商標権者が取消審判段階に答弁を提出せず、行政救済段階で初めて使用の事実の証拠を提出
2024-07-23 2023年
■ 判決分類:商標権
I 商標権者が取消審判段階に答弁を提出せず、行政救済段階で初めて使用の事実の証拠を提出
■ ハイライト
被上訴人は2001年8月31日に当時の商標法施行細則第49条に定める商品及び役務の区分表第9類「ソフトウェア;…;ファイル管理・統合ソフトウェア;ソフトウェア・ドングル」を指定商品として係争商標「Genesis及び図」の登録を上訴人である経済部知的財産局(以下、知財局)に出願し、2033年7月31日まで存続期間の更新が許可されている。その後、上訴人である韓国企業は2021年5月5日に係争商標が第63条第1項第2号に該当するとして、その登録取消しを請求した。上訴人である知財局は被上訴人に答弁するよう通知したが期限までに答弁しなかったため、2021年7月29日中台廃字第L01100264号商標取消処分書を以って係争商標の登録を取り消す処分(以下「原処分」)を行った。被上訴人はこれを不服として、段階を踏んで行政訴訟を提起した。
最高行政裁判所の判決要旨:
一、商標に真正な使用の事実が有るか否かは、商標権者のみが最も熟知しているため、商標権者がその使用の積極的事実について立証責任を負わなければならない。但し商標権者が商標を使用していないため答弁できず、商標所管機関が斟酌できる積極的証拠がなく、取消審判手続きの進行に困難が生じた場合は、商標所管機関はこのような状況において職権調査を行う必要はなく、直接登録を取り消す権限が与えられている。商標法第65条第1項、第2項の規定趣旨からみると、それは商標権者の手続き上の利益(権利)を保障し、商標権者に立証義務を課し、そして商標所管機関には職権調査を行う必要がないという権限を与えるもので、商標権者が証拠を提出する時間を制限するものではない。
二、さらに商標法第63条第1項第2号の立法趣旨からみると、それは商標権者が登録後に確実に商標を使用するよう確保して、商標が持つべき機能と価値を発揮させるようにするというものであり、これにより、商標権者が取消審判請求前の3年以内における真正な使用の事実を証明できるのであれば、当該号が規定しようとする対象ではなく、自ずとその商標登録は取り消されてはならない。商標権者が取消審判段階に答弁を提出しなかっただけで失権効果が生じたならば、却って商標権者の権利を不当に剥奪することになり、公正な取引秩序に影響を及ぼし、当該号の立法趣旨に反する。
II 判決内容の要約
最高行政裁判所判決
【裁判番号】112年度上字第20号
【裁判期日】2023年7月31日
【裁判事由】商標登録取消
上訴人 韓国企業・現代自動車(Hyundai Motor Company)
被上訴人 晉泰科技股份有限公司(Genesis Technology Inc.)
上記当事者間の商標登録取消事件について、上訴人は2022年10月26日の知的財産及び商事裁判所111年度行商訴字第20号行政判決に対して上訴を提起した。本裁判所は次の通り判決する。
主文
上訴を棄却する。
上訴審訴訟費用は上訴人韓国企業・現代自動車の負担とする。
一 事実要約
被上訴人は2001年8月31日に当時の商標法施行細則第49条に定める商品及び役務の区分表第9類「ソフトウェア;コンピュータ操作用ソフトウェア(記録されたもの);コンピュータ・プログラム;記録されたコンピュータ・プログラム;ファイル管理・統合ソフトウェア;ソフトウェア・ドングル」を指定商品として係争商標「Genesis及び図」の登録を上訴人である経済部知的財産局(以下、「知財局」)に出願し、審査を経て登録第0000000号商標(以下「係争商標」、原判決の添付図に示されている通り)として登録を許可され、2033年7月31日まで存続期間の更新が許可されている。その後、上訴人である韓国企業は2021年5月5日に係争商標が第63条第1項第2号に該当するとして、その登録取消しを請求した。上訴人である知財局は被上訴人に答弁するよう通知したが期限までに答弁しなかったため、2021年7月29日中台廃字第L01100264号商標取消処分書を以って係争商標の登録を取り消す処分(以下「原処分」)を行った。被上訴人はこれを不服として、段階を踏んで行政訴訟を提起した。
二 両方当事者の請求内容
上訴人の請求:原判決を破棄する。
被上訴人の答弁:上訴を棄却する。
三 本件の争点
商標法第65条第2項には、商標権者が通知された期間が終了しても答弁しなかった場合はその登録を直接取り消すことができるとのみ規定されているが、商標権者が行政訴願、行政訴訟を提起した場合、その使用の事実を証明する補強証拠をさらに提出することはできないのか?
