被控訴人は、係争商品の撤去を販売業者に通知した際に、既に侵害停止の善良な管理者の注意義務を果たしたため、係争商標権侵害の故意又は過失がない。

2024-05-22 2023年

■ 判決分類:商標権

I 被控訴人は、係争商品の撤去を販売業者に通知した際に、既に侵害停止の善良な管理者の注意義務を果たしたため、係争商標権侵害の故意又は過失がない。

■ ハイライト
 控訴人は係争商標「UCLEAR」の商標権者であり、2013年1月16日に経済部知的財産局から登録査定を受けて第01560074号登録商標を取得しており、イヤホン等の関連商品の生産及び販売を主要業務としている。被控訴人は登録商標第01823697号「優科利」商標の商標権者であり、商標を有線イヤホンケース商品に使用して「優科利有線イヤホンケース」(以下、係争商品と称す)を販売していた。控訴人が2017年6月30日に、被控訴人の商標について商標法第30条第1項第10、12号規定違反を理由に無効審判を請求し、知的財産局の審査を経て取り消し処分が下されたことに対し、被控訴人は訴願、行政訴訟を提起したが、いずれも棄却された。よって、控訴人が同年同月29日に内容証明郵便で7日以内に係争商品を撤去すべきであると被控訴人に告知したのにもかかわらず、同年同月30日に依然として被控訴人の販売業者松銘機車精品店から係争商品を購入することができたので、それは明らかに控訴人の商標権侵害であるとして、控訴人は民法第184条第1項前段、商標法第68条第2号、第69条第1から3項、第71条第1項第3号の規定に基づき、被控訴人による侵害行為の排除を請求した。これについては、知的財産及び商事裁判所111年度〔2022年度〕民商訴字第16号判決により原告の訴えが棄却されたが、控訴人はそれを不服として控訴を提起した。知的財産及び商事裁判所は、善良な管理者の注意義務を果たしたので、被控訴人には係争商標権侵害の故意又は過失がないと認定する判決を下した。

II 判決内容の要約

知的財産及び商事裁判所民事判決
【裁判番号】112年度〔2023年度〕民商上字第5号
【裁判期日】2023年06月15日
【裁判事由】商標権侵害における財産権関連の争議

控訴人   香港企業・香港サクシードホールディングス
(香港豊成有限公司/Succeed Holdings Limited Hong Kong)
被控訴人  シンガポール企業・ビットウェーブデジタル株式会社
(必威數碼有限公司/Bitwave Digital Co., LTD.)

上記当事者間の商標権侵害における財産権関連の争議等の事件において、控訴人が2023年12月29日の本裁判所111年度民商訴字第16号第一審判決に控訴を提起したことについて、本裁判所は2023年5月25日に口頭弁論を終結し、下記の通り判決を下す。

主文
控訴を棄却する。
第二審の訴訟費用は控訴人の負担とする。

一、両方当事者の請求
(一)控訴人の請求:(一)原判決における以下第二項の控訴人に不利な部分を棄却する。(二)被控訴人は控訴人に180万台湾ドル、及び訴状副本送達日から弁償日まで年利5%で計算した利息を支払わなければならない。(三)前項の請求について控訴人は担保供託の上、仮執行宣告の許可を求める。(四)第一審(確定の部分を除く)及び第二審の訴訟費用はいずれも被控訴人の負担とする。
(二)被控訴人の請求:(一)控訴を棄却する。(二)訴訟費用は控訴人の負担とする。(三)不利な判決を受けた場合、被控訴人は担保供託の上、仮執行免除宣告の許可を求める(控訴人が侵害排除の部分について控訴を提起せず、当該部分が既に確定したため、本件審理の範囲内ではない)。

