に使用されている商品又は役務が、その内容、専門技術、用途、機能等で同じであるか否かについて、商習慣上、一般の公衆が同じ商品又は役務であると認定するか否かで決まる。また二つの商品又は役務が上位と下位、包括、重複又は相当の関係にあるときは、その商標が実際に使用される商品又は役務と、使用が指定されている商品又は役務が一致すると認めることができる。本件は参加人が取消審判における答弁段階及び本件訴訟過程で提出した使用証拠資料を斟酌した結果、取消請求日、即ち2020年10月8日前の3年以内の期間において、原告と参加人はいずれも係争商標を指定商品である「水餃子、冷凍水餃子」に使用していた事実があったと認めることができる。「水餃子、冷凍水餃子」商品と係争商標の指定商品「ワンタン、冷凍ワンタン、蒸し餃子」はいずれも小麦粉の皮で餡を包み、水で煮るか、油で焼くかする餃子類に食品であり、商習慣上、一般の公衆が両者に重複又は相当の関係を有する同質性の商品であると認めることができるはずである。前述の証拠資料はすでに係争商標が取消請求日以前の3年間に、販売を目的として指定商品である「水餃子、冷凍水餃子」に使用されていたことを証明でき、同じ性質を有する「ワンタン、冷凍ワンタン、蒸し餃子」商品についても使用の事実があると認めることができる。

(三)調べたところ、前商標権者である郭○忠は生前に原告に係争商標の使用を確かに許諾しており、上記許諾関係は郭○忠の死亡によって消滅するものではなく、相続人全体が商標使用許諾契約の権利と義務を相続することになる。しかもファイル内の証拠によると、原告は2018年1月乃至5月に「水餃子、冷凍水餃子」商品に係争商標を使用しており、2018年10月まで原告は元来の店舗において従来の方法で販売と営業を続け、いかなる相続人も原告の商標使用に対して反対した、又は異議を唱えた事実はなかったことは前述した通りであり、原告は2020年10月8日に係争商標の登録取消を請求する前の3年以内の期間においては係争商標の被許諾者であった。また登録商標を他人に使用を許諾するとき、被許諾者の使用は商標権者の使用とみなされる。例えば商標権者は被許諾者が商習慣により当該登録商標を使用すると信頼し、自ら使用したり、別途他人に使用を許諾したりしなかった場合、被許諾者がその後正当な理由なくして登録商標使用の停止を継続して3年経過したものであることを理由に、被告に対して商標登録の取消を請求し、同時に商標登録を出願することにより当該商標権を取得するならば、健全な法秩序に反する。本件の前商標権者である郭○忠が原告を設立した後、係争商標は原告の事業を経営するのに使用され、それが原告に係争商標の使用を許諾したことが分かるとき、即ち原告が商習慣により係争商標を使用し続けると信頼したものであり、原告が使用を停止してすでに3年経っていることを理由に係争商標の登録取消を請求することは権利の濫用であり、信義誠実の原則に反するものであることを、ここに併せて述べておく。

以上の次第で、本件原告の訴えには理由がなく、知的財産事件審理法第1条、行政訴訟法第98条條第1項前段により、主文の通り判決する。

知的財産第四法廷
裁判長 林欣蓉
裁判官 林昌義
裁判官 呉靜怡

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