四 判決理由の要約
(一)商標法第63条第1項第2号には「商標登録後に次に掲げる事情の一に該当するものは、商標所管機関が職権又は請求によりその登録を取り消さなければならない。:……二、正当な理由なくして未使用又は使用の停止が継続して3年経過したもの。但し、使用権者が使用しているときは、この限りでない。」と規定されている。
(二)商標法第65条第2項には「第63条第1項第2号に規定する情況に該当し、その答弁通知が送達された場合、商標権者はその使用の事実を証明しなければならない。期間が終了しても答弁しなかった場合はその登録を直接取り消すことができる」と規定されており、商標に真正な使用の事実が有るか否かは、商標権者のみが最も熟知しているため、商標権者がその使用の積極的事実について立証責任を負わなければならない。但し商標権者が商標を使用していないため答弁できず、商標所管機関が斟酌できる積極的証拠がなく、取消審判手続きの進行に困難が生じた場合は、商標所管機関はこのような状況において職権調査を行う必要はなく、直接登録を取り消す権限が与えられている。商標法第65条第1項、第2項の規定趣旨からみると、それは商標権者の手続き上の利益(権利)を保障し、商標権者に立証義務を課し、そして商標所管機関には職権調査を行う必要がないという権限を与えるもので、商標権者が証拠を提出する時間を制限するものではない。さらに商標法第63条第1項第2号の立法趣旨からみると、それは商標権者が登録後に確実に商標を使用するよう確保して、商標が持つべき機能と価値を発揮させるようにするというものであり、これにより、商標権者が取消審判請求前の3年以内における真正な使用の事実を証明できるのであれば、当該号が規定しようとする対象ではなく、自ずとその商標登録は取り消されてはならない。商標権者が取消審判段階に答弁を提出しなかっただけで失権効果が生じたならば、却って商標権者の権利を不当に剥奪することになり、公正な取引秩序に影響を及ぼし、当該号の立法趣旨に反する。これにより、商標権者が取消審判段階に答弁を提出せず商標所管機関が商標法第65条第2項規定に基づきその登録を直接取り消した場合、行政訴願、行政訴訟の段階でなお使用の事実を証明する証拠を提出することはできる。提出された証拠が商標には取消事由が存在しないことを証明するに足るものであれば、即ち「第63条第1項第2項規定の状況はない」ため、商標所管機関が商標法第65条第2項に基づいて商標登録を取り消すことは違法に該当する。
(三)商標法第5条には「(第1項)商標の使用とは、販売を目的として、しかも次に掲げる各号のいずれかに該当し、関連する消費者にそれが商標であると認識させることができることをいう。1.商標を商品又はその包装容器に用いる。2.前号の商品を所持、展示、販売、輸出又は輸入する。3.提供する役務と関連する物品に商標を用いる。4.商標を商品又は役務と関連する商業文書又は広告に用いる。(第2項)前項各号の情況は、デジタルマルチメディア、電子メディア、インターネット又はその他の媒体の方式で行う場合も同様である。」、同法第57条第3項には「前項の規定により提出する使用に関する証拠は、商標の真正な使用を証明するに足るもので、また一般的な商習慣に適合しなければならない。」と規定され、同法第67条第3項はこれを準用するものである。「販売の目的」として商標の使用を構成するか否かは、具体的な事例で提供される商品又は役務が関連する消費者に認識され、それによって出所を識別できるか否かによって判断されるべきである。原判決ではすでに以下のように明確に論じている:被上訴人が東碩公司、聚鼎公司と締結した契約書及び見積書、領収書にはいずれも被上訴人の社名の横に係争商標の図案が表示されている。さらに、被上訴人が東碩公司、聚鼎公司とMESソフトウェアシステム構築について契約し、なおMESソフトウェアの使用許諾を提供する必要があり、被上訴人が販売する物にはMESソフトウェア商品が確かに含まれることが分かる。また、コンピュータでMESソフトウェアを操作する時、フロントエンド画面の左上とソフトウェア登録情報欄にはいずれも係争商標が表示されている。以上のことから、被上訴人は商取引の過程において、係争商標を上記見積書、契約書、領収書等のビジネス文書に使用し、かつ係争商標はデジタル形式でMESソフトウェアの画面にも現れ、係争商標の図案が被上訴人の社名の近くに表示されており、関連する消費者に商標であると認識させることができ、その使用は一般的な商習慣に適合することが分かる。被上訴人がかつて販売を目的として、係争商標の取消審判請求日前の3年以内に係争商標を係争商品に使用し、係争商品を販売したことに関するビジネス文書があり、係争商標を係争商品に使用した事実があり、証拠があるものであるという状況があると被上訴人が主張しており、すでにその事実認定の根拠及び心証を得た理由については詳述されている。
(四)原判決は上訴人韓商公司が指摘する法令違背の状況はなく、上訴趣旨における法令違背による原判決の取消請求には理由がなく、棄却すべきである。
2023年7月31日
最高行政裁判所第四法廷
裁判長 陳國成
裁判官 王碧芳
裁判官 簡慧娟
裁判官 蔡紹良
裁判官 蔡如琪