二、両方当事者が争わない事項及び争点
(一)争わない事項
 1.係争商標は2012年6月11日に控訴人による登録出願を経て、2013年1月16日に登録査定されたものである。
 2.被控訴人は2016年6月17日に被控訴人の商標を知的財産局に登録出願し、審査を経て、第1823697号商標の登録査定を受けた。
 3.控訴人が2017年6月30日に、被控訴人による商標法第30条第1項第10、12号の規定違反を以て無効審判を請求したところ、知的財産局による審査を経て、控訴人の商標に前記条項第10号規定を適用すると認定され、109年〔2020年〕7月30日中台評字第1060135号商標決定書を以て、被控訴人の商標登録を取り消さなければならないとの処分が下された。被控訴人は当該処分について訴願を提起したが、経済部は当該訴願を棄却した。被控訴人がそれを不服として行政訴訟を提起したところ、本裁判所は110年度〔2021年度〕行商訴字第3号判決を以て棄却した。その後、被控訴人はさらに控訴を提起したが、最高行政裁判所から2021年11月11日に110年度〔2021年度〕上字第646号決定を以て控訴を棄却されたので、取り消しが確定した。被控訴人は同月19日に当該決定結果を知悉した。
 4.控訴人は2021年11月29日に内容証明郵便を通じて、郵便送達後の7日以内にすべての係争商品を撤去すべきであると被控訴人に通知した。松銘機車行は2021年11月19日に被控訴人からの通知を受け取った後、既に係争商品を撤去した。
 5.知的財産局は2022年1月16日に被控訴人の商標取り消しを公示した。
 6.本裁判所の107年度〔2018年度〕刑智上易字第50号判決は確定しており、判決理由において被控訴人は係争「UCLEAR」商標について善意による先使用を主張することができると認定した。

(二)争点
 1.被控訴人又はその販売業者である松銘機車精品行には、最高行政裁判所110年度上字第646号決定を知悉した後、又は2022年1月16日に被控訴人の商標取り消しが知的財産局により公示された後に、被控訴人商標の商品を使用した行為があったか。もしあったのであれば、被控訴人には係争商標権を侵害する故意又は過失があったか。
 2.控訴人は原証6に記載の内容証明郵便を送付して、被控訴人に送達後の7日以内に商品撤去を完了させるよう求めたが、被控訴人は当該郵便について、控訴人は被控訴人に対して「郵便送達の前」及び「郵便送達後の7日以内は」被控訴人商標を表示した商品の販売継続を許容しているものと理解していた。それには、係争商標権侵害の故意又は過失があったか。
 3.被控訴人は、係争商品の撤去をその川下販売業者松銘機車精品行に促していなかったのか。係争商品の撤去をその川下販売業者松銘機車精品行に促していなかったことに、係争商標権侵害の故意又は過失があったか。
 4.被控訴人は係争「UCLEAR」商標について善意の先使用を主張することができる以上、当該商標に類似する被控訴人の商標について商標法第36条第1項第3号の善意の先使用を主張することができるか。
 5.もし被控訴人が係争商標権を侵害した場合、控訴人が請求できる賠償金額はいくらか。

三、理由
(一)松銘機車精品行には最高行政裁判所110年度上字第646号決定が下された後に、被控訴人商標を使用した係争商品の販売行為があったが、これについて被控訴人には係争商標権侵害の故意又は過失がない。
 1.本件被控訴人は、被控訴人商標の商標権者であり、商標を有線イヤホンケース商品に使用して係争商品を販売していたが、最高行政裁判所が2021年11月11日に110年度上字第646号決定を以て控訴を棄却し、被控訴人商標の取り消し判決が確定した後は、直ちに被控訴人商標を使用したすべての商品の撤去をその販売業者に通知し、また被控訴人商標のある商品も被控訴人に返品して包装表示の変更を行った。控訴人は、最高行政裁判所110年度上字第646号決定が下された後、又は2022年1月16日に被控訴人の商標取り消しが知的財産局により公示された後に、被控訴人に被控訴人商標の商品を使用した行為があったかについて、自説を証明する挙証をしていないので、この部分については被控訴人が係争商標権を侵害したと認定することができない。
 2.なお、控訴人が2022年11月29日に内容証明郵便を通じて7日以内に係争商品を撤去すべきであることを被控訴人及びその販売業者に告知したものの、控訴人が同年同月30日に依然として松銘機車精品店から係争商品を購入することができたことについては、呉振松即ち松銘機車精品店が、控訴人の内容証明郵便は7日の猶予期間を与えるものであると考えていたために、撤去した係争商品を控訴人に販売したものである。これは、原審裁判所への松銘機車精品店からの返信書簡の添付資料で確認することができる。係争商品を販売した行為者は被控訴人ではなく、松銘機車精品店であり、且つ控訴人は、被控訴人が当時係争商品を販売するよう松銘機車精品店に指示したかについて、証明する証拠を提出していないので、本裁判所は、控訴人がこれを基に被控訴人に係争商標権侵害の故意又は過失があったと主張するのは、理由がないと認定する。

(二)被控訴人は、控訴人から送付された原証6の内容証明郵便を受け取った後、被控訴人商標が表示された係争商品を販売していないので、係争商標権侵害の故意又は過失がない。
調べたところ、被控訴人は撤去を各販売業者に通知すると同時に、当該店舗の在庫(もし在庫があれば)で被控訴人「優科利」商標が表示されている商品をすべて被控訴人の会社に送付するよう各販売業者に求めており、被控訴人会社は「優科利」商標がなく、英字「UC」文字のみの包装への変更を無料で行った。被控訴人会社は次々と販売店から送付された商品を受け取ったほか、販売店「騎士館」及び「数位黒膠兔」は商品を返送した以外にも、更に被控訴人会社へ商品発送済のメッセージをLINEで知らせており、販売店「MOTO MARKET(摩托麻吉)」も当該店舗の帳票(その取引種類に「顧客貸出」と記載があるのは、当該商品は販売店が買い取ったものであるので、被控訴人会社に包装変更のために返送することを貸出形式にした)を送っていた。被控訴人は販売業者から返送された商品を受け取った後に、包装変更の上ですべて販売業者に返送しており、且つ原審の被証14から見て、被控訴人が2021年11月30日から同年12月6日にまだ上記係争商品の撤去、返品、商標変更行為の段階であったこともわかる。控訴人は2021年11月26日に内容証明郵便を被控訴人に送付し、原証6に記載の内容証明郵便を受け取ってから7日以内に係争商標商品の撤去を完了するよう被控訴人に求め、さもないと証拠収集また法に基づき民事、刑事関連訴訟を提起する云々と記した。一方、被控訴人は同年同月29日に当該内容証明郵便を受け取ったが、被証12、被証13から見て、被控訴人がその前の2021年11月19日に既に係争商標商品を撤去し、また包装変更のために返品するよう販売業者に通知したことがわかった。且つ被控訴人には被控訴人商標の商品の継続的な販売行為がなかったので、即ち、それは、控訴人が主張するような、被控訴人が原証6の内容証明郵便を受け取って、「郵便送達の前」及び「郵便送達後の7日以内では」被控訴人商標を表示した商品の販売継続を許容すると理解していたか、ということも関係がない。よって、被控訴人に係争商標権侵害の故意又は過失があるという控訴人の主張には、理由がない。

(三)被控訴人は既に係争商品の撤去をその販売業者松銘機車精品行に通知したので、係争商標権侵害の故意又は過失がない。
 1. 松銘機車精品店が早々の2021年11月19日に既に被控訴人から係争商品の撤去の通知を受け取ったと自ら認めたことは、上記原審裁判所に返信した松銘機車精品店の書簡添付資料で確認することができるので、被控訴人が既に係争商品の撤去をその販売業者松銘機車精品行に通知していたと十分に認定することができる。
 2.控訴人は、やはりほぼ10日後(即ち、同年同月30日)、松銘機車精品行で係争商品を購入することができたので、被控訴人は松銘機車精品行に係争商品の撤去また販売禁止を促す義務を果たしておらず、係争商標権侵害の故意又は過失の責任を取るべき云々と主張したが、調べたところ下記の通りであった。
 (1)控訴人がまず前記内容証明郵便を以て「郵便送達後の7日以内に商品の撤去を完了させよう。もし前記期限に従わずに今後の撤去作業を履行しない場合、当社は証拠収集を行い、また法に基づき民事、刑事の関連訴訟を提起する」等と説明したことにより、7日間の猶予期間があると松銘機車精品店に思わせた。次に松銘機車精品店が2021年11月27日に再び控訴人の内容証明郵便を受け取ってからの7日の期限については、2021年12月4日を末日とすべきとあったが、控訴人は更に2021年11月30日(即ち7日以内)に、そもそも販売意図のない販売行為を挑発し、松銘機車精品店に既に撤去していた係争商品を控訴人に販売させた。これに、権利の濫用及び信義誠実の原則違反がなかったのかについては、実に疑わしい。
 (2)前述の通り、松銘機車精品店の販売行為は、商品の撤去後に控訴人からの内容証明郵便を受け取った後の自身の行為であり、被控訴人はそれを知悉しておらず、被控訴人の指示による行為でもないと主張したのに対し、控訴人は被控訴人の主張が不実であることを挙証することができなかった。且つ被控訴人は既に2021年11月19日に包装変更のために商品を返送するよう販売業者に通知していたので、各販売業者のところに在庫商品があるかについて被控訴人が知悉する可能性はなかったことはともかくとして、たとえ知悉していたとしても、時々刻々と督促するのは困難である。とりわけ被控訴人とその販売業者間の返品及び包装変更の行為は2021年11月19日から同年同月30日までの期間であり、同年12月初旬でもまだ続いていた。一般商店の在庫管理の棚卸、包装、送付の時間については、各店舗の人手及び勤務配分、業務規模及び運営方法がそれぞれ異なることを考慮すると、当該期間はまだ合理的な通常作業期間に該当するので、被控訴人がこの合理的な返送の待ち時間に、販売業者に包装変更のため返送するよう常に督促するのは実に不可能であり、各販売業者のところに在庫があるかは被控訴人が知悉するものではないことも言うまでもない。更に、係争商標侵害防止に関して、「元包装商品の撤去、優科利商標の使用停止」は被控訴人の義務であるが、販売業者が商品を新包装変更後に再販売するために返送するか、及びいつ返送するかについては、商標権の侵害と無関係である。換言すれば、係争商標侵害の防止に関して、その重点は包装変更にはなく係争商品の撤去にあり、撤去さえすれば侵害行為もない。一方、包装についても、たとえ包装を変更しなくても、出品・陳列又は販売さえしなければ、侵害の問題はない。松銘機車精品店が2021年11月19日に既に商品を撤去したので、この際に被控訴人は既に侵害停止のための善良な管理者の注意義務を果たしている。とりわけ社会通念及び一般常識に鑑みて、販売業者は在庫がない場合のみ新包装変更のために返送できる商品がないのであるから、仮に在庫があって新包装変更のために返送しない場合は、販売業者が損失を自己吸収するしかないので、販売業者は自ずと自身の権益に関心を持っており、被控訴人からの絶え間ない催促又は監督を待つ必要もない。且つ被控訴人も各販売業者の店舗に在庫があるかを逐一確認することができないので、被控訴人が販売業者によるすべての係争商品の新包装変更を確保しなかったことは善良な管理者の注意義務を果たしていないという控訴人の主張は、法的根拠がない。よって、被控訴人は既に善良な管理者の注意義務を果たしており、係争商標権侵害の故意又は過失はなかったと十分に認定できる。

(四)上記の通り、控訴人は、被控訴人に係争商標権侵害の故意又は過失があったことを挙証して証明することができないので、本件の争点4、5については論述の必要がないことを、ここに説明する。 

四、以上を総じて論結すると、控訴人が被控訴人による係争商標権侵害を主張したことは、採用できないので、控訴人が民法第184条第1項前段、商標法第68条第2号、第69条第3項、第71条第1項第3号の規定により、係争商品の小売単価の1,000倍に基づき180万台湾ドルの元利を被控訴人に損害賠償として請求したことには、理由がなく、許可すべきではない。その仮執行の申立ても根拠を失ったので、併せて棄却すべきである。本判決は、原審が控訴人敗訴の判決を下したこと、及びその仮執行の申立てを棄却したことと一致する。

五、以上の結論により、本件控訴は理由がないので、知的財産案件審理法第1条、民事訴訟法第449条第1項、第78条に基づき、主文の通り判決を下す。 

2023年6月15日
知的財産第二法廷
裁判長裁判官 彭洪英
裁判官 汪漢卿
裁判官 曾啓謀